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やっと触れたARヘッドセット「Microsoft Hololens」体験レポート

無限の可能性を秘めた拡張現実デバイス。ARはゲーム分野に何をもたらすのか!?

会期:6月16日~6月18日(現地時間)



会場:LA Convention Center

 E3会期最終日の6月18日、ようやく「Xbox Media Briefing」で話題を集めていたARヘッドセット「Microsoft Hololens」を体験することができた。会期中、何度かチャンスがあったのだが、「いずれも正式なアポイントメントがないからNG」ということでギリギリのところで撥ね除けられ、最終日にようやくチャンスを掴むことができた。それほど厳重に試遊を管理するHololensとは一体どのようなデバイスなのか。正味10分ほどの短い試遊だったが実際に体験することができたのでファーストインプレッションをお届けしたい。

【Halo 5 Guardians E3 Hololens Experience】

「Xbox Media Briefing」のHololens版「Minecraft」のデモ
警戒厳重な扉の奥に「Hololens」が待ち構えている。中は撮禁だ
左右の目の距離を測る機械
もらったバッジ
デモの後に手元に残ったキー(USBメモリ)。AR世界から引っ張り出した感触がある。このARと現実が遭遇した感じはVRにはない楽しさだ

 まず、「Microsoft Hololens」の現在分かっている範囲内での基本仕様をお伝えすると、Windows 10ベースで駆動する“ウェアラブルコンピューター”だ。今年のE3で百花繚乱だったVRヘッドセットと根本的に異なるのは、「Microsoft Hololens」そのものがWindows 10デバイスであり、PCと繋ぐケーブルなどは一切存在しないところである。もちろんOculus VRにあるようなトラッキングセンサーもない。このため、ヘッドセットを被った後は、PCから伸びるトラッキングセンサーの位置を気にしたり、ケーブルの取り回しを意識することなく、自由に行動できる。

 今回のデモはもともと「Microsoft Hololens」のデモンストレーションという名目で行なわれたものではなく、「Halo 5 Guardians」のマルチプレイモード「Warzone」試遊デモの前座として、「Warzone」ミッションブリーフィングそのものをリアル化して、Hololensを通して楽しむという内容だった。

 その前座を楽しむまでのプロセスは若干複雑だった。まず、列に並んでいる間に、携帯用の眼球検査機(というものがあるか存在するかどうか知らないが)みたいなスリムな双眼鏡のようなデバイスで、1人1人の左右の目の距離を測っていく。結果が出ると数字を書き込まれたUNSCのバッジをホルダーごと手渡され、他のスタッフに見えるように首から提げる。私は65mm。前後の人は58だったり、55,5だったり数字が異なり、0.5mm刻みで計測されている。どうやら繊細なキャリブレーションが必要なデバイスのようだ。

 屈強なセキュリティ2人によって厳重に守られている扉を抜けると、白衣を着た研究員がいる待合室のような空間に通された。奥には座席があり、入った順に座っていく。座ってふと気づくと、目の前のロッカーにはHololensが並んでいる! 研究員の案内に従い、1人ずつ装着していく。「Warzone」のミッションブリーフィングに参加するためにデバイスを装着するという体だ。

 真上からずっぽり被り、後部のベルトをきりきり締めてしっかり固定する。スリムな外見だが意外と重く、しっかり固定しないと前部のモニター部分の重さに釣られてズルズルズレてしまう。無事装着を終えると、目の前の壁には、裸眼では単なる壁だった部分に、ホログラムによる情報表示が見え、すでにHololensが機能していることを知る。電源を入れるプロセスはなく、“PC”が駆動している騒音や熱さはまったくない。このシームレスなAR体験に早くも胸が高まる。

 Hololens装着後、立ち上がることを命じられ、研究員の指示に従って、右手にある5メートルほどの廊下を歩いて行く。アトラクションの本格スタートだ。廊下には、ゲームでお馴染みのウェイポイントがホログラムで空中に浮かんでいるように表示され、合わせてそこまでの距離を示した数字も示されている。近づいていくと数字が少なくなり、接触するまで近づくことでその表示が消え、また次の位置にホログラムが表示される。まさに「Halo」の世界に入り込んだような感動がある。

 廊下を渡りきり、右に曲がると、今度は左手の壁にある小さな窓を覗くように促される。小窓に顔を近づけて覗くと、広大な軍用倉庫でスパルタンの部隊が出撃に向けて準備をしている風景が見える。これもすべてホログラム。ホログラムというと先ほどの壁の表示やウェイポイントのように、空中に浮かべて見せるというイメージが強いが、こうして風景を描画することもできるわけだ。

