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NVIDIAの支援でDirectX 11シフトを図る中国PCゲーム市場
中国大手メーカーが開発中のFPS「光栄使命」には人民解放軍も協力
(2013/5/21 18:18)
5月18日から19日にかけて上海にて開催されたNVIDIAによるゲームイベント「GEFORCE eSPORTS」。その会場で中国ゲーム市場における新たなトレンドが明らかになった。
中国ゲーム市場はコンシューマーゲーム機の市場がほぼ存在しない。そのかわり、全土の大型ネットカフェを舞台に巨大なオンラインPCゲーム市場が成立してきており、その推定市場規模は2012年度、日本のゲーム市場を上回る規模に達したことが知られている。
また中国では都市労働者の平均年収が年率10%前後で続伸しており、北京・上海などの主要都市では2011年度で5~6万元(およそ80~90万円)となっている。NVIDIAによれば従来、GPU製品の売り上げは中国市場においてはローエンド品によるものが中心であり、ハイエンド品が中心となっている日本市場とは対照を成していたが、個人所得の伸びによりハイエンド品が普及可能な素地が整いつつあると見られているようだ。
この流れに合わせ、NVIDIAでは中国市場においてDirectX 11対応タイトルを増加させることに力を入れている。「GEFORCE eSPORTS」に合わせて開かれたプレスカンファレンスでは、NVIDIAのコンテンツ担当副社長 Tony Tamasi氏によるプレゼンテーションで、中国国内の主要20社を超えるデベロッパー及びパブリッシャーに技術協力が行なわれていることが明らかにされた。
その中でも大手となるShanda Games(盛大遊戯)、Giant Interactive (巨人網絡)からは、本イベントに合わせて新作タイトルの紹介が行なわれた。これらのタイトルはいずれもDirectX 11機能をふんだんに活用しており、従来の中国産ゲームタイトルの品質イメージを一新するものに仕上がりつつある。その詳細を本稿でご紹介していこう。
中国人民解放軍も協力するFPS「Glorious Mission(光栄使命)」
Giant Interactiveが開発する「光栄使命」は、リアルさをウリとするオンラインミリタリーFPSだ。その開発あたっては中国人民解放軍・北京軍区による全面協力が得られているとのことで、過去のテストプレイを通じて200万人以上の兵士が実際にプレイしてきたという。このように公的機関の肝いりで開発が進められていることから、中国政府が国産ゲーム産業を重視している姿勢が見て取れるようだ。
内容としては、デスマッチなど標準的なオンラインFPSのゲームモードに加えて、各種のヒストリカルミッションを搭載することが特徴だ。そこでフィーチャーされているもののひとつは、2008年に発生した四川大地震における災害救助出動だ。現場で犠牲となった2人の勇敢な兵士の活躍を描くミッションとなっており、生命探知機を手に罹災者を発見・救出していくというゲーム内容になっているようだ。
軍の協力で開発されていることや、リアリティをアピールする点において、米陸軍が開発に携わったFPS「America's Army」にも似ているが、ビジネスモデルとしては通常のオンラインFPSと同系統のフリーミアムの形で展開していくようだ。
4月20日には一般向けの第1次クローズドβテストが実施されており、5月20日からは第2次クローズドβテストを実施。また、これに合わせてDirectX 11対応ベンチマークをリリース予定であるとのこと。
NVIDIAの協力で実装されているDirectX 11フィーチャーについては、本作ではテッセレーションによるジオメトリ詳細化、DirectCompute実装によるHBAO(Horizon-based Ambient Occlusion、高品質なアンビエントオクルージョン効果)などを実装。また、PhysXによる破壊表現や、NVIDIA独自のアンチエイリアシング技術であるFXAAも実装されている。
