CEDEC 2011レポート
国内で本格普及が進むゲームエンジン「Unity」レポート
ますます充実するゲーム開発環境を取り巻く「今」をご紹介
「ゲーム開発の民主化」を理想に掲げて日進月歩の進化を続けるゲームエンジン「Unity」。デンマークに開発の本拠地を置くUnity Technologiesによるこのゲームエンジンは、先進のゲーム開発フローを実現する機能性と、圧倒的に安価なライセンス費用とを武器に、世界最大のコミュニティを持つゲーム開発環境へと成長している。
そして今年に入り、「Unity」は日本でのユーザー数が急激に伸びつつあるという。その背景には、ゲームエンジンとしての完成度がますます高まっていることはもちろん、グリーとの業務提携や、日本語による開発情報が充実してきたことなど、様々な出来事が複合的に作用している。
昨年のCEDECに引き続き、今年のCEDECでもUnity Technologiesによるスポンサーセッションが行なわれた。「Unity 3.4 と日本の展開」と題されたこのセッションでは、昨年から1年の間に激変したUnityを取り巻く国内状況と、最新の開発事例について報告が行なわれたので、本稿でレポートしたい。
■ 日本のUnityユーザー数の伸びは世界一! 法人設立も果たし、新展開へ
David Helgason氏 |
現在のUnityコミュニティ状況。豊富な情報にアクセスできる状況ができている |
本セッションの注目度は極めて高く、開場20分前にはカンファレンスルーム前に長蛇の列、開場してからは場内に立ち見はもちろん、通路にまで聴講者が溢れるという超満員の様相を呈した。
そんな異様な熱気の中、Unity Technologiesの設立者でCEOのDavid Helgason氏が登場し、「我々のアイディアは、ゲームを作る人達に貢献すること、それがすべてです」と挨拶。エンジン提供企業としての姿勢を紹介した。
Helgason氏が考えるゲーム業界の良いところは、多くの高い能力を持つ人々が強い熱意を持って仕事に取り組んでいること、ゆえに「いいひと」が多いことだという。Unity Technologiesでゲームエンジン開発に励む数十人の技術者もまたそういった人々の一部であり、ゲーム開発の民主化というゴールに向けて、日々自由闊達な研究開発に取り組んでいるとのことだ。
Unityの現在のステータスとしては、全世界で約60万人のUnityユーザーが存在する。うち25%が毎月Unityを使用してゲーム開発を行なっており、そのうち約8,000人が日本のユーザーだという。Unityの強みは、巨大なコミュニティが形成されており、各種フォーラムを始めとするオンライン上のユーザーコミュニティなどでオープンな情報の共有が行われていることである。これが、Unityが目指すゲーム開発の民主化の一端であろう。
Unity Technologiesスタッフの変遷。数年前は実に小規模なチームだったものが、わずかな期間で大規模なチームに成長。写真は1年前のもので、現在はさらに2倍のチームサイズになっているという |
Unity日本担当ディレクターの大前広樹氏 |
Unityにおける日本市場は世界2位の規模に急成長した |
日本初のUnity開発本を著した株式会社ゼペットの宮川義之氏も会場で挨拶 |
Unityの日本担当ディレクターを務める大前広樹氏は、日本におけるUnityの状況を紹介した。Unityの日本国内ユーザー数は今年3月のGDC 2011をきっかけに爆発的に伸び、その伸び率はなんと世界で1番であるそうだ。売上ベースでは米国に次ぐ世界2位の規模に達したそうで、Unity Technologiesにとって日本が非常に重要な地域となったことが示された。
また大前氏は、Unityの日本法人「ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン」が9月1日に設立されたことを報告。これまでの1年は大前氏が個人として草の根活動に徹してきたが、今後は企業活動として、日本語情報の拡充、技術サポートの強化、イベントやセミナーの開催、ユーザー事例の可視化、コミュニティ活動の促進など、様々な取り組みをフットワーク軽く進めていきたいと抱負を語った。
こうして現在、Unityでは公式ドキュメントの日本語化に向けて動き始めている。また、Unity開発情報書籍が9~10月に相次いで4冊発売されることもうれしいニュースだ。そのうちの1冊、日本で最初のUnity開発本となる「Unityによる3Dゲーム開発入門」(宮川義之氏著:オライリー・ジャパンより9月10日発売予定)はCEDEC会場内で先行発売され、150冊の在庫が初日に全部売り切れてしまったという人気ぶりである。
こうして、Unityにとって日本が重要な地域となり、それと同時に、日本のゲーム開発者にとってUnityがさらに重要なゲームエンジンになる、という相互補完的なスパイラルが動きつつある。今後は大型ゲームデベロッパーでの本格導入や、教育現場での利用など、業界を取り巻く両極での展開が視野に入ってきそうだ。Unity Technologiesが掲げる理想「ゲーム開発の民主化」が、この日本で急速に進んでいく。
■ グリーも本格導入でゲーム開発! 大小各種の開発事例紹介
グリーの芳賀洋行氏がUnity導入事例を紹介 |
グリーのグローバル/マルチデバイス戦略 |
セッションの中で3つの最新開発事例が紹介された。最初に登壇したのはグリー株式会社 開発本部でエンジニアを務める芳賀洋行氏。オートデスクにて3DCGソフトウェアの開発・コンサル業務に従事した経歴を持つ芳賀氏は現在、グリーにてUnityを使ったゲーム開発に取り組んでいる。
