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【年末企画】ゲームエンジンの無料化が意味するものとは何か

2015年「Unity」と「UE」に起こったこと、そして2016年に起こることとは?

ユニティちゃんのキービジュアル。オフィシャルアートログ2より

 日本のゲーム開発シーンは2012年の「Unity 3.5x」リリース以降、モバイル向け開発といえば「Unity」が前提といった状況が続いている。開発コミュニティも依然として活気に満ちている。2015年には「Unity」がバージョン5で高級化を果たす一方で、「Unreal Engine 4」(以下「UE4」)はイニシャル無償化により、大きく敷居を下げるという大胆な決断を行なった。

 いま振り返ってみれば、ここ1年足らずで、それぞれのゲームエンジンは大きくポジションを変えたように思える。本稿では年末企画としてゲームエンジンビジネスにとって波乱の年となった2015年を総括すべく、一年を通じてのゲームエンジンの動きをまとめたうえで、2016年の展望を予測してみたい。

風が吹いた。イニシャル無償化という名の春一番が。

Epic Gamesの創設者にして「UE4」のプログラマTim SweeneyをGDC2015の講演後に撮影

 本年3月、GDC 2015の開幕早々に大きなニュースが飛び込んだ。物理ベースシェーヂングやグローバルイルミネーション(以下「GI」)に代表されるモダンな実装で先行していたEpic Gamesの「Unreal Engine 4(UE4)」が、リリースからわずか1年で無料化を発表し、我々開発者を大いに驚かせたのだ。

 その翌日には、今度は「Unity」が「UE4」に肉薄するグラフィックス性能を有したバージョン5を発表。しかも「Unity5」は、新しい無償版のPersonal Editionでも最新のグラフィックス性能を発揮するようにしたのだ。こうして春の訪れと共に、どちらのエンジンも無償でゲーム開発が始められる環境が整った。

UnityとEpicによるGDC2015におけるセッション風景

 8月に入りGDC Europe 2015が開催されると、今まではミドルウェアや3DCGツールの提供にとどめ、同じ土俵で直接対決を鮮明にすることがなかったAutodeskが、「Stingray」をバージョン1.0に引き上げてゲームエンジンビジネスに本格的に参入した。「Stingray」に改名してからリリースされたタイトルは「Warhammer: The End Times - Vermintide」の1タイトルのみと実績はまだ少ないものの、「Unity」や「UE」同様にモダンな3Dグラフィックスの実装を備え、ダークホースとして名乗りを上げた。

 また、モバイルで強みを発揮してきた「Unity5」が、高級なグラフィックス性能を指向してポジションを上げるなか、オープンソースの2Dゲームエンジン「Cocos2d」のC++による実装「Cocos2d-X」が、モバイル向けに採用されるケースが増えた。ちょうど「Unity」が空けたローエンドを拾った格好だ。その結果、2013年〜2014年には「モンスターストライク」、「LINE:ディズニーツムツム」、「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」といったタイトルが「Cocos2d-X」を用いて開発され、2015年末の今に至っても人気を集めている。

 「Unity5」を迎え撃つ「UE4」の方はというと、従来からのハイエンド指向が奏功し、「キングダムハーツIII」、「ストリートファイターV」、「ドラゴンクエストXI」、そして「シェンムー3」といった日本発の大作に次々と採用されることとなった。無償化と大作の発表といった話題性からか、10月開催のイベント「UNREAL FEST 2015 YOKOHAMA」では、2014年の約2倍の来場者と活況をみせた。

2015年12月24日現在のApp StoreとGoogle Playのゲームランキング。「Cocos2d-X」「Unity5」使用タイトルが上位に並ぶ

 「Unity5」は日本国内で先行してきた過去の歴史の積み重ねもあって、各方面から絶大な支持を集めており、おおむねあらゆるニーズに対応できる性能を備えている。モバイルゲームの「白猫プロジェクト」や、PCとPS4でリリースされる「バイオハザード アンブレラコア」といったモバイル/コンソールそれぞれのプラットフォームで新進気鋭のタイトルが採用していることを見てもそれは明らかだ。インディを含めた開発者コミュニティの盛り上がりも続いており、開発者向けイベント、「Unite 2015 Tokyo」も大盛況だった。

 ところが、である。筆者は、たとえすべてのゲームエンジンが完全に無償で利用可能になったとしても「Unity」の実績から、その地位は揺るぎないと今年の上半期には考えていた。ところが、前述の「Cocos2d-X」を活用した事例や、「UE4」を採用した大作が発表されている今、ゲームエンジンもコンソールプラットフォームのように“絶対はない”のだと再認識させられることになった。

 以上が2015年のゲームエンジンを取り巻くおおまかな流れだ。言うまでもなく各ゲームエンジンには、それぞれに得手不得手があり、実際の導入時にはゲームデザインやプラットフォームの要件に従って、慎重に検討すべきだ。人間が扱う道具であることを考え合わせると”慣れ”の問題もあり、機能面のみで決めるわけにもいかない。長く使っていくためには、ゲームエンジンを取り巻く周辺環境や将来的な展望を加味する必要もあるだろう。

