【CEDEC 2012】「アンチャーテッド3」のアウトソーシング

AAAタイトルのシングルプレイ環境を台湾XPECが提供した方法


8月20日~22日 開催

会場:パシフィコ横浜


 「CEDEC 2012」の会期2日目、「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス(アンチャーテッド3)」のアウトソーシングに関する講演が行なわれた。登壇したのは台湾XPEC EntertainmentテクニカルアートディレクターのSolomon Temowo氏。

 「アンチャーテッド3」は、米Naughty Dogで開発されたアクションゲームで、XPECが外部の開発企業としてフィールド環境制作などに1作目から関わっているという。またXPECは台湾の企業でありながら、英語や日本語でもやりとりできる環境を備えており、グローバルに外注を請け負っている点にも特徴がある。

 文化の異なる環境に現場がありながら、いかにして違和感なく「アンチャーテッド3」の世界を作り込むことができたのか。講演された2つの事例をご紹介していきたい。



■ コンセプトは入念に共有。最終版を参考にクオリティを維持

XPEC EntertainmentテクニカルアートディレクターのSolomon Temowo氏
コンセプトアートは、Naughty Dog、XPECの両方で入念に摺り合わせた

 講演で紹介された1つ目の事例は、主人公のネイサン・ドレイクが男を追ってイエメンの街を走り抜けるというシーケンスのフィールドが紹介された。Naughty Dogから必要なリファレンスや見積などの承認を経た後、Naughty Dogから送られてくるコンセプトアートやテキストファイル、データキットなどをもとに制作に入っていく。

 まず初期の段階で行なったのは、Naughty Dogとのコンセプトの共有だ。Naughty Dogからはイエメンの街並みについてのコンセプトアート送られてくるのが、XPECではインゲームは見られない状態なので、Naughty Dogとやり取りをしながら、コンセプトアートを共同で制作して認識を共有していったという。

 続いてNaughty Dogから送られてきたのは、ステージのブロックメッシュ。テクスチャなどは貼られていない簡素なものだが、Naughty Dogからはこのブロックメッシュの画面に参考写真と併せて手書きで絵を描き込んでイメージを伝えるようにしていた。

 こうしてコンセプトを随時共有していきながら、実際にステージの制作へと入っていく。ネイサンが走り抜けるステージは4つの区画(Chunk)に別れており、1区画目はNaughty Dogで最終版まで制作され、それもデータとして送られてくる。そして、それ以外の区画がアウトソース側の担当となる。

 Naughty Dog側で1区画目が作られている理由には、「これが最低限のクオリティだよ」とアウトソース側に伝えることと、これを踏襲することでNaughty Dogと同じテクニックを反映させられることがある。

 XPECでは、メモリーの必要量や作業量などを鑑みながら、ブロックメッシュだけがある区画を作り込んでいく。ただし、Naughty Dogから提供されるのは壁と床のエレメントのみ。ほかはアウトソース先となるXPECが制作した。

 なお常にNaughty Dogの意向に合わせられるように、畑や窓などは常に取り除けるようになっているほか、区画の提出後もインゲームでのテストはNaughty Dog側で行なわれるため、やり直しも多くあり、柔軟な対応が必要だったという。最初の区画以外はアウトソーシングとなるが、違和感のないステージ展開はこうしてできあがっていった。


Naughty Dogから提供されたブロックメッシュとそこに加えられた手描き絵と参考写真。「一見落書きのようだけど(笑)、イメージを掴むのにとても重要」とTemowo氏
ブロックメッシュから最終版までを追ったスライド
プロジェクト対象となった区画。1区画目だけはNaughty Dogで最終版まで作りこまれており、このクオリティが基準となる
床と壁のエレメント以外はXPECで全て制作した
完成したゲームでは、違和感なくステージが繋がっている


■ アウトソースの環境づくりは焦りすぎず、ニーズを見極めること

このケースではコンセプトアートだけあり、基準となるアートワークはなかった
イメージを得るために動画は大きく役に立ったという

 続いての事例は、上の例で送られてきていた参考にすべきアートワークが少なかった場合について話された。例として挙げられたのは、巨大な輸送船を舞台にしたステージ。イエメンのステージでは1区画目が作られていたため踏襲しやすかったが、今回は船をまるごと作らなくてはならなかったため、チャレンジングなプロジェクトだったという。

 XPECでは、自分たちでコンセプトアートを作ったり、参考となる資料を集めてイメージを共有しながら、Naughty Dogのフィードバックをもらっていた。フィードバックをもらうときは、90%がイメージファイルで、残りの10%がテキストだったが、テキストもできるだけ少なく明確な言葉でもらうようにしたという。

 これは、XPECでは翻訳をする環境が整っているが、それでもピーク時には翻訳に半日ほど費やすこともあり、画像でフィードバックをもらったほうが素早く対応できるためだ。また規定によってNaughty Dog外でのインゲームテストはできないためこのテストはNaughty Dogに任せるしかなかったが、プロトタイプのゲームプレイ映像は作業に大いに役立ったという。

 もう1つのコツとしては、フィードバックをもらった後もあまりディテールの作業に入り過ぎないことが重要だという。そうしないとNaughty Dog側で意向が変わった場合に対応しづらくなるほか、ステージ環境は常に直す余地があるので随時すり合わせをする必要があるからだ。Naughty Dog側、つまりクライアント側がいつでも変更できるように柔軟な環境を整えながら作業を進めることが大事というわけだ。「そのためのスケジュールなので、どれも焦りすぎてはいけない」とTemowo氏は話した。

 アウトソース側の立場としては、Temowo氏は「クライアントごとに何がユニークなことかを変えていかなくてはならない」と話した。クライアントには、コストを削減したいという場合や、アウトソースに出すことでゲームの中核の開発に注力したいという場合、可能性を模索したいからという場合など、状況は様々にある。Temowo氏は、「大事なのはニーズを理解することだ」と述べた。


XPEC自ら参考となる資料を集めることもあった。焦りすぎず、馬鹿かと思うくらいに基本的なことを確認する作業が大事になるという

(2012年 8月 22日)

[Reported by 安田俊亮]