G-STAR 2012から読み解く韓国モバイルゲーム市場の最新動向 パート2

韓国はキャリア、検索ポータル、パブリッシャーによる戦国時代に突入!


11月8日~11日開催



 今年の「G-Star 2012」は、韓国ゲームの転換期を象徴するものとなった。1つは、これまで韓国オンラインゲーム業界の顔だったNCsoftの姿が消えて、巨大ブースを出したNEXONが一人勝ちの様相を呈してきたこと。そしてもう1つは、モバイル勢の躍進だ。

SundayTozのブースでは、一日中「Anipang」の大会が開催されていた

 会場を見回していると、誰もかもがスマートフォンやタブレットをいじっている。来場者だけにとどまらず、BtoBコーナーで手持ち無沙汰にしているスタッフはほぼ100%の確率で、手にしたモバイルデバイスに熱中している。そんなユーザーの行動が、そのまま業界の勢力図に現われている。

 PC用ゲームがメインの韓国では、PCのポータルサイトからゲームをプレイするのが一般的だ。日本でもおなじみのハンゲームなどゲーム専門ポータルはもちろん、Facebookの流行を受けて「NAVER」、「Daum」という韓国1位、2位のポータルサイトや、韓国最大のSNSサイト「Cyworld」もオープンプラットフォーム化に踏切り、それぞれにソーシャルゲームやブラウザゲームを提供し始めた。

 しかし、急激なスマートフォンの普及で風向きがかわってきた。普及スピードは世界最速で、2012年2月にはスマートフォン普及率は48%で加入者数は2,479万人(放送通信委員会統計)。8月には3,000万人を突破し、スマートフォンは既に韓国の若者の必須アイテムになっている。LTEちなみに日本は2012年3月の調査で23.5%(ディーツーコミュニケーションズ調べ)で、韓国の普及率の高さが伺える。

 スマートフォンの3大キャリア、「SKテレコム」、「KT」、「LG U+」はそれぞれ「T-Sore」、「Olleh Market」、「OZ Store」とそれぞれが独自のアプリマーケットを運営して、ゲームを始め映像や音楽など様々なエンターテイメントサービスを配信している。しかしゲームは多くのコンテンツの1つであり、このときにはまだ大きくクローズアップされてはいなかった。

 転機となったのは2012年7月。スマートフォン用の無料通話サービス「Kakao Talk」がゲームプラットフォームとしてサービスを開始した。そのローンチタイトルの中にあった「ANIPANG(エニパン)」(Sundaytoz)は、芸能人がプレイしていることでも話題になり、韓国で5人に1人がプレイする大ヒットゲームとなった。その後も「Dragon Flight」(NextFloorGames)や「Special Force NET」(mobicle)などヒットゲームを連発。韓国では登録者数が2,800万人を超えており、ほとんど全員のスマートフォンにアプリがインストールされていることになる。

 Kakao Talkの一人勝ち状態が続くなか、検索サイトを運営しているIT企業、オンラインゲームのメーカー、そして通信キャリアが一斉に増え続けるモバイルゲームユーザーを取り込むために動き始めた。今年の「G-STAR 2012」は、まさに戦国時代開戦前夜の様相のなか開催され、プラットフォーマー、パブリッシャー、デベロッパーが多数出展して、オンラインゲームを圧倒するほどの勢いを作り出した。





■ 韓国最大の通信キャリアSKテレコムが、自社アプリマーケットのブースを出展

「T-Store」のロゴが大きく掲げられたSK Planetのブース
タイル状のデザインにコンテンツがちりばめられている「T-Store」

 「G-STAR 2012」に出展したモバイル関連企業の中で特に注目したいのは、韓国最大手の携帯通信キャリアでありSKテレコムの子会社、SK Planetのブース出展だろう。SK Planetは映像や音楽、電子書籍など各種エンターテイメントサービスを配信するアジア最大のアプリマーケット「T-Store」を運営している会社。会員数は1,700万人を超え、韓国ではiOS、Androidと並び称されるマーケットだ。

  SK Planetはグローバル戦略として、Androidのポータルサイト「qiip」で各国にローカライズされた同様のサービスを展開している。日本では2011年11月に配信が始まっている。また、2012年4月から、日本でSkypeに似たIP電話サービス「qiip phone」を配信している。昨年にはグリーとのパートナー提携の契約も交わしており、日本市場へ進出するための足がかりを着々と作っている。

