GDC 2011レポート
「SOCIAL & ONLINE GAME SUMMIT」レポート その1
Zyngaの2大ヒット作「FarmVille」と「CityVille」の開発環境を比較
昨年から新設された「SOCIAL & ONLINE GAME SUMMIT」は全サミット中最大規模の講演数で開催されている。このサミットはFacebookをプラットフォームにしたソーシャルゲームを始め、ソーシャルゲームやオンラインゲーム全般を俯瞰し、その未来や現状を分析するという趣旨のもとに行なわれている。
昨年はちょうどブームとともに急成長をしていた時期で、ソーシャルゲームの明るい未来を謳い上げるような内容だったが、今年は少し落ち着いてソーシャルゲームの構造や新たなゲームデザインを模索する内容の講演が目立った。それでも人気は変わらず、今回紹介している講演はいずれも収容人数の多い大ホールで行なわれたにも関わらず、椅子に座りきれないほどの聴講者が背後に鈴なりに並ぶほどの混み具合で、ソーシャルゲームに寄せる関心の高さを感じられた。
数ある講演の中でも特に、Zyngaのプロダクト・デベロップメント・バイス・プレジデントのMark Skaggs氏による「Click Zen:Zynga's Evolution from FarmVille to CityVille」はソーシャルゲームの進化を概観するうえで興味深い内容だった。この記事ではZyngaの講演を中心に、初日の「SOCIAL & ONLINE GAME SUMMIT」の様子をお届けしたい。
■ ミニマムな環境から生まれた「FarmVille」。対象的な「CityVille」
Zyngaのプロダクト・デベロップメント・バイス・プレジデントのMark Skaggs氏 |
農場系ブームの先駆けとなった「FarmVille」 |
ヒット記録を次々と更新している「CityVille」 |
「Click Zen:Zynga's Evolution from FarmVille to CityVille」はZyngaの出世作となった「FarmVille」と、2010年12月にローンチした最新作「CityVille」のローンチ前後の動きやゲームの構造を比較して、何が進化したかを考察するという講演だ。
Mark Skaggs氏はかつて「コマンド&コンカー」(Electronic Arts)シリーズを手掛けたゲームデザイナーで、Zyngaでは「FarmVille」、「TresureIsle」、「CityVille」などZyngaの大ヒットゲームのチームを指揮している。PCゲームの開発も困難の連続で不可能を可能にしてきたとSkaggs氏。ソーシャルゲームの開発でも同じように困難を乗り越えてきた。
日本でもmixiでモバイル版がサービス中の「FarmVille」は“農場系”と呼ばれる野菜や家畜を育てるゲームの原型となったZyngaの大ヒットゲーム。「CityVille」は街を作り、市長となって経営していくシミュレーションゲーム。ローンチから24時間のユーザー数で、「FarmVille」の11万6千人を超える29万人というユーザー数を記録して、Zyngaで最も成功したゲームとなった。
「FarmVille」は2009年6月にFacebookのソーシャルゲームとしてローンチされた。この時まだZyngaは小さな会社で、収益の柱は「Mafia Wars」だった。Skaggs氏は当初、Facebook上で動くFlashをベースにした中世がテーマのRTSを作ろうとしていた。しかし上手くいかずゲームデザインは暗礁に乗り上げていた。その時Electronic ArtsのBing Gordon氏に「農場ゲームを作ってみたら?」と言われたことが誕生のきっかけとなった。
「FarmVille」は、すでにローンチされていたアバターゲーム「YoVille」の「Yo Avatar」を流用し、最も忙しい時には他の部署から人を借りてわずか5週間という短い開発期間で作られた。Skaggs氏はこれを「Minimum Viable Product(MVP)」と呼ぶ。
これだけ素早く動けたのは、チームがSkaggs氏の強力な指揮のもと、「Facebookでナンバーワンの農場ゲーム」を作るため情熱的に働いたからだと氏は語る。また、会社は「Mafia Wars」のためにすでに独自のサーバーを持っていたが、「FarmVille」のサーバーをクラウド化したのは最も重要な決定だったとも述べた。
チームのメンバーは「フレンドリーベット」と呼ばれる賭けをしていた。もし、6月19日から30日までに40万人のデイリーユニークユーザーを集めることができたら「french laundry」というレストランに行くというもの。だが誰もが不可能だと思っていた。CFOはジョークで「もし6月30日より前に100万人を集めたらパリ旅行」と言っていた。しかし実際にはたった5日間で100万人のデイリーアクティブユーザーを獲得してしまった。スタッフは「french laundry」に食事に行った。「パリには行かなかったが、『FarmVille』が素晴らしかったので構わない」とSkaggs氏。「FarmVille」はピーク時に3,250万人のデーリーアクティブユーザーを抱えるメガヒットゲームとなった。
そんな「FarmVille」の成功に学んだ上で「CityVille」は開発された。すでにZyngaは巨大な会社になり6つのFlashベースのゲームをローンチして、「FrontierVille」も開発中だった。「CityVille」は「MVP」だった「FarmVille」とは逆に会社全体から万全のサポートを受けての開発となった。
