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【GDC 2013】NASAがゲーム開発者を本気でリクルーティング

Kinectを使ったロボット遠隔操作デモも披露したNASA講演レポート

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 GDC 2013の会期3日目にあたる3月27日、NASA(アメリカ航空宇宙局)による講演「We Are Space Invaders」が開催された。

 NASAといえば、言わずと知れたアメリカが誇る宇宙開発のエキスパートであり、ゲーム開発者向けのカンファレンスであるGDCに登場するというのはかなりの異例。月や火星の探索がゲームとどう関係してくるのか、そして講演タイトルの「We Are Space Invaders」とは何を指しているのか、蓋を開けてみるまで何が話されるかわからないという点も含め、来場者の興味を多く惹いていた。

 登壇したのは、NASA Jet Propulsion LaboratoryのVictor Luo氏とJeff Norris氏。今回はこちらのセッションの内容をお届けする。

講演前には、時間までNASAに関するビデオが上映された。真面目なものからコミカルなものまで見応えたっぷり

NASAも注目するKinect。ゲーム開発者の協力募集を発表

NASA Jet Propulsion LaboratoryのJeff Norris氏
同じくVictor Luo氏

 まず2人からは、「宇宙」をテーマとしたゲームと宇宙開発の双方の発展が語られた。果ては1961年、ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行の成功と時を同じくして、世界初のコンピューターシューティングゲームとされている「スペースウォー!」が登場している。

 以来宇宙開発と共にゲームも発展し、現在では本場の2人が驚く程のシミュレーション精度とステータスの情報量を搭載した「EVE ONLINE」へと至っている。ゲームが発展してきた今では、10代のアメリカ人の実に97%がビデオゲームをプレイしたことがあり、86%はコンソールゲーム機を所有しているという数字を示した。

 これまでNASAはオンライン上で宇宙探索をシミュレーションできるフリーゲームは出してきているが、宇宙開発の未来を担うかもしれない若者が普段触れているコンソール機へのゲーム展開は積極的ではなかった。

 この理由を2人は「専門家がいないために参入障壁が高く、したくてもできなかった」のだという。ここでようやく、講演の内容が見えてきた。つまりは、「宇宙開発のさらなる発展ために、ゲームの力を貸してくれませんか?」ということである。

 最近では、ゲームを採り入れた広報活動も積極的に行なうようになってきた。その例として挙げられたのが、2012年7月に無料で配信されたXbox 360 Kinect用の無料ゲーム「Mars Rover Landing」だ。「Mars Rover Landing」はプレーヤーの体を使って火星探索船を操作し、火星探査機を指定された地面にいかに上手く着陸させられるか、というもの。

 このほかにも、遠隔操作ロボットを模したキャラクターの両手をKinectで操作して、旗揚げゲームのように指定されたポーズを決めて点数を競う、というゲームも制作されている。

まずは宇宙ゲームの発展と宇宙開発の発展を見比べる。昨今の宇宙ゲームのステータス項目数にとくかく驚いたそうだ
アメリカのティーンエイジャーはほぼゲームに触れているという
Kinectを使った子供用ゲームの様子
Xbox LIVEで無料で配信された「Mars Rover Landing」

開発中の探査用6本足ロボット
GDC会場とNASA研究所を繋ぐというサプライズも用意されていた。カメラの向こうには本物の6歩足ロボットがある

 そして話は、本格的な宇宙探査の話に入っていった。Norris氏が示したのは、現在NASAで開発が進められている6本足の探索ロボット。荷物の運搬も目的のためトラックほどに巨体だが、6本足という特性のためにどんな地面でも安定したままの移動や、重心に影響しない足を使って物と掴むなどの作業ができるという。

 この6本足ロボットは、遠隔操作による作業進行を視野に入れている……というのだが、ここでLuo氏はカリフォルニアにあるNASAの研究室と通信を繋ぐというサプライズを用意していた。カメラに映った研究室には、6本足ロボットが鎮座している。つまり、GDC会場から遠隔操作でロボットを動かしてみよう、という試みだ。

 使用するインターフェイスは、ここでもKinectが使われた。操作者が手をKincetにかざすと、Kinectは手のひらと指先をそれぞれ認識する。手を動かすことでロボットの現在位置との差異を認知し、動かしたい場所を指定すれば本体が実際に移動する、という仕組みだ。

 実際のデモでは、手を動かし位置を指定することで、カメラの向こうのロボットが動き出すのをしっかりと確認できた。ただし動きやレスポンスは非常に遅く、足それぞれの動きも緩慢なため、実用レベルからは程遠いようにも感じられた。

 まだまだ開発途中ではあるが、専用のグローブや機械も使わず、Kinectという「ゲーム機器」がNASAの研究素材として採り入れられたというのは注目に値するだろう。さらに、それを多くの開発者の前でデモとして見せてしまう所にも、NASAがゲームに対する本気度合いが感じられる。

 Norris氏は最後に、「本当に(Really)」、「真面目に(Seriously)」という言葉を連発しながら、「我々はどこへ向かうのか?」と話した。「コンピューターや画面を飛び出して、火星や月だけでなく、氷の広がる星や、あるいは水の中に船を進ませて、人々の住める場所を開拓できるかもしれません。星は億単位で空に広がっており、そのどこにでもいけるのです。私たちはどこへ向かうのでしょうか? それはすべての場所です。あなたたちこそが、スペースインベーダーなのです」と語った。

遠隔操作というにはまだまだ動きがアバウトすぎるような印象だが、ゲーム開発者の技術を本格的に必要としていることは感じられる
ゲーム開発者が宇宙開発に加わることで、誰しもが「スペースインベーダー」になれる時代はやってくるのだろうか?

(安田俊亮)