 そんな大手がゲームというコンテンツに本腰を入れて取り組んできたわけだ。筆者がdocomoの「dゲーム」のラインナップを見たときにも居並ぶ有名IPに「ああ、いかにもdocomoらしいな」と納得したが、SK Planetもそんな大手の例に漏れず、国内外の有名IPやヒットゲームをずらりと取り揃えてきた。

 日本企業からはセガとカプコンが出展。セガの「運命のクランバトル」や「virtual tennis challenge」、カプコンの「逆転裁判123HD」、「ストリートファイターIV」がプレイアブルに展示されていた。他にもフランスのモバイルゲームメーカーGameloftの「Wild Blade」や、「Angry Birds」を配信しているRavioの新作「Bad Piggies」や「Angry Birds Seasons」などが展示されていた。

 日本ではまだグリーやモバゲーのようなソフトプラットフォーマーのマーケットが中心だが、docomoの「dゲーム」のように、独自のマーケットを構築する動きも出始めている。それに先んじる形の今回の出展は、もしかすると将来の日本でも見られる光景かもしれないと思った。いずれは東京ゲームショウに、ソニーと並んでdocomoやAUのブースが並ぶようになるのかもしれない。


カプコンのコーナー。「逆転裁判123HD」と「ストリートファイターIV」が出展されていたRAVIOのコーナー。「Bad Piggies」と「Angry Birds Seasons」が出展されていたセガのコーナー。「運命のクランバトル」と「virtual tennis challenge」が展示されていた
「ストリートファイターIV」「Wild Blade」(Gameloft)「I Love Coffe」(PATISTUDIO)




■ メーカーやパブリッシャーなどソフトプラットフォーマーも群雄割拠

CJ E&MのBtoBブース

 「G-STAR 2012」にはSK Planet以外にも多数のプラットフォーマーや、各プラットフォームへゲームを提供するパブリッシャー、そして実際にゲームを作るデベロッパーが、それぞれに自慢のタイトルを出展していた。「ラグナロクオンライン」を開発しているGravityや、エンターテイメントコンテンツのパブリッシャー「CJ E&M」もブースを出して、自社のプロモーションを行なっていた。NEXONは自社ブースには出展がなかったが、SK Planetのブースに「メイプルストーリー」のIPを使ったソーシャルゲーム「Mapel Story Village」が出展されていた。


・NHN

NHNのブース。iOS/Androidに配信中の2タイトルを出展
スク水美少女で釣りを楽しめる「FISH ISLAND」

 ポータルサイト「NAVER」とゲームポータル「ハンゲーム」を運営している。日本では「LINE」で「Kakao Talk」と同じようなゲームサービスを始めている。「G-STAR 2012」にはiOS/Android用のタイトル2本を出展した。100%子会社のOrange Crewが作ったゲームは、様々なプラットフォームに提供されている。スマートフォンでは「Kakao Talk」の後塵を拝しており「NAVER App」のプロモーションに力を入れていた。

「FISH ISLAND」(Orange Crew)
 可愛い女の子キャラクターで釣りをする、リズムゲームっぽいギミックを活かした釣りゲーム。カーソルが動くタイミングに合わせて画面をタッチするだけの簡単操作だが、爽快感がある。3Dで作られたアニメ調の画面は色鮮やかで美しい。現在は韓国マーケットのみに配信している。


・WeMade Entertainment

WeMade Moblieのブース。オンラインとモバイルのブースサイズがついに逆転。モバイルゲームをメインに展示した
カラフルで動的なゲーム画面が家庭用と遜色ない「PANGTAJIA」

 韓国の大手ゲーム会社WeMade Entertainmentは(以下、WeMade)、WeMade Mobileのブランド名で新作8本を含む16本を出展した。WeMadeは「G-STAR 2012」の協賛スポンサーで、会場のあちこちにアプリのアイコンを集めたモバイルの広告が掲載された。

