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【CEDEC 2013】基調講演・ガンホー森下一喜氏が語る「開発讃歌」
「ちゃぶ台返しだ!」ドラマ名言になぞらえたガンホー的ゲーム作りの姿勢
(2013/8/22 15:17)
CEDEC 2013の2日目は、ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長CEO兼企画開発部門統括エグゼクティブプロデューサーの森下一喜氏による基調講演で開幕した。
森下氏が語ったのは、ゲーム開発者全員にエールを送る「開発讃歌」。最近では「パズル&ドラゴンズ」の大ヒットを受けて一躍大スターとなったガンホーではあるが、そのヒットの方程式は「やっぱ、ない」という。
唯一あるのは「常に面白いものを作りたい」という根底の考えであり、このことは他の場所でも話されているが、今回は森下氏が感じているゲーム開発に対する姿勢について、もう少し具体的に、かつ詳細に解説していく講演となった。
「企画」について
森下氏は、「ゲーム開発の1つ1つにドラマがある」として、最近のヒットドラマの名台詞をモジりながら、「企画」、「開発」、「運営」、「まとめ」と分けて自身の考えを紹介していった。ちなみに、引用元となっているドラマは「孤独のグルメ」、「ガリレオ」、「八重の桜」、「半沢直樹」の4つとなっている。
・「新しいゲームアイデアを考えるときはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか天邪鬼でなきゃあダメなんだ」
企画で大事なのは、直感的な面白さがゲームの核となっていることを真っ先に紹介した。いろいろな要素を組み合わせていっても、核の部分が難しくなるのではなく、面白いまま残っていることが重要だという。
また森下氏は自身を「天邪鬼」だとして、人と同じことをやりたがらない傾向があり、常識にとらわれない、右斜め上を常に狙っているという。また天邪鬼なので、データや分析に流されず、我が道を行くような、作りたいものを作るという本質的なものを大事にしたいと話した。
・「新作を考えるという行為は、開発者に与えられた最大の楽しみだ」
森下氏は、ゲーム開発者にとって新作を企画することが最も楽しい時間だと話す。ガンホーは、来年の事業については、現時点では新作をどれだけやる、という設定が特にないという。その代わり、「これは面白い」と思ったら常に予算外で作るようにしており、それほど新作というものを大事にしている。
ゲームはプランナーだけが企画することはなく、誰もが常に考える状況が必要だという。そのためには、常に考える癖をつけること。常に考えて頭を巡らしていれば、自然に身に付いていつか閃きがある瞬間が待っている。
そして「特にプロデューサーにとって大事」というのは、そのゲームが5年後10年後にどうなっていくのか、成功のストーリーを妄想するということ。成功のストーリーを描いていって、その妄想が「本当になりそうだな」と思うと、本当になることが多くあるという。「そういうことはどんどん妄想してほしい」と述べた。
・「秘訣は、パズドラに縛られねえことです。パズドラの事は忘れて自分たちが創りたいものを創ればいいんだし」
「パズドラ」ヒット以降、「パズドラ」的なものが多数登場したことも受けているが、「僕たちもそうなのですが、他のタイトルの会議でも『パズドラ』の場合はこうだった……とやってしまう」と森下氏は話した。
「これは社員だけでなく、僕自身もそう。成功体験は頭のなかに残っていて、時に思い込みに縛られてしまうことがある。悩んだときは、作りたいものを作る」として、成功体験を引きずらないことも大事だと話した。
また革新的なゲームデザインを生み出すには、「パズドラ」フォーマットは打ち壊すくらいの考え方も必要だとした。「破壊と創造」という言葉は、森下氏の社長室に掲げられているものだという。
・「ブラウザ……ネイティブ……。そんなものは知ったことではありません!」
森下氏にとって、スマートフォンにおける「ブラウザ」、「ネイティブ」の括りはどうでもいいものだという。それは「最近『パズドラ』がネイティブだと知った」というほどで、重要なのはタイトルの面白さにある。「タイトル次第で最適な開発手法やプラットフォームを選べば良い」というのが森下氏の方針だ。
ちなみに「パズドラ」の場合は触感を最大限発揮するために、ネイティブしかなかったという。どのプラットフォームかは関係ない。「波は乗るものではなく、波は起こすもの」。これは森下氏がおかまバーのオネエから受けた言葉ではあるが、衝撃を受けた名言として森下氏の頭に残っているという。
・「この世に無駄な企画なんかはない」
企画からプロトタイプになるもの、没になるものはあるが、これらの企画書はすべて保管してあるという。その時点では企画の成功ストーリーが描けなかったとしても、他のタイトルや全く違った場面で活かされる機会があるかもしれない。逐次生み出されていくこれらの企画は、森下氏にとって宝の山なのだという。
