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【CEDEC2013】「ドラゴンクエストX」ディレクター藤澤仁氏の挑戦
“日本人のためのMMORPGの開発”とは?
(2013/8/21 22:45)
CEDEC2013初日のセッション“「日本人のためのMMORPGの開発」 ~「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」の挑戦~”ではWii/Wii U用オンラインRPG「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」のディレクターを務めるスクウェア・エニックスの藤澤仁氏が講演を行なった。
「ドラゴンクエストX」は2012年8月より月額課金の正式サービスを開始した「ドラゴンクエスト」シリーズ初のMMORPG。プレーヤーは他のプレーヤーと協力して冒険を繰り広げていく。9月にはWindows版の発売も予定されている。
「ドラゴンクエストX」ではMMORPGになるというニュースが発表されてから、喝采ばかりではなく、不安の声も上がった。講演ではその不安をいかになくし、そしてオンラインゲームならではの楽しさ、「ドラクエ」ならではの楽しさをどう実現させたのかが語られた。
「オンラインゲームはプレイしない」という人の不安を解消するMMORPGの開発
藤澤氏は最初に「ドラゴンクエストはなぜ挑戦を続けるのか」という“セントラルクエスチョン”を提示した。この問いは、最初に設定し、講義の最後でその問いに答えるという。「ドラゴンクエスト」は「ドラゴンクエストX」に限らず、ここ10年はずっと挑戦を続けているタイトルだという。
藤澤氏は、2004年に発売されたPS2「ドラゴンクエストVIII」でシナリオを担当したが、実際にはシステムの仕様書を作ったり、進行管理をしたりディレクターのような仕事をしていた。この「ドラゴンクエストVIII」ではフル3Dで「ドラゴンクエスト」を表現するという挑戦を行なった。
2009年に発売された3DS「ドラゴンクエストIX」は初の携帯ゲーム機での最新ナンバリングタイトルの発売となった。藤澤氏はディレクターとして「何処にどれだけの力点を置いて開発していくか」という哲学のような問いを繰り返しながら開発していったという。
そして「ドラゴンクエストX」でも藤澤氏はディレクターとして開発全体に関わる。このタイトルの挑戦は「MMORPG」だった。一方で、「ドラゴンクエスト」シリーズは“国民的なゲーム”であり、挑戦は求められていないのではないか、そういう声もあるという。それでも何故挑戦し続けるのか、藤澤氏は「ドラゴンクエストX」で行なった挑戦を説明し、最後にセントラルクエスチョンを答えていくと語った。
藤澤氏は最初「ドラゴンクエストX」の開発スタッフへの参加を依頼されたときに断ったという。その理由は「MMOなんて遊びたくない。自分の遊びたくないゲームを作りたくない」というものだった。その後、藤澤氏は“「ドラゴンクエストX」で、日本という市場でMMORPGをメジャーにする”という決意のもと、ディレクターを担当することになる。
藤澤氏はMMORPGをプレイすることで、2つの問題点を感じた。1つめはゲームの面白さに到達するまでの距離。藤澤氏は何度も挫折しながらそれでもMMORPGをプレイし、面白さを感じるところまでプレイできたが、その面白さに到達するまでのハードルの高さを実感したという。
もう1つは「お約束、セオリー、常識」というものの多さ。これは藤澤氏が開発を進めている間でも感じ続けた問題だ。スタッフから何度も「オンラインゲームはこれが常識なんです」といわれた。開発スタッフ達のMMORPG・オンラインゲームの知識は深く、助けられる事が多かった一方で、その常識が凝り固まりすぎて、様々なルールが「共同体を維持するためのきまり」になってしまい、ゲーム開発の自由度も制限している部分を感じた。
こうしたMMORPGの問題点を解消したいという点だけでなく、「チャレンジ」という点でも藤澤氏は「ドラゴンクエストX」に魅力を感じた。藤澤氏は堀井雄二氏と共にずっと「ドラクエ」を作ってきた。常に「ヒットが当然」という期待の中でゲームを作ってきたが、MMORPGという全く新しいジャンルでの物作りができる環境はこれまでなかったものだった。さらにプロデューサーの齋藤陽介氏をはじめ、吉田直樹氏、安西崇氏といったオンラインゲームの専門家が多かったことも藤澤氏がディレクター就任への決意を後押ししたという。
ディレクターとなった藤澤氏は「ドラゴンクエストX」において「オンラインゲームはやらないんです」という、MMORPGを遊んだことのないユーザーの言葉に真っ正面から向き合った。触ってもいないのにオンラインゲームをやらない、というのはオンラインゲームという言葉に対してネガティブなイメージを持っているのであり、不安を抱えているからだと藤澤氏は考えた。
そしてその不安1つ1つに対してアプローチを行なっていくことにした。MMORPGは日本人にとってまだメジャーなゲームとは言えない。まったくプレイしたことのない人が持っている不安を解消できる、「日本人のためのMMORPGの開発」を作るという、藤澤氏の挑戦だった。
