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【CEDEC2014】ゲームの未来はウェアラブル? 神戸大教授・塚本昌彦氏基調講演

急速に立ち上がるウェアラブルコンピューティングの現状と未来を語る

神戸大学大学院 工学研究科 教授 塚本昌彦氏

 CEDEC 2014の2日目、基調講演にてウェアラブルコンピューティングの研究者、塚本昌彦氏が登壇した。神戸大学大学院・工学研究科の教授である塚本氏は、グラス型やウォッチ型等々、さまざまな“身に付けるコンピューター”を13年にわたって装着し続けているというウェアラブルコンピューティングの長年にわたる実践者だ。

 その塚本氏がCEDECに登壇するのはこれが3度め。本講演で塚本氏は、始めてCEDECで話をした2003年の講演を振り返り、おおいに時期を外してしまった当時の自らの予測と、ようやく夜明け前を迎えた実用的ウェアラブルコンピューター市場の現状を照らしあわせ、そのゲーム的な展開についての考えを改めて披露。今年から来年にかけて爆発的な成長が期待されるウェアラブルコンピューターをゲーム開発者がどう捉えるべきか、そのヒントを示す講演となった。

ようやく的中し始めた10年前の“予言”。ウェアラブルの夜明けがやってきた

他のフラッシュとかぶってしまい申し訳ない画質だが、塚本氏の全身ウェアラブルぶりがわかる
身につけて人間の実世界における能力を強化するものというのがウェアラブルコンピューターの定義だ
CEDEC 2003における塚本氏の“予言”
Appleが近日発表予定と噂されるiWatchの推測情報
数あるウェアラブル形態の中でもアクションカメラ市場はすでに飽和。汎用デバイスに向かう?

 ウェアラブルコンピューターとは、最近ではGoogle Glassのようなスマートグラスや、各種のスマートウォッチのような形で実現される、身に付けることでユーザーを補助したり、能力を拡張するコンピューターのことだ。

 登壇した塚本氏は見える範囲だけでもスマートグラスに複数のスマートウォッチを身にまとい、ほとんど全身コンピューターという装い。13年前からウェアラブル生活を続けてるという塚本氏だが「毎年、今年がウェアラブル元年というようなことを言ってきたましたが、意外なことにいまだに孤独です」と、まずはウェアラブル業界の過去から話を起こしていく。

 塚本氏は「失われた15年」という言葉を使い、過去の時代的な損失を嘆いた。本来はもっとはやく、小さなものを作るのが得意な日本から実用的なウェアラブルコンピューターが出てくるべきだった。もたもたしている間に欧米から動きが出てきて、韓国・台湾・中国がもう追従しているというのが現在の構図だという。

 その観点でいうと、11年前、塚本氏がCEDEC 2003で公演した際に行なった“予言”は、今ようやく実現に向かいつつある。塚本氏はスマートフォンもまだ存在しない2003年に、“3年以内にウェアラブルがブレイク”、“5年以内に実世界型ゲームチップが開発”、“5年後、ほとんどの人がHMDを外せなくなる”などの野心的予測を行なっていたが、実現には至らず、その予感だけを匂わせる状況が10年にわたって続いたわけである。

 しかし近年、コンピューターが小型化・高性能化し、必然的にウェアラブルのムーブメントが立ち上がってきた、と塚本氏。スマートフォンよりも小さくなれば当然、身につけて使うようなものになるのが自然の流れであり、20年以上にわたってアカデミックの分野で研究されてきたことも踏まえ、もはや「ウェアラブルはバズワードではない」というのが近況に対する塚本氏の見方だ。

 本論に入り、今年急速に具現化しつつある各種ウェアラブルコンピューター製品の紹介が行なわれた。頭から腕、足、各種の服飾部位にいたるまでウェアラブル化が期待される分野は幅広いが、代表格としては製品化が近づいているとみられるGoogle Glass、Appleが近日発表予定と噂されるiWatchなど、まずはグラス型とウォッチ型が先行する。特にいまこの瞬間熱いのはウォッチ型で、サムスン、LG、モトローラ、ASUS、ソニーといったアジアドメインのメーカーが今週、それぞれに新製品を発表すると見られているそうだ。

 こういったウェアラブルコンピューターは、おおむね期待されるよりも実用化に時間がかかっている感もあるが、それはウェアラブル特有の難しさが原因にあると塚本氏。特につけ心地、使いやすさの面で「実際に使ってみてはじめて分かることが多く、経験がないとぱっと見てどこが悪いかわかりにくい。しかも生活の中には様々な状況が待ち構えている」ため、必ず開発が遅れる傾向があるとのことだ。

 例えば塚本氏は、体を這うケーブルがよくドアノブに引っかかって大変だ、という実体験からの不便さを紹介。ウェアラブルがスムーズに製品化されるためには、そういった使ってわかる問題点をエンジニアがスムーズに把握・解決できるようなノウハウの蓄積が必要になってくる。

 一方、すでに市場が成熟しているのがGoPro等に代表されるウェアラブルアクションカメラの市場だ。目的特化型の専用ウェアラブルデバイスとしてすでに完成を見ており、これ以上に用途を広げるにはなにか工夫が必要、と指摘。モバイルコンピューターの歴史を紐解いてもわかるように、専用デバイスは汎用デバイスの発達で取って代わられる運命にあるが、モバイルが各専用デバイスの機能を10年近くかけてカバーしたことに対し、ウェアラブルの分野ではもっと急速に、2〜3年で同様のことが起こると塚本氏は予測している。

ウォッチ型はスポーツ用を中心に各種専用デバイスが立ち上がっていたが、現在急速に汎用化が進んでいる
すでに市場のあるリストバンド型デバイスは特定用途への特化で市場を形成してきた
HMD系ではGoogle Glassが間もなく製品化という見込みだが、現状では熱の問題などがあるという。注目される両眼シースルータイプはいまだ試行錯誤の段階だが、実用化のタイミングは急激に来るというのが塚本氏の予想
その他、体の各部位どこにでもウェアラブルコンピューターの可能性が広がっている

ウェアラブルでゲームをしよう!ヒントは「子供の遊び」にアリ?

