Taipei Game Show 2012レポート

【Taipei Game Show 2012】カプコン、バンナム、FK Digital交流会レポート
格闘ゲーム業界を牽引する3人が、「カオスコード」開発者を応援!


2月2日~6日開催

会場:南港展覧館

入場料:大人200元、子供100元


 SCET(Taiwan)は高雄に個人の開発者を育成するインキュベーションセンターを設立したり、ゲームコンテンツを作成するために独立系デベロッパーを支援するなど様々な活動を行なっている。今回のTaipei Game Show 2012では、SCETが台湾でのゲーム開発者を支援する「支援プログラム」を紹介するコーナーがあり、独立系デベロッパーの作品も展示されていた。

 さらに今回は、SCETのステージイベントに参加するために台湾を訪れたゲーム開発者と、SCETが支援する個人や独立系デベロッパーとの“交流会”も行なわれた。本稿では、「格闘ゲーム」を作っている日本のベテラン開発者と、台湾の若手開発者の交流の模様を紹介したい。

 交流会に参加したのは、日本側が、「ストリートファイター X 鉄拳」のプロデューサーを務めるカプコンの小野義徳氏、「鉄拳」シリーズのプロデューサーを務めるバンダイナムコゲームスの原田勝弘氏、「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」のプロデューサーを務めるカプコンの新妻良太氏の3名。そして台湾側が、SCETブースでも出展され、現在日本でも稼動している格闘ゲーム「カオスコード」を開発したFK Digital の2名だ。

 「カオスコード」は、日本では2011年8月よりアースシムテムワークスが、アーケード向けに展開している。随所に開発者の「2D格闘ゲーム」への強い思い入れが感じられる作品となっている。交流会では格闘ゲームを作る若手開発者の作品を、ベテランが評価し、助言するというあまり前例のない、非常に濃く、興味深い交流が行なわれた。



■ 格闘ゲームを何故作り、どう続けるか。ベテランが若手に伝えること

プロの開発者が、追いかけているベテランに作品を見てもらい、目の前で評価してもらう。会社間では実現しにくい光景だ
開発者が兄弟だと知ると、「財産分与はしっかりしておいた方が良いですよ」と、小野氏のノリは健在
「好きなキャラは誰ですか?」。尊敬する開発者を前に、ただのファンに戻ってしまうことも

 FK Digitalの開発者として交流会に参加したのは、FK Digital台湾区執行長のMickey Lin氏と「カオスコード」の監督を務めるMichael Lin氏。2人は兄弟で、さらに1番上の兄がオーストラリアの会社としてFK Digitalを立ち上げたという。

 FK Digitalは、15人ほどの会社だ。これまで「カオスコード」の他は、3DSやiOSのゲームなどを手掛けていたが、SCETの支援プログラムを知り、「カオスコード」のコンシューマー展開を視野に入れ支援を要請した。支援プログラムを受け、「カオスコード」はPS3版がパッケージとダウンロードで発売される予定で、今後はPS Vitaも視野に入れ、ゲーム開発を行なっていくとのことだ。

 交流会ではまず、「カオスコード」のデモンストレーションが行なわれたが、原田氏は、「僕、東京ゲームショウでこのゲームずっとやってましたよ。アークシステムワークスさん発売だから、アークさんのゲームだとばかり思ってたんですが、セガのスタッフさんに『すいません1人20分までで……』といわれて、仕方なしにやめました」と本作との出会いを語った。

 まず最初に、コントローラーは原田氏と小野氏が握り、開発者達の目の前で作品を体験した。原田氏はキャラクターを選びながら、「これは、わざと80年代的な、古い感じを目指しているのですか?」と聞くと、Mickey Lin氏はうれしそうに「はい」と答えた。さらにサウンドもスピーカーが悪いかのように割れた感じのエフェクトが入っており、ここもわざとこだわっているという。

 「カオスコード」は日本の過去の2D格闘ゲームへのオマージュに満ちているとMichael Lin氏は語る。オススメはCATHERINEというキャラクターで、瞬時にいくつもの服に着替えて攻撃をする。「このキャラは今風だけど、これは理解できないなあ」など、小野氏と原田氏、新妻氏はわいわい言いながらキャラクターを選択していった。

 「カオスコード」のキャラクターは1つ1つの技が凝っている。CATHERINEはメイド服や、ギリシア風の衣装など、キックやパンチの通常技でさえ衣装が替わる。CAIT、SITHという姉弟のキャラクターは技によってどちらかが攻撃したりもする。原田氏は「このパターンを描くの大変だぞ」と思わずつぶやいた。

 「何故ポリゴンにしなかったのか。それの方が楽なのに」という指摘が小野氏から出たが、ここも彼等のこだわりだという。開発スタッフは「ストリートファイター」シリーズの影響を強く受け、特にLin兄弟はもともとデザイナー出身であり、手書きのグラフィックスにこだわり、個性的なキャラクターを生み出すことに注力したという。

 小野氏、原田氏、新妻氏はゲームをプレイしながら隅々をチェックしており、兄妹で戦うCAIT、SITHはどのボタンでどちらが技を出すか試してみたり、相手を近づかせない攻撃技の組み合わせを見つけたり、上段技と下段技の当たり判定、2段ジャンプなど、細かいところまで見ていた。ところが一方で、原田氏が「画面、何だか暗くない?」と言ってから、初めて自分がサングラスをかけたままでプレイしているのに気づき、メガネに付け替え、皆からツッコまれるまれるような場面もあった。

 「やりたいことみてると、ひょっとしたら2Dにこだわらない方が良かったかもしれないね」と小野氏が言うと、原田氏も同意した。「これで『カオスコード』の人気が出て、キャラが増えて絵を描き込むというと、もっともっと凄いことをしなくてはいけなくなる。それはしんどいと思うんですよ。ポリゴンで頑張った方が、未来があると思う」と原田氏は指摘した。

 小野氏は「すごく現金な話しをすると、市場で勝とうと思うなら、アニメーションの枚数をもっと増やさなくてはいけない」と指摘すると、新妻氏は、「『BLAZBLUE』よりもっとなめらかにすることを目指さなくてはいけないですよね」と補足した。

 小野氏はさらに「キャラクターデザインまではセンスで勝負して、そこからは技術でカバーするという考え方をしていかなければ、“量産”をしていくときに大変な思いをすることになると思います。絵描き出身の方の、アーティスティック、センス的なところで市場で生き残りたいという気持ちもわかるんですけど、“存在”が残らないとやり続けられないので、次のタイトルのチャンスがあれば、技術の方を追求していくのが良いと思います。台湾の方は、日本以上に勉強しているので、センスがあれば技術は勉強できると思うんですよね」と語った。

 ゲームの体験が一段落した後、Mickey Lin氏は3人に「どんな想いで、格闘ゲームを作り続けられるのでしょうか」と質問をぶつけた。原田氏は「17年間格闘ゲームばかりですし、その前からプレーヤーでした。自分が格闘ゲームが一番好きで、そのことを世の中の人にわかってもらいたい。だからずっとやっています」と答えた。

 小野氏は「僕は、原田さんや新妻君がずっと作り続けていた10年間、格闘ゲームを休んでいた人間ですが、本心を言えば、プレーヤーと異なり発売前に練習を積むことができるので、発売日にランキング上位に入れるから格闘ゲームを作ってます(笑)」。新妻氏が「僕の場合は自社ブランドじゃないタイトルを担当することが多いから、他社のブランドをいじれるのが好きです」というと、すかさず小野氏は「そこは、僕はマゾなんです、と正直に言わないと。他社からいじめられるのが好きなんです、って言わないと(笑)」とツッコミを入れた。

 次の質問は、「皆さんが担当しているゲームのキャラクターで誰が好きですか」というもの。「ただのファンじゃないですか。その質問はファンイベントのものですよ」と小野氏は指摘し、原田氏は「これ、答えちゃうと、ファンから特定のキャラクターをひいきしていると思われるので、つらいんですよ」と答えた。小野氏はイギリスのイベントで「キャミィのお尻が好き」と発言したが、それをファンが日本語に訳し広めたため、「尻とか言っている暇があるならここを直せ」というツイートが溢れたという。

 ちなみにMickey Lin氏は春麗の太ももと、ジュリアのメガネが大好きだという。ところが、原田氏自身はメガネそのものには実は思い入れがないとのこと。ジュリアは大学生になったという設定から、頭を良く見せるために眼鏡をつけさせたというのが原田氏の判断だったようだ。しかし、小野氏からそれじゃダメだと指摘され、「ジュリアのメガネは萌え要素です」と言い直した。一方で原田氏自身は、平八に思い入れがあるという。平八を通して、原田氏自身の哲学を語っている部分があり、自分の考えが一番反映されているとのことだ。

 新妻氏は「ヴァンパイア」シリーズがお気に入りだという。「タツノコ VS. CAPCOM」を作るときに、いちばん最初に「モリガンを3Dで描きたい」という想いがあったとのことだ。ちなみに小野氏は、キャミィのお尻、春麗とモリガンの胸という、常に女性のパーツの話ししかしなかった。

 最後の質問は「次回作、シリーズ化を作る上で重視するポイントは」というもので、原田氏は「例えば1作目のヒットを爆発に例えると、爆発をさらに広げるか、爆心地をずらすしかない。まずこの2択です。もう1つ大事なのが作っている人本人の問題で、スタッフのモチベーションは、絶対“慣れ”が生じます。例えば『カオスコード』の2作目を作ると、絶対に愛情は薄まってる。どんなに気をつけても絶対です。慣れと、油断、そして飽きが生まれます。それをどう乗り越えるのかが一番大事で、それができれば、絶対製品は良くなります」と答えた。

 小野氏達も、こう言った交流はほとんど経験が無かったという。大学や専門学校生と話すことはあるが、開発中のROMを他社の人間が触り、目の前で評価すると言うことは会社という組織では生まれにくい。原田氏は、「ストリートファイター X 鉄拳」でそういったことが実現できてはいるが、彼自身それが初めてだったという。これからプロ同士のベテランと若手の交流というのは、取材していても新鮮だった。


、「ストリートファイター X 鉄拳」のプロデューサーを務めるカプコンの小野義徳氏、「鉄拳」シリーズのプロデューサーを務めるバンダイナムコゲームスの原田勝弘氏、「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」のプロデューサーを務めるカプコンの新妻良太氏

、FK Digital台湾区執行長のMickey Lin氏と「カオスコード」の監督を務めるMichael Lin氏

【スクリーンショット】
溢れるばかりの2D格闘ゲームへの思い入れに満ちた「カオスコード」



【Taiwan Game Job Fair 2012】
2月5日に行なわれたTaiwan Game Job Fair 2012。WayiやXpec、IGSなど、台湾のゲームメーカーが一堂に会し、就職希望者を募っていた。彼らもまた、ゲーム開発を夢見る人達だ

(C)FK Digital
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(2012年 2月 6日)

[Reported by 勝田哲也]