 その先には待望のブリーフィングルームが待ち構えていた。中央には「Halo」シリーズでお馴染みの六角形のテーブルがあり、テーブルのブルースクリーン(これもホログラムで、実際は単なるテーブル)から浮かび上がるようにホログラムが浮かんでいる。ブリーフィングがスタートすると、説明に応じて目の前にホログラムで表示されている情報が変化し、マップ、モンスター、ウェポンなど3Dで立体的に表示される。「Halo」シリーズそのままの演出だ。

 最後に手元のキーを抜くように指示され、ホログラムで指し示す場所に手を当てるとキーの感触があり、引き抜くとそれはお土産のUSBメモリだった。ARと現実が合わさった瞬間だった。この後、Hololensを外して別室に移り、「Warzone」の24人対戦を楽しむことができたが、その模様については別稿にてお届けしたい。

【Hololensのデモ映像】

 さて、Hololensのデモを受けて感じたのは、初期のOculus VRやProject Morpheusなどと同様に、非常に繊細なデバイスであり、今回のような限定的な空間で一定の条件を満たすことで、素晴らしいエンターテインメントを提供できるポテンシャルを持っているものの、民生用としてこれそのものを一般ユーザーに販売して手軽に利用して貰うまでにはかなりの時間、最低でもまだ数年はかかるだろうと思った。

 理由の1つは、キャリブレーションの難しさだ。今回専用の機器で左右の目の距離を測って貰い、そのデータを元に装着位置を調整した上で体験したが、それでもベストフィットしているという感触は最後まで得られず、ホログラムがキチンと表示されるように、絶えずHUDの位置を微調整しながら行動しなければいけなかった。これではなかなか世界観に没入できない。

 もう1つの理由は、ホログラムを表示するエリアが実は非常に狭いことだ。適切な表現が難しいが、メガネを付けている人は、5センチほどメガネを目の前に押し出してみて欲しい。そこから覗ける微妙な空間しかホログラムを表示できないのだ。表示領域が思いのほか限られるため、常に目の前のホログラムの一部が切れて表示されているという残念な感覚を味わわされるし、少しでもズレるとまったくホログラムが見えず、単なる重いサングラス状態になる。

 「Xbox Media Briefing」で行なわれた「Minecraft」のデモでは、カメラのレンズ部自体に特別なHololensを装着することで、カメラの視界すべてにホログラムを表示させることができていたが、今の仕様では実はそれはできないのだ。ド正面の中央部分だけ、感覚的には目の前に広げたノートPCのモニターぐらいの空間にしかホログラムを表示させることができない。

 たとえば「Minecraft」のデモを、現行仕様のHololensで試したら、テーブル上にホログラム表示されるフィールドマップは左右上下が不自然に切れて見えるはずで、全体を表示させるためには、日本の一般的な家屋では難しいレベルまでグググッと後ろに下がる必要があるだろう。デモであったような顔を近づけて家の中を覗いたりとか、手でインタラクションするという遊び方は、まだ現実的には難しいのだ。

 では、没入感のある適切なARとはどういうものかというと、筆者にも適切で説得力のアル回答は持っていないが、少なくとも今の表示領域はどう考えても狭すぎるし、現行のキャリブレーションシステムは煩雑な割に効果が薄いと感じられる。こうした点を踏まえて、まだまだ時間が掛かるなと感じたのだ。

 実はほかにも色々指摘したい点はあるが、ひとまず筆者がこのデモを通じて感じたのは、VRと並んで、ARはエンターテインメントを変えうる可能性を秘めているということ、Microsoft Hololensはその中でも、Xbox 360 Kinect、Xbox One Kinectという2つのデバイスの研究成果をしっかり反映させているという点で、ARの分野では確かな先駆者であり、その成長が楽しみでたまらないが、その彼らでも商用化にはまだしばらくの時間が掛かるだろうということだ。

 とりわけ、Kinectが培ってきた深度センサーはHololensではまるで魔法のような効果をもたらしている。空間をリアルタイムで認識し、移動した先にある何の変哲もないテーブルや小窓を正確に検知し、その先に正確な角度でホログラムを表示させている。これは率直に言って凄いことだ。

 ゲームファンとしては、我々の手元でお手軽に、Xbox One/Windows 10と同期する形で、「Minecraft」や「Halo 5」、あるいは未知のタイトルをHololensと一緒に遊ぶというのはそう簡単な道のりではないということがわかって少し残念だったが、未来のエンターテインメントの明確なビジョンという点で、VRに勝るとも劣らない可能性を感じさせてくれたことは事実であり、デモで受けたワクワク感は間違いなく本物だ。その成長をじっくりと見守りたいところだ。

【Hololens版「Minecraft」】
現在の仕様では、残念ながらこのような見え方はしない。レンズの中でフィールドの上下が不自然に切れて見える

(中村聖司)