グリーは大手ソーシャルゲームプラットフォーマーとして、独自のグローバル/マルチデバイス戦略を進行中だ。グリーのソーシャルプラットフォーム機能をUnityで利用できるプラグインの提供や、グリー向け開発者に対するUnityのAndroid/iPhoneプロフェッショナルライセンス無料提供の独占権獲得といった取り組みはその一環であるといえる。
そのグリー本体では、Unityを使って2タイトルのスマートフォン向け2Dゲームを開発中であるという。芳賀氏はUnityを「買ったその日からゲームが作れるのがいい」と高評価。導入の極め手としてそのスピード感を筆頭に、様々なニーズに答える高い拡張性、そしてエンジン自体の開発実績が長く堅牢であることを挙げている。
また、数十万人のユーザーが存在することで、ネット上に「巨大な集合知が存在している」ことも指摘。わからないことがあれば検索するとたいていのことは解決し、細かい技術的問題にとらわれることなく、作りたいゲームに集中できるこのが素晴らしいと語った。
グリーでの開発ではC#に統一して開発を進めているという。一部、「Flash用のベクターアートをゲーム内で使いたい」などといったアプリ側の要望を実現するためにネイティブコードでプラグインを書き、各種の機能拡張を施して柔軟に運用していることも紹介された。グリーでは無料のUnity技術セミナーを提供するなど、内部開発で培ったノウハウを積極的にサードパーティ開発者に提供していきたいとしている。
導入初日からゲーム作りができ、また、様々なレベルでの使いこなしができることがメリットであると強調 | ||
Unityで足りないものはプラグインとして作り込み、理想的な開発環境を構築している。それなりの規模感がある開発チームではこのような活用法が一般的になりそうだ |
プロペの小黒哲郎氏はiPhone向けゲーム開発での導入事例を紹介 |
導入メリットのまとめ |
続いて開発事例を披露したのは、WiiやニンテンドーDSで豊富なゲーム開発実績を持つ株式会社プロペのプログラマー、小黒哲郎氏。プロペでは最近になってUnityを使い始め、半年も経たないうちにiPhone向けのきちんとしたゲームアプリを2作品リリースすることができたという。
「Power of Coin」というゲームでは、物理的なコインの動きを、Unity組み込みの物理エンジンを用いることで非常に簡単に実装できたと評価。また、「REAL ANIMALS HD」という作品では、CGデザイナーがUnityを使って動物のモデルをシーン内にポンポンと配置していたところから企画がスタートしたという、プログラマ以外にも簡単に使えるツールならではの開発秘話が紹介された。
またこの作品では「Unityでどこまでビジュアルクオリティが出せるか」という実験も兼ねたそうで、iPad上で非常に美しいグラフィクスが実現されている。
小黒氏が「Unityを使ってよかったこと」として述べた内容のなかで、会社としてAndroid向けの開発が出遅れていたなか、Unityを使って作ったゲームを試しにAndroid向けにビルドしたらそのまま動いたのでびっくりした、というくだりがユニークな感想として面白い。これによってAndroid向けのサービスを展開することも可能になったようで、Unityの充実したマルチプラットフォーム対応が新たなビジネスチャンスを生み出した好例となりそうである。
プロペではUnityを導入後わずか半年で、高品質のiPhoneゲームを2作品開発。マルチプラットフォーム機能を生かしてAndroid版の展開も視野に入れている |
高橋啓治郎氏はUnityを通じて体得したゲームエンジン導入論を展開 |
立方体を積み上げていき、相手のコマの閉じ込めを目指す2プレーヤーゲーム |
最後に開発事例を語ったのは、フリーランスのプログラマーとして活動する高橋啓治郎氏。高橋氏は、「CubeSieger」というゲームを極めて小規模のチームで開発した。Positというボードゲームのコンピューター版であり、オリジナルのゲームデザイナーから直に依頼を受けて開発したという。
高橋氏はUnityを使ってみるということ自体を「裏目標」として本作を開発。その結果、当初抱いていたUnityへのイメージがガラリと変わったという。この点について高橋氏は興味深いメタファーを用い、このようなゲームエンジン導入の勘所を紹介している。
曰く、従来の開発手法を「自動車」とすると、ゲームエンジンは「飛行機」だ。どちらも、目的地に行くという願望を叶えるための手段だが、そのアプローチの仕方が全く異なる。自動車は地面を走るほかないが、飛行機ならあらゆる障害物をひとっ飛びしてダイレクトに目的地を目指すことができる。そこに根本的なメソッドの違いがある。
高橋氏は、メソッドの違いに気がつかないままゲームエンジンを導入すると「飛行機で道路を走る」がごときになりがちだと指摘。伝統的な手法にこだわる現場ではそういった誤謬が珍しくないという。新しい手法に適応するためには練習が必要だとも語り、「皆さんで空を飛べるようになりましょう」と、Unityをこれから使用しようと考える聴講者にエールを送った。
□コンピュータエンターテインメント協会(CESA)のホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2011(CEDEC 2011)」のページ
http://cedec.cesa.or.jp/2011/
□Unityのホームページ
http://unity3d.com/japan/
(2011年9月9日)