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【特別企画】ゾンビ布教フリーペーパー「Cafe of the Dead」が「ウォーキング・デッド」をレポート!

ゾンビ描写に満足。しかしやっぱり恐ろしいのは……人間だ!

ゾンビ描写に満足。しかしやっぱり恐ろしいのは……人間だ!

這いつくばるゾンビに……
顔が崩れるゾンビなど表現が細かく、ゾンビに対するクリエイティブにこだわりが感じられます
原因は説明されないまま、「とにかく死んだらゾンビになる」という世界観は、元祖の流れを感じさせます
ゾンビ以上に恐ろしいのが人間。共に生き抜くべきなのに、足を引っ張り合ったり、予期せぬ行動にも出たりします

 その臨場感は、ゾンビに襲われた時に“どうやって喰われるのか”を知りたいはずの私でさえ世界に引き込まれてしまい、喰われるのを忘れて倒しに行ってしまうような始末でした(笑)。私の行動から察するに「危機感を感じさせてしまうほどの演出力」は十分にあると言えます。ゾンビに喰われてみなければわからない、その死に様と喰われぶりを見届けたい私には大誤算です。

 そんな私も我に帰ればゾンビに喰われるだけ喰われてゾンビパワーを堪能するのですが、そのバリエーションの豊富さには感心するばかりで、顔の崩れかけたゾンビから這いずり回るゾンビ、集団で襲ってくるゾンビなど、ゾンビ好きであればまさに全種類のゾンビに喰われるシーンをすべて目撃したくなるはずです(笑)。

 ゾンビの造形も非常に興味深いもので、個人的には“どう見ても死んでいるであろうほどの損傷を負った姿”に理想的なゾンビ像を求めてしまうのですが、本ゲームのゾンビ達はそんな私の心をくすぐる仕様で、特にズタボロにダメージを負ったゾンビは気味悪く、気持悪く、動く様も歩く様もとても不気味かつ素敵に思えました。

 注目はゾンビ化に至るプロセスです。近代ゾンビ映画の発端「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の生みの親、ジョージ・A・ロメロ監督の言葉に“咬まれなくても死んだらゾンビになる”という旨のものがあり、本ゲームはその元祖とも言える流れを汲むかのように、「咬まれなくても死んだら頭を破壊されない限りゾンビになる」という世界観になっています。

 この得体の知れないシチュエーションこそ、「ゾンビ」が象徴する「万人に共通する絶望的運命であり、絶対的な恐怖の根源である死」を上手く感じさせていて、初めてゾンビに触れる人でも、ゾンビ好きでも受ける印象は変わらないはずです。長い時間プレイできるゲームだからこそ、「ゾンビ」がすぐそばにいる恐怖世界により没入することができます。

 ちなみに、筆者はせっかちな気質のため相当ゆっくりと動かなければいけない場面で50回も射殺されてしまったり、照準を合わせるのが下手でゾンビに喰われまくり、敵に撃ち殺されまくりで信じられないほどの「ゲームオーバー」を繰り返しました。そこで気付かされた事は、ゾンビに喰われるより人間に殺される方が腹立たしいという事……。これはゾンビ映画で度々登場する“人間こそが恐ろしい”と言う根幹部分を思い起こさせるもので、それに直に触れ、体験させられたのも大きな収穫でした。

 またストーリーでは、「子供」の描かれ方が特徴的です。リーは、クレメンタインの“子供であるが故の言葉や行動”に翻弄されながらも、窮地を救ったり、救われたりしながら関係性を強めていきます。その一方で物語が進むにつれ、クレメンタインへの死の重圧は増していき、1人娘を持つ私は思わず感情移入してしまい、絶望的な状況に切なくも悲しい思いが募っていきました。

 さらに追い討ちをかけるように、子供に襲いかかるゾンビやゾンビ化した少年が登場するシーンもありました。ゾンビ化していくのに手をこまねくばかりというやり場のなさ、ゾンビ化してしまった子供への処置なども身の毛もよだつ体験です。「ゾンビ世界に放り込まれた子供と死」がここまで真摯かつ無残に描かれているのはゾンビ映画でもあまり見かけない印象があり、本作の辛辣さを如実に物語っています。

 子供が死と隣り合わせという世界は考えただけでも辛いのですが、死とは何か、生き抜くとは何かを改めて考えさせられ、一定の状況においては親としてそれらを伝えなければならない「覚悟」もまた必要なのかも知れないと思うと、目頭が熱くなりました。

本作では、子供にもゾンビは容赦なく襲いかかります。右は餓死したままゾンビになったと思われる少年。とにかく辛辣です

絶望の先にあるものとは……?

こんな世界でどうやって生き残れるのか。それでも生き抜くことを選択する人間たちがいます
成長するクレメンタインが1つの希望に

 読者の中には「ゾンビゲーム」と聞いて、薄気味悪い死んだ人間がモンスターとなり、襲って来る様子が真っ先に思い浮かぶ方もいると思います。ゾンビ好き以外の方にはその様子だけで敬遠されてしまうと思いますが、ニュアンスとしては「ゾンビ」と言う名の「“災害”をテーマとしたドラマ」というのが本作の本質に近いでしょう。

 洪水や雪崩、竜巻のような天変地異の自然災害と同じようなものとして、将来出現しないとも限らないゾンビ災害に襲われた時に、どうしたら生き残れるかをシミュレーションできるサバイバルゲームとしてプレイしてみるのも1つの策です。

 そう捉えていただければ、食わず嫌いだったゾンビゲーム未経験者にも現実味を感じられ、受け入れ易いのではないでしょうか。実際、「ウォーキング・デッド」では命をかけて様々な手段でこの厄災を生き抜こうとする人間達が主軸となっており、外出すれば危険が待ち構え、食糧は底を尽き、食うか食われるか、やるかやられるか、何を善しとし何を悪しきとするのかといった弱肉強食かつ残酷な世界での物語となっています。その中での人間共の意地汚さ、強欲、胸くそ悪さ、気持悪さのオンパレードは屈指の出来映えで、清々しいほどに見事という他ありません。

 ラストに向かって一心不乱に突き進む主人公リーのボロボロになってゆく様を見つめ、そしてクレメンタインが学ぶ生きる術に不安と希望を感じながら、本作をやり遂げた時に沸き起こる感情こそ、「ウォーキング・デッド」の導き出した、あなたの“世界”ではないでしょうか。あなたはどう行動し、何を見て、何を感じて、そして何を残せるのでしょうか。

 不定期刊行フリーペーパー「Cafe of the Dead」に漫画を掲載して頂いたのが縁で一通りこのような体験をさせて頂きましたが、素晴らしい作品をいち早く堪能でき非常に有意義でした。1回のプレイではわからない、別の展開や人間関係、そして人喰らいシーンがたくさんあるようなので、もっともっとこの世界観に浸って、そして喰われていたいです(笑)。

 さらなるゾンビ作品がどんどん増殖して行く事を秘かに願いつつ、皆様も壮大なゾンビ禍に飲み込まれるこの機会をぜひお見逃しなく。

【「ウォーキング・デッド」な1コマ】
イラスト:南瓜金助
Amazonで購入

(南瓜金助)