SCEJ、PS3「ICO」と「ワンダと巨像」
クローズドイベントを都内で開催。上田氏と外山氏がゲストで登場


9月3日 開催

会場:プレイステーションホール


上田文人氏
外山圭一郎氏

 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)は、、9月22日発売予定のプレイステーション 3用アクション・アドベンチャー「「ICO」と「ワンダと巨像」のクローズドイベントをプレイステーションホールにて開催した。

 本イベントは、「ICO」と「ワンダと巨像」スペシャルサイトにて実施中の「Great Scene Sharing」キャンペーンの一環として、抽選で40名のブロガーを招待。PS3「ICO」、「ワンダと巨像」でディレクターを務めるゲームデザイナーの上田文人氏、「サイレントヒル」、「SIREN」のほか、現在はPS Vita「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」を開発中のゲームディレクター外山圭一郎氏によるトークセッション、PS3「ICO」、「ワンダと巨像」HDリマスター版の先行体験、3D立体視体験、「ICO」、「ワンダと巨像」未公開原画集の展示が行なわれた。

 トークセッションでは、上田氏と外山氏がさまざまな秘話を披露。「ICO」について質問された上田氏は「僕が初めてゲームデザインとディレクションをしたタイトル。当時はわからないことだらけで苦労した、思い出の作品。今回PS3になって解像度が上がり、テクスチャの差し替え、3D対応などをやっているが、自分が1番見て欲しいのは『あの当時、志したものは、今も変わらず評価されるんじゃないか、受け入れられるんじゃないか』というところ。プレイしたことがある人は、何か新しい発見があればいいなと思っている」とコメント。外山氏に「3Dになって1番変わったところは?」ときかれると「細かいところを変えてはいるが、あえてオリジナル版に忠実にもってきた」と説明した。

 当時、ゲーム業界に入ってはいたものの、元々ゲームデザインやディレクション畑の人間ではなかったという上田氏。SCEJにきてゲームを作れるとなったとき「経験豊富な人たちに対して、どうすれば太刀打ちできるか。自分が若かったというものあるけど、人がやっていることの逆をやろう、と。最初の発想は単純なところだった」と当時を振り返る。外山氏は、ゲーム雑誌で紹介された「ICO」を見て「これ絶対に海外で作ってるよ。海外スタジオのどこからか持ってきたのかな?」と思ったという。

 「ワンダと巨像」について質問された上田氏は「作り始めたキッカケは『ICO』で細かい整合性をとったレベルデザインを4年間くらいやっていたストレス。パズルは面白いんだけど、チマチマしたパズルゲームは当分作りたくないや! と思った。次はアクション活劇で、プレイしたとしても偶然性の高いタイトルを作りたいというところからスタートした。元々はオンライン対応だったが、色々形が変わって今のようなスタンドアロンのゲームになった」と説明。当時の外山氏は「ワンダと巨像」について「ボス戦しかできてないんだよ! どうするんだろう?」と思っていたら、本当にボス戦しかなく、その決断に非常に驚いたという。海外作品に多大な影響を与えた点について話がおよぶと、上田氏は「インタラクションしていくゲームは、今後主流になると自分のなかで思っていたが、そこまでには至らなかった」と言い「それならば」と今1度突き詰めていくタイトルが現在開発中のPS3「人食い大鷲のトリコ」だという。

 8月15日~10月31日まで実施中の、「ICO」「ワンダと巨像」の名シーンから自分の好きなものをTwitter、Facebook、mixiでシェアすることで、WEB限定のオリジナルプレミアムグッズが抽選で当たるキャンペーン「Great Scene Sharing」。外山氏、上田氏それぞれにお気に入りのシーンをピックアップしてもらったところ、外山氏はまず、廃墟の表現、生々しさが印象に残ったという「シーン9 崩れる橋」をチョイス。上田氏は「なんでこういうシーンを作ったかというと、崩れることによって宙ぶらりんの状態になり、そこから引き上げる。つまり、ここから先も手をつないでくださいね、というアピール」と補足する。

 廃墟の表現ついては「表現できているんだから、取材しなくてもいいんですよ」と一切取材しなかったという上田氏だが、乗馬シーンだけは取材にいったといい「結構参考になりました。モーションもそうですが、参考になったのは乗ったときの感覚ですね。クルマとか自分でダイレクトに操作できるものは、アクセルをあけたときに無意識に上体を前にもってくる。馬はダイレクトに操作できるわけじゃないので、上は不安定。そのあたりを取り入れた」と説明。外山氏は、当時としては斬新なカメラの挙動についても言及。見やすさを最優先とした当時主流のアングルではなく「ゲームを進行させていくうえで、物足りない点があることはわかりつつリリースした。ただ、そこに関しては、ユーザーからあまり不満が出てこなかったので安堵した」という。

 「ワンダと巨像」から外山氏が選んだのは「シーン20 最後の一撃はせつない」。「普通、1番ゲームで褒めてくれる場面で、嫌な気持ちというか“背徳感”みたいなものを感じた」という外山氏。「そこには裏話がありまして」という上田氏は「ゲームを作るときって、最初から専用楽曲ができているわけじゃない。ここのシーンは、ある映画のサントラ、物悲しい曲をこっそり入れていたんですが、それをプレイしたスタッフが爆笑した。普通、こういうところってファンファーレが鳴る。それが物凄く悲しい曲なので、何かの間違いじゃないかって。それを今でも鮮明に覚えていて。多数決でモノを作るってことは、いいこともあるけど、危険性もあるんだなってことがわかりました。実際これがリリースされて、みなさん違和感を抱かれたかというと、そうでもなかったと思うんですよ。思い出深いところですね」と当時を振り返る。

 上田氏は「シーン23 その手を離さない」をチョイス。「ゲームデザインの細かい話になりますが、ここって『ICO』に対して『ジャンプしよう』などと一切いわないシーン。これまで一緒に旅をしてきて“こういう状況に置かれたとき、どうするか”をプレーヤーに委ねている。皆ここでジャンプしてくれるんだろうか? と思っていたが、発売後のレビューなどを見ると『ここは迷わずジャンプしました』という意見が多くてレベルデザインとしては大成功。周りの環境を作って、いかに感情移入してそのような行動をしてもらうか、本当に苦労した」と説明。

 「ワンダと巨像」について、上田氏はエンディングの一部シーンをチョイス。「僕が気に入っているのはエンディング全体なんですね。エンディングの絵コンテは全部自分で描いているんですけど、大谷幸さんが作曲された曲がたくさんあるなかで『このフレーズのこことここを使おう』とか自分で編集してサウンドの人に渡した。一部は変わっているんですけど、自分で何回ヘッドホンで聴いていても『この音楽の使い方は、いい!』と自信があった」と説明。「ICO」については、外山氏同様に「崩れる橋」をチョイス。理由は「(橋が崩れるなど)実体験はなくて。ゲームデザインの整合性から考えると、扱いやすいシチュエーション。ただ、もしかしたら自分の原体験で、何か橋に関するイメージがあるのかもしれない」とコメント。

 「作品を創作するにあたって」というテーマでは、まず外山氏が上田氏のスタイルに言及。「上田さんて世界観が鮮烈だから、(ゲーム作りは)そこを再現する工程と思っていたが、話してみると、もっとメカニックから入ることが多いのが意外だった