GDC 2011レポート
CC2の松山氏と竹下氏が「ナルティメットストーム2」で講演
アニメの「神作画」を3DCGで再現する数々のアイデアを披露
サイバーコネクトツーは福岡に拠点を置くゲームデベロッパー。現在はカプコンから発売予定のPS3/Xbox 360「アスラズラース」を制作中 |
「GDC 2011」4日目となる3月3日(現地時間)、株式会社サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏と、リードアーティストの竹下勲氏による講演「PS3 & Xbox 360 NARUTO SHIPPUDEN: ULTIMATE NINJA STORM 2 Exploring the 'Other Side' of Super Anime-like Visual Elements(PS3/Xbox 360『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2』超アニメ調ビジュアル要素の裏側を探る)」が開催された。
「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」(以下、「ナルティメットストーム2」)は、株式会社バンダイナムコゲームスが2010年10月に全世界で発売したプレイステーション 3/Xbox 360用対戦アクションゲーム。テレビアニメ「NARUTO-ナルト- 疾風伝」を原作としたゲームで、日本のみならず世界的な人気を誇る。現在までに累計で約110万本を生産出荷しているという。
その「ナルティメットストーム2」の開発に当たり、サイバーコネクトツーは2つのプロジェクトコンセプトを掲げている。1つは、「さらに進化したゲームとアニメの超融合」。もう1つは、「もう1つは、ドラマ体験型シネマアクション」だ。本講演では、この2点を踏まえた上で、本作の開発手法が語られた。
なお、講演中のスライドはほとんどが撮影禁止とされていた。本稿ではなるべくテキストで詳しく解説するが、ビジュアル的な説明でも絵をお見せできない点についてはご了承いただきたい。
■ ツールを使った効率化による作業量減と品質向上
サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏 |
まず松山氏は、本作の開発における作業の効率化の手法を紹介した。基本的な発想は、前作「NARUTO-ナルト- ナルティメットストーム」の経験や反省点から、改善を図ったものとなっている。なお本作の開発期間は、2008年11月から2010年9月までの23カ月間(契約は21カ月だったので2カ月押し)。開発人数は最大80名で、時期によって変動している。
まずキャラクターモデルにおいて、前作ではLoD(距離に応じてモデルのポリゴン数を増減させる)に使うモデルをLow、Middle、Highと3種類用意していた。しかし基本的に対戦ゲームなので互いの距離が大きく離れることが少なく、Lowモデルが表示される機は少なかった。そこで本作ではLowモデルを廃止し、その分の制作期間をMiddleとHighモデルにつぎ込んでクオリティアップを図った。
次に影表現。前作ではソリッドモデルで影のモデルを1つずつ作っていた。これだと影に見て取れるジャギーが出る上、作業量も増えていた。本作ではバンダイナムコゲームスで開発された「NUライブラリ」というエンジンを使い、さらに機能拡張してもらうことで、スキンモデルから影を作成。より精度の高い影を出せる上に、ソリッドモデルを作る工数が減らせた。
また開発ツールも前作なかったものが増えている。まず「スキルエディター」は、忍術の挙動を生成できるもの。前作での忍術の生成は、アーティストが作ったものをプログラマーが受け取って作業していたため、お互いの作業待ちによるタイムロスが発生していた。また挙動はプログラマーの手書きだったため、汎用性が低かった。本作ではスキルビジュアル作成と、パラメーターによる挙動の変化をアーティストが手元で設計できるようにした。
