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【GDC 2013】King、「Candy Crush Saga」に見るクロスプラットフォームの力
課金率、リテンション、バイラルすべてを上昇させた要因を探る
(2013/3/29 17:36)
スゥエーデンに拠点を置くカジュアルゲームを専門のゲーム会社Kingは、日本ではあまり馴染みがない。しかし、今年の「DGC 2013」ではイベントスポンサーとして最も目立つバッヂホルダーに名前を載せて、街中の至る所にある広告塔に「Candy Crush Saga」と「Bubble Witch Saga」のポスターが貼られて抜群の存在感を示している。
Kingは、「GDC 2013」の2日目にあたる26日に会場近くでプライベートパーティーを開き、co-founderでCEOのRiccardo Zacconi氏が社名を以前に使っていた「King.com」から「King」にすることを発表。同時に2つのfacebook用新作ゲーム「Papa Pear Saga」と「Farm Heroes Saga」をお披露目した。どちらも既にサービスがスタートしている。
「Candy Crush Saga」は2011年4月にfacebookでサービスを開始した。少し遅れて2012年8月にはiOSとAndroid版もリリースされ、マルチプラットフォーム化の相乗効果で一挙にユーザー数をのばした。8月27日現在のユーザー数は、DAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)が5,000万人、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)が1億1,000万人となっている。また、課金率も非常に高い。実は筆者もハマっていて、PCとタブレットで交互にプレイしている毎日だ。「Candy Crush Saga」はまずFacebook版が日本語に対応し、3月23日のアップデートでiOSとAndroid版も日本語対応を完了した。
まだまだ日本ではマイナーな本作。このレポートでは、「Candy Crush Saga」がどんなゲームなのかを紹介すると共に、「GDC 2013」3日目に行なわれた講演「Cracking the Cross-Platform Challenge: How Candy Crush Saga Became a Smash Hit on Facebook and Mobile」をまとめてお届けしたい。
詰め将棋的な戦略性と、落ちゲー的な爽快感が同居した3マッチパズル
「Candy Crush Saga」は5種類のキャンディを入れ替えながら消していく3マッチパズル。ゲームの舞台になっているのはお菓子の世界で、ポップで可愛い雰囲気が女性ユーザーの人気を集めている。
ゲームはステージクリア型。隣り合ったキャンディを動かして、同じ色のキャンディを縦か横に3つそろえることで消していく。クリア条件はステージごとに異なっており、ゼリーをすべて消す、キャンディの間に挟まっているサクランボやナッツを下に落とす、決められた移動回数内や時間内に一定のポイントを獲得するなどいくつかのバリエーションがある。キャンディを揃えて消すという同じ操作でも、勝利条件の違いによって戦略もプレイスタイルも変化する。回数限定ならなるべく連鎖技を狙うし、タイムアタックなら片っ端から消していく。
ステージが進むと、戦略をより複雑にする各種のお邪魔要素が出現してくる。お邪魔キャラには、増殖してくチョコや、連鎖を留めてしまう渦巻き状のグミ、マスを塞ぐクリーム、一定回数で爆発する爆弾などがある。また、ステージは毎回ランダムに生成されるので、多分に運の要素も絡んでくる。
逆に、ゲームを有利に進めるための技もある。キャンディを縦に4つ並べると横ラインをすべて消す横ストライプのスペシャルキャンディに、同じく横に4つ並べると縦方向を消す縦ストライプのスペシャルキャンディに変化する。他にも縦横に2個ずつ並んでいるキャンディのコーナーを同じ色でつなぐと、爆発して周囲を吹き飛ばす袋入りのキャンディボムに、さらに隣り合うストライプキャンディとキャンディボムは、十字に3列のキャンディを全消しする強力な巨大キャンディに変化する。
さらに同じ色のキャンディを5つ揃えると、カラフルなボール状のカラーボムに変化する。このボムを普通のキャンディと入れ替えると、その色のキャンディがすべて消える。ストライプキャンディと入れ替えると、同じ色のノーマルキャンディがすべてストライプキャンディになる。隣り合うカラーボム同士を入れ替えれば、そのとき画面上にあるすべてのキャンディを消すことができる。
大技を使うと、新しく落ちてきたキャンディが次々に連鎖を起こして消えていき、3マッチパズルでありながら、落ちもの系パズルのような派手さやスカッとした爽快感が味わえる。
他にも、課金要素として邪魔なキャンディを砕いてしまう歯のおもちゃや、キャンディを消す魚、キャンディを別のキャンディと入れ替えるロリポップなど数種類のアイテムがインゲームショップで購入できる。プレイに必要なライフは通常マックスで5つだが、課金でさらにライフを購入することも可能だ。
