ニュース

【GDC 2014】Facebook Gamesのクロスプラットフォーム戦略

Facebookのソーシャルパワーをゲームに。キャンバスとモバイルを組み合わせてエンゲージアップ!

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

 今でいう「ソーシャルゲーム」が、まだ「カジュアルゲーム」と呼ばれ、プラットフォームもスマートフォンでは無く、PCブラウザが主流だった2010年頃、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったのがZyngaとFacebookだ。Zyngaは、元大手デベロッパーのエグゼクティブを囲い込み、FlashベースのAAAタイトルを次々に手がけ、Facebookはそのプラットフォーマーとして瞬く間にカジュアルゲーム市場を席巻した。

2012年当時、Zyngaは「Zynga Platform」を立ち上げ、FacebookもZynga抜きのプラットフォーマーを模索したが、共にうまくいかなかった

 しかし2009年から始まった両社の蜜月関係は長くは続かなかった。ZyngaはZyngaで独自のプラットフォームを立ち上げ、FacebookはZyngaへの極度の依存を断ち切ろうとした。両社の関係は2012年を境に終わりを迎え、同時に彼らが築き上げてきたFacebookゲームブームも幕を閉じた。

 Zyngaの最盛期だった2012年当時、ZyngaのCOOを務めたJohn Schappert氏のマネタイズトラックキーノートで、自社のビジネスモデルをもって“ゲームビジネスの黄金時代”と語ったのは、GDCにおいてまさに伝説であり、現在はSchappert氏本人はおろか、主要スタッフ、そして彼らが立ち上げたZynga Platformも陰も形もないのはよく知られているところだ。浮沈の激しいゲームビジネスとはいえ、これほどの勢いで現われ、そして消えていった例はなかなかないだろう。

 Facebookゲームのムーブメントが終わった理由は、両社の仲違いなどでは無く、単純にモバイルプラットフォームへの対応の遅れだ。Zyngaはモバイルと相性が極端に悪いFlashベースでリッチアニメーションによるAAAブラウザゲームの制作にこだわり続け、Facebookは独自のWebブラウザ向けの描画レイヤー「キャンバス」にゲームを置くことにこだわり続けた。これはちょうど日本におけるブラウザベース、ガワネイティブにこだわり続けた結果、失速してしまったソーシャルゲームメーカーと事情はやや似ている。

 Facebookは、GDCにおいて2012年、2013年に2年連続で、Facebookのゲームプラットフォーム事業に特化した「Facebook Developers Day」を開催していたが、今年は予想通り開催されず、「Free to Play Summit」の1コマを使って、Facebookのゲームプラットフォーム事情が語られた。ちなみに、今年はFacebookの代わりにAmazonがDevelopers Dayを開催しており、ゲームプラットフォームビジネスの栄枯盛衰の一風景を垣間見た気がする。

Facebook GamesのエンジニアリングマネージャーAron Brady氏
Facebook Gamesはあくまでキャンバスを前提としたゲームプラットフォーム

 さて、Facebook GamesのエンジニアリングマネージャーAron Brady氏のセッション「Economies unite: Cross platform ponetization and player reteintion」では、かつてのように華々しい数字によってFacebookの圧倒的なソーシャルパワーアピールするのでは無く、Facebook Gamesの現在の取り組みをシンプルに語るというものだった。

 Brady氏は「なぜFacebookがゲームを提供するのか?」と自ら問いかけ、「ゲームはソーシャルであり、Facebookはソーシャルサービスを提供する会社だからだ」と回答。その上でFacebook Gamesでは、現在クロスプラットフォーム戦略に注力しているという。

 ここでいうクロスプラットフォームとは、PC向けのキャンバスページと、モバイル版Facebookアプリを指す。いずれか片方では無く、両方活用することによってエンゲージメント、リテンション、ペイメントが最大化できるというのが彼のセッションの要旨となる。

 Facebookでは、独自のA/Bテストツールを使ってFacebook上で2種類のテストを実施したところ、キャンバスユーザーがキャンバス単体とモバイルアプリとの併用を比較した場合、キャンバス単体で10%のエンゲージメントの低下、モバイルアプリとの併用で21%のエンゲージメントの向上が見られたという。反対にモバイルユーザーがモバイル単体と、キャンバスとの併用を行なった場合、モバイル単体で8%のエンゲージメントの低下、キャンバスとの併用で40%ものエンゲージメントの向上が確認できたという。

【キャンバスとモバイルアプリの併用の効果】

開発環境はParseとUnity
Facebook GamesのSDK「Facebook Platform」を近日配信開始予定
12億ユーザーを引きつけられるのか?

 Facebook側の意図としては、ゲームはモバイルで遊ぶことが一般的になっている状況下でのキャンバスの再アピールだろう。Facebook Gamesもまたゲームはモバイルに特化すると思いきや、Facebookの原点であるキャンバスへの引き込みも忘れないというのがおもしろいところだ。

 しかし、単に引き込もうとして引き込まれるほどモバイルゲームファンは甘くない。ユーザーを引き込むためにFacebookはプラットフォーマーとして何をしてくれるのか?

 Brady氏は、具体的なゲームのサンプルをいくつか紹介しながら、具体例を挙げていった。「Disney's Hidden Worlds」では、アクションポイントをキャンバス版のほうを多く設定している。これならキャンバス版のユーザーはキャンバスをメインで遊びたくなるだろうし、モバイル版のユーザーもキャンバスに引き寄せられる。

 また、「Jelly Splash」(Wooga)では、キャンバスとモバイルで、それぞれ個別にUIを最適化しているほか、キャンバス上でフル3DのFPS「Dead Trigger 2」が動作することもアピールしていた。

 こうしたFacebookタイトルの開発環境としては、クラウドベースのサーバーコード開発環境の「Parse」と、モバイルも含めた幅広いプラットフォームに対応したゲームエンジン「Unity」の2つを挙げた。また、ゲームデベロッパー向けに、Facebook上でログイン、インバイト、リクエストといった機能を使えるSDKを北米でまもなく提供開始するという。

 Facebookの月間アクティブユーザーは12億人。ゲーム利用者の数は明らかにしなかったが、それだけのアクティブユーザーを抱えるゲームプラットフォームはほかにない。よく知られているターゲットセグメント指定型の広告や、Facebookのソーシャル機能を駆使したオーガニック(自然な)エンゲージメントの面でも依然として強みがある。自社ツールでA/Bテストが実施できる点も強みだろう。

 ゲームプラットフォームとしては一度停滞してしまったFacebookだが、かつて発表されたゲーマーだけのグルーピング機能や、ゲーマー向けのOpen Graphなど、ゲーマーが過ごしやすい環境を整えてくれればゲームプラットフォームとしてまだまだ可能性があると思う。Facebookのゲーム事業に今後も注目していきたいところだ。

【Facebook対応タイトルの例】

(中村聖司)