次に「フローエディター」。これはデモシーンを効率よく作成するためのツール。本作にはカットシーンが約16時間分もあり、これをアーティストだけで制作するのは困難だ。また前作では字幕1つ1つをプログラマーが作るような非効率的な制作体制だったという。「フローエディター」、職種を選ばずイベントシーンを組めるツール。DCCツール(3ds Max)がなくてもデモシーンを組めるのが特徴で、カメラとプレーヤーの動き制御、画面効果、フェードインアウトなどの設定ができる。またSEもこのツールで指定できる。本作の開発においては、社内にアルバイトを含むイベントチームを作り、そのチームだけでイベントシーンが作られている。
そしてもう1つが「リグとフェイシャルのツール」。アニメでは、頭の骨を斜めに曲げるなど、人体の法則を無視した誇張表現が多用される。そのため、リグを動かすだけではアニの表情は作れない。このツールでは、ボーンの1つ1つを動かせるようにしている。リグで動かしたポーズやアニメーションはコピーを作れるようになっていて、リスト化もできる。表情を作ったら登録でき、途中から追加変更もできる。顔半分を作ってミラー反転する機能も用意されている。
同社はこれらのツールを、量産体制に入る前に用意することで、開発の効率を向上させた。この動きについて松山氏は、「『ナルティメットストーム2』は、前作があったからこそできた続編。アニメの表現にこだわって作るというコンセプトが明確で、前作で出た問題点を直すのはセオリー。その経験から効率化できる方法もわかっていたので、全体の工数削減を図れた」という。
さまざまなツールの投入と作業の効率化により、特にプログラマーの工数を大幅に減らせている |
■ 「神作画」をCGで実現するためのアイデア満載の手法
サイバーコネクトツー リードアーティストの竹下勲氏 |
目指すアートをしっかり決めれば、単純な技法でも実現できるという |
続いてリードアーティストの竹下氏から、本作のアートワークについて、「神作画」をどうやって3DCGで再現したのか、という手法が紹介された。「神作画」とは、日本のアニメにおいて、動きが激しく、非常にクオリティの高い作画のことを指している。
まず最初に紹介されたのが、セルアニメ独特のモーションブラー。体の一部が伸びるようなのっぺりとした表現のことで、動きの速いシーンで瞬間的に見える。これはアニメと同じような調子のテクスチャを、画面に張るようにして書いているだけだという。プレイ中は視認できるかできないかというレベルだが、竹下氏は「それでも存在するのが大事」という。
次に、めまぐるしく動くシーンで、アニメのようなスピード感あるダイナミックなシーンを作成する手法。具体的には、キャラクターの素早い動きだけでなく、背景もハイスピードで動くような演出のことだ。これは本作では、本当に背景CGを激しく回転させている。竹下氏は「動かさないとダイナミックさに欠ける」といい、実際に比較動画も紹介した。もう1つ別の方法として、2人のキャラクターが戦うシーンで、カメラがその周囲を回るように動くことでも、背景が大きく動くため、キャラクターの動きをダイナミックに見せられる。
3つ目は、「板野サーカス」と呼ばれる演出。アニメーターの板野一郎氏が生み出し、アニメ「超時空要塞マクロス」で有名になった描き方で、多数のミサイルに追尾されながら避けるスピード感を表現する手法のこと。本作では予め引かれたパスの上を動かすだけでなく、パス自体をうねらせることで迫力を増している。また先述の背景の動きをつけて、よりダイナミックに仕上げている。
4つ目は、キャラクターの表情が劇画タッチになる手法。荒い線をキャラクターに沿わせることで表情を誇張するもので、そのまま荒い線のテクスチャを上から乗せているだけ。ただし「キャラクターの勢いの方向を考えて配置してやることが重要」だという。
次はセルアニメエフェクトの進化について。本作のエフェクトは見え方では進化していながら、実際には単調な素材の重ねあわせで作っているのが特徴。竹下氏は「動きで見せることを意識している」という。
まず爆発のエフェクト。煙の部分は、2色で描かれた数パターンの単調な素材の重ね合わせで作っている。同じ色の部分が重なった時に、境目が自然に溶けてわからなくなるので、そこに個別にアニメーションをつけることで、煙が広がっていくさまを違和感なく表現しているのだという。実際には1枚のポリゴンで作られており、決められたカメラ位置以外から見ると破綻する。なお注意点として、単調なテクスチャで作っている分、影の部分を作りこむことが大事だという。
