ニュース
【GDC 2013】打越鋼太郎氏「善人シボウデス」セッションレポート
ビジュアルノベルとは何か? 「善人シボウデス」に息づく「かまいたちの夜」の遺伝子
(2013/3/29 18:53)
GDC 2013の4日目にあたる3月28日、スパイク・チュンソフト ディレクター兼シナリオライターの打越鋼太郎氏による「Visual Novels: Narrative Design in Virtue's Last Rewards」が講演された。
「Virtue's Last Rewards」とは、ビジュアルノベル「極限脱出ADV 善人シボウデス」の英題。「善人シボウデス」は特に北米での評価が高く、前日に発表された「Game Developers Choice Awards 2013」では、ストーリーを問う「Best Narrative」部門にノミネートされた(残念ながら受賞は「The Walking Dead」)。
日本ではジャンルの草分けである「かまいたちの夜」を世に送り出して以来、ビジュアルノベルはスパイク・チュンソフトのお家芸として認知されているが、一方で日本独自に続けられてきた印象も強い。
今回は長年ビジュアルノベルに携わってきた打越氏が、ジャンルの区分に言及しながら、「善人シボウデス」で採り入れた話法やビジュアルノベルの未来を述べた講演をお届けする。
ビジュアルノベルとは、「物語要素の強いゲーム」
まず打越氏は、「Game Developers Choice Awards 2013」でノミネートされた作品の中で最も注目していたものとして、「Journey」、「The Walking Dead」、「The Room」の3つを挙げた。圧倒的大差で6部門を制覇した「Journey」に続き、「The Walking Dead」は「Best Narrative」部門、「The Room」は「Best Handheld/Mobile Game」部門で賞を勝ち取っている。
打越氏はこの3作品はいずれも「アドベンチャー」ジャンルという共通点を持っていると指摘し、惜しくも受賞を逃したが、「善人シボウデス」も同様にビジュアルノベルというアドベンチャーゲームであることから、「アドベンチャーが今最も勢いがあるのでは」と述べた。
では一方で、ビジュアルノベルとは何か。打越氏は、「明確な定義は存在しない」としながら、自身の考えとして「物語要素の強いゲーム」であると話した。特に「ゲームであること」が最も欠かせない要素だという。
ゲームとは、打越氏によれば「あるルールに則ってプレーヤーが下した決断や選択が歴史や結果に変化を与えるもの」、簡単に言えば「選択性のあるもの」を指す。プレーヤーによる選択という部分こそが、他のメディアにはない物語上の大きな特徴となる。
そして打越氏は、日本が歩んできたビジュアルノベルの「ガラパゴス的発展」について述べた。昨今のビジュアルノベルとして例に挙がったのは、5pb.Gamesの「STEINS;GATE」とスパイク・チュンソフトの「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」。
「STEINS;GATE」は選択肢を選んでいく形式ではなく、携帯電話でアクションを起こすかどうかでストーリーが決まっていくという画期的な語り口を生み出した。また「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」は裁判シーン以外はビジュアルノベル形式で進行し、物語として優れている作品となっている。「ビジュアルノベルには、哲学的な話、感動的な話、人間ドラマなど、優れた物語が数多く存在している」として、ジャンル全体のバラエティの豊かさを語った。
プレーヤーの脳内にフラグを埋め込む? 「かまいたちの夜」から学ぶ作話法
続いて、話はジャンルのパイオニア「かまいたちの夜」へと及んでいった。打越氏は本作を「今改めて振り返ると特徴的なストーリーテリングの手法を使っている」として、「善人シボウデス」のヒントにもなっていると話した。
「かまいたちの夜」の特殊な手法とは、「フラグをほぼ使っていない」ということ。「フラグ」はある事象を起こすために必要となる条件で、ルート分岐のあるアドベンチャーゲームには必須となるゲームシステムのこと。
打越氏が指摘したのは、「かまいたちの夜」本編における正解ルートへのたどり着き方について。通常ビジュアルノベルは、とあるルートへはそれに対応したフラグを立てないと進行可能にならない、というのが現在の一般的な考え方となっている。
しかし「かまいたちの夜」では、正解ルートへの重要なポイントに「犯人の名前を入力する」という手法を採り入れた。極端に言えば初回プレイで真相までたどり着くことも可能なのだが、通常のプレーヤーは犯人がわからず、他のルートを進むことになる。他のルートを進めば、バッドエンドの代わりに犯人に近づくヒントを所々を得られるようになる。
これを打越氏は、「プレーヤーの脳内にフラグを埋め込む」と説明する。淡々とルートを潰していくだけでは、謎は解けない。最初の1回では到達できずとも、各ルートの中に散りばめられたヒントをプレーヤー自身が集め、編纂し、答えを導き出せるようになっている。だからこそ物語に積極的に入り込めるようになり、ゲームへの没入感は増す。
「ただし、こういったことは昔は普通でした」と打越氏は話す。「メモ書きをしたり、地図を自分で作ったりと、当時のメモリ領域は人間にありました。現在では全てをコンピューターに委ね、フラグを多用したゲームデザインが普通になっています。日本には温故知新という言葉がありますが、今だからこそ『かまいたちの夜』が新しく目に映るのです」と語った。
「善人シボウデス」では、あるパスワードを入力する場面があり、正にこの手法を採り入れている。単にルートを潰すだけでは解決できず、プレーヤーはパスワードを自分自身で覚えていなくてはならない。「かまいたちの夜」の遺伝子は、「善人シボウデス」にしっかりと受け継がれているというわけだ。
このほか、打越氏はビジュアルノベルにおける自身の作話方法を明かした。その秘密は「違和感」を大事にすること。ビジュアルノベルは同じ話を何度も繰り返すことが多いが、プレーヤーが何度かシナリオを繰り返して先に起こることを知っていても、ストーリー上での主人公は先に何が起こるかわかっていないという「違和感」が残る。
「だったら主人公にもプレーヤーと同じ能力を与えてしまえばいい」と、違和感を逆手に取ってストーリーに組み込む。実際に、これは「善人シボウデス」や「極限脱出 9時間9人9の扉」においても使われている手法だ。
ほかにも、ゲームの文法だからこそ成り立っているような「マップのあちこちに爆弾がある」、「敵からお金やアイテムが落ちてくる」といった現実ではあり得ないギャップこそが、「叙述トリックのネタになる」と打越氏は話した。
打越氏は、再び「Journey」、「The Walking Dead」、「The Room」の共通点を述べた。それは、いずれもデジタル配信されているということ。特にスマートフォンで楽しむアドベンチャーゲームが今後増えてくるようになれば、親和性の高いビジュアルノベルはより一層の発展が見込める。
打越氏は最後に、「電子メディアから生み出される新しい物語の表現手法が出てくると思いますが、そのうちの1つを今回会場に来ている誰かが作ってくれると期待しています。アドベンチャーゲームファンの1人として、皆様のお役に立てれば幸いです」と来場者に呼びかけた。