 今年、韓国のオンラインゲームは不振が続いており、モバイルへうまく軸足を移せた企業のみが収益を維持できている。WeMadeはモバイル進出は他のメーカーに先んじており、いち早く「G-STAR 2012」にモバイルゲームを出展したが、その後のビジネス構築で出遅れてしまった。WeMade Mobileのラインナップ拡充でようやく追撃の態勢が整ったというところだ。今後はグローバルに展開していく予定で、日本でも来年以降にサービスを展開する予定だ。

「PANGTAJIA」
 自動マッチングでリアルタイムに遊べる対戦ゲーム。3体のユニットが交互に行なうターン制。ユニットの持っているスリングショットを指で引っ張って発射する。武器には火の玉や電撃弾、弓矢など色々な種類があり、ダメージやエフェクトが違う。日本でのサービスは未定。


・COM2US

COM2USのブース。カジュアルなゲームが多い明るい雰囲気で、女性が好みそうなカジュアルな新作を展示していた
ぶら下がっている動物を落とし合う対戦ゲーム「Swing Shot」

 フィーチャーフォン時代から、モバイルゲームの開発と全世界40カ国へのパブリッシングを行なっている。日本でもCOM2US Japanからi-modeやEZweb、Y! Keitaiにゲームを配信している。iOSやAndroid以外に、独自のソーシャルプラットフォーム「COM2US Hub」からもゲームをサービスしている。昨年「G-STAR 2012」に発出展し、スマートフォンのタイトルを多数展示した。その中の1本で、色々な動物を育てて繁殖させていくiOS/Android向けの農場系ソーシャルゲーム「Tiny Farm」が大ヒット。「G-STAR 2012」では大きなスペースで紹介されていた。

「Swing Shot」
 「アングリーバード」野用な物理エンジンを使った対戦ゲーム。モビールのようにつながった木にぶら下がっているサルやクマ、パンダを、石を投げ合って落とし合う。どのモビールにどの動物をぶら下げるかは、カスタマイズが可能。世界中の人と対戦が楽しめる。Google playとApp Storeから配信中。基本無料で、日本語もサポートしている。


・GAMEVIL

若い男性ユーザーが好みそうなゲームが多かった「GAMEVIL」

 ソウルに本拠地を置くモバイルゲームのパブリッシャー。iOS、AndroidからFacebook、Nintendo DSWare、PSPなど様々なプラットフォームにゲームを配信している。「G-STAR 2012」には、モンスターを育成して対戦する「MONSTER WARLORD」(everple)、フィーチャーフォン時代からの人気RPGのスマートフォン版最新作「ZENONIA 5」、ゆるキャラの本格アクションゲーム「CatoonWars Episode BLADE」(BLUE C&C)など多数のiOS/Android用アプリを出展していた。


・The Apps Games

BtoBコーナーでデベロッパー募集を大々的に行なっていた「The Apps Games」のブース

 SK Planet「T-Store」の開発会社Incrossが運営している韓国最大のモバイルアプリパブリッシャー。韓国内はもちろん、中国やアメリカなどグローバルにゲームを提供している。グリーやサイバーエージェントとパートナー提携を結んでいるほか、独自プラットフォームでの日本進出も検討中なのだそうだ。「G-STAR 2012」では、BtoBコーナーにデベロッパー募集のためのブースを出展していた。


・Daum Games

BtoBコーナーに出展していたDaumのブース

 韓国大手検索ポータルサイトを運営しているDaum CommunicationsはBtoBコーナーにブースを出展した。DaumはモバイルとPCゲームのプラットフォーム「Daum Game」を運営しており、「G-STAR 2012」ではディー・エヌ・エーと共同で運営しているDaumMogabeの新規タイトルや、顧客の囲い込みを強化するためのスポーツゲームやブラウザゲームの発表が行なわれた。DaumやNaverといったPC向け検索ポータル大手は、スマートフォンへの移行でKakao Talkに先行を許してしまっている。そのため今回の発表でも、モバイルコンテンツの強化への強い意気込みを感じた。





■ 明日の大成功を目指してしのぎを削るデベロッパー

「クッキングママ」によく似たシステムを持つ「Master Chef」

 大企業の巨大ブースの傍らには、弱小デベロッパーのモバイルゲームも見逃せない。例年「G-STAR」にブースが設けられる韓国のベンチャーデベロッパーを集めた「kocca(韓国コンテンツ振興院)」のブースやBtoCコーナーにも、パブリッシャーを求める若手のデベロッパーが多く出展していた。無数にあるアプリの中から浮上していくのは容易ではないだけに、各社ともキャラクターやシステムで差別化に力を入れていた。