次に水爆発のエフェクト。こちらも同じくエフェクトの重ねあわせで作られているが、爆発の瞬間はの勢いを見せるため、爆発直後とその後はテクスチャを切り替えている。またセルアニメ的なブラーを表現できるよう、元々のテクスチャを加工している。水柱の手前から出る波は、ボーンを仕込んで波打つように描いているという。
さらに炎のエフェクトについても紹介。「豪龍火」という龍の頭を模した炎が飛ぶ忍術のエフェクトでは、輪郭のラインの変化をフォールオフシェーダーで表現。たてがみなどの部分は頂点カラーで色を出している。火の粉は平面ポリゴンで作成し、平面投影というシェーダーを使うことで、モデルの角度が変わってもテクスチャの角度が変わらずに見える。
このほか、劇場版アニメのような背景を実現する手法についても語られた。「3DCG特有のポリゴンくささ、テクスチャをくりかえしマッピングするループ感をなくしたい」というのが目標だという。その問題を解決したのが、パースマップ表現を使用した背景表現。背景美術を作画し、ディテールの細かいところまで追求して仕上げ、キャラクターを実装して違和感がなければ完了となる。
パースマップなので実際にポリゴンに貼って立体感を出しているが、コストを最小限に抑えるため、ポリゴンは最低限に控えているという。あとは実制作時に背景美術を量産するため、テレビアニメ「NARUTO-ナルト- 疾風伝」の背景美術を作成しているスタジオぴえろに発注し、納品された絵をパースマップでモデルに貼り付け、実機に出力する際の色味調整をして、ポストエフェクトをかけて完成となる。
竹下氏はアートワークのまとめとして、「単純な技術ばかりで、真似できないものはなかったのでは。セルアニメーションの技術を3DCGに取り入れ、目指すべきアートをしっかり決めるという2点を押さえていたので、本作のアートに新たな特徴を持たせ、セルアニメ表現を実現できた。重要なのは、何を作りたいか、何を表現したいか。そしてそれを実現するためのアイデアが重要。サイバーコネクト2のアートワークはアイデアの塊」と述べた。
■ 世界一のセルアニメーションに貢献するゲームを作る
講演のまとめとして、再び松山氏が登壇し、本作の開発現場が紹介された。同社では全開発スタッフが1フロアに入っている。デザイナーには、DCCツール、実機動作確認用、アニメーション再生やアニメそのものの描画確認と3つのモニターを用意するほか、高密度の絵を描く時には、22インチの液晶ペンタブレットを使っている。
さらに本作を開発するにあたっての取り組みとして、「NARUTO-ナルト-」関連のグッズは会社で全て購入。原作の週刊少年ジャンプは過去5年分を保存している。さらに約3カ月に1回発売される単行本は、新刊を15冊ずつ購入している。
アニメについては、毎月発売されるDVDを全巻購入し、スタッフがいつでも閲覧できる状態になっている。毎年夏に公開されている劇場アニメを、80名の開発スタッフが劇場で見ることにしている。これは作品を見るだけでなく、映画館に足を運ぶ子供達を見て、自分たちの客を視察するという目的も兼ねているという。視察という面では、12月に開催される「ジャンプフェスタ」に20名のスタッフが参加したほか、米国や欧州のイベントも視察しているという。松山氏は「我々は世界で2番目にナルトを愛している。1番はもちろん原作者の岸本先生」と語った。
同社としての今後の展望としては、「世界中のお客様から、アニメの表現を超えているとお褒めの声をいただいてきた。ただ我々は日本のアニメーションを越えているとは到底思っていない。日本のセルアニメーションの表現とあくなき追求は本当にすごい。今後はもっと神作画を研究して、我々もさらなるアニメ表現を突き詰めていきたい」と述べた。
最後に松山氏は「今日はこの一言だけ言いたかった」と前置きして、「日本のセルアニメーションは世界一」と宣言。「もっと研究したいし、彼らの勇気にもなっていきたい。世界で勝負できるコンテンツを作りたい」と、ゲームを通して日本のアニメにも貢献したいというメッセージを込めた。
サイバーコネクトツーの社内の様子。「NARUTO-ナルト-」関連の取り組みは偏執的なほど。そこまで徹底してこそ生まれるゲームの表現ともいえる | 松山氏が「日本のセルアニメーションは世界一」と高らかに宣言 |
(2011年 3月 5日)