「UE4」使用タイトルの「ストリートファイターV」と「ドラゴンクエストXI」の開発中画面写真

公式サイトより「Unity5」使用タイトルの「白猫プロジェクト」と「バイオハザード アンブレラコア」

周辺ミドルウェアや異業種にも波及する地殻変動

 現状のゲームエンジンのコアの役割は、機能や性能面のみに注目して、やや乱暴に言い切ってしまうと、グラフィックス描画とデータの管理、ゲームロジックのドライブだけと言っていい。ゲームエンジンの基本実装に含まれない、あるいは含まれていても機能やパフォーマンスが不足する場合には自力でなんとかするか、他のソリューションに頼る必要がある。このスキマを埋めるべく、特定の機能に特化した存在が各種ミドルウェアだ。

 具体的には高速に樹木を生成する「SpeedTree」、遮蔽されたオブジェクトの描画を間引く「Umbra」、LOD用モデルの生成やリダクションの「Simplygon」、UIライブラリとオーサリング環境を提供する「Scaleform」、GIライティング結果からライトマップを生成する「Beast」。いずれも地道にゲームエンジンと共に歩んできたものが多く、定評のあるミドルウェアだ。

 とりわけ「Simplygon」に対するニーズは、スカルプトツールの普及、3Dスキャナやフェイシャルを含めたモーションキャプチャ環境の低価格化に伴って、情報量が多く、人の手によってゲームエンジンで描画することを意識して製作された”綺麗な”ソースデータが期待できなくなっている昨今、ひときわ大きくなったように感じる。一方で、「Unity5」で「Beast」がARMの「Enlighten」に置き換えられたり、「UE4」で「Scaleform」が自前の「UMG」に置き換えられたりといった変化もみられた。

 Autodeskは引き続きミドルウェア単体での提供を行なっており、過去にインハウスのゲームエンジンでも、これらのミドルウェアが採用されている事例があることから、今後も採用するデベロッパーは存在するように思われる。買収といえば、Microsoftによって物理演算エンジン「Havok」が買収されたことも記憶に新しい。こちらも、Microsoftは、引き続き他社への「Havok」の供給を表明している。

「BISHAMON」によるパーティクルエフェクト

 こうしたゲームエンジンと連携するミドルウェアのなかには、和製のものもある。古くからファイル、サウンド、動画といったストリームデータの最適化に特化してきた「CRIWARE」、3Dパーティクルエフェクトの「BISHAMON」、2Dのベクターアニメから転じて、2Dイラストなどをテクスチャにした平面ポリゴンをデフォーマー制御して2Dアニメを実現する「Live2D」は、国産タイトルを中心に多くの作品に採用されている。いずれも「Unity」や「Cocos2d-X」をサポートし、スマートフォンの普及に伴って時流に乗った。海外勢同様に、特定の機能に特化して地道に息の長い開発を続けてきた結果が開花しているように思える。

「Live2D」採用PSPタイトル

 ごく最近の話題で興味深いのは、ルーマニアのHolotech Studiosのリアルタイムモーショントラッキング「FaceRig」に、拡張モジュールとしてインテグレートされたことだ。Steamで配信されている「FaceRig」と「FaceRig Live2D Module」をあわせて使用すれば、Webカメラから取り込んだ自分の表情の変化をリアルタイムにキャラクターに反映させながら、Twitchでストリーム配信したりSkypeでビデオチャットすることができる。

 カメラアニメーションを伴うカットやキャラクターの激しいアクションには、やはり3Dの立体モデルや作画アニメに分があるものの、原画の再現性が良好なことからキャラクターの魅力で訴求するスマホアプリや、比較的リソース制限の厳しい携帯ゲーム機向けゲームでは有効な表現となっている。TVアニメ「学戦都市アスタリスク」では、次回予告で活用されていた。

「UE4」開発環境上の死神レム

 映像分野での活用といえば、TVドラマ「デスノート」で「UE4」がレンダラーとして活用されたことも話題になった。レンダリングに使用されたハードウェア環境は分からないものの、4K解像度の合成用レンダー素材を1フレーム/秒で出力できるというのはレンダリングに時間がかかって当たり前の世界では、非常に魅力的であったことだろう。映像分野では「UE4」のライセンス料の支払う必要がないことも、チャレンジの追い風となったに違いない。

 異業種での活用は映像業界だけにとどまらない。ゲームにとっては当たり前の60FPS描画での空間内のウォークスルーが異業種では新鮮に映るのだ。そこで各3Dゲームエンジン共に建築分野でのビジュアライゼーションへの活用が期待されている。現在は、フォトリアルな表現を得意とする「UE」が先行し「Unity」が後を追う形だが、ミドルレンジの2D/3D CADで大きなシェアを占めるAutodeskが、すでに多くのCADユーザーにリーチしているアドバンテージを活かして、この分野では「Stingray」で市場を席巻するかもしれない。

2016年、ゲーム開発支援からゲームビジネス支援に!?