 中には、「逆転裁判」や「クッキングママ」など日本の家庭用ゲームから影響を受けているのがはっきりと分かるものもあり、家庭用が弱いと言われる韓国での、日本勢の意外な強さに驚かされた。数多くのゲームを試遊したなかで、筆者が面白いと思ったものを紹介したい。


・Mobicle

バンド気分を味わえるリズムゲーム「The Social Band」

 韓国の大手モバイルゲーム開発会社。2011年にグリーとの資本業務提携を行なっている。「G-STAR 2012」には、バンド系のリズムゲーム「The Social Band」、オンラインゲームの定番FPS「スペシャルフォース」のタブレット版「Special Force NET」などを出展していた。「The Social Band」は、ドラム、ベース、ギターの3種類から楽器を選んで演奏する。楽曲はこのゲームのためにアーティストが作成したオリジナル。マルチタッチでかなりシビアなタイミングが要求される難易度の高いゲームだ。


・DEC KOREA

指で線を引いてボールを動かすパズルゲーム「jumpNdraw」

 往年の名作ゲーム「ポトリス」の開発者が代表を務めるモバイルゲーム開発会社。韓国の有名なキャラクター「kokomong」を使った「Temple Run」系ゲーム「RUNNING MONKEY」と、指で書いた線を使ってボールを移動させるパズルゲーム「jumpNdraw」を出展していた。「jumpNdraw」は現在開発中で、正式な配信は来年。T-Storeから配信される予定だ。同社は20以上のゲームをiOS/Android/HTML5用にローンチしており、現在は脳波コントロールのゲームを開発しており、「2~3年後にはローンチしたい」とのことだ。


・TRITONE SOFT

「パズドラ」とはルールの違うパズルで敵を倒していく「Gun & Blade Puzzle」

 「パズル&ドラゴンズ」系のRPGゲーム。町にいるチンピラを倒しながら進んでいく。パズルはルービックキューブのような構造で、縦横に列を動かしてボールを3つそろえていく。iOS/Android/Facebookに配信済みで、現在は次回作となる「三国志」をテーマにした同じシステムのゲームを開発しているそうだ。


・treeple

3D美少女キャラクターを操作するゴルフゲーム。もちろん衣装のカスタマイズも可能「RU Golf」

 3D美少女とコミュニケーションをとる「RU Talk」のキャラクターを使ったゴルフゲーム。見た目に反して本格的なゴルフゲームで、風向きや地形を考慮しながらクラブを選択してボールを打つ。現在は韓国市場のみへ配信中で、グローバルに配信するパブリッシャーを探しているところだそうだ。


・Roll & Move

筆者には難しく感じたが、韓国の英語学習レベルでいうと初心者向けだと言う「EIA 英語会話」

 「EIA 英語会話」名前の通り、ストーリーを通じて英会話を学ぶための学習アプリ。キャラクターの会話はすべて音声付きで、相手が話した後、その答えとして3つの選択肢が出る。正しい答えを選ぶとストーリーが進んでいく。分からない場合は、吹き出しをタップすると訳文が出る。1章5つのチャプターに別れており、空港やオフィス、劇場、ダウンタウンなど様々なシチュエーションが用意されている。iOS/Android版とも現在は韓国語だけだが、12月には日本語と中国語版も配信される予定だ。


・shiconal

画面を揺すって中のオブジェクトを動かしつつ、2つそろったものを消していく「Amaizing Kitty」

 スマートフォンを揺すって、中の宝石を動かし、2つつながったものをタッチして消していくパズルゲーム「Amaizing Kitty」を出展していた。本来は猫が入っているゲームなのだが、猫を消すことに抵抗がある人のために、宝石バージョンを作成したということだ。物理エンジンでジャラジャラ動かしながら消していくのが結構クセになる。現在は日本語以外の地域でiOS/Android版が配信されている。日本版については、「思い入れがある地域なので完成度を上げてから配信したい」と語っていた。


(2012年 11月 12日)

[Reported by 石井聡]