日本、中国、韓国、インドネシアによる「アジア・ゲーム・ビジネスサミット2012」

各国で異なり、変化していく市場でどうサービスし、開発者を確保していくか


9月20日~9月23日 開催(20日、21日はビジネスデー)

会場:幕張メッセ1~8ホール

入場料:前売り1,000円、当日1,200円、小学生以下無料



 東京ゲームショウ2012では9月20日、「アジア・ゲーム・ビジネスサミット2012」が開催された。このサミットでは、日本、韓国、中国、インドネシアから、ゲーム会社の経営トップが集まり、様々な議題で自社の姿勢を語った。

 登壇者は日本からはディー・エヌ・エー取締役の小林賢治氏、韓国からはNHN ハンゲーム スマートフォンゲーム事業部理事のチェ・ユラ氏、そして中国からはレンレンゲームズ上級副総裁兼 レンレンゲームジャパン代表取締役社長の何川氏、インドネシアからAgate Studio COOのShieny Aprilia氏。司会は日経BP執行役員の浅見直樹氏が担当した。

 「アジア・ゲーム・ビジネスサミット」は今回で3回目になるが、インドネシアは初めての参加となる。インドネシアのスマートフォン事情が語られたり、NHNが韓国ユーザーに向けては、「コアゲーマー向けはAndroid、女性向けはiOSが優先」といった開発指向があったりと各国・各社の事情や方針が語られたのが興味深かった。また、日本市場の分析として、小林氏によるソーシャルゲームへの考察も行なわれた。





■ 各国での事情を反映したゲームビジネス。変化していく市場への働きかけ

ディー・エヌ・エー取締役の小林賢治氏
Agate Studio COOのShieny Aprilia氏
レンレンゲームズ上級副総裁兼 レンレンゲームジャパン代表取締役社長の何川氏
NHN ハンゲーム スマートフォンゲーム事業部理事のチェ・ユラ氏
司会を務めた日経BP執行役員の浅見直樹氏

 最初にレンレンゲームズの何氏と、Agate StudioのAprilia氏は、自社の会社概要を紹介した。レンレンゲームズは2007年設立、ブラウザゲームで人気を博した後、スマートフォン向けのタイトルも開発し、現在は中国最大級のスマートフォン向けゲーム開発会社となっているという。第2次大戦を扱ったSLG「ロスト・ウォーズ」や、三国志をテーマにしたRPG「戦将ブレイド」などは日本語版をiOS、Android向けに近日サービス予定だという。

 Agate Studioは2009年4月に18人のインドネシアの大学生が集まって設立された。スマートフォン向けのタイトルを作るインドネシアのゲームメーカーとして、現在は120を越えるタイトルを世界に向けて販売している。スタッフは77人に増加し、4つの都市にスタジオを構えるゲームメーカーに成長している。チェ氏もNHNの歴史を語ったが、特にLINEの好調をアピールした。

 一方、ディー・エヌ・エーの小林氏は自社を改めて語るのではなく、小林氏の分析するソーシャルゲーム市場の特徴を語った。ソーシャルゲーム市場は2008年前にはほとんどなかったが、2012年には数千億規模まで大きくなっている。ここまで大きく成長した市場は例がない。さらに最近では、これまで成功してこなかった欧米市場で「進撃のバハムート」が成功したことに対し、力を入れたタイトルはヒットする可能性があり、一度大きくヒットするというきっかけがあれば、そこからは現在の日本市場と同じように、様々なタイトルが受けいられていく成功に繋がっていくという確信を得たという。

 各社の発表が終わった後に議論されたのは、「それぞれの成功例を持っている各ゲームメーカーが、アジア圏で生き残っていくためにはどうしていくか」という「アジア・ゲーム・ビジネスサミット2012」のメインテーマが提示された。そのビジネスの上で“プラットフォーム”はスマートフォンではないか? と浅見氏は提起する。しかし各国で状況が異なるようだ。

 スマートフォンでは、OSはAndroidが最も大きな市場があり、iOSが次を占めるというのが世界でも一般的な風景だが、韓国では他の国以上にスマートフォンの普及が早く、そしてAndroidの力が強いという。他の国に比べての機種の乗り換えも早い。一方でインドネシアはブラックベリーの端末が人気で、フィーチャーフォンの使用者もまだ多く、端末そのものが多様化している。中国はフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行が始まったという状況で、AndroidのタブレットPCの市場が大きく成長しているという。

 各社はスマートフォン/タブレットPC向けのゲームを作っていく中で、Androidだけ、iOSだけというビジネスは成立しにくい。小林氏はやはり両方を攻略していくというのが重要だと考え、AndroidとiOSを同時に開発できる体制を取った。チェ氏は、韓国では若いコアなゲームユーザー向けにはAndroid中心にしていくが、クレジットカードでのショッピングなどもする若い女性向けのソフトはiOSが中心となる。NHNではターゲットに向けたOSの選別からゲーム開発を行なっているという。

 中国レンレンはiOSを重視。その理由は、Androidの普及率は高いが、ゲームを遊んでいるユーザーはiOSが多く、収益率に関してはiOSがAndroidの数倍となっており、ビジネスとしてiOSのほうが大きいためだという。インドネシアのAgate Studioは現時点ではプラットフォームにはフォーカスしておらず、まず楽しいゲームを作ることを最重要の課題としている。開発者はゲーム開発に集中させ、その後他のチームが各プラットフォームに向けて移植する、ということを行なっていると語った。

 各国の状況が異なるが共通しているのは、高性能な端末の普及だ。端末の性能が上がっていく中で、ゲームはどんどん豪華に、開発費も多くなっていくのだろうか。しかし各国の担当者は「それだけではない」と語る。スマートフォンという端末の普及は、コアゲーマーだけではない多くのユーザーがゲームに触れる機会が増える。ゲームに今まで触れたことの無かった人、そういった人にはハードなゲームは必要ない。より多様なゲームが求められていくだろうと指摘した。

 次に語られたのが、「求める人材とその確保」。Aprilia氏はインドネシアで数少ない開発会社として、これまで他国に流れていた開発者が、自国のメーカーがきちんとある、ということで、開発者達がAgate Studioを目指してくれる状況が作れていると語った。学校なども準備し人材の育成も行なっているという。プログラマーを“ナイト”、企画者を“ウィザード”と呼ぶような、ファンタジーな雰囲気も取り入れているとのことだ。レンレン ゲームズの何氏は優秀な人材を確保するのは会社のしっかりしたビジョンと、バジェットだという点も挙げた。

 チェ氏は「徹夜も厭わない熱意のある人」と語った。開発者の育成する学校との協力と共に、実務を積んでいる人も求め、新しい動きに敏感である人を特に求めているという。小林氏は「ユーザーの気持ちに敏感な、普通の人の気持ちを想像でき、判断できる人」と語った。その普通の感覚を実現できた例として、小林氏は「LINE」を高く評価した。「LINE」の機能の1つ1つは既存のアプリでも同様のものがあるが、使いやすさに関しての作り込みに驚かされたという。ソーシャルゲームも同様で、使いやすさ、機能の組み合わせへの作り込みがあるからこそ受け入れられているという。

 今回のサミットでは、各国によって異なる状況、それに合わせたサービス体制が語られた。スマートフォンの普及は世界的な現象ではあるが、実は国ごとに様相は異なるというのは興味深い。また、インドネシアはまさに“これから”という印象も持った。自国でゲームが作れるという状況を成立させた彼らが、どんなゲームで世界へ勝負していくか、注目したい。

 そして、今回のサミットでは議題の途中のインターミッションとして、特別に小林氏によるDeNAのソーシャルゲームをどう世界に広げていくかを語る機会が設けられた。「ソーシャルゲームというものは、突然変異的にいきなり生まれたのか」というテーマでの、興味深い分析だった。小林氏はソーシャルゲームはいきなり現われたゲームではないと主張する。そもそもゲームは生まれたときからソーシャル要素を持っていたという。例として、ファミコン時代、ゲームは友達と2人で遊べるものだった。格闘ゲームブームは見知らぬ人と対戦するという関係を生んだ。このように、ゲームは進化の中でソーシャル要素は常に含まれているというのだ。

 さらに、「ポケットモンスター」は交換する、交流する楽しさを生み、そしてオンラインゲームはコミュニティを一気に深いものにした。ソーシャルゲームはこう言ったゲームの歴史と切り分けられない。ユーザー同士のアイテム交換や、対戦、協力プレイなど、ソーシャルゲームでユーザーを夢中にさせている要素は、これまでのゲームの歴史と不可分である。プレイサイクルや、ビジネスモデルが異なるため、ソーシャルゲームはいきなり生まれたゲームだ、といわれることがあるが、実はこれまでのゲームが持っていた「ソーシャル体験」を思い出させているからこそ、多くのユーザーに受けいられていると小林氏は主張する。

 Mobageの主流ユーザーは30代男性であるが、彼らは今、集中的なゲームができない状況にある。ゲームが嫌いになったのではなく、忙しくてゲームをまとまって遊ぶことができないだけだ。Mobageユーザーは通勤時間や昼休み、帰宅時、就寝時にゲームに触れ、それは平均すると1日に5回で触れている時間は7分、ところが彼らは生活の中で、35分まとまったゲームプレイの時間を取るのは難しくなっている。ユーザーの負担のない、それでいながらゲームをプレイしている実感をどう持たせるか、それはゲーム開発者のチャレンジしがいのあるテーマではないか。そしてこの傾向は世界のゲームユーザーにも共通するものであり、今後ソーシャルゲームが世界に広がるという確信の理由だと、小林氏は語った。

 小林氏のソーシャルゲームの分析は、サミットの議題とはいささか外れる、“作り手”よりの視点ではあるが、今後のビジネスにおいてのヒントであることは間違いない。ゲーム開発が世界に広がると言うことは、ゲーム体験を持つユーザーが増加していることに他ならない。ゲームの楽しさにフォーカスするDeNAのゲーム開発が他国にどう広がっていくかも注目したいところだ。

様々な議題が提示され、各国の状況が語られた
ディー・エヌ・エーはソーシャルゲームを分析、日本国内だけでなく、欧米での人気も語った

(2012年 9月 22日)

[Reported by 勝田哲也]