そして今回、Giant Interactiveのオフィスにて試遊することもできた。プレス対抗戦の形でチームデスマッチモードをプレイ。現場に集まった日本、中国、台湾、韓国のプレスがそれぞれチームを組んで対戦したのだが、そのプレイフィールはなんとなく「Call of Duty」シリーズに近い。映像品質も高く、最新ゲームとして遜色のないつくりだ。
対戦会の最後には、本作の開発に協力している人民解放軍・国防大学の学生チームが登場。プレス対抗戦で優勝した韓国チームと対戦した。軍隊式のシゴキで鍛えあげられたと思われる眼光鋭い若者たちが、表情をピクリともさせずに韓国プレスチームをなぎ倒していく。一糸乱れぬチームワーク、隙のない動きが見事。危なげなく国防大学チームが圧勝した。
本作は2014年に正式サービス開始が予定されているが、開発元のスタッフは我々日本からのメディアに「日本で一番人気のあるFPSは何か?」などとしきりに質問してきているなど、日本を含む海外展開も高い関心を持っているようだった。人民解放軍の装備構成など正確に再現されているならば、ミリタリーファンにとって見逃せないコンテンツになりそうだ。
中国産ゲームのDirectX 11活用は、コンテンツ全体の品質向上がカギ
Giant Interactiveではこのほか、Crytekの最新ゲームエンジン「CryEngine 3」を活用したTPSも開発中だ。そのTPS「Preemptive Strike(火綫使命)」では既報のとおり(関連記事)本イベントの基調講演にてトレーラームービーが公開されている。
Giant Interactiveの説明によれば、本作は中国国内で2014年のリリースを目指し目下開発中だ。その中でCryEngine 3を採用したのは、非常に柔軟なスケーラビリティを必要としたためであるそうだ。本作ではジャングル中心のオープンフィールド環境や、巨大な航空母艦がフィーチャーされており、まさに「Crysis」シリーズのような雰囲気を醸し出している。
DirectX11フィーチャーの実装においてはNVIDIAのテクニカルスタッフがオフィスで共同作業もするなど、緊密な連携によって開発が進められているといい、テッセレーション、TXAA、SSDO、ボケフィルタ、パーティクルシャドウなど最新タイトルらしいテクノロジーがふんだんに使用されている。
その上で、Giant Interactiveが本作において注力しているのがキャラクターのアニメーションだ。多彩な凹凸のある地形を柔軟なアクションで踏破していく部分にひとつのゲーム的特徴を据えており、中国産ゲームとしてはかつてない水準のダイナミックなアクションが楽しめる作品になっていきそうだ。
その一方で、これも本イベントに合わせてお披露目となったShanda GamesのMMOARPG「Age of Dawn(光明紀元)」でも、1年以上前からのNVIDIAの協力によりDirectX 11水準のフィーチャーが多数実装されているが、プレスカンファレンスで目にしたムービーを見る限り、その映像品質にキャラクターアニメーションの品質や、各種の作り込みが追いついていない印象を受けた。
例えばキャラクターアニメーションは重量感が薄く、風景のリアリティにうまく馴染んでいない様子。PhysXを活用して実現された破壊表現や、水面のリアルなゆらぎといったビジュアルエフェクトも単体ではよくできているのだが、なにか取ってつけた感がある。例えば破壊可能な岩が、周囲の岩と完全に色が違っていたり、水面と地面の境界線が馴染んでいなかったり、といった部分だ。いわゆる「不気味の谷」が、風景との調和という面で現われている感じである。
最新のテクノロジーを使いこなすためには、部分だけでなくコンテンツ全体の品質向上が必要だ。その点で中国産のタイトルはノウハウの蓄積段階にあり、欧米や日本のAAAタイトルに匹敵する品質を達成するまでにはいましばらくの時間がかかりそうである。
ただし、その点で充分なノウハウが蓄積されてくれば、巨大なPCゲーム史上を擁する中国市場である。現在の欧米のように、世界をリードするようなハイエンドコンテンツのメッカとなる可能性も秘めている。NVIDIAの中国ビジネスは、そのための推進剤として大きな役割を負うことになりそうだ。