 さて、ゲームエンジンに話を戻そう。2016年のゲームエンジンは、どのような方向に進んでいくだろうか。

 筆者は、機能的には目に見える変化に乏しい一年になると予想する。理由は2つある。ひとつは、ハードウェアに目立った進化がないことだ。PC用GPUの世代交代は進むが、任天堂「NX」の噂はあるもののコンソール機の世代交代はまだまだ先だ。モバイルは伸びしろがあるが、引き続きバッテリーの制限が厳しいだろう。VRはこれから市場が立ち上がる段階で、各ゲームエンジンは、すでに対応を済ませている。

 もうひとつは、ゲームアプリケーション側からの要求が、“誰にも簡単に真似ができないこと”の実現より、“誰でも簡単に真似をすれば実現できること”に傾斜しているからだ。もっとも、これはゲームエンジンの採用の主たる動機であるため、実に当たり前のことだと言える。もちろんゲームコンセプトによって、それぞれのゲーム性に違いは出るのだが、ビジュアル面では、お作法に則って製作すればレンダリング品質的には一定のレベルに達する。となると差別化要因はデータの精密さや物量ということになるため、開発環境の使いやすさや作業の省力化、習得の難易度などが、ゲームトータルの価値を左右することになるだろう。

 ドローや、ストレージ、メモリアクセス効率を、ゲーム側で特段に意識しなくても最適に行うようにする、統合開発環境のUXを向上させる、といった部分には、まだまだ改善の余地がある。こうした改良が、ゲームの質、量に貢献していることは間違いないのだが、プレイヤー目線で分かりやすい変化にはつながらないかもしれない。

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Newzooが公開している2014年と2015年上半期のゲーム会社ランキング

 一方で、ビジネス面においては、目に見える変化があると予想する。従来からも、ゲームパブシッシャーがe-Sportsを支援するように、ゲームエンジンプロバイダが開発者を支援する動きがあるからだ。Epicは、2015年から「Unreal Dev Grants」という開発資金を直接支援するプログラムを実施している。対するUnityは、「Unity Ads」という広告収益を開発者に還元するシステムで、間接的に開発者を支援していると言えるだろう。

 プレイする側では、無料でゲームが始められるF2Pが当たり前となったご時世だ。飛躍しすぎかもしれないが、開発する側でも、従来型のインベスターやパブリッシャーがリスクテイクするモデルに加えて、クラウドファンディングだけでは不足する開発資金を、プロジェクトに関与するツール、ミドルウェア、エンジンプロバイダで幅広くリスクを持ち合い、インディのみならずメジャーでも低予算でゲーム開発を始めるのが当たり前、といった時代が来るかもしれない。

 これまでゲームエンジンは、各プラットフォーム用にビルドしたパッケージを出力するところまでを役割としてきた。2016年は、この延長線上のサービスに手を伸ばすことも考えられるだろう。現状では、Autodeskはデータ共有用クラウドのみの提供で、最も進んでいるUnityでさえクラウドビルドの提供にとどまっている。すでに共存共栄の形でユーザー配信用クラウドビジネスを展開しているPhotonなどと競合する形になってしまうが、エンジンそのもののライセンス料収入やアセットストアでの収入に加えて、新たな柱とすることができるだろう。ゲーム会社にとっても、ゲームエンジンプロバイダの”お墨付き”は安心材料となる。

 上記に加えて、ビジネスの範囲をゲームのリリースまでカバーするように拡大することも考えられる。ゲームエンジンプロバイダは、ハードウェアやOSレベルをプラットフォームと捉えてきた。ところがオンライン流通には、その先に、PCならSteam、モバイルならApp StoreやGoogle Play、MobageやLINEといった販売プラットフォームが存在する。販売プラットフォームを展開するキャストは異なっても、この構造そのものは全世界で大差はない。その一方で、商慣習の違いからくる地域性は確かに存在する。

 エンジンプロバイダが、これらの販売プラットフォームと競合することも考えられるのではないだろうか。Unityは、動画とアプリの配信サイト「everyplay」のApplifierを2014年に買収しているし、WechatやQQを擁する中国テンセントの傘下に収まったEpicなら、親会社と共同で中国も含めたワールドグローバルなマーケットプレイスを構築することも可能に思える。また、直接競合しないまでも、キャストの違いによる世界各地での煩雑なパブリッシングの手続きを、技術面と商取引面の両面でサポートするといった展開も考えられるだろう。歴史的に技術よりのスタンスを取ってきたゲームエンジンプロバイダの野心が、どこまでのものかは想像の域を出ないが、2016年にはこういった話題が聞こえてくるかもしれない。

(谷川ハジメ)