Taipei Game Show 2012レポート

【Taipei Game Show 2012】Garena Online、「League of Legends」レポート
社内プロが対戦を活性化、現在台湾人気No.1の米国産オンラインゲーム


2月2日~6日開催

会場:南港展覧館

入場料:大人200元、子供100元


 現在、「台湾No.1オンラインゲーム」と言われているゲームがある。それが、米Riotが開発した「League of Legends」である。RTSの要素とRPGの要素を併せ持つ“AOS”系の作品で、米国ではもちろんのこと、台湾や韓国でも人気を博している。

 なぜ台湾で米国産オンラインゲームが大きなヒットになっているのか。台湾ファンの心をつかんだのは何なのか? 今回、本作を台湾でサービスしているGarena Online本社で、「League of Legends」の魅力と、台湾市場への取り組みを取材してきた。そこで見えてきたのは、台湾のコアなオンラインゲームユーザーの心をつかむ高いゲーム性、そしてユーザーに“憧れ”を抱かせるトッププレーヤーを自社で作り上げるという戦略だった。

 今回は、「League of Legends」のプロ選手の戦いそのものも見ることができた。「League of Legends」の概要や台湾でのトレンド、Garena Onlineの活動など、様々な要素をレポートしていきたい。



■ どう育て、いかに連携するか。コアな駆け引きが楽しい「League of Legends」

本作の最大の魅力は個性豊かなチャンピオン。2週ごとに追加され、現在80体を越えている
プロ選手の戦いを実際に見ることができた。時に押し、時に引く。その駆け引きが巧みだ
3人のプロ選手。社内には6人のプロ選手がいて、対戦専用ルームからゲームに参加している

 「League of Legends(以下、「LoL」)」のゲームジャンルの“AOS”とは、Blizzard Entertainmentの「Starcraft」のカスタムマップ「Aeon Of Strife」から生まれたゲームジャンルで、RTSのルールをベースに、プレーヤーは1人のキャラクターを成長させ、軍団を形成して敵の拠点の破壊を目指す。RPGとRTSを併せ持っており、欧米や韓国では様々な作品が生まれている。

 「LoL」はAOSの1作品である。元々はBlizzard Entertainmentの「Warcraft III」のMODである「Defense of the Ancients(Dota)」から生まれている。そこから「DotA-Allstars」を経て、MODではなく独立したクライアントによるオンラインゲームとして「LoL」が開発され、Riotが米国で開発・運営を行なう形となった。「LoL」のサービス形態は基本プレイ無料のアイテム課金制。台湾では2011年8月にクローズドβテストを行ない、9月から正式サービスを開始している。

 AOSというゲームジャンルは、基本はリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームでありながら、プレーヤーが操作するのは1人のキャラクターのみである。「LoL」では最大5vs5での対戦で、敵の拠点破壊を目指す。自軍の拠点からは一定間隔で味方ユニットが生産され、敵拠点に進行していく。プレーヤーは強力な力を持つチャンピオンとなって、味方軍を支援しつつ、敵を攻撃していく。

 敵陣には巨大な砲台があり、容易には侵攻できない。5人のプレーヤーがどう動くかが非常に重要になってくるのである。どこに戦力を集中させ、敵軍にどう対処するか、リアルタイムに変化し続ける戦場で、味方と敵それぞれの駆け引きが楽しい。

 プレーヤーキャラクターであるチャンピオンは、敵を倒すことでお金と経験値を得ることができる。チャンピオンにはそれぞれスキルツリーと購入可能なアイテムが設定されており、戦闘の合間に成長させ、装備を購入しパワーアップする。チャンピオンは攻撃型、防御型、支援型といったタイプがあり、そこからさらにどう装備を買うか、どんなスキルを育てていくかでプレイスタイルは大きく変化していく。

 チャンピオンの成長は試合ごとにリセットされる。限られた時間でいかに仲間と連携して敵を防ぎ、敵陣を攻めつつ、どうチャンピオンを成長させていくかが本作の鍵となる。一定時間で進軍してくる味方ユニットの利用も重要だ。チャンピオンをどう動かし、どのスキルを使っていくかは、アクションの腕が試される。かなりコアなゲーム性を持った作品と言えるだろう。

 「LoL」の最大の魅力がチャンピオンの多彩さである。現在台湾のバージョンでも80人以上のチャンピオンがいて、2週間ごとに新チャンピオンが追加されているという。本作は米国やヨーロッパ、アジア地域などいくつもの国でサービスされているが、世界的に人気が高いのは、ぬいぐるみのようなかわいらしい姿をした「Teemo」だという。一方台湾では「Vayne」というバンパイアハンターが人気だという。スキルのモーションが派手で、攻撃力が高く、スタイリッシュなプレイが楽しめるという。