・「さっきから、都合のいい事ばかり書いてんじゃねーぞ! 事業計画!」
実際、事業計画ほど無駄で“絵に描いた餅”であり、面白いこと考えたほうがよっぽどましだと感じているという。お役所的にならずに、自分の心に嘘がないか、その本質が大事な部分になる。新規タイトルの事業計画ほどあてにならないものはない、と森下氏は実感しているそうだ。
「開発」について
・「核となる遊びとゲームサイクルとの繋がりだけは大切にせなあかん。ゲームリソースの追加を考えることはしたらあかんど」
ゲームの企画は、コアのコンセプトがブレていないことが大事だという。ガンホーではゲームの仕様を固める際に、ゲームリソースを分解して、ゲームサイクルをイメージ化することでそこに矛盾がないかを調べる作業を行なうという。大作ゲームの場合は難しいが、「スマートフォンタイトルの場合はリソースの分解はぜひやってほしい」と森下氏は話した。
開発で大事なのは「継続的なプレイを促進するエコシステム」の作成と、運の要素も盛り込んだ「修練度と偶発性のバランス」、そして「ミクロではなくマクロでゲームサイクルを考えること」の3つ。特に最後はリソースを追加するときに大事で、そのことによってゲーム全体にどう影響するか、常に俯瞰することが重要になる。
・「開発者なら、ゲームの最終イメージぐらい頭に入れとくべきだ」
ゲームプレイのイメージは、頭のなかで再生できることが重要だという。「パズドラ」プロデューサーの山本大介氏は完成形が見えていたので、お互いにやり取りしやすかったそうだ。
またプロトタイプについては、開発チームのすべてのメンバーがゲームの最終形を共有するのに役立つもので、この共有は必要だと語った。
・「気になる、というのは納得がいっていないことを意味する。仕事を放置しておくことは罪悪だ」
ゲームの内容について気になる点があれば、放置せずに意見をいわなくてはならない。政治的理由で妥協したり、特に誰かがやってくれると他人任せにするようなことは最もダメだという。
「運営」について
・「面白いゲームを創る事が第一にて候。迂遠に似候えども、日々の運営よりほか道は御座なく候」
ここでは、オンラインゲームなどの運営が必要なゲームについてが話された。「迂遠に似候えども」とは、遠回りに思えても、という意味。サービスインがスタートとなるゲームでは、日々の運営が何よりも大事になる。
森下氏は過去に運営だけを任され、開発したくても開発に手を付けられず辛い思いをしたことから、コンテンツ(開発)とサービス(運営)の一体化が大事だと語った。また運営で最も重要な数値はアクティブユーザー数で、売上も山を描くのではなく、山脈を描くような数値作りを目指さねばならないとした。
・「どうかな? 向かい風は得てして、追い風に変わる」
運営を続ける中にはトラブルもあるが、その対応によってはユーザーから愛されるコンテンツにもなる。「電車が停止して閉じ込められたとき、いつ復旧するかわからないとお客さんはイライラする」と話し、トラブルの発生時はとにかくユーザーに早く、細かく告知することが大事であることを述べた。
「経験」について
・「僕たちにもあるんだよ。失敗から学んだ勘というものがね」
「振り返ってもほとんど失敗だらけ」という森下氏は、多くの失敗とほんの少しの成功で磨かれる勘も大事になるとした。失敗が限りなく多いが、「逃げることはまずい」として、常に前向きでいる姿勢も語った。
・「ガンホーは、たまに勝つ!」
「たまに勝つんですよね(笑)」という森下氏ではあるが、成功した時も「運が良かった」と思うようにしている。「自分ができる」とは思い込まずに続けていくことが大事だと話した。
まとめ
・「思いっきり、創ってみなんしょ。自分が動けば、皆も一緒に動き出しやす」
思想はそれぞれあるが、ゲーム作りを学ぶには、一緒に作って学んでいくしかない。口で言ったり、頭でわかっても実現するのは難しいという。自らゲーム作りをしていく以外に、ゲーム作りを教える方法はない、とした。
・「市場だけが大きくなってもゲーム業界は変わらねぇ。開発者が学び、ゲームを育てる力を養ってこそ、十年後、百年後、この業界はもっとよくなる」
ゲーム業界がさらに発展するには、1人1人の志が重要となる。「CEDECでセッションを受けて、ヒントを与え合ったりできるのはすばらしいことだと思う。10年後や100年後はもっともっと大きな業界にしていきたい」と話した。
森下氏は、誰でもヒット作を作るチャンスはあると話す。それでも差が付くのは、何かやろうとする意識に問題があるから。意識を持っていれば、その機会は巡ってくるはず、とした。
そして最後、森下氏は「半沢直樹」の「やられたらやり返す! 10倍返しだ!」を引用して、「つまらなかったら創り直す! ちゃぶ台返しだ!」というスライドを掲げた。この名言は森下氏もお気に入りのようで、「本当、これだけが言いたかったんですよね(笑)」と言って講演を終えた。