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ルームスケールの衝撃! SteamVR初号機「HTC Vive」試遊レポート
コンシューマーVR筆頭機の性能と使い心地を、台湾独自取材でお届け!
(2015/7/24 10:23)
2015年末にも出荷見込とされるPC用VRシステム「HTC Vive(以下『Vive』)」。Project Morpheusよりも、Oculus Riftよりも早く私達の手に届くコンシューマーVRシステムだ。
ViveはValveが設計し、台湾のHTCが製造するVRシステムで、位置づけとしては“SteamVR/OpenVRの初号機”という理解が正しい。ValveがSteam上で標準化を進めてきたSteamVRは、現在、OpenVR SDKとしてオープンなVR開発プラットフォームとなっており、将来的にはFOVE、GameFace、StarVRといった互換機が登場する見込みだからだ。
とはいえ、それは来年以降の話。VRゲーミングの未来を占う上で、いま注目すべきは、今年末にも消費者の手に届く見込みのViveをおいて他にない。Steam連動による強力なコンテンツパワーによって、ゲーマー層から厚い支持を受けることも間違いないだろう。
今回筆者は、Viveを試遊するために独自取材を実施。台湾で開催されたゲーム開発社向けのカンファレンス「Taiwan Game Developers Forum(TGDF)」にて、ついに実機デモに触れることができた。本稿ではそのインプレッションをお届けする。
この時を待ち焦がれていた、HTC Viveとついにご対面!
7月23日~24日にかけて開催となったTDGFは、台湾のゲーム開発者を対象としたカンファレンスで、GDCやCEDECのミニチュア版という感じのものだ。HTCではVRコンテンツの開発を広めるという意図で、HTC Vive Developer Editionをその会場に展示、2つのデモルームを用意して開発者向けのお披露目を行なっていた。
実は筆者はその前日にHTCの本社に訪問して直接Viveのデモを受ける予定だったのだが、HTC Viveプロジェクト責任者のRaymond Pao氏がやむを得ない事情で急遽北米に飛ぶ事になったため、予定変更(ついでにTGDFで予定されていた講演もキャンセルとなった)。そんなこんなで、他の開発者等と同じくTDGF会場でのデモルームでHTC Viveを体験することになった。
HMD部分
Viveの重量はOculus Rift DK2よりもやや軽いが、Oculus Rift CV1に比べるとやや重いという印象。見た目通り重量バランスはかなりフロント寄りで、ヘッドバンドをある程度きつ目に締め付けないと不安定さを感じる。このあたりは製品版までに多少の改善を期待したいと思った。これはMorpheus方式で後方にセンサーをいくらか移してカウンターウェイトにするか、Oculus方式で軽量素材の使用を徹底するか、いくつか方法はある。
装着感そのものは、フィット感がよく、DK2よりもずっと上だ。メガネをかけていてもレンズと干渉することなく使用できる。ただし上述したように重量バランスの悪さが影響して、CV1に比べれば快適性はやや劣る。
ヘッドセットの下部にはIPD(眼球距離)調整用のダイヤルがあり、左右1cm程度の幅でIPDを調整できる。それから外装的に目立つのは上部のHDMI入力端子、USB端子2系統などが並んだインターフェイス系統と、前面~側面に散りばめられた光学センサー。これらの光学センサーがベースステーションから発せられる赤外線レーザーを感知して、HMD自身の位置を測距するという仕組みだ。
もうひとつ興味をひいたのはレンズ部。写真では同心円上に大量の白線が走っているように見えるが、これはフレネルレンズだ。フレネルレンズについての細かい説明は省くが、要するにこの方式では通常よりもレンズをぐっと薄くできる。そのおかげで、ViveのレンズはDK2などよりもずっと大きく、目を密着させずとも充分な視野を確保できる。
VRコントローラー
そしてもうひとつの注目点は、付属のSteamVRコントローラー。2個セットで製品についてくるとされるこれらのコントローラーは、2本とも全く同じ形状だ。親指側にタッチパッドと2つのボタン。その反対側にアナログトリガーが1個実装されている。持ち手部分の太さ、形状など、手に持った感じはPlayStation Moveに非常に近い。Morpheusの試遊経験がある人なら、秒速で感覚を掴めるだろう。
ただ、実際に見てみると外観の作りはプロトタイプ感が丸出しであり、正直な所安っぽい。これは製品版ではまた少し異なったデザインになるのではないかと感じた。現地にいたHTCのスタッフにもきいてみたが、「いま答えられることはなにもない」の一点張りだったので、まあ筆者としては建設的な予想を立てるしかないのが現状だ。
