GDC 2011レポート

米国サンフランシスコにてGDC 2011が開幕
ソーシャルゲーム、スマートフォン花盛り、任天堂岩田氏の基調講演やNGP関連の講演に注目


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 世界最大規模のゲーム開発者向けのカンファレンスGame Developers Conference(GDC)2011が、米国サンフランシスコのMoscone Centerにて開幕した。初日の2月28日は、同一のテーマを1日掛けて深掘りしていくチュートリアルや各種サミット等が開催された。注目の基調講演や通常セッション、Expoなどは3日目の3月2日に開催が予定されている。会期は3月4日まで。本講では取り急ぎ、初日の模様をお伝えしたい。



■ 25周年を迎えGDC Mobileが細分化されるなど激変の続くGDC

好天に恵まれたサンフランシスコ。写真はMoscone Centerノースホールの様子
25周年を迎えたGDC。25周年記念企画として往年の名作の開発秘話を語る特別セッション「Classic Game Postmortem」が3月2日から3日間開催される
ノースホール地下のセッションルームは、GDC初日とは思えないほどの混雑ぶり。数年前まで閑散としていたのがウソのようだ

 GDCは今年で25周年を迎えた。今年は25周年を祝う垂れ幕が会場の至る所に掲げられ、お祭りムードが色濃い。といっても特段何かが大きく変わるわけではないのだが、特別企画としては往年の名作をテーマにした「Classic Game Postmortem」が3月2日から3日間、10セッションに渡って開催される。ピーター・モリニュー氏は「ポピュラス」を、ウィル・ライト氏は「バンゲリングベイ」を、ジョン・ロメロ氏が「DOOM」を語る。そして日本からは岩谷徹氏が「パックマン」を語る。ゲームファンなら名前を見るだけでもワクワクしてくる企画だ。

 GDCのハイライトとなるのは基調講演とGame Developers Choice Awardsである。共に会期3日目の3月2日の開催が予定されている。基調講演は、5年ぶり3度目となる任天堂代表取締役社長の岩田聡氏。今年の基調講演はこれのみとなっており、日本でのニンテンドー3DSの発売直後、かつ北米市場での発売直前ということで、その発表内容にも注目が集まる。Game Developers Choice Awardsは、ゲーム開発者自らが決める賞として毎年高い注目を集めるアウォードである。今年はRockstar Gamesの「RED DEAD REDEMPTION」と、Playdeadの「LIMBO」の一騎打ちの様相を呈している。下馬評では「RED DEAD REDEMPTION」がやや有利だが、さてどうなるだろうか。

 通常セッションでは、SCEの次世代ポータブルデバイス「Next Generation Portable」関連のセッションがいくつか予定されている。技術情報の公開は今回が初となり、超人気セッションとなることが予想される。また、対抗馬となるニンテンドー3DS関連のセッションも同様に予定されており、こちらも人気を集めそうだ。

 さて、GDCの初日と2日目は、チュートリアルやサミットと呼ばれる集中講義スタイルの連続セッションが開催される。1日あるいは2日かけてたっぷり実施されるため、通常の1時間のセッションでは取り扱えないようなディープな話題をふんだんに扱うことができるだけでなく、3日目以降に実施される通常セッションの前座としても機能させることができるため、現場の開発者に特に人気である。一方、メディアやバイヤー、サプライヤー等は、あまりにディープすぎて敬遠される向きもある。

 ただ、ここ数年、このGDCの“前座”として機能してきた2日間が見違えるように充実し、すべてのゲーム関係者にとって見逃せない期間になりつつある。毎年変化を見せるのがこの2日間であり、それと同時にゲーム産業のダイナミズムを実感できる2日間ともなりつつあるからだ。

 今年の大きな変化は、近年のGDCにおいて重要な位置づけを担っていたモバイルゲームを扱ったチュートリアル「GDC Mobile」が、ついに役目を終えてなくなったことだ。もちろん、ただ終わっただけでなく、むしろこちらがゲームの新たなメインストリームであるかのように様々な形で大きく枝葉を伸ばしている。

 具体的にはスマートフォン向けのゲームコンテンツを扱った「GDC Smartphone Summit」を筆頭に、ソーシャルゲームを扱った「Social & Online Summit」、そしてIT界の巨人Googleがスポンサードするクラウドゲーミング、ブラウザゲーミングにフォーカスした「Google Developers Day」、そしてGoogleのAndroid OSをメインテーマにした「Android Developers Day」などなど。GDC Mobileが扱っていた分野は、スマートフォンゲームやソーシャルゲーム、ブラウザゲームなどに形を変えて、GDCのメインプレーヤーであり続けているわけだ。

 今年の新たな趣向としては、MicrosoftのKinectを扱ったチュートリアル「Kinect Developers Summit」や、新進気鋭のゲームエンジン「Unity」を扱った「Unity Track Day」が新設されたほか、Game Career Seminarが最終日の3月4日に1日セッションのスタイルで開催されること。変わり種としてはランチタイムの時間を使ってランチボックスを摘みながらセッションが受けられる「Lunchtime Session」がGDCオフィシャルとなり、休み無くセッションが受けられるようになっている。


【会場の様子】
初日から盛況を見せるGDC会場。GDC会場はウェストホールが縮小され、会場の規模としては縮小傾向にあるが、参加者は確実に増えているという。セッション会場を繋ぐフロアではメーカーがブースを出展。Sony Ericssonが「Xperia PLAY」を出展。「Xperia PLAY」関連セッションもいくつか予定されているようだ

