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【GDC 2013】Warren Spector氏が語る「ゲームにおける物語」

“ストーリー派”の巨匠による映画やテレビ、その他メディアの相違点から学ぶ物語作り

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

ゲームデザイナーのWarren Spector氏。講演が終わっても質問者は絶えず、会場外で「続き」が行なわれていた

 アメリカのサンフランシスコで開催されているGDC 2013の会期1日目、ゲームデザイナーのWarren Spector氏による講演「Narrative in Games - Roles, Forms, Problems and Potential」が行なわれた。

 Warren Spector氏は、かつては「System Shock」や「Deus Ex」の開発を手がけ、最近ではディズニーの「Epic Mickey」シリーズを開発したゲーム開発スタジオ「JUNCTION POINT」の創設者として知られている(現在スタジオは閉鎖)。その作風はストーリー重視で、業界の中でも“ストーリー派”と呼べる巨匠だろう。

 この講演は、「ゲームにおける物語」に焦点を当てたGAME NARRATIVE SUMMITの1つとして実施されたもの。Spector氏はゲームとそれ以外のメディアにおける「物語のあり方」を比べることで、ゲームならではの物語の語り方を述べていった。

映画で良くてもゲームではダメ? ゲームメディアに即した物語構築方法

冒頭では、デジタルメディア学の権威Janet Murray氏の言葉を引用
インタラクティブ性、シネマティック性の高まるゲームが最近の流行
ゲーム体験として印象的だったという「Call OF Duty: Black Ops II」と、映画「風と共に去りぬ」の観客状況をなぞらえたスライド

 Spector氏は、ゲームにおける物語というものを、デジタルメディア学の教授Janet Murray氏の「(ビデオゲームは)静止画、動画、テキスト、音楽、3D、指示のある空間など、単一の媒体というよりは、いくつかのストーリーテリングのブロックを組み立てたもの」という言葉を引用し、ゲームが多面的なメディアであり、そこにインタラクティブな要素が加わることで物語が生まれる、と説明した。

 この前提の下、Spector氏が真っ先に比べたメディアは映画。20世紀半ばに映画技術は革新を見せ、以来多数の表現によって映画が制作されている。コミック調からリアルなものまで、多数の表現という点ではゲームと共通しているようだが、最も大きな違いは、操作中はシーンの「カット」できない部分だという。

 映画は一般的に、複数のシーンを組み合わせ、場面と場面を切り替えて見せることで物語を語っていく。一方のゲームは、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズなどでも顕著なように、本来的にカメラはプレーヤーを捉え続けるような、シーンの連続が基本となっている。そのため物語の語り口は映画とゲームで違ってくるし、またそうでなくてはならない、というわけだ。

 コンテンツの長さとしても、映画は1時間半から2時間、ゲームは6時間から10時間ほどが一般的な目安となっているので、物語の進行配分も変わり、この点も考慮して制作されなくてはならない(Spector氏のスライドでは「メタルギアソリッド」シリーズが掲げられた)。

 また映画的な挑戦の失敗例として、ジョン・ウー監督のゲームプロジェクト「ストラングルホールド」が挙げられた。これはゲームは「繰り返し遊ぶもの」という点に注目したもので、Spector氏いわく、「銃撃シーンは、最初の1回は素晴らしくクール。しかし、それが100回続けば飽きるし、クールではない」。

 「『バイオハザード』で窓を割って入ってくる犬も、1回だけだから驚く」というわけで、同じシーンを繰り返すゲームへの戒めのように「1回=cool、1,000回=not cool」という言葉が掲げられた。

【映画からゲームへ】
Spector氏が、ゲームが生まれる以前の映画作品ながら「ゲーム的アプローチ」と語ったヒッチコックの「ロープ」(左)とロバート・モンゴメリーの「湖中の女」(右)。「ロープ」はワンシーンワンカット、「湖中の女」は一人称視点での進行と、現代ゲームではおなじみの表現方法が実験的に先んじられていたことがわかる
最初の1回は素晴らしく格好いいけど、繰り返したらダメ、と一蹴された「ストラングルホールド」

ゲームに適した表現方法の1つ「ローラーコースター」

 Spector氏はこのほか、テーブルトークRPG、コミック、語り部など、他のメディアとの相違点を比べながら、ゲームの特徴を、どこへでも届く「輸送性」、「没入感」、プレーヤーの行動への「反応」、「繰り返し」の4つの要素で示した。他のメディアとの混同は「危険」」としながら、ゲームのユニークさは「プレーヤーの選択が、リアルタイムに結果として帰ってくること」に尽きると述べた。

 これらを踏まえて、Spector氏はストーリーの構築方法は5種類あると述べた。第1は、ローラーコースター方式。ゲームシーンを数珠繋ぎに並べていく、というもので、1本道ながらストーリーをしっかりと見せられる。

 2つ目は「再話性(Retold)」で、「テトリス」で「長い棒って全然落ちてこないよね!」といったようにゲームを他の人に語り直したくなるような要素があることを指す。第3は、「CIVILIZATION」のようにプレーヤーごとに物語が生まれる箱庭型、第4は「Mass Effect 3」、「Deus Ex : Human Revolution」のようにローラーコースターと箱庭のハイブリッド型。そして第5は「稀だが、決して見逃せない」として、長年の継続がストーリーを紡ぐ手続き型(Procedural)を挙げた。

 また次世代の構築法には、映画「アバター」のような「バーチャル俳優」を期待として述べた。キャラクターのグラフィックスや、戦闘以外のAIなど、NPCとの触れ合いやコミュニケーションが進化すれば、キャラクターとの恋愛の方法論も変わってくるだろう、と語った。

 最後にSpector氏はテーブルトークRPGになぞらえて、これからは「バーチャルなゲームマスターが必要とされている」と語った。マスターに必要なのは、まだ見たことのないストーリー、そして予想外のプレーヤーの動きに対応する力。「これからはオリジナルのアイデアを持つこと、そしてタフな問題を解決できることが求められている。ゲームが誕生して30年経った今でも遅くはない。チャンスはあるので、ぜひ世界を変えられるよう頑張ってほしい」と述べた。

再話性
箱庭型
ハイブリッド型
手続き方式
次世代の技術として期待するグラフィックスとAIの進化については、「まあ、メインストリームのマスコミからは全然理解されていないんだけどね」とため息混じりで記事を紹介
Spector氏からのストーリー構築に際するアドバイスもしっかりと述べられた

(安田俊亮)