「FrontierVille」からクエストやストーリーを導入し、よりソーシャル性の強いゲームを目指した。8月~9月にはチームが固まり、9月末には面白さが見えてきた。24時間体制のサービス、バグ修正、広範なテスト、将来のロードマップなどはすべてローンチ前に準備を終えるようにした。
「CityVille」は、訪ねてきたユーザーがプロフィール写真のアイコンで表示されたり、友人の街に自分の店をフランチャイズ展開できるなど「FarmVille」よりもソーシャル性が強化されている。シミュレーションゲームとしてはライトな作りで、シンプルなミニクエストが楽しみを提供してくれる。12月のローンチ後、デイリーアクティブユーザーは2週間で800万人、30日で1,400万人という急激な伸びを見せて開発陣を驚かせた。
Skaggs氏は講演の最後に、ソーシャルゲームデベロッパーへのアドバイスとして「キーとなるフィーチャーを学んで真似ること」、「最初に市場に投入するためにはスピードが重要」、「退屈を紛らわすのではなく、楽しみを届ける」という3つの言葉を贈った。
【スライド】 | ||
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最低限の人員で開発した「FarmVille」に比べると「CityVille」はスタッフの数も倍以上。「FarmVille」とは逆に余裕のある開発環境がヒットにつながった |
■ ソーシャルゲームのゲームメカニクスについての研究が豊作
MITのMia Consalvo氏 |
他の講演の中で特に興味深かったのはマサチューセッツ工科大学教授のMia Consalvo氏による講演「Using Your Friends:Identifying the Top Interaction Mechanics in Current Social Game & Media」だ。この講演はFacebookのソーシャルゲームの中でユーザーがフレンドとどのように関わりを持っているかを分析したもの。Facebookのソーシャルゲームから80のタイトルをピックアップして、プレゼントを贈ったり、フレンドの農場や街などへ遊びに行ったり、メッセージを残したりといったソーシャルゲームでは定番の要素がどの程度入っているかを検証している。
例えばフレンドのところへ遊びに行く「Visiting」の場合を50のタイトルで比較。行っただけでリワードがもらえる場合、なんらかの痕跡を残す場合、などと様々な切り口で比較しつつ、「CityVille」のフランチャイズといった特別なフィーチャーを切り取って説明した。
比較とは別に、ゲームではないソーシャル性をもつアプリケーションの紹介もあった。シューズメーカーのナイキが展開しているSNS「Nike+」や、スクウェア・エニックスのiPhone/iPod touch用パーティーゲーム「ボイスファンタジー」、カメラに写した文字をそのまま翻訳してくれるiPhone/iPod touch用アプリ「Word Lens」などを紹介した。
初日にもう1つピックアップしたいのは、現実世界の特定の要素をゲーム化するためのメカニクス「Gamification」について様々なゲーム化の手法を紹介する「Smart Gamification: Virtual Systems Shaping the Physical World」だ。筆者は途中からの参加だったのだがちょうど登壇者であるBrian Morrisroe氏が製作した、iPhone用アプリ「my Town」を紹介しているところだった。
Brian Morrisroe氏は元Blizzard Entertainmentで「Diablo」や「World of Warcraft」の開発にかかわった人物。「my Town」はGPSを使って実在の建物をバーチャルに売買するゲーム。その物件にチェックインすることで経験が手に入る。GPS情報を使った他のゲームを抑えて200万以上のユーザーを獲得している人気ゲームだ。
建物をアップグレードしたり、物件でアイテムを生産したり、それをフレンドとトレードするなどRPGのような楽しみ方ができることが成功の要因だろうとMorrisroe氏。そのほかにも上記でも紹介した「Nike+」や、女性向けカジュアルアパレルの通販サイト「ModCloth」で行なわれているSNSサービスが紹介された。これはサイトを訪れた人がバーチャルなバイヤーになって服を仕入れる。選んだ人が多かった服が実際に生産されるというもので、ゲームとは呼べないかもしれないがゲーム的な構造を持っているという理由で紹介された。
【スライド】 | ||
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「FarmVille」、「Ravenwood Fair」、「City of Wonder」など人気のあるソーシャルゲーム50タイトルを比較検証した | ||
「Gamification」という考え方のもと、新たな角度からゲーム化された変わったタイトルを紹介した |
□Game Developers Conference(GDC)のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2011年 3月 1日)