Taipei Game Show 2011レポート

台湾XPECが手がけたPSP用麻雀ゲーム「東方雀神」レポート
3つのルールと言語に対応したアジア向け麻雀ゲームの決定版


2月18日~22日開催

会場:台北世界貿易中心

入場料:150台湾ドル


 今年の台湾取材では実に様々な台湾産のゲームコンテンツを取材することができたが、その中でもっとも感心し、もっとも台湾らしさを感じさせてくれたのが台湾XPECが開発し、SCE Asiaが販売しているPSP用麻雀ゲーム「東方雀神」である。1月6日からPlayStation Networkを通じてアジア6地域(台湾、香港、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール)でダウンロード販売されている。価格はわずか350台湾ドル(約1,050円)。

 麻雀ゲームは日本ではごくありふれたゲームジャンルであるため、「たかが麻雀ゲーム」と思いがちだが、「東方雀神」はやや大げさにいえば台湾の威信を賭けた国家的プロジェクトであり、台湾経済部技術処の資金的な支援、SCE Asiaの制作的な支援のもと、350台湾ドルで販売しているゲームとは思えないほど、すこぶる内容が充実した麻雀ゲームに仕上がっている。

 このゲーム、「麻雀が中国生まれのテーブルゲームであるにもかかわらず、中華圏の市場に流通している麻雀ゲームが日本ルールばかりなのはおかしいのではないか」、というごく自然な独立自尊の精神が出発点になっている。このため、このゲームには日本式のルールは入っておらず、日本展開もまったく考えていないということだが、本稿ではアジア人によるアジア人のための麻雀ゲームという、アジア独自の取り組みについてご紹介したい。

【XPEC】
1年ぶりにオフィスを訪れたところ、「東方雀神」関連のポスターが様々なところに張られ、風景が一変していた。総合受付の天井に張られていたアートポスターは、台湾での発表会の際に使用したもので、デザインが気に入り再利用したという



■ ルール、言語、モード、演出が充実した大盤振る舞いの麻雀ゲーム

インタビューに応じて頂いたXPEC CTOの張銘光氏
「東方雀神」のパッケージとゲーム。デモ機のPSPがモンハンモデルであるあたり、社内にもPSPユーザーが多いことを伺わせる
上から順に、中文簡体字、中文繁体字、英語。3つの言語を切り替えて遊ぶことができる。ボイスに関しては北京語のみということだが、あえて各地域の訛りを取り入れたという

 「東方雀神」は、2009年6月に台湾経済部とSCETとの間で交わされたゲーム制作支援事業の一環として企画されたプロジェクト。XPECはすでに「Bounty Hounds」(バンダイナムコゲームス)などでPSP向けの開発経験を持っていたため、我々としても何かしたいという思いで手を挙げたという。なお、台湾経済部とSCETとの間で交わされた提携の具体的な内容についてはこちらのレポートで詳しく紹介しているのでそちらを参照頂きたい。

 具体的な開発がスタートしたのはその後の2009年8月頃からで、約1年と少々で作品を完成させている。投入した人員は20名ほど。XPECによれば、すでにPSP向けの開発経験があったことに加え、PSPは解像度や3D表現が限られているため、開発はそこまで大変ではなかったという。

 販売形態は、PSNでのダウンロードに加えて、ダウンロードコードをPSPのパッケージサイズの型紙に封入して店頭販売も行なっている。これは単純に流通チャネルを増やして手にとってもらえる機会を増やすという意味だけでなく、クレジットカードの利用に抵抗感がある人や、PSNのプリペイドカードの余りを敬遠する層にもアピールしたかったためだという。

 基本的なゲーム内容は、4人打ちの麻雀を1人から最大4人で楽しめるというもの。1人の場合は3人をAIが担当し、アドホックを通じて最大4人によるマルチプレイも楽しめる。アジア向けということで収録言語は、中文繁体字、中文簡体字、そして英語の3カ国語をサポートし、ルールについても台湾式、香港式、中国式をカバーしている。

 ちなみに日本の麻雀は、この3つのローカルルールのどれとも少しずつ異なるということだが、コンピューターゲームの分野ではもっともポピュラーだと思われる日本式のルールをあえて入れていないのがおもしろい。

 ゲームモードは通常の対局以外に、クイズ形式の「チャレンジ」モードや、各地域のローカルルールを実践形式で学べる「プラクティス」、そして麻雀そのもののルールを学べる「チュートリアル」などが用意されている。アドホックを介したマルチプレイでは、実は4人ではなく、5人で遊ぶことができる。この5人目は観戦のみで、4人の対局を後ろからのぞき見するような感覚で、自由に視点をぐるぐる移動させながら楽しむことができる。また、すべての対局はリプレイデータとして保存して、いつでも見直すことができる。

 「東方雀神」の特筆すべきポイントは、手応えのあるシングルプレイモードと細やかな演出である。「東方雀神」には男女4人ずつ、計8人のキャラクターが登場する。それぞれ別々の声優が声を当てており、綺麗な北京語、台湾なまり、北方なまり、香港なまりなどなど、各地の雰囲気を活かした中国語を喋るという。

 「東方雀神」が凄いのは、これら8人のキャラクターについて、各人の性格を打ち方に反映させるようにアルゴリズムが設計されていることだ。このため、あたかも人間とプレイしているような感覚で麻雀が楽しめるという。また、XPECによれば、麻雀ゲームの多くは、「強いAI=ズルをするAI」となっているが、「東方雀神」ではプレーヤーがどういう牌を所持しているのかを把握しておらず、純粋にAIの能力に依存した打ち方をするという。このAIについては特許を申請中ということで、もし特許が認められれば、AIそのもののライセンスも考えられるという。

 一方、演出に関しても非常にユニークだ。たとえば、ロンやポン、チーの際などに両手をあえて描くことで自分で打っている感を演出している。また、捨て牌は、自然に見えるように不規則に捨てられるようになっている。これについては、従来のように機械的にキッチリ捨て牌させるように切り替えることができるという。

 SCETの担当者によれば、350台湾ドルという価格設定については、アジア圏の方に少しでも多く手に取って貰うための戦略的な値付けだという。現在SCETでは「PSP Ultra POP」という、日本でいうところのベスト版を展開しており、この価格が350台湾ドルとなっている。この辺りが値頃感のある価格帯ということになるようだ。

 追加ダウンロードコンテンツについてはXPECサイドでは十分対応可能ということだが、パブリッシャーはあくまでSCE Asiaであり、SCEの判断待ちという状況のようだ。日本展開についても、最低限日本語へのローカライズ作業と日本式ルールへのカスタマイズが必要となるため発売は今のところ未定だという。

 ただ、“アジア人によるアジア人のためのアジアンゲームの誕生”という慶事の前には、日本展開などどうでもいいと思えてくる。重要なのはこのアジア独自の取り組みの流れ、勢いを切らさずに、アジア独自で盛り上がれるようなスキームを生み出していくことだ。今後も引き続き「東方雀神」のような優れたアジアタイトルが生まれることを期待したい。


【スクリーンショット】
AIキャラクターは8人。それぞれ強さや打ち方が異なる。3つのルールに対応しているところが凄い

【対局画面】
対局画面は比較的オーソドックス。未知の牌があるところが、日本式ではないことを伺わせてくれる。捨て牌の不規則な並びはランダムで毎回異なるという。手の爪にマニキュアが塗られているなど、細部にもこだわっている

(2011年 2月 24日)

[Reported by 中村聖司]