東京ゲームショウ 2011レポート
TGSフォーラム2011 DeNAセッションレポート
当たる&当たらないソーシャルゲームのポイントを解説
DeNA取締役 ソーシャルゲーム事業本部長 小林賢治氏 |
「東京ゲームショウ2011」のビジネスデイに開催されたゲーム業界関係者向けのカンファレンス「TGSフォーラム2011」にて、株式会社ディ・エヌ・エー(DeNA)のスポンサーシップセッション「DeNAのソーシャルゲームプラットフォーム戦略」が開かれた。
講演者は、DeNA取締役 ソーシャルゲーム事業本部長の小林賢治氏。DeNAに入社してから約2年だが、当初は1年ほど人事担当で、その後、現場の最前線でソーシャルゲームを見てきたという、短期間ながら異色の経歴を持つ人物である。
小林氏は講演のタイトルにもあるプラットフォーム戦略を語る前に、同社のソーシャルゲームの現状を紹介しつつ、どうすればヒット作を出せるかという開発・運営のポイントについても語った。スポンサーシップセッションといえば、商品アピールが基本となりそうなものだが、この講演ではかなり実務に近い話が多く、必ずしも自社をアピールするだけの内容ではない本音トークも多く飛び出した。
■ 当たるソーシャルゲームでやってばいけないこと、やるべきこと
失敗するソーシャルゲームのありがちなパターン |
最初に小林氏が語ったのは、そのものずばり「ソーシャルゲームは儲かるか」という話。ある大手ゲーム会社が四半期で78億円という大きな売り上げを達成したことなどを紹介しながら、「伸びや収益が大きく、うまくいったときは儲かる」としたが、その反面うまくいかないパターンも多く、「ソーシャルが流行っているからといって、とにかく参入すればいいという類のものではない」と安易な参入を薦めなかった。
SNSプラットフォームを持つDeNAとしては、とにかく参入を促したいところではありそうだが、そうしないところが今回の小林氏の講演の面白いところだ。小林氏は続けて、「なぜうまくいかないのか」という端的なテーマで、失敗するパターンを挙げていった。
典型例として挙げられたのは3つ。1つ目は、社内の余剰リソースで作ってしまうもの。「エンジニアと企画、最低2人いればソーシャルゲームは作れる。センスのいいエンジニア1人でも不可能ではない」としながらも、あくまで失敗の多い例として話した。2つ目は、よくわからないけれど外注に任せきるというやり方。これは先述の「とにかく参入すればいいという類」の典型だろう。3つ目は、作って終わるパターン。小林氏は「作った時点ではまだ5合目くらい。ここは考え方をかなり変えねばならない」と述べた。
では、どうするべきか。まず、ソーシャルゲームは製造業ではなく、サービス業だと認識すること。「パッケージを売って、後は知らないというビジネスではない。ユーザーと対話しながら変えていかなければならない」と運用の重要性を示した。またその運用にしても、「運用とは何をするのか。カスタマーサポートか、バグ対応か。それも当然やることだが、うまくいっている会社とそうでない会社は、そこの重み付け感に温度差を感じる」と述べた。
次にスピード感。「年に1回大型アップデートするというブロックバスターオンラインゲームのようなものはソーシャルでは無理」という。例えば同社の看板タイトル「怪盗ロワイヤル」では、月4回のイベントを打ち、継続的な機能追加を月1、2回は行なっているという。
3点目は、エース級の人材を投入すること。これについては、書くのが早いプログラマー、斬新な企画を思いつくプランナー、エッジの聞いたグラフィッカーといったスタッフは欲しいとしながらも、「その3人がいても成功するとは限らない」とも言う。必ずチームに入れたい人は、「どの要素がゲーム全体の面白さを左右するかの勘所が見抜ける人」だという。
ソーシャルゲームでは、先述のとおりスピード感が重要で、その調整の判断を下すためにはデータが必要になる。しかし、何百万人が1日何度もアクセスするソーシャルゲームで、全てのログを吐くのは不可能だ。仮にできたとしても、そのデータの何を見ればいいかもわからないし、ユニークユーザー数とARPUだけを眺めていても具体的な方針は立てられない。
また調整そのものも、例えば「あるアイテムのコンプリートが簡単過ぎるので調整したい」としても、それを入手できるボスを強くするという方法1つ取っても、HPを増やすのか攻撃力を上げるのかと、調整できるパラメーターはいくつもある。またその1つを調整すると他に影響が出てしまう場合もある。さらに、コンシューマーゲームではよく使われるテストプレイという手法も使えない。ソーシャルゲームには明確な終わりがない上、課金するしないの違いもある。「バランスは個人ごとにばらばらで、その見極めは普通のゲームより難しい」と小林氏は言う。
そこで必要になるのが「勘所」である。見る情報を絞り込むことで、触るパラメーターも限定する。それができる人がチームに欲しい、というわけだ。ただ、それがどういう人かといえば、「そのゲームを遊びこんでいる人に多い」という程度しか掴めていない。「怪盗ロワイヤル」でも、ある1人のデザイナーが「ここを触ったらいいのでは」と気づいたことで大きな変化があったという。
この点について小林氏は、「ゲームデザインをずっと考えてきたコンシューマーのデベロッパーの方は、ここが得意なのではないか。この調整は、優れたゲームデザイナーが考えるのと同じこと。ソーシャルではそれを早くやるということ」と語った。
ユーザーが脱落するポイントを把握して対処しつつ、イベントや機能追加でゲームを最適化していく。……というのは既に当たり前の話 | 問題はそれを考えるためのデータが膨大で、どこを見ればいいのかわからず、どのパラメーターをいじるべきか判断できない点 | 見るべきポイントを絞り込んで数値化し、適切なタイミングで適切なパラメーターを触れる「勘所」を持つスタッフが必要。ゲームデザイナーはこれが得意? |
■ 日本でソーシャルゲームがヒットするのは「日本人がクレイジーだから」?
