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話題のJAL「Hololens」訓練ツールを体験してきた

VR+ARのMR環境でB787のエンジン、B737-800のコクピットを“仮想体験”

4月29日公開

 日本航空(JAL)は、4月29日より幕張メッセにおいて開催しているニコニコ超会議2016において、ブース出展を行ない、4月18日に正式発表した「Hololens」を使った訓練用シミュレータのコンセプトモデルを披露した。さっそく体験してきたので、Hololens最新バージョンの触り心地も含めて、インプレッションをお届けしよう。

JALブース
E3 2015で公開されたHololens。デザインは変わっていない
デモを体験している試遊者
Hololens用ビューア
今回用意されている2つのデモ
エンジンの上下に表示される操作メニュー。操作方法は視点を合わせてつまむ

 「Hololens」は、E3 2015で初公開され話題を集めたホログラフィックコンピューター。一般には、Oculus RiftやPlayStation VRのVR(Virtual Reality:仮想現実)ヘッドセットに対して、AR(Augmented Reality:拡張現実)ヘッドセットと呼ばれるが、MicrosoftではVRとARのメリットを兼ね合わせたMR(Mixed Reality)デバイスと呼んでいる。

 昨年のE3で、「Minecraft」のデモと「Halo 5: Guardians」の体験デモを公開した以降は一切音沙汰がなく、ようやく今年3月から開発者向けのDeveloper Kitの予約受付が開始されたばかり。しかし、JALは2015年5月の段階、つまりE3より前段階で、Microsoft本社に乗り込み、「Hololens」を使った訓練シミュレータの開発を打診したという。

 見事、Microsoftの承認を得て、2016年1月頃から米Microsoftによる開発がスタート。取材に応じてくれたJALの速見孝治氏によれば、2016年1月頃に、米Microsoftから開発スタッフが来日し、JALが保有するボーイング737-800の訓練用シミュレータと、ボーイング787のエンジンを撮影し、それからわずか3カ月でプロトタイプを完成させたことになる。

 完成した2つのデモは1つは、ボーイング787のエンジンについて学べる整備士訓練生を対象にしたもので、エンジンを目の前に浮かび上がらせ、右手の親指と人差し指をつまむ操作で、エンジンを左右上下に動かしたり、拡大縮小したり、回転したりして、そのディテールを学ぶことができる。色が変化するエンジンのパーツは、つまむことで写真やテキストが追加表示され、学習を深めることができる。本来ならこうした航空機パーツの学習は、実際に整備工場まで行かなければならないが、この方法であれば、室内で学ぶことができる。

 もうひとつのデモは、パイロット訓練生が最初にライセンスを取得するボーイング737-800について、エンジン掛けるところからタキシング開始までが学べるという内容。こちらはボーイング737-800のコクピット、正確にはボーイング737-800の訓練用のコクピットがホログラム表示され、英語のガイダンスに従って操作を行なうことで、どのような手順で操作を行なえばいいかを学ぶことができる。

 今回のJALのデモの最大の疑問点は、なぜVRではなくHololensなのかというところだろう。これについて速見氏は明快な答えを持っていた。Hololensの最大の特徴は、VRではなくARデバイスであるところで、目の前の風景を透過して見ることができる。これが大事なのだという。

 具体的には、エンジンのケースで言えば、実在のエンジンと見比べながらAR上のエンジンを参考にしたり、コクピットのケースで言えば、ARのビジュアルと重ね合わせながら手の動きを学習することができるし(実際の操作まではできない)、さらにARなら教官がPC上のビューアから訓練生の目の動きをリアルタイムでチェックできるため、どこを見ているのかを把握しながら指導することができる。これらはVRヘッドセットでは難しいか、制限が付くことばかりだ。

 本プロトタイプの今後のビジョンについて尋ねたところ、「これ以上のことはさらなる投資が必要になるため経営判断となる」ということだが、他のモデルのコクピットや、他のパーツのホログラフィック化、客室乗務員用のコンテンツの制作など、「やりたいことはいくらでもある」と開発の継続に意欲を覗かせていた。

 ちなみにデモに使用しているHololensは、3月より予約受付が開始されたデベロッパーズキットバージョンで、E3で体験したHololensよりも数世代新しく、日本ではまだJALにしかないという。実際に体験してみて感じた進化ポイントは、まず左右の目の距離の計測が手動から自動となり、重量もE3モデルの2/3まで軽量化され、より被りやすくなり、ホログラムの応答速度も早くなっている。バッテリーの駆動時間も延びているようで、4時間ほどの連続使用が可能だという。

 E3で体験した際(参考記事は、エンターテインメントとして成立させるにはまだ時間が掛かると感じたが、今回の体験では、さすがはMicrosoftというべきか、急ピッチでブラッシュアップされていることがわかった。Hololensの場合はそれ自体がPCであるため、コストの問題(デベロッパーズキットで3,000ドル)はまだ残っているものの、デバイスの完成自体はかなり近づいてきたという印象を持った。

 なお、本デモは、本来門外不出のもので、超会議での参考出展は、Microsoftから特別の許可を取って実現したもので、今後出展する予定はないという。超会議では1日45日、2日で90人限定となっており、試遊には開場直後に配られる整理券が必要となる。

 どうしても被ってみたい人にとっては気休めにしかならないものの、HololensがVRと大きく違うのは、HololensはVRのようにヘッドセットを被ると360度世界が生成されるわけではなく、視界の中央にホログラム映像が表示されるだけなので、被ってみなければその良さはわからないという代物ではないところだ。そのため、試遊しているユーザーと、その隣に表示されているモニターの映像で、大体の内容は理解できる。その風景だけでも楽しめるので、超会議に参加する方はチェックしておくことをオススメしておきたい。

【Engine Experience】
ボーイング787を目の前に浮かべて自由に眺め回せる。写真からは伝わりにくいが、解像感は十分で、テキストもしっかり読める。ただ、つまんでからの操作はややもっさりしており、パッドで操作したくなってしまった

【Cockpit Experience】
こちらは一見、VRのほうがより没入感の高い訓練が可能なように感じるが、手を使った操作を行なうため、自分の手が見えることが大事なのだという

【Cockpit Experience】
Hololensデモエリアの隣には、ボーイング767のエンジンが展示され、現実とARの両方でエンジンを楽しむことができた
タキシングから先の訓練はHololensでは難しく、従来通りのシミュレータによる訓練になるようだ

(中村聖司)