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開発者に聞く、VRにも最適! 持ち運べる小型デスクトップPC「LITTLEGEAR」
サイズと価格はミニマム、性能はハイエンド。「G-Tune」の新たな仕掛け
(2015/10/16 00:00)
マウスコンピューターのゲーミングPCブランド「G-Tune」は、小型ゲーミングPC「LITTLEGEAR」シリーズを9月28日に発売した。価格は64,584円より。
「LITTLEGEAR」シリーズは、「G-Tune」シリーズのデスクトップPCでは最小となるサイズでありながら、Core i7-6700KとGeForce GTX TITAN Xというハイエンド構成も選べるコンパクトPC。シャーシにハンドルが取り付けられており持ち運びやすく、「Oculus Rift」などのVRデモや、e-SportsにおけるLANパーティなどでのゲーミングPCの持ち込みを容易にするという狙いがある。
今回は、G-Tuneプロダクトマネージャーの小林俊一氏と、コンシューママーケティング室 室長の杉澤竜也氏に、「LITTLEGEAR」の製品開発の経緯や狙い、実際の製品のアピールポイントなどを伺った。
持ち運びができてVRデモにも耐えうるデスクトップPC
「LITTLEGEAR」の開発が始まったのは2014年夏頃のこと。VRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」の新型となる「DK2」が登場した頃、NVIDIAのGPUとCPU内蔵GPUをシームレスに切り替える技術「NVIDIA Optimus」を搭載したノートPCでは、Oculus Riftの映像を低遅延で出力できるDirectモードが使用できなくなるという相性問題が発生した。
このNVIDIA Optimus問題に対応するため、同社ではデスクトップ用CPUを搭載したノートPCを発売。しかしノートPCでは搭載できるGPUが制限される上、価格の上乗せも大きくなる。またOculus Riftの製品版では、GeForce GTX 970以上を推奨するという高いスペックも求められた。「それならば、コンパクトで持ち運びができ、かつVRデモにも耐えうるハイスペックなデスクトップPCを作ろう」というのが、今回の製品企画の始まりだという。
もちろんVR以外の用途にも対応できる。日本ではとにかく小型でハイスペックなPCが欲しいというニーズが強く、設置スペースの都合からノートPCを買ったものの不満を抱えているというユーザーも多い。そういった層に、従来あったMicro-ATXサイズよりもさらにコンパクトな、Mini-ITXサイズのデスクトップPCを提案するという意味がある。また昨今話題の多いe-Sportsに、デバイスだけでなく本体も持ち込むということが、サイズ的には容易になる。
性能・外見ともにこだわったオリジナルデザインのケース
完成した「LITTLEGEAR」の特徴は、何といっても本体上部に取り付けられたハンドルだ。ただ小さいだけでなく、「持ち運べるというコンセプトありきで開発していた」ことから、片手で掴んで持ち運べるスタイルになっている。具体的には本体の後ろ側からハンドルを掴んで持ち上げる。本体重量はスペックにより異なるが、7.4~8.8kgとなっている。ノートPCよりは重いが、男性なら十分片手で持ち運べる重さと大きさだ。
特徴的な形状のケースは、「開発パートナーが持っていたフレームを活用し、コンセプトを伝えて金型を起こした」という。ベースの設計こそ存在するが、細かな部分でマウスコンピューターが独自に改良を加えている。
元々のフレームではハンドルの取り付けを想定していないため、ハンドル取り付け部分は板金を2枚重ねて倍の厚さにし、強度を高めている。ハンドル部は内部にアーチ型の金属フレームを仕込んで強度を持たせつつ、本体とはネジだけでなくフックもかけて固定。強度的には、本体に50kgの重量をかけても変形等が起きないことを検証済みだという。
さらにハンドルの持ち手部分は、表裏ともにざらざらした手触りのテクスチャ加工を施し、滑りにくいよう配慮。ハンドルを取り付ける位置も、当初は本体デザインに合わせていたが、最も重量がある電源ユニットの真上に来るよう、当初より22mm後方に下げた。ただハンドルを付けただけでなく、実用性を考慮した調整がなされている。
ケース内部は、M.2接続のSSDを搭載できるように改修。本機に使用されているマザーボードは裏側にM.2スロットがあるため、標準だとバックプレートが干渉して接続できない。そこでバックプレートの裏側にあった9.5mm厚の2.5インチスロットを7mm厚に薄くし、その分だけマザーボードのバックプレートに膨らみを持たせることで、M.2のカードが入るようしている。
また本機ではGPUにRadeon R9 Fury Xも選択できるが、当初はRadeon R9 Fury Xに付属する水冷ラジエーターが他のパーツに干渉して装着できなかった。そこでRadeon R9 Fury Xを使用する際は、ラジエーターユニットを右側面のプレート部分に取り付け、CPUクーラーを別のものに交換。さらに後ろの電源コネクタやリアファンとも干渉したので、電源コネクタの位置を修正しつつリアファンは外して対処している。このサイズに水冷ユニットを組み込むだけでも相当な苦労があるが、この状態で熱周りの評価をして問題ないことも確認されている。
デザイン面でもこだわりがある。全体はマットブラックに渋く塗装。フロントパネルは横一線の赤いインジケーターを設け、電源オン時には赤く光る。HDD等へのアクセス時には赤いパネルの裏で青色LEDが光るので、紫色に見える。ただ自己主張はしすぎない程度に、インジケーターがわかる程度の明るさにしているという。
トップパネルとフロントパネルの形状も似せた形に変更。「元々の見た目だと同じ厚みで野暮ったい印象だったので、厚みや曲線も変えた」という。インターフェイス類は右側面にまとめてあり、正面はすっきりしたデザイン。ただVRデモでは周囲が暗がりのことが多いので、電源スイッチはシルバーで見やすくしてある。また電源ボタンは意図せず押してしまわないよう、出っ張りがない形にしている。