1ソースでiOSとAndroidに対応する、DeNAの「X-device」戦略。将来的にはHTML5にも対応する |
「ゲーム開発者に対しておこがましいが」としながらも、DeNAはソーシャルゲームの企画からサポートするという |
日本のソーシャルゲームの成功が「日本人がクレイジーだから」ではないと示すべく、来場者に参加を呼びかけた |
続いてスポンサーシップセッションの本題となる、Mobageのプラットフォーム戦略について語られた。中国や北米などの海外プラットフォームとの共通化や、開発環境のngCoreなどについては、基本的な話は既に各所で発表されているとおり。その上で小林氏は、日本のゲーム開発者へ伝えるという視点でいくつかのキーワードを残した。
まずはngCoreをベースとした開発環境のMobage SDKについて。iOSとAndroidに1ソースで対応できるのがウリだが、これを最も活かせるのがソーシャルゲーム。「作って終わりのタイトルなら、力技で両方をネイティブで書けばいいが、ソーシャルゲームは月に何度も改善し続ける。そんな時にiOS版は直ってAndroidは直らないということが起こっていてはたまらない」というのが理由だ。
またMobage SDKの利点として、差分ダウンロードを挙げた。アプリのアップデートを行なう場合、通常はアプリ全てのデータをダウンロードし直している。しかしMobage SDKは差分だけ取ってきてアップデートできるので、早くダウンロードできる。小林氏は、既存の仕組みに対し、「ソーシャルゲームをやるなら当然必要だろうというものが、意外とできない。海外のソーシャルゲームでは、そんなにアップデートもイベントもないので、それに適したソリューションがなかった」と語った。
またMobage SDK自体も、内製タイトルから上がってくる機能要望を取り込み、アップデートを続けている。小林氏はMobage SDKを指して「ソーシャルゲームを開発するのに適したエンジンになる」と語った。ただし補足として、「3Dをグリグリ動かしたいというなら、UnityやUnreal Engineを使ったほうがいい」とも付け加えた。
また同社が強く進めているスマートフォン展開については、「スマートフォンは必ず持ち歩くが、それと同じ頻度で携帯ゲーム機を持ち歩いている人はなかなかいない。絶対持っているデバイスは強い。その上、3年くらいで約10億台のボリュームになる。そこに市場がないわけがない」と端的に考察。また北米市場においては、スマートフォンで最も利用されているアプリはツール系ではなくゲームであり、「既にゲーム機として認識されている」という分析結果も示した。
さらに小林氏は、10億台というボリュームを実現するためのベースとなる、海外展開についても言及。iOSのトップセールスでは日米で全く違うのに、北米で成功しているタイトルは英国などグローバルに成功しており、日本だけが違うというデータを示した。日本では独自スタイルのソーシャルゲームがヒットし、非常に高いARPUを叩き出してトップセールスを席巻している。海外ではこの現状が、「日本人がそんなに金を払っているのはクレイジーだから」という見方でとらえられているという。しかし小林氏はそれを否定。「ゲームとして磨きこんできたものがあるはず。運用方法が違うし、データマイニングで捕らえているものも違う。ソーシャルゲームでは、日本は世界をリードするだけのノウハウを既に持っている」と強調した。
そしてそれを実現させるために、DeNAはプラットフォームの海外進出を進めている。そこでの成功に必要なのは、エコシステムを作ることだという。来場した開発者たちに対して小林氏は、「これまで各社が独自に海外に乗り出して、玉砕してくることが多かった。日本のコンテンツを海外に出していき、日本人がクレイジーだからではないということを示していかねばならない。Mobageで皆さんと一緒にエコシステムを作っていきたい」とメッセージを送った。
(2011年 9月 17日)