 さらにユニークな“スキン”がある。スーパーマン風に変わったり、宇宙服があったり、着ぐるみ風の衣装や、種族そのものが変わったかのようなスキンも用意されている。これらはチャンピオンの性能を代えるものではないが、ボウガンが銃に変化し、サウンドも変わるなど見た目だけではないギミックもある。

 本作は基本プレイ無料のアイテム課金制のサービスで、ヒーローは80人以上のうち、10人が無料で遊べ、それ以外のヒーローは購入する形となる。スキンも人気の高い課金アイテムだ。この他、ユーザー経験値をアップさせるアイテムもある。ユーザー経験値はプレーヤーの“ランク”に関係しており、試合を繰り返すことでランクアップしていく。ランクごとにゲームがマッチングするため、いち早くゲームをやりこみ、実力の高いプレーヤーと手合わせするために、ユーザー経験値をアップさせるアイテムを使うプレーヤーもいるとのことだ。

 基本的にゲーム内での戦力をブーストするなど有利になるアイテムは存在しない。この“公平性”が、台湾で本作が受けた理由だという。本作では5人の仲間のバランスを考えてチャンピオンを選ぶ必要があり、プレーヤーは複数のヒーローに習熟している必要があるが、無料で遊べるチャンピオンも週ごとに変化するため、「課金必須」というバランスにはなっていないという。

 本作の台湾での人気を後押しするのが“プロ選手”の存在である。現在6人のプロ選手がGarena Onlineに勤務しており、1日8時間勤務でゲームに参加している。彼らトッププレーヤーが常にゲームに参加していることで、ゲーム内に活気をもたらしているという。

 「LoL」のサービスは国内に限定されており、基本的には他国とのプレーヤーと手合わせはできないが、プロ選手達は本作の戦術研究が盛んな欧米の戦い方を研究したり、欧米でのゲーム大会に参加することで、常に強さを磨いている。彼らがいることで、プレーヤー社会は常に刺激を受けているのだ。

 今回、プロ選手のプレイを見ることができた。5vs5での戦いのうち、2人プロ選手が参加した。動きの素早さ、スキルの使用など、操作のうまさはもちろんのこと、戦線を読む動きが巧みだと感じた。1プレーヤーが突出するのではなく、他のプレーヤーと協力して戦線を上げていく。駆け引きでは相手の「視線」が重要だという。「LoL」ではプレーヤーの視界外は黒く表示される。うまいプレーヤーは相手に気づかれないぎりぎりのところで戦い、敵の攻撃をつぶしていくのだ。またフィールドの建物や木の陰に隠れて敵に先制攻撃を仕掛けるのも有効だ。

 マップには中立のモンスターもいて、これらを倒すとボーナスが得られる。プロ選手は的確にこのボーナスを得ていく。「LoL」では倒されても拠点を落とされるまでは何度でも復活できるのだが、驚かされたのは1度もプロ選手は倒されないのだ。さらに敵の撃破のほとんどに関わっている。

 時に押し、ピンチには引く。生き残るためのしぶとさと、攻撃に転じる呼吸がとても巧みだと感じた。通常の勝負は早くても20分だが、今回は15分ほどで撃破してしまった。参加選手的には敵の方が強かったようで、最初は押されていたのだが、プロ選手の連携で味方チームを支え、逆転勝利となった。

 筆者自身も実際にプレイしたのだが、多くの場所を同時に見なくてはいけないRTSに比べ、本作は1キャラクターに集中できるため間口が広く感じた。それでいながら他のプレーヤーがどう動くかが重要で、戦場でどう立ち回るか、プレイ経験を蓄積していくことが重要だと感じた。キャラクターを成長させる“鉄則”など覚えなくてはいけない要素は多いが、それでもある程度研究すれば進め方はわかってくるし、うまいプレーヤーと組めば、そこそこの活躍ができそうだ。

 例えゲームがあまりうまくなくても、基本要素を覚え、防御に徹していれば、うまいプレーヤーが戦いを切り開いてくれるのだ。大規模戦闘でMMORPGより遙かに広く戦場を見渡せ、うまくなれば戦いに貢献できるようになる。MMORPGの攻城戦などのPvP要素、そしてRTSの発展系として、本作の魅力を確かに感じた。攻城戦、ギルド戦、RvRが盛んな上、RTSの人気も高い台湾や韓国で爆発的な人気を獲得できたのは、必然と言えるだろう。

 さらにここにオピニオンリーダーとしてのプロ選手が常に戦場に参加しているとなると、プレイ空間はより面白くなってくる。実力を自負するプレーヤーは闘志を燃やし、初~中級者は彼らの戦い方を追いかけるようになるだろう。運営側が積極的にゲームの面白さ、勝ち方を研究させる仕掛を作り上げているのだ。