ケースは外見を含め、杉澤氏がとことんこだわった部分。「実物を見たら直して欲しいところが出てきて、(小林氏に)後から次々に注文を入れた」という。完成したケースは、全体として落ち着いたデザインになっている。
「G-Tune」と言えば、西洋の甲冑をイメージした立体的フロントパネルの「NEXTGEAR」の印象が強い。これについて杉澤氏は、「ネットカフェなどに『NEXTGEAR』を導入した時に、フロントパネルを全て外した状態で設置されていたりした。またVRデモでは密集した場所でやるので、なるべくスペースができるようにしたい。ゴテゴテしたものは今回やめて、コンパクトさを意識できるようなものにしたかった」とデザインの方向性を語った。
小さくても価格据え置き、熱対策も万全のハイスペック
続いては気になるスペックの話題に。マザーボードは一般的なMini-ITXを採用している。チップセットは、最新CPUのSkylakeを搭載するモデルはH110 Express、Haswellを搭載するモデルはH81 Expressとなっている。
ゲーミングPCならZ170 ExpressなどでDDR4を積みたいという声もありそうだが、ここはコストパフォーマンスを重視している。「Z170を採用すると価格が上がり、万人受けしない価格帯になる。より小型化すると価格は高くなるのが常道だが、『小さいのに安い、価格は据え置き』という驚きを実現したかった」という。
とはいえ性能面では「H110でも満たすべきハイスペックが実現できる」としている。事実として、ハイエンドCPUやGPUを搭載できることに加え、SSDにはM.2タイプの「Samsung SM951」を採用し、PCI Express x4接続の超高速ストレージも利用できる。また今回は最初の製品となるので、今後要望に応じてマザーボードを変えて展開することも可能だという。
VGAは前述のとおり、GeForce GTX TITAN Xなどを搭載可能。スペース的には30㎝超のVGAも搭載できるという。
標準でCPUファンが付属しないSkylakeのK型番は、オリジナルのサイドフローファンを搭載。背が高くヒートパイプが4本入ったものを金型から起こしているという。この場合はあえて背面ケースファンを外し、CPUの排熱を後方に逃がすよう熱設計している。ただしRadeon R9 Fury Xを選んだ場合、水冷ユニットとオリジナルサイドフローファン干渉するため、SkylakeのK型番は選べなくなる。
冷却については、「各所にある熱を出すデバイスが何かによって条件が変わってくるので、それぞれの構成で何が最適な冷却パターンになるのかを検討している」という。テストでは、周囲温度40℃環境に製品を設置し、複数ポイントの温度測定や、CPUおよびGPUの動作クロックをチェック。同社の定めた規定で問題がないことを確認した上で製品化している。「常温で動いたことを確認した、という程度のテストではないのでご安心いただきたい」と品質にも自信を見せている。
ほかには光学ドライブも選べる。本体上部から入れるスロットイン式で、使わない時はトップパネルをスライドさせて塞ぐこともできる。光学ドライブを搭載しない場合は、トップパネルをロックし、スライドしない状態にして出荷される。
コミュニティの声から生まれた1台
小林氏は「LITTLEGEAR」について、「弊社としても新しいコンセプト。お客様にお使いいただき、いただいたご要望をもとにブラッシュアップして育てていきたい。お客様側でも、すそ野を広げていただける製品だと思う」と語った。また将来的な展開として、「(PC内部が見える)アクリルパネルなども検討中」としている。
杉澤氏は「今回はコミュニティの意見に基づいて開発している製品なので、他とは生まれ方が違う」と述べている。その好例となるのが、2014年の東京ゲームショウにOculusブースが出展した際のこと。「G-Tune」のATXサイズのPCが提供されたが、「PCのサイズが大きい」と言われたという。その後、「G-Tune: Garage」のプレオープン時に本製品を発表したところ、「これを待っていた」と好反応が得られた。そこで東京ゲームショウ 2015のOculusブースには、発売前の本製品を提供。これも同社では初めての動きだ。
当初のコンセプトにあったVR対応については、「製品版Oculus RiftのためのPCで、なるべく低価格を意識しながらも持ち運べる環境は、これ一択になると思う」としている。加えて杉澤氏からのアドバイスとして、「VR関係で使うのであればH110をお勧めしたい。USB 3.0がH81では2つしかないが、H110は4つある。製品版Oculus Riftでは、おそらくヘッドマウントディスプレイとヘッドトラッキングでUSB 3.0を2つ使う。さらに先日発表されたOculus TouchコントローラーもUSB 3.0を使うと想像しているので、H81だとUSBポートが足りなくなる可能性がある」ということだ。
「製品企画から発売まで1年以上かかった難産の製品だが、その分だけクオリティには自信を持っている」と語る杉澤氏。コンパクトなケースの細部にまで手を加え、当初の方向性を高いレベルで実現した製品であることがよくわかる。VRはもちろん、コンパクトでもハイエンドを求めたい人には、とても魅力的な1台に仕上がっている。
オマケとして、「G-Tune」としての次の動きも尋ねてみたところ、「今回はコンパクトで攻めたので、次は性能をどんどん攻めたらどうなるかと考えている」と小林氏が答えてくれた。高性能と言えば、「G-Tune」では7月からダブル水冷PCが販売されている。こちらは想定以上の人気で、部材の入荷が間に合わず受注できない状態だったが、最近復活したそうだ。こちらも新たなパーツの展開が期待できそうなので、性能重視の方はこちらもチェックしていただきたい。