ルームスケールVR&VRコントローラーのメリットを体感
TGDFの会場では2つのVRコンテンツを体験することができた。ちなみにデモルームの撮影は一切禁止されていたため、写真でご紹介することができないことをお許し頂きたい。
デモのひとつは、海の底にある沈没船の甲板から、周囲を泳ぐ小魚や、目前を横切る巨大なクジラを眺めるというもの。Morpheusの「The Deep」デモに近い雰囲気だが、襲われるようなスリルはなく、どちらかというとまったり楽しむ感じの環境コンテンツだ。
もうひとつのデモは、4畳くらいの広さのキッチンで、料理を作るというゲーム。部屋奥のインストラクションパネルに表示されるレシピにしたがって、その辺にちらばっている材料をナベやレンジに放り込んで料理を完成させるというものだ。
まず確認したのは画質。フレネルレンズのギザギザ感は、装着するなりほとんど気にならなくなる。解像感や視野角、色の再現性はCV1と同等に見えた。つまり、DK2よりは遥かに良い画質で、Morpheusもやや上回る美しさ。網目感(スクリーンドアエフェクト)もほぼ気にならないレベルで、デモ開始時に暗闇から現れるHTC Viveのロゴが、肉眼で見ているのではと錯覚されるほどだった。ViveとCV1は表示系のスペックが同数値であることが指摘されていたが、それを実際に確認することができた。
そして肝心要となるルームスケールのトラッキングシステム「Lighthouse」の能力検証である。筆者は同じデモに2度挑戦し、1度目は普通に、2度目は限界を試しながらプレイしてみた。
結論からいうと、「Lighthouse」によるトラッキング環境下では、HMDをかぶったまま座ろうが、仰向けに寝ようが、地面に顔をつける形でうつ伏せになっても、まったく問題なくトラッキングが維持される。両手でHMDを覆ったとしてもだ。部屋の隅に置かれた2つのベースステーションから見て、HMDが完全に死角に隠れない限り、トラッキングが破綻することはない。
VRコントローラーのトラッキングも同様にHMDにぶつけようが、股の下にくぐらせようが、トラッキングが破綻することはなかった。さすがに2つのベースステーションから完全に隠すようにすると(服の中に突っ込む等)トラッキングがストップしてしまうが、まず普通にプレイしていてそのような状況になることはない。これは想像していた以上に強力なトラッキングシステムだ。
その上でちょっと残念だったのが、HTCのPRスタッフによるベースステーションの設置が、Valveのマニュアル通りにできていなかったことだ。本来は、部屋の2隅からやや斜め下に向ける感じで設置すべきところ、床面に対して平行に設置していた。このためだと思うが、HMDやVRコントローラーの位置が部屋の中心から大きく外れた状態でうつ伏せになるなどの体制をとると、トラッキングが大きく誤作動することがあった。HTCのスタッフは、このあたりきちんとValveのインストラクションに従うべきだ。
といった人為的ミスによる不満点はあったものの、トラッキングに遅延は感じられず、非常に快適なVR体験を楽しむことができた。立った状態では3×4メートル程度の範囲で動き回ることもできる。その範囲外へ近づくと、青いラインで仮想の格子が表示されて、それ以上進めないことを示してくれる。これにさえ気をつければ、思わぬ事故も避けられるはずだ。
なお、キッチンのデモでは、もともとゲーム的に移動可能な範囲がそれよりも狭いため、全く不自由を感じずにまな板やレンジやナベや冷蔵庫といったオブジェクトを縦横無尽に扱うことができた。楽しい。
このデモでは全てのオブジェクトが物理シミュレーションされている。それを利用し、料理を忘れて遊んで見た。すりこぎと卵を使ってバッティングゲーム的に遊ぶこともできたし、そこら辺においてあるナイフやフォークを掴んで、ダーツのように投げて遊ぶこともできた。もう、リアルの感覚とまるで変わらないレベルの体験だ。
手のジェスチャーの表現は、Morpheus/PlayStation Moveと同じく開く、閉じる、の2値しか表現できないものの、バーチャルな物理オブジェクトを使っていろいろなアクションをするには充分である。卵2つでお手玉もできる。なんてことだ、これはいくらでも新しい遊びが考えられるぞ。
以上、今回初めてHTC Viveで得られた体験は、ルームスケールVRの何たるかを理解するに充分な威力だった。SteamVR/OpenVRプラットフォームは、Oculusに先駆けてルームスケールVRを実現し、VRゲーミング市場に決定的な流れを作り出すかもしれない。遠くないうちに日本国内でもデモ機会が得られることを期待したい。