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【E3 2014】「Xbox E3 2014 Media Briefing」から見るMicrosoftの新戦略
“オールインワン”から“ゲーム機へ”、ゲームだけ集めた90分で最強のゲーム機をアピール
(2014/6/10 07:41)
E3がMicrosoftの「Xbox E3 2014 Media Briefing」で今年も幕を開けた。速報でもお伝えしているように今回も多くの大型タイトルが発表されたが、本稿ではもう少し俯瞰した視点から今年のMedia Briefingで見えてきたMicrosoftのゲーム事業に関する新たなビジョンと新戦略をお伝えしたい。
Microsoftは、2013年から2014年頭にかけて、CEOやXbox事業のトップを含め、幹部人事の多くが入れ替わり、混乱含みの中でのローンチとなった。ライバルであるプレイステーション 4は、「ゲーム機である」とローンチの時点で明快に定義したのに対し、Xbox Oneは「リビングの主役を担うオールインワンプラットフォームである」とゲーム機の再定義を行ない、ゲーマーのみならずすべての消費者を対象に、誰でもデバイスが操作できるようにナチュラルユーザーインターフェイスKinectを標準装備した。その結果としてライバルよりも100ドル高い値段設定となってしまい、これが尾を引いて初年度は欧米市場でPS4の後塵を拝する結果となった。
この巻き返しを担うのが、新たなXbox事業のヘッドとなった、Xbox事業部生え抜きのエースであるPhil Spencer氏。Xbox事業トップとしてのデビュー戦となるE3 2014では彼がXbox事業に関してどのようなビジョンを見せるのかが注目されていたが、ふたを開けてみれば、「Xbox Oneは(やっぱり)ゲーム機である」というシンプルな事実を、ただひたすらキラータイトルを見せつけることによって示した。Xbox Oneはオールインワンプラットフォームである以前に、やはりゲーム機というわけだ。
この方向変換への予兆はE3前からあった。電撃的にKinectなしモデルの発表を発表し、エントリーモデルの価格をPS4と同じ399ドルにし、戦略的にあまり重要ではない非ゲームアプリケーションの無料化(シルバーメンバーシップへの開放)、そして「Halo 5 Guardians」、「Forza Horizon 2」、「Sunset Overdrive」など、例年ならE3でたっぷり時間を割いて紹介するエクスクルーシブタイトルを、あっさりE3前に発表するなど、例年とはあきらかにゲームファンに対するアプローチに変化が出ていた。
しかも、E3の発表会でゲームの紹介に重点を置くのは当然としても、ゲームだけ、しかも完全にソフトウェアだけに特化したのは、筆者が記憶してる限りでは今回が初めてだ。例年は、ESPNやNBAなどのスポーツチャンネルの話や、Xbox VideoやXbox Music等のダッシュボードの機能強化/改善、あるいはBingやInternet Explorerの搭載などMicrosoft関連の話、Smart Glassの紹介などなど、ゲーム以外の話題が発表会の1/3程度を占めていた。これは当然Microsoft本社の意向もあるだろうし、何よりXbox自身が、ライバルとの差別化のためにゲーム機の“オールインワン”化を推進していたこともあるが、E3での反応はお世辞にもあまり良いとは言えなかった。やはり来場者は、E3ではブロックバスタータイトルが立て続けに発表されることを期待しているのだ。
それが今回、ノンゲーム系の話題を一切断ち切り、ゲームだけ、もっというとXbox Oneだけに絞って90分の発表会を行なった。紹介したタイトルのすべては、Xbox One独占か、もしくは優先的にダウンロードコンテンツを配信するタイトルばかりで、これまでは強みとしてアピールしていたKinectやSmart Glass対応の話はなりを潜め、PS4に対する具体的なアドバンテージとしてのタイムエクスクルーシブや独占提供をアピールし、“最強のゲーム機としてのXbox One”を90分に渡ってアピールし続けた。
発表の合間には現役クリエイターに、好きなゲームや好きなゲームのキャラクターを聞く映像を流したり、来場者全員に3色のLEDが内蔵されたリストバンドを身につけてもらい、発表のタイミングに合わせて赤や緑に光らせるなど、ゲームファンに対するアピールに余念がなかった。
また、初代Xboxで人気を博した「Killer Instinct」や「Phantom Dust」といったタイトルをXbox Oneで新規タイトルとして復活させるなど、リバイバルネタが多かったのも好印象で、極めつけは「Halo 5 Guardians」の2015年の発売に向けて、初代「Halo」から「Halo 4」までをリマスターして1枚のディスクに収めた「Halo The Master Chief Collection」の発表。現在「Halo」は映画「Halo Nightfall」も制作しており、「Halo」ファンにはまさに「Halo」尽くしの1年となりそうだ。
そして昨今大きなうねりとなっているインディーズに対しては、GDCで発表された「ID@Xbox」と名付けられたインディーズ専用プログラムによって強力な支援を提供することを改めて表明した。これはXbox Oneタイトル開発に必要なSDKのみならず、機材も含めて、基本無料でデベロッパーとして参画できるプログラム。対象地域は日本も含まれているため、日本のインディーズ関係者は期待しよう。
今回の発表会で強いて難点を挙げれば、紹介された日本産タイトルがわずかにプラチナゲームス神谷英樹氏の最新作「SCALEBOUND」のみだったことだ。昨年の開幕で、当時Xbox事業のトップだったドン・マトリック氏が小島秀夫氏と固い握手を交わし、「METAL GEAR SOLID V」を発表したが、今回はまったく影も形もなくなっていた。
ただ、日本でXbox事業のトップを担う泉水敬氏によれば、ほかにも日本で開発されているXbox Oneタイトルは数多くあり、中には日本専用タイトルもあるとコメントしており、9月4日の日本ローンチに向けていくつかの隠し球があることを匂わせている。また、海外と日本では展開時期に1年弱のズレがあるが、ローンチタイトルの取捨選択や、発売ロードマップはどうなるのかについては、E3期間中に泉水氏へのインタビューを通じて紹介したい。
今回のMedia Briefingを通じて“ゲーム機としてのXbox”をアピールしたMicrosoft。Xbox Oneを成功させるためには、ゲーム機としてゲームファンに売りまくる必要があり、その点では今回の戦略転換は正しい選択だと言える。今後、戦略転換が奏功して、ライバルとの距離を縮めるのか、それともSCEAが更なる上手を行き突き放されるのか。2社の戦いの行く末には今後も引き続き注目したいところだ。