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【特別企画】「テトリス」新旧プロデューサー対談

iOS「テトリスモンスター」をFC版プロデューサー名越康晃氏がプレイ

【テトリスモンスター】

8月22日 配信

ダウンロード:無料

利用料金:無料

ビジネスモデル:アイテム課金制

 8月22日に配信開始となったiOS用パズルRPG「テトリスモンスター」。本作はEA日本スタジオによる「テトリス」完全新作となっており、「テトリス」とRPGを融合させた、シリーズとしても新しいジャンルに挑戦している。

 スマートフォン用に最適化した新世代「テトリス」の誕生……というわけで、今回は「テトリスモンスター」を開発したエレクトロニック・アーツのプロデューサー マット・スミス氏と山縣周一氏にインタビューを敢行した。

 さらにスペシャルゲストとして、当時ファミコン版の開発プロデューサーを担当したレッド・エンタテインメントの名越康晃社長をインタビューの場にお呼びし、「テトリスモンスター」から当時の話まで、新旧「テトリス」についてのお話を伺った。

名越康晃氏
レッド・エンタテインメント代表取締役。ファミコン版、PC版「テトリス」を発売したビーピーエス(Blue Planet Software)在籍時に、両作の開発をプロデュース。 エレクトロニック・アーツから発売された「アーコン」と「M.U.L.E.」(いずれもPC)といったゲームの移植を担当していたという縁も
マット・スミス氏
「テトリスモンスター」エグゼクティブプロデューサー。ソーシャル&モバイル部門のプロデューサーとして、日本国内向けのネイティブアプリなどの開発全般を見ている
山縣周一氏
「テトリスモンスター」プロデューサー。エレクトロニック・アーツでの初プロデュース作品が本作で、ゲームシステム等の開発を取り仕切る

【テトリスモンスター:公式トレーラー】

攻撃か、スタックか? 従来のルールとは異なる「テトリスモンスター」のゲームシステム

スミス氏と山縣氏に「テトリスモンスター」の説明を受ける名越氏
「テトリスモンスター」ではブロックのラインを揃えると、フィールド下部に揃えた分のブロックが積み上がる(スタック)ようになっており、スタックしたブロックをタッチすることで敵モンスターを攻撃できる
スタックしたブロックが多ければ多いほど攻撃力が上がる反面、フィールドが圧迫され、ブロックを揃えるのが難しくなってしまう

――「テトリス」のソーシャルゲームということで、従来からは想像のつかないキャラクターの「テトリスモンスター」ですが、本作はどういった形で開発がスタートしたのでしょうか。

山縣周一氏: モバイル版「テトリス」は2011年にすでにリリースされていて、新しくプロジェクトを立ち上げるなら、今の時代のゲームに慣れ親しんでいるお客様に、それとは違う革新性を持った「テトリス」を作ろうと。そこで、モンスターや3DバトルといったRPG的要素を取り入れた「テトリスモンスター」を企画しました。

名越康晃氏: 一通り遊ばせてもらいましたが、第一印象は「テトリス」であって「テトリス」ではない……別物というものでした。理由は2つあって、1つはブロックが落ちる場所をワンタッチで選べるユーザーインターフェイス、もう1つはラインを消したときにできる「スタック」の存在かな。しばらく遊んでいたら慣れましたけど、最初は戸惑いましたね。

――名越さんはいろいろなテトリスの開発に関わってきたと思いますが、ご自身でスタックというアイデアを考えたことはありましたか。

名越氏: これは考えなかったですね。テトリスは4マスのブロックを消すことがキモですから、消したあとの部分については考えたことすらなかったです。ただ、こういったRPG要素やソーシャル性を取り入れた「テトリス」は、いずれ出てくるんだろうなとは思っていました。

――日本ではファミコン版、PC版による「テトリス」ブームが背景にあって、「テトリス」を好きだったりこだわりを持つ方が多いわけですが、海外ではどんな位置づけなのでしょうか?