誰かと食事中でも俯いてスマホ画面に釘付け、なんてことはありませんか?
ウェアラブルなら、子供時代にたくさん経験したような外遊びを強化できる
ウェアラブル強化型鬼ごっこ、題して「RPG鬼ごっこ」
バーチャルの世界に進化した従来のゲームに対し、ウェアラブルでは実世界の遊びを再考
スポーツへの応用は東京オリンピックに向けて大きなチャンスがある

 話は講演の冒頭にもどるが、そもそも塚本氏がウェアラブルコンピューティングに期待しているのは、人々のライフスタイルの健全化のカギがそこにあると信じているからだ。曰く、ネット空間が巨大になりすぎ、多くの人がデスクトップやモバイルで釘付けにされている。外に持ち出せるスマートフォンであっても、実際に人と出会っている最中ですら、ディスプレイ内のネット空間に意識を奪われて、実空間がおざなりになってしまうという日常があるのだ。

 塚本氏は「必ずしも因果関係が明らかというわけではありませんが」と慎重に前置きしつつ、上記の理由ために引きこもりや自閉症、鬱、メタボや自殺といった現代病的な不健全さが立ち会わられているという見解を示した。そして、実空間にコンピューティングパワーを持ち出せるウェアラブルこそがこの問題を解決する救世主になる、というわけだ。「これからは実空間!ネット空間を撲滅しよう!」と鼻息が荒い。

 ちなみにOculus RiftやProject MorpheusのようなVRヘッドセットは、身に付けるものであってもウェアラブルコンピューターではない。これらのVRヘッドセットは現実ではなく仮想世界へ入るための装置であり、また、装置の仕様的にリビングやデスクトップにユーザーを拘束するからだ。そうではなくて、フリーハンドで、ユーザーの行動を邪魔せず、現実世界に自然な形で組み合わせられる存在、そういうものを塚本氏はウェアラブルコンピューターであると定義する。その見解では、例えばVRヘッドセットはシースルーカメラを実装して実空間を見られるようにし、ワイヤレス化して自由に動きまわれるようになればウェアラブルコンピューターと呼べるようになる。

 そういうわけで、ウェアラブルコンピューターを用いたエンターテイメント、ウェアラブルゲームを考えるときには、バーチャルに寄り過ぎた従来のゲームデザインとは異なるアプローチが必要になってくる。塚本氏は「ウェアラブルゲームはリアルの遊びを再考することが重要」と話し、子供時代の遊びを引き合いにだした。

 かけっこ、鬼ごっこ、ケイドロなどよく知られたものから、各地各様のローカルルールで、昔の子供達は皆で外に出ては日が暮れるまで夢中に遊んだ。そこには実世界ならではの柔軟性、展開のおもしろさ、肉体的な充実がある。「これにウォッチとかメガネを組み合わせるともっと面白くなる」というのが塚本氏の基本的な考えだ。

 実際、今年には日本ウェアラブルデバイスユーザー会という勉強会も立ち上がり、こういったアプローチでのウェアラブルゲームの様々な提案が行なわれているという。例えば「RPG鬼ごっこ」という例では、通常の鬼ごっこにウェアラブルデバイスによるRPG的パラメータシステムが加わり、HP量による移動制限や、MP消費による特殊攻撃、デジタル的に設置される罠や様々な特殊スキル、そしてレベリングによる成長といった要素を実世界に組み合わせることができる。

 各種の生体センサーやAR(強化現実)技術を用いれば、さらにその可能性は広がるだろう。シリアスなスポーツへの応用も考えられ、9月12日から開催されるエンタテインメントコンピューティング2014では「シースルー型HMDを使ったスポーツ」のアイディアを募集中だ。

 ウェアラブルゲームやウェアラブルスポーツは実世界での活動を促す方向でのコンピューティング活用となるため、安全上の問題や、精度、通信遅延、バッテリー容量、視認性などの課題も多いが、市場が立ち上がることで技術革新のピッチは間違いなく上がる。これにゲーム開発者をはじめとするデジタルエンターテイメントの専門家たちが加わり、もっと面白く健全な世界を作りたいというのが塚本氏の希望だ。

 ここ最近、ウェアラブルコンピューティングの変化は追い切れないほどに加速している。本稿の内容も、半年〜1年後にはかなりの部分、古い話になっているかもしれない。少なくとも、充分に発達したウェアラブルは巨大市場化することは間違いないことであり、ユーザーの1歩先を行くゲーム開発者にとって現実に取り組むべきテーマと化してきたことは塚本氏のみならず、多くの業界関係者が認めるところだろう。

人の活動を邪魔せず、むしろ補助することが可能なウェアラブルは、実世界の遊びやスポーツへの応用が期待される
ウェアラブルならではの課題も多いが、具体的に考えるべき時期には来ている

(佐藤カフジ)