未体験のユーザーが持っている「MMORPGは難しそう、めんどくさそう」という意見に対しては、いつもの「ドラクエ」らしさを重視し、画面の情報は最低限に抑え、メニューの配置なども徹底的にこだわってシンプルに作っていった。また、明確なエンディングを作った。最初のサービスでストーリーに明確な区切り、強大なボスとのバトルを設定し、ゲームのクライマックスを用意した。MMORPGとしてではなく、「ドラクエ」として、ファンが求める「RPGとしての楽しさ」をきちんと体験できるコンテンツを実現した。
「人と一緒に遊びたくない」という意見に対しては「サポート仲間」システムを用意した。他のプレーヤーをNPCとして雇うことで、1人でも4人パーティで遊べるようにした。AIはブラッシュアップを繰り返しており、現在では以前よりも自然に遊べるようになっている。
さらに、MMORPGの世界にハマりすぎてしまうのではないか、というところも未経験者が不安を抱いてしまう点だと藤澤氏は語った。ハマりすぎないための「依存化しないゲームデザイン」として藤澤氏達が提示したのがログオフ時でも経験値が得られる「サポート仲間システム」。そしてログオフ時にチャージされる「元気玉」システムだ。元気玉は使うことで30分間経験値が2倍となるアイテムで、チャージ時間が長いほど多くの元気玉が得られる。
元気玉は時間のないプレーヤーの育成を助けるアイテムであり、繋ぎっぱなしにしないことでメリットを得られるシステムだ。またレベル差がついていても一緒に遊べる経験値配分を行ない遊ぶことの“義務化”を避けている。毎日ログインを推奨するような事はしないようにも心がけている。
ここからさらに藤澤氏は「ドラゴンクエストX」において、堀井氏や齋藤氏と議論を重ね「『ドラクエ』の主人公は人間であるべき」という自説から、様々な種族をプレイできなおかつ人間の姿もとれるストーリーを作り出した。また「コマンドバトルであるべき」という思いから、堀井氏や齋藤氏の意見を取り入れリアルタイムバトルにし、敵の移動を前衛が敵を押して止めるという「移動干渉バトル」を作り出した。
このように「ドラゴンクエストX」はMMORPG未経験者が抱きがちな不満を解消しながら、プレーヤーが人間以外の種族にもなれ、リアルタイムバトルに敵を押すという新しい駆け引きを盛り込んだ、従来の「ドラクエ」に新しい楽しさをプラスした作品となった。
さらに藤澤氏が心がけたのが「一緒に遊ぶ機会を失わせない」ということ。技術的にハードルは高かったが、プレーヤーはサーバー間を自由に移動でき、他のプレーヤーと出会えるように世界を1つにいた。これまでのMMORPGのように「サーバーが違うから遊べない」ということをなくしたのだ。
結果、「ドラゴンクエストX」発売後、ユーザーから「思った以上にドラクエだった!」、「本当に1人で遊べた」、「短時間しか遊べなくても楽しめる」といった評価を得ることができたのである。
「新しいことをやりましょう」。藤澤氏が語った開発者へのエール
一方で発売後は想定外のトラブルもあったと藤澤氏は語った。まずサービス開始時にはユーザーが集中し、想定の倍のサーバーを用意しなくてはならなくなった。こうなるまで緊急メンテが連日行なわれる形になってしまった。
「プレーヤーと一緒に世界を作る」ということを実感させられたのが「狩場の集中」という問題だ。効率の良い狩場ばかりにユーザーが集中してしまう。この問題に対し、経験値を見直し、強い敵と戦うことで「強敵ボーナス」を追加、100匹同じモンスターを倒す事で「ちいさなメダル」が得られるシステムを追加した。ユーザー自身が様々なモンスターを倒し、キャラクターを育てられるような環境を準備した。
「名声値」というキャラクターのパラメーターに関しては藤澤氏に連絡・確認のミスがあったという。名声値が想定以上に得られる状況に気がついたため、これを下方修正したのだが、先行して名声値を得ていたプレーヤーと差がつく結果となり、大きな反発を生んでしまったのだ。
この問題は名声値の入手を以前のものに戻し、特定のプレーヤーが有利にならないように調整を行なった。これらの経緯をプレーヤーに説明し、謝罪した上で、今後の名声値の使われ方のプランを提示した。
この経験から藤澤氏はプレーヤーに向けての情報発信の必要性を強く感じた。ユーザーは情報不足から不安が大きくなった。この点を解決するために、開発からの「中長期的展望」の提示。「開発・運営だより」という定期的な情報発信。さらに説明が必要な修正には「ディレクターコメント」という形で情報を発信していくようにした。
最後に藤澤氏は「『ドラゴンクエスト』はなぜ“挑戦”するのか」という最初に提示したセントラルクエスチョンに対する答えを語った。「『ドラゴンクエスト』はこの10年挑戦をし続けています。新しいことをやるのは、大変です。叩かれたり、挑戦自体を笑われることもある。ですが今は挑戦して良かったなと思っています」。
「数年前CEDECで『欧米に受けるゲーム』ということが議論された事があり不安を覚えたことがあります。市場を分析するのは良いですが、その市場に合わせてどうゲームを作って行くかというところまで踏み込むのは違うと思っています。自分が面白いと思うのか、というところが欠落してはいけない。市場は私達が思っている以上に新しいもの、新しい面白さに寛容なはずです。ですから私達ゲーム開発者がゲーム作りに行き詰まったとき、最後に信じられるのは自分の中の『これは面白い』というインスピレーションだけだと思います。それを信じて、新しいことをやりましょう」藤澤氏はこう語り、講義を締めくくった。
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