マット・スミス氏: 海外でもゲームボーイ版やPC版が人気でした。パズルゲームとしてはとてもメジャーな存在ですが、日本での「テトリス」はちょっと特別なような気がします(笑)。

――そんなテトリスにRPG要素やソーシャル性を持たせるとなれば、開発スタッフの間ではアツい議論が交わされたであろうことが想像できますね。

山縣氏: EAはプロデューサーの独断でゲームを作るのではなく、開発スタッフ内の意見をフィードバックしてゲームを作る体制になっています。「テトリスモンスター」についてもトライ&エラーを繰り返しました。ゲームシステム、UIや難易度について開発スタッフはもちろん、不特定多数のお客様からの意見を基に作り上げています。

 たとえば、ブロックの操作は任意の落下地点をタッチする仕組みになっているんですが、このアイデア自体はモバイル版「テトリス」から採用されたものです。ただ、イメージした場所にブロックがハマらないという意見を受けてチューニングしたり、チュートリアルも誰でも理解できるように3回ぐらいイチから作り直しました。

名越氏: このタッチ操作の感覚はすごくいいですよ!

スミス氏: 伝統的なコントロール方式を組み込んでも、スマートフォンでプレイするのって難しいんですよ。ストレスがたまるばかりで楽しくないんです。ですが、1度「テトリスモンスター」の操作に慣れてしまえば、スマートフォンで他の操作はできないと思います。

名越氏: 操作にはすぐに慣れたんですが、あっという間にブロックが積み上がっちゃう印象がありましたね。「テトリス」のフィールドは縦20ラインとワールドルールで決められているけれど、もしかしてフィールドを狭めていますか?

スミス氏: よくお気づきになりましたね! スマートフォンユーザーにリサーチをかけたところ、短時間で緊張感のあるゲームを求める人が圧倒的に多かったんです。じっくり座って遊ぶのではなく、電車に乗っている間にすぐ遊べるように、フィールドを2ライン分狭くして意図的にゲームのテンポを速くしています。

名越氏: なるほど、確かにゲームのテンポはよかった。それにプレイ中はブロックを消すのに集中して上画面のバトルを見ていないけど、スタック攻撃を発動すると視線が上画面に誘導される演出がよかったですね。

山縣氏: スタックはまさにそれを意図して取り入れたシステムなんです。開発当初はブロックを消した時点で攻撃が発動するシステムだったんですが、それだと上画面を見る余裕が全然なかったんです。ブロックを一生懸命消しているうちに勝手にボスが倒れていたり、自分がやられていたりする。もちろん、テトリスを遊んでもらうことが第一なんですが、3Dでフルアニメーションするモンスターたちのバトルにも注目してほしい。それでスタックというアイデアに行き着いたんです。

名越氏: スタックというシステムは「テトリス」史上、初めてのものですよね。採用した理由が最初はわかりませんでしたが、演出を楽しむための仕掛けと考えると理解できる。スタックはもしかすると発明かもしれませんね。

スミス氏、山縣氏: ありがとうございます!

山縣氏: 今までいろいろな「テトリス」があったと思いますけれど、演出を魅せることを追求したタイプのテトリスは本作がはじめてだと思います。

――初めてと言えばキャラクター、モンスターも「テトリスモンスター」では登場しますね。

山縣氏: 本作に登場するキャラクター、モンスターは3Dグラフィックスで描かれていますが、デザイン自体は中庸を意識しています。テトリスファンは男女比でいうと51対49ぐらいの割合でほぼ半々。歴史がある分、年齢層も幅広いんです。そうしたこともあって、誰にとってもなじみやすいモンスターデザインにしています。

上が「テトリスモンスター」、下がアーケード版「テトリス」。比較して見るとスマートフォン版はアーケード版に比べると、縦幅が狭い。ワールドルールとは異なるが、正式に承認を受けている。ゲームのテンポを上げるためのゲームデザインだ
従来の「テトリス」からは想像もつかない、柔らかなキャラクターたち。キャラクターデザインは戸部淑氏が担当。キャラクターたちの愛らしい表情、演出も注目してほしい

テトリスはシリーズを経て進化し続ける。落ち物ではない、オンリーワンのゲーム

上から迫り来るテトリミノ。さらにスタックを積むか、相手に攻撃するか。従来の「テトリス」とは違う選択要素をゲームに落とし込んでいる
タッチ操作でリズムよくテトリミノを落とせる。慣れてくればテトリスハイ状態でスタックをつくり、攻撃。この従来とは異なるスピード感は、スマートフォンに向けたゲームデザインで、新世代の「テトリス」と言える
最初は違和感を感じたものの、最後には「テトリスモンスター」にハマってしまった名越社長

――名越社長はさまざまな「テトリス」に触れてきていると思いますが、その魅力はどんなところにあると思いますか?

名越氏: 「テトリス」って理屈じゃなくて、脳に直接働きかける不思議な面白さがあると思うんですよ。ゲームという理由だけで遠慮しちゃう人もいるんだろうけど、隙間があったらそこに物を入れたいという欲求は誰にでもあると思うんです(笑)。「テトリス」は人種を問わず刺激を与えられるゲームで、4つのピースはマジックナンバーだと思います。

――「テトリスモンスター」でもその刺激は受け継がれていますか?

名越氏: 本来「テトリス」はレベルが上がっていくとどんどんスピードが速くなって、アドレナリンが出まくるわけです。その刺激が続いて一定のタイミングに達すると、淡々とブロックを処理する無に近い状態に変化していくイメージがありますね。

――「テトリス・ハイ」と呼ばれる状態ですね。

名越氏: そうそう。それに対して「テトリスモンスター」では、スタックを発動させることで爽快感を任意に得られるようになっているのが新しいですね。スタックひとつで違うゲーム性になっているのは間違いないと思います。

スミス氏: 名越さん自身はテトリスにどういうきっかけで関わったんですか?

名越氏: 「テトリス」を販売しようという話を大手メーカーが断り、ビーピーエスに話が来たんです。社内の評価は今ひとつだったんですが、社長のヘンク・ロジャースと僕が面白がって、半ばふたりで勝手に移植したのがきっかけです(笑)。でも、ファミコン版は最初注文が全然とれなかったですね。スタート時点は、本当に大変でした。それが発売後、クチコミでどんどん売れ出して、最終的には大ヒットになりました。PC版も10機種ぐらい出して、そっちもトータルで10万本位売れましたね。

――ゲームボーイ版も大ヒットしましたね。

名越氏: ゲームボーイ版はひとつ発明があって、オリジナルである「テトリス」はボタンを押しているとそのままストンと落ちちゃう。落ちたあとブロックを動かせなかったんですよ。そこでゲームボーイ版には、落ちた直後にブロックを動かせる“遊び”を任天堂さんがつけたんですね。「テトリス」って根本的なゲーム性は同じでも、ちょっとずつ発明があって進化している。「テトリスモンスター」のタッチ操作やスタックも発明だと思うし、本当に奥が深い。テトリスは落ち物パズルじゃなくて、オンリーワンのゲームとして進化していますよ。

山縣氏: 「テトリス」って人によって好きな作品が違って、ホールドのあるなしはもちろん、スピードや回転、ブロックが出てくるロジックにも好みがわかれると思うんです。ちなみに僕はアーケード版が好きで、母親はファミコン版が好きでした(笑)。「テトリスモンスター」も、いろんな人がいろんなテトリスを徹底的に遊んだ上で、スマートフォンならではのテンポ感や緊張感を取り入れた作品になっています。きっと新しいテトリスを感じてもらえるはずです。

――「テトリスモンスター」はパズルに加えてRPG要素がありますが、海外でも受け入れられそうですか?

スミス氏: このゲームならばチャンスはあると思います。海外市場では日本で人気のカードバトルになじみがないため、モンスターの合成やスキルの発動といったシステムを理解してもらうのに時間はかかります。我々ジャパンスタジオの方針としては、いきなりグローバルな展開を考えるのではなく、「テトリスモンスター」のような日本国内市場向けのゲームをしっかりと提供していくことが第一と考えています。

――日本国内、海外でも人気のタイトルとして「パズル&ドラゴンズ」があります。「テトリスモンスター」はそれに比べ、どのような点が魅力であると考えていますか。

山縣氏: それはもう「テトリス」である、ということに尽きます。RPG要素が加わったからといって、テトリスのパズルとしての面白さは失っていません。テトリスの本質的な面白さを全面に押し出しつつ、3Dによるモンスターグラフィックスや演出といった新しい魅力をプラスした作品なので、より多くのお客様に遊んで欲しいと思います。

名越氏: なるほど! お話を伺っているうちに、もうちょっと遊んでみたい気になってきました。(手元のiPadを指して)コレ、持って帰ってもいいですか(笑)。

――名越社長が「テトリスモンスター」の御意見番になったら鬼に金棒ですね!

山縣氏: それはもうぜひ!(笑)。

スミス氏: よろしくお願いします!

だれでも、すぐにゲームを楽しめるのは、広く浸透している「テトリス」だからこそ。ゲームルールを覚える必要がほぼないというアドバンテージがある

(トリスター:牛澤庸二)