【ウェストホール】
2009年までメイン会場となっていたウェストホールは、一部のみの使用に留まっており、閑散としていた。ちょっと勿体ない印象である

【バーラウンジ】
今年もMicrosoftは試遊台のあるバーラウンジを展開。試遊台で遊べるタイトルは、Kinectタイトルのほか、インディーズ系のXbox LIVEアーケードタイトル、Games for Windowsタイトルは「Fable III」を出展。PC版「Fable III」は3D立体視に対応していた

【平壌エクスプレス!?】
GDCには世界中からゲーム関係者が集まるため、GDC会場周辺はコンパニオンを使った非公認のチラシ配りが行なわれることが恒例になっているが、今年はラッピングバスが鎮座していた。その名も「PYONYANG EXPRESS」。北朝鮮最高のバーベキューを出す店という設定で、プレスパスを見せると無料でコリアンバーベキューを提供してくれる。もちろんこれはすべて北米で3月15日に発売される「HOMEFRONT」のプロモーションである



■ 大きな存在感を見せるGoogleとZynga。MicrosoftはKinectに注力

Google Developer Dayの様子。スポンサーセッションのため、それほど人気があったわけではないが、Googleのキーテクノロジーが次々に紹介された
「2010年はGoogle?」というドキッとするスライド。Google AppとChromeによるゲーム産業への浸透をかなり本気で検討しているようだ

 GDC初日に大きな存在感を見せたのがGoogleとZyngaだ。Googleは先述したように自らスポンサーセッションを複数持つだけでなく、「GDC Smartphone Summit」と「Social & Online Summit」のいくつかのセッションにも名を連ねており、最大勢力を誇っている。もちろん自らゲームを提供するわけではなく、GoogleのWEBブラウザであるChromeやクラウドサービスGoogle Cloud、GoogleTV、Google Storage、Google Bodyなど各種クラウドサービスが紹介された。

 また、今年もホットなテーマであるソーシャルゲームに関してはFacebookを筆頭としたプラットフォーマーは姿を消し、変わってZyngaやPlayfish、Playdomといったソーシャルゲームメーカーの名が目立った。プラットフォーマーが不在なのは、単純にメーカーが参加を渋っただけなのか、ソーシャルゲームをSNSというソフトウェアプラットフォームで括ることに無理があることの現われなのか、この点はよくわからないが、2日目のセッションには「How to Publish Social Games Online Without Dependence on Facebook(Facebookに頼らずにソーシャルゲームをパブリッシングする方法)」という、なかなか穏やかではないタイトルのセッションもあり、ソーシャルとゲームという元来の“食い合わせの悪さ”は、依然として課題として残り続けている。明日以降のソーシャルゲーム関連セッションにも目が離せないところだ。

 ちなみに初日の超人気セッションは、ソーシャルゲーム最大手のZyngaの新旧の代表作である「Farmville」と「CityVille」のポストモーテム(事後検証)を扱った「Click Zen: Zynga's Evolution from FARMVILLE to CITYVILLE」。ソーシャルゲームを志す開発者の関心がZyngaの開発力に集まっていることを伺わせてくれた。

 初日、ゲームメーカー系で目を引いたのはMicrosoftだろうか。明日Kinectをテーマにした1日セッション「Kinect Developers Day」を開催する同社だが、初日もLocalization Summitの中で、Kinectセンサーの音声認識のローカライズ手法を公開。プラットフォーマーらしいきめの細かいローカライズのアプローチが披露され、同社のKinectに掛ける意気込みが今更ながらに伝わってきた。「Kinect Developer Day」に関しては明日以降に改めてご紹介したい。


【各チュートリアル/サミットの模様】
各会場で10を超えるチュートリアル/サミットが開催された。各チュートリアル/サミットの模様は追ってお伝えしていきたい



【HTML5 and Other Modern Browser Game Tech】
Google Developer Dayの最初のセッション。Canvas2DやWebGLといったHTML5関連のデモがいくつか披露されたが、スポンサーセッションと言うことで、Chromeブラウザの優位性を各種データから明らかにするという色合いが強かった

【YouTube API's: Game Video Integration Process and Benefits】
個人的に最も楽しく聞けたのがこのセッション。Activisionの「Call of Duty: Black Ops」のトレーラー展開に、YouTubeを全面採用したことのメリットデメリットが語られた。メリットはROI(投資収益率)の高さを筆頭に、トータルで4,000万回という圧倒的な再生回数、100万以上のアップロードなど、費用対効果が抜群だったことを挙げた。デメリットはビデオコーデックがXboxに非対応だったこと、YouTube採用の決定が遅すぎたため、ゲーム機能への組み込みまでできなかったことなどを挙げ、実質的にはYouTubeをべた褒めするセッションになっていた

【Localization Video Games for Kinect】
ゲームのローカライズをテーマにした「Localization Summit」では早くもKinectのローカライズ手法が明らかにされた。Kinectは音声認識を行なうため、音声のローカライズも必要となるが、英語、米語、日本語、スペイン語の4カ国語展開するにあたり、各国の表現の違い、多彩な表現の仕方を踏まえながら、各国の様々な世代のネイティブスピーカーの声を複数回収録し、音声認識の正確さを挙げていったことが紹介された。最終的な名前の認識率は80%から93%。意外と低いことに驚かされた。音声認識技術はまだ発展途上のテクノロジーであることがわかる

(2011年 3月 1日)

[Reported by 中村聖司]