マップは線路になっていて、小さな女の子がお菓子の国を冒険していくという、簡単なストーリー仕立てになっている。エリアの最初と最後には、切り絵のようなキャラクターが掛け合いをするカットシーンも挿入される。1つのエリアをクリアすると、電車や飛行機で次のエリアに移動するが、この時新エリアをアンロックする為には友達の協力か課金が必要だ。エリアはどんどん新しく追加されており、その度にマップが伸びていく。スクロールすることで未クリアのマップがどの程度あるか見ることができるが、その広大さに驚かされる。
また、マップにはゲームをプレイしている友達がどの辺りのレベルにいるのかも表示される。ステージごとのリーダーズボードや得点ゲージにも友達の得点が記録されており、自分の得点と比べながらプレイしたり、相手を上回った時に知らせることができるなど、コンペティティブな要素もある。対戦要素などはないのだが、友達と競り合いながら進んだり、遥か高レベル帯を独走している友達に感動したりとプレイ空間を共有している楽しさがある。
クロスプラットフォームを成功させた4つの要因
「GDC 2012」が開催されていた昨年の3月時点では、Kingのユニークユーザー数は2,100万人だったが、「Candy Crush Saga」の大ヒットで「GDC 2013」時点では1億1000万人に増加した。そのうち約4割はモバイルのユーザーだ。もともとKingはPC向けのブラウザカジュアルゲームを専門にしていた。2011年にFacebookでサービスを開始した「パズルボブル」系のパズル「Bubble Witch Saga」がヒット。2012年には同タイトルを7月からiOSで、11月にはAndroidでも配信を開始した。同時期に、2012年にリリースした「Candy Crush Saga」もiOSとAndroid版がリリースされ、その後急激にユーザー数を伸ばした。
この躍進の大きな理由が、「Candy Crush Saga」でモバイル版とfacebook版でデータの共有を可能にしたことだ。このために、facebookからモバイルへのユーザーの流入と、モバイルからfacebookへの流入が同時に起こり、モバイルだけではなくPCのユーザー数もそれ以前の倍近くに増加した。
Zacconi氏はこの成功の要因を4つあげた。1つめは、Kingが操業から10年間の間に150以上のゲームをリリースして積み重ねてきたブランド力。毎月15本以上の新作がリリースされ、12の言語で1,000万人が遊んでいる。1度リリースした作品は厳選され、有望なものだけが引き続いて開発される。
2つめはゲーム自体の品質の高さと面白さ。それに加えて「サーガ」シリーズに共通して見られるエンドレスに続くゲームマップだ。kingの「○○サーガ」というタイトルを冠したゲームはすべて、上記に説明したような簡単なストーリー仕立てになった全体マップの道筋をたどっていくという方式になっており、マップはどんどんアップデートされていく。ゲーム自体にも新ルールや新ギミックが追加されて、遊ぶほどに難易度が高く攻略しがいのある内容になっていく。これらの要素がリピーターを呼び込み、定着率の高さを生み出している。
3つめは、前述したクロスプラットフォーム化だ。クロスプラットフォームが始まると同時に、facebook版でもゲームのローディング画面で告知されるようになった。モバイル版では縦用と横用のUIがありどちらでもプレイが可能。PC版と比べるとエフェクトやマップなどが多少簡素化されているが、ほぼ同じ操作感で遊ぶことができる。いつでもどこでもゲームができるというだけではなく、自分がもっとも遊びやすいプラットフォームで遊べるということもクロスプラットフォームかの強みだとZacconi氏は語った。事実、「Candy Crush Saga」ではクロスプラットフォーム化したした後は、facebook版、モバイル版共に課金率、バイラル性、リテンションの数値が上昇している。
そして成功の要因となった最後の1つは、急成長しているスマートフォン市場だ。スマートフォンのシェアは右肩上がりに増え続けており、「GDC 2013」の会場でも携帯ゲーム機よりも、スマートフォンやタブレットでゲームをしている姿を見ることが圧倒的に多い。インストールベースのユーザー数は今後も増え続け、北米のApp市場は2016年には現在の3倍を超える700億ドルに達すると予想されている。
今が戦国時代まっただ中で、入れ替わりの激しいアプリ市場だけにKingが今後も勝者であり続けることができるかどうかは不明だ。ただ、筆者が感じるのはキャラクターよりでもなく、バイオレンスに偏り過ぎもせず、ある意味正統派のゲームを作り続けているヨーロッパ勢がスマートフォンという市場でじわじわと存在感を増しているという印象だ。まだまだ金脈が埋まっている未開拓の市場だけに、次々と新しいアイデアやゲームが登場してくる。普段はあまりモバイルやソーシャルゲームで遊ばないという人も、この機会にぜひ興味を持ってもらいたい。
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