 今後Garena Onlineは台湾ならではの要素として、台湾の提案したチャンピオンの実装を目指しているという。どんなチャンピオンが欲しいか、ユーザー参加のコンテストを開催し、アイディアをまとめた上でRiotに提示していくとのこと。台湾提案チャンピオン実現に向け、企画を進行中だという。


チャンピオンのスキルツリーと、ルーム画面。右はゲーム中のショップ画面
プロ選手の戦い。後半は戦力が集中し、画面が一気に派手に。右は勝敗が決まった瞬間だ

【スクリーンショット】
ゲームのスクリーンショット。キャラクターは小さめだが、チャンピオンをはじめ、キャラクター達のアクションは多彩で、派手なエフェクトが楽しい



■ 「LoL」のヒットにより躍進。グループで連携しての大会も開催

Garena OnlineのGeneral Manager assistantであり、「LoL」の Project ManagerのKevin Pai氏
会員100万人突破記念に、台北101をライトアップした

 Garena Onlineはシンガポールに本社を構えるオンラインゲームメーカーで、元々はeSportsコミュニティーとして、対戦用のマッチングサービスなどを行なっていた会社だったという。そこから様々なタイトルをパブリッシングするメーカーとして、シンガポール、台湾、マレーシア、フィリピン、タイやベトナムの6カ国で展開していった。台湾では2008年より業務を開始し、台湾オフィスの社員は現在80人。30~25才の人が中心だという。

 これまで台湾では、ブラウザゲームの「七英雄争覇」、ポーカーゲーム、さらにはFaceBookのアプリ、クライアントダウンロード型のオンラインシミュレーション「夢三国Online」など10タイトル以上を展開している。

 また、「競時通」というポータルサイトや、専用のメッセンジャーソフトを開発している。メッセンジャーソフトは、にログインしていれば、そこからGarena Onlineのゲームをすぐに立ち上げられる。ソーシャル系のサービスにも力を入れているのもGarena Onlineの特徴だ。これまでは社員は50人程だったが、「LoL」のヒットにより、一気に80人以上になったという。

 「LoL」は、開発会社の米Riotから、台湾だけでなく他の6カ国でもパブリッシングの権利を得ている。その中でも台湾では、特に大きな反響があった。台湾では2011年8月にクローズドβテストを行ない、9月から基本プレイアイテム課金の正式サービスを開始したのだが、2012年1月に登録会員が100万人を突破し、最大同時接続者数は15万人を突破した。

 100万人突破の際は、台北101ビルでライトアップのデモンストレーションを行なったという。現在でも同時接続者数は12万人以上で、現在の台湾ナンバーワンオンラインゲームといえる人気を獲得している。

 Garena Onlineが人気を集めた1つのエピソードが、「グラフィックスカード」に関するもので、コミュニティで「うちのPCはグラフィックスカードが古くて『LoL』が遊べない」と発言したユーザーに対し、Garena Onlineはグラフィックスカードをプレゼントした。その後、「グラフィックスカードが欲しい」というユーザーが殺到し、500人にグラフィックスカードを配ったという。結果として、認知度を上げるプロモーションとなった。日本では考えられない手法だ。

 「LoL」でのプロ選手は成績が優秀な選手に依頼して契約を結んでいる。契約は1年ごとに更新で、現在の選手は6人で1人が女性だ。彼らの年収は同年齢の会社員と変わらないが、ヨーロッパなどのゲーム大会へのバックアップも会社が行ない、優秀な成績で賞金を得た場合、賞金はまるまる選手の収入となるとのことだ。彼らは常にトッププレーヤーとしてユーザーコミュニティを牽引する存在だ。

 台湾では2006年にTaiwan esports leagueが設立され、現在台湾国内で50人ほどのプロ選手がいる。層が厚いのは「スペシャルフォース」、「カートライダー」、「スタークラフト」。ケーブルテレビでの対戦番組はユーザーからも人気を集めてるという。「LoL」でのプロ選手の雇用もこう言った台湾ゲーム業界の流れを受けたものだという。

 この他、Garena Onlineはアジア各国での展開をしている強みを活かし、グループでの対戦大会「G1」を2年前から開催しており、今年も夏から秋にかけての時期に開催すべく、企画が進行中だ。「LoL」の対戦大会はこの「G1」での大きな目玉になる予定だ。


Game DirectorのAmy Chen氏、PR ManagerのSean Yan氏、Product ManagerのNeol Chou氏
Garena Onlineは、台湾の新興ビジネス街の信義地区にある。ゲーム開発ではなく運営が中心のメーカーである



【Cooler Masterブース】
Taipei Game Show 2012でのゲーミングデバイスメーカー、Cooler Masterブースでは、10台近くの「LoL」の試遊台を設置していた。サービス中のゲームにもかかわらず試遊台には常に人がいて、自分のアカウントでゲームをプレイしていた。改めて台湾での人気を実感させられた

(2012年 2月 6日)

[Reported by 勝田哲也]