東京ゲームショウ 2011レポート

TGSフォーラム2011 DeNAセッションレポート

当たる&当たらないソーシャルゲームのポイントを解説


9月15日~16日 開催

会場:幕張メッセ 国際会議場



DeNA取締役 ソーシャルゲーム事業本部長 小林賢治氏

 「東京ゲームショウ2011」のビジネスデイに開催されたゲーム業界関係者向けのカンファレンス「TGSフォーラム2011」にて、株式会社ディ・エヌ・エー(DeNA)のスポンサーシップセッション「DeNAのソーシャルゲームプラットフォーム戦略」が開かれた。

 講演者は、DeNA取締役 ソーシャルゲーム事業本部長の小林賢治氏。DeNAに入社してから約2年だが、当初は1年ほど人事担当で、その後、現場の最前線でソーシャルゲームを見てきたという、短期間ながら異色の経歴を持つ人物である。

 小林氏は講演のタイトルにもあるプラットフォーム戦略を語る前に、同社のソーシャルゲームの現状を紹介しつつ、どうすればヒット作を出せるかという開発・運営のポイントについても語った。スポンサーシップセッションといえば、商品アピールが基本となりそうなものだが、この講演ではかなり実務に近い話が多く、必ずしも自社をアピールするだけの内容ではない本音トークも多く飛び出した。




■ 当たるソーシャルゲームでやってばいけないこと、やるべきこと

失敗するソーシャルゲームのありがちなパターン

 最初に小林氏が語ったのは、そのものずばり「ソーシャルゲームは儲かるか」という話。ある大手ゲーム会社が四半期で78億円という大きな売り上げを達成したことなどを紹介しながら、「伸びや収益が大きく、うまくいったときは儲かる」としたが、その反面うまくいかないパターンも多く、「ソーシャルが流行っているからといって、とにかく参入すればいいという類のものではない」と安易な参入を薦めなかった。

 SNSプラットフォームを持つDeNAとしては、とにかく参入を促したいところではありそうだが、そうしないところが今回の小林氏の講演の面白いところだ。小林氏は続けて、「なぜうまくいかないのか」という端的なテーマで、失敗するパターンを挙げていった。

 典型例として挙げられたのは3つ。1つ目は、社内の余剰リソースで作ってしまうもの。「エンジニアと企画、最低2人いればソーシャルゲームは作れる。センスのいいエンジニア1人でも不可能ではない」としながらも、あくまで失敗の多い例として話した。2つ目は、よくわからないけれど外注に任せきるというやり方。これは先述の「とにかく参入すればいいという類」の典型だろう。3つ目は、作って終わるパターン。小林氏は「作った時点ではまだ5合目くらい。ここは考え方をかなり変えねばならない」と述べた。

 では、どうするべきか。まず、ソーシャルゲームは製造業ではなく、サービス業だと認識すること。「パッケージを売って、後は知らないというビジネスではない。ユーザーと対話しながら変えていかなければならない」と運用の重要性を示した。またその運用にしても、「運用とは何をするのか。カスタマーサポートか、バグ対応か。それも当然やることだが、うまくいっている会社とそうでない会社は、そこの重み付け感に温度差を感じる」と述べた。

 次にスピード感。「年に1回大型アップデートするというブロックバスターオンラインゲームのようなものはソーシャルでは無理」という。例えば同社の看板タイトル「怪盗ロワイヤル」では、月4回のイベントを打ち、継続的な機能追加を月1、2回は行なっているという。

 3点目は、エース級の人材を投入すること。これについては、書くのが早いプログラマー、斬新な企画を思いつくプランナー、エッジの聞いたグラフィッカーといったスタッフは欲しいとしながらも、「その3人がいても成功するとは限らない」とも言う。必ずチームに入れたい人は、「どの要素がゲーム全体の面白さを左右するかの勘所が見抜ける人」だという。

 ソーシャルゲームでは、先述のとおりスピード感が重要で、その調整の判断を下すためにはデータが必要になる。しかし、何百万人が1日何度もアクセスするソーシャルゲームで、全てのログを吐くのは不可能だ。仮にできたとしても、そのデータの何を見ればいいかもわからないし、ユニークユーザー数とARPUだけを眺めていても具体的な方針は立てられない。

 また調整そのものも、例えば「あるアイテムのコンプリートが簡単過ぎるので調整したい」としても、それを入手できるボスを強くするという方法1つ取っても、HPを増やすのか攻撃力を上げるのかと、調整できるパラメーターはいくつもある。またその1つを調整すると他に影響が出てしまう場合もある。さらに、コンシューマーゲームではよく使われるテストプレイという手法も使えない。ソーシャルゲームには明確な終わりがない上、課金するしないの違いもある。「バランスは個人ごとにばらばらで、その見極めは普通のゲームより難しい」と小林氏は言う。

 そこで必要になるのが「勘所」である。見る情報を絞り込むことで、触るパラメーターも限定する。それができる人がチームに欲しい、というわけだ。ただ、それがどういう人かといえば、「そのゲームを遊びこんでいる人に多い」という程度しか掴めていない。「怪盗ロワイヤル」でも、ある1人のデザイナーが「ここを触ったらいいのでは」と気づいたことで大きな変化があったという。

 この点について小林氏は、「ゲームデザインをずっと考えてきたコンシューマーのデベロッパーの方は、ここが得意なのではないか。この調整は、優れたゲームデザイナーが考えるのと同じこと。ソーシャルではそれを早くやるということ」と語った。


ユーザーが脱落するポイントを把握して対処しつつ、イベントや機能追加でゲームを最適化していく。……というのは既に当たり前の話問題はそれを考えるためのデータが膨大で、どこを見ればいいのかわからず、どのパラメーターをいじるべきか判断できない点見るべきポイントを絞り込んで数値化し、適切なタイミングで適切なパラメーターを触れる「勘所」を持つスタッフが必要。ゲームデザイナーはこれが得意?



■ 日本でソーシャルゲームがヒットするのは「日本人がクレイジーだから」?

1ソースでiOSとAndroidに対応する、DeNAの「X-device」戦略。将来的にはHTML5にも対応する
「ゲーム開発者に対しておこがましいが」としながらも、DeNAはソーシャルゲームの企画からサポートするという
日本のソーシャルゲームの成功が「日本人がクレイジーだから」ではないと示すべく、来場者に参加を呼びかけた

 続いてスポンサーシップセッションの本題となる、Mobageのプラットフォーム戦略について語られた。中国や北米などの海外プラットフォームとの共通化や、開発環境のngCoreなどについては、基本的な話は既に各所で発表されているとおり。その上で小林氏は、日本のゲーム開発者へ伝えるという視点でいくつかのキーワードを残した。

 まずはngCoreをベースとした開発環境のMobage SDKについて。iOSとAndroidに1ソースで対応できるのがウリだが、これを最も活かせるのがソーシャルゲーム。「作って終わりのタイトルなら、力技で両方をネイティブで書けばいいが、ソーシャルゲームは月に何度も改善し続ける。そんな時にiOS版は直ってAndroidは直らないということが起こっていてはたまらない」というのが理由だ。

 またMobage SDKの利点として、差分ダウンロードを挙げた。アプリのアップデートを行なう場合、通常はアプリ全てのデータをダウンロードし直している。しかしMobage SDKは差分だけ取ってきてアップデートできるので、早くダウンロードできる。小林氏は、既存の仕組みに対し、「ソーシャルゲームをやるなら当然必要だろうというものが、意外とできない。海外のソーシャルゲームでは、そんなにアップデートもイベントもないので、それに適したソリューションがなかった」と語った。

 またMobage SDK自体も、内製タイトルから上がってくる機能要望を取り込み、アップデートを続けている。小林氏はMobage SDKを指して「ソーシャルゲームを開発するのに適したエンジンになる」と語った。ただし補足として、「3Dをグリグリ動かしたいというなら、UnityやUnreal Engineを使ったほうがいい」とも付け加えた。

 また同社が強く進めているスマートフォン展開については、「スマートフォンは必ず持ち歩くが、それと同じ頻度で携帯ゲーム機を持ち歩いている人はなかなかいない。絶対持っているデバイスは強い。その上、3年くらいで約10億台のボリュームになる。そこに市場がないわけがない」と端的に考察。また北米市場においては、スマートフォンで最も利用されているアプリはツール系ではなくゲームであり、「既にゲーム機として認識されている」という分析結果も示した。

 さらに小林氏は、10億台というボリュームを実現するためのベースとなる、海外展開についても言及。iOSのトップセールスでは日米で全く違うのに、北米で成功しているタイトルは英国などグローバルに成功しており、日本だけが違うというデータを示した。日本では独自スタイルのソーシャルゲームがヒットし、非常に高いARPUを叩き出してトップセールスを席巻している。海外ではこの現状が、「日本人がそんなに金を払っているのはクレイジーだから」という見方でとらえられているという。しかし小林氏はそれを否定。「ゲームとして磨きこんできたものがあるはず。運用方法が違うし、データマイニングで捕らえているものも違う。ソーシャルゲームでは、日本は世界をリードするだけのノウハウを既に持っている」と強調した。

 そしてそれを実現させるために、DeNAはプラットフォームの海外進出を進めている。そこでの成功に必要なのは、エコシステムを作ることだという。来場した開発者たちに対して小林氏は、「これまで各社が独自に海外に乗り出して、玉砕してくることが多かった。日本のコンテンツを海外に出していき、日本人がクレイジーだからではないということを示していかねばならない。Mobageで皆さんと一緒にエコシステムを作っていきたい」とメッセージを送った。


(2011年 9月 17日)

[Reported by 石田賀津男]