ニュース

スマートフォン用謎解き絵本「NAZO」における物語について異色対談

松岡正剛氏×イシイジロウ氏「日本のゲームが得意とする物語に悲観していない」

11月26日 収録

会場:編集工学研究所

対談場所は様々な本が置かれている知の集積所とも言える「編集工学研究所」の1室

 サイバードは、スマートフォン用謎解き絵本アプリ「NAZO」に関連するクローズドイベントとして、制作を手掛けた編集工学研究所の松岡正剛氏とゲームクリエイターのイシイジロウ氏の対談を行なった。

 対談は1時間を越える密度の濃いものだったが、その内容はYouTubeとニコニコ動画でアップされている。物語を語ると言うことの歴史的な意味合いから、イシイジロウ氏によるゲームと物語性の関連についてなど、端々に興味深い話題が飛び出した。ここでは、そのキーとなる部分についてかいつまんでお伝えする。興味があればぜひアップされた動画をご覧いただきたい。

 そしてこの対談のきっかけとなった絵本アプリ「NAZO」は、まさに物語を楽しむことの一環として“謎”が用意されており、大人がじっくり楽しめる内容となっている。実は物語を読んだり謎を解くためには有料のTicketが必要となる。有料と言っても1日に5枚ずつ無料でもらうことができるので、のんびりと楽しむこともできれば、先が気になるようであれば、チケットを購入して進めていけば良い。

 今回この対談が開催されたことを記念し、「NAZO」を読み進む際に使用するTicket 10枚がプレゼントされるシリアルコードも公開された。シリアルコードをアプリ「NAZO」の中の「infomationタブ」より入力するとTicketが10枚増えるようになっている。ぜひともこの機会に、Ticketをゲットして謎を解きながら読み進めていただきたい。

シリアルコード:nazonazo

松岡正剛氏×イシイジロウ氏「ゲームと物語の融合について」

松岡正剛氏
イシイジロウ氏

 対談は、松岡正剛氏によるゲームに対する期待感からスタート。一方でゲーム業界に身を置き、ゲームの中で物語を紡ぎ続けてきたと紹介を受けたイシイジロウ氏は、ゲームの中で物語を語ることになった経緯を語るところからスタートし、ゲームにおける物語の優位性について説明。

 イシイジロウ氏はゲームがなかった世代からスタートし、小説やアニメを作りたいと思う子供だったという。そしてゲームを作る機会がありゲームのシナリオを書く機会が発生する。

 この時、イシイ氏はゲームにおける物語の優位性について気付いたという。例えば本を読んだとき、読んだ人は2度目に読むとき、その本の内容はわかっている。ゲームの場合、分岐が発生したりループが発生することから、「プレーヤーが1度目に面白いと思ったところを膨らましてあげたり、つまらないと思ったところを変えてあげることができるかもしれない」と気付いたという。

 また、誰かが生きる、誰かが死ぬといった物語は小説の場合はこれまで書き手が決めていたが、ゲームの場合はその選択肢をプレーヤーにゆだねることになる。この点についても衝撃を受けたという。

 イシイ氏はドラマを作るときに登場人物が死ぬシーンがあった場合、心の中で「ごめん、君を殺して」とそのキャラクターと会話するという。しかしゲームの場合、その選択はプレーヤーの手にゆだねられることになる。その時、そのキャラクターは“ゲームシナリオライター”に従えば良いのか、“プレーヤー”に従えば良いのかわからなくなったとイシイ氏は語り、「これはゲームを作っていないと出てこない感情であり、これはゲームに専任しようと決めた」と説明した。

 この、ゲームにおける物語を伝えるという行為は文字のなかった時代に、物語が口伝えで語られていた行為と同じことになる。その昔、話を伝えるときに2度目ではウケたところを盛り上げるなど演出を盛り込んでいたと思われるので、その構造はゲームに酷似している。つまり、ゲームで物語を語ることは小説以前に戻っており、そのシステムを構築することこそがゲームデザイナーの仕事だと、イシイ氏は思ったという。

 松岡氏も基本的には「NAZO」に対して同様の観点からスタートしたようだ。その昔物語をアーカイブして語り継いでいた“語り部”自体が“メディア”だった。それが本となり、その物語を圧縮して劇場で見せることが演劇として発展していく。「NAZO」はこの本来のストーリーテリングの部分(テキストベース)とシアターベースの2つを合せて世界観を構築していったのだという。今では失われたかもしれないこの2つのメディアを再構築するところがスタート地点だというわけだ。

ストーリーテリングという点に関しては日本は圧倒的に勝てる

「NAZO」のワンカット。ストーリーを語ると言うことと、劇場性が融合して世界観が構築されている

 ここで松岡氏は「ゲームにおいて分岐が発生することは物語の複雑化に繋がらないか?」とイシイ氏に問うたところ、イシイ氏は「ゲームはバランス調整することができる。テストプレイをして、客観性を取り入れて変えていくことは編集作業に似ている」と説明。

 さらに話題は日本と海外のゲームの違いに発展。松岡氏から、日本においてストーリー表現が発展した理由を聞かれたイシイ氏は「テキストアドベンチャーの存在が大きい。米国ではあるときからゲーム表現においてテキストを捨てたが、日本ではコンシューマーからアダルト、インディまでテキストアドベンチャーが生き残ったことから、大量の(テキストによるストーリーテリングの)ゲームタイトルの制作が行なわれた。この蓄積は日本にしかない」と説明。

 一方で米国の事情について「米国ではリアリティ志向が強いのか、ポリゴンなどで自由に動き回れる世界に入っていってしまった。しかし、米国のゲームは体験することに進化していっている」と分析。逆に日本のゲーム業界は、物語を語ることに新しい可能性を獲得しており、「ストーリーテリングという点に関しては日本は圧倒的に勝てると思っています」とイシイ氏は語っている。

 ちなみにここでイシイ氏は面白いたとえ話を残している。「ストーリーテリング」について「弟切草」や「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」シリーズを挙げる一方で、体験型のゲームとして「ダービースタリオン」を挙げた。理由としては「ダービースタリオン」ではストーリーは語られていないが、馬が予後不良で亡くなったときプレーヤーは涙する。これが体験型だと位置づけている。そういった意味では海外型のアドベンチャーの典型とも言える「Grand Theft Auto」シリーズが、体験を積み上げることで物語が進行することから体験型の代表格としている。

テキストアドベンチャーは“リズムゲーム”?

レベルファイブで制作されたイシイ氏の「タイムトラベラーズ」も話題として上がった

 話題はイシイ氏の「タイムトラベラーズ」に移る。「タイムトラベラーズ」ではテキストの表示とセリフ(音声)がシンクロしている。これについてイシイ氏は「頭が文字を読むスピード感にチューニングしていくと、文字を読む方が気持ちいいんです。10秒かかって読むセリフを頭の中では1秒で読んでしまう」と語る。この時、プレーヤー側はどうしてもテキストを読む方を優先してしまうため、イシイ氏にとってはこのテキストと音声の関係性がストレスになっていたという。

 この点に関してイシイ氏は「テキストアドベンチャーはリズムゲームだと思っている」と持論を展開。「サウンドノベルは分岐があるからゲームではないんです。分岐がなくても大丈夫。なぜならテキストを読むリズムゲームだからです。ボタンを押して文字が出てくるのがリズムになっているから気持ちいいんです。文字だから全部1度に表示してしまえばいいのですが、でもそれなら本の小説でかまわない。そこを一定のリズムで表示させていき、テキストの表示に良いタイミングで音楽やSEが入ってくるのが気持ちいいんです」と説明。

 イシイ氏は「『シュタインズゲート』も分岐のないアドベンチャーゲームのようなところがあると思いますが、たぶんリズムを考えて作るられているんだと思います。1番リズム感が良いのは『逆転裁判』だと思います。あのリズム感は天才的だと思っています。リズムゲームとして成立しているからあれだけ面白い。リズム感の悪いゲームは、すぐに眠くなるのでわかります」とコメント。

 ここでリズム感の問題点として「本のページをめくるインタラクティブ性から離れられない」と語り、それが電子書籍にないから電子書籍に移行できないと指摘した。

スマートフォンで物語性が薄まっていると感じるのは市場の問題

対談は「編集工学研究所」で開催されたが、松岡氏とイシイ氏の両名とも本が好きということで、本棚の持つ情報の重要性についても言及された

 1回のプレイ時間が短いとされるスマートフォンのアプリだが、「プレイ時間が短いからこそ物語性が薄まっているのでは無いか?」とするモデレーターの問いかけに、イシイ氏は「マネタイズ」の問題だと指摘。

 イシイ氏は「物語を読むゲームはたくさんある」という前提をたてながら「それが目立たないのが問題。でも、そういう市場なんです」と語り、イシイ氏はたとえ話として「AppStoreなどはカジノだと思うんです。ラスベガスのカジノにスロットマシンがずらっと並んでいて、そのとなりに『ストリートファイターII』が置いてあって行列ができていても、どちらが儲かりますか? マネタイズ効果の高いタイトルがズラリと並ぶ市場で、目立たないだけ、それだけです」と語り説明。

 では次の段階として、物語とマネタイズの関係性については「作り手側のこれからの課題であり実験」とした。ヒントとしてイシイ氏が感じているのは「マネタイズとキャラクターは密接に繋がっています。キャラクターの魅力は物語性と繋がることでより強固になります。ですからそこにどのように物語性を置くことによって、数年後にスマートフォンゲームの中で物語性が価値を持っているのではないか」と予想した。

 また付随して、お店が少ないことも問題視しているようだ。今は1つのお店(たとえばApp Store)ですべてがまかなわれているが、前述のたとえ話から引用すれば「ストリートファイターII」はカジノではなくゲームセンターに置くべきで、そういった選択肢が少ないことも問題ではないかとイシイ氏は指摘する。スマートフォンの市場がその多様性を持ち得ていない現状に、作り手や企業が努力しなければならないと結んだ。

【「NAZO」記念 松岡正剛氏×イシイジロウ氏対談@編集工学研究所】

□ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25145304

【物語+謎解きアプリ「NAZO」PV】

【「NAZO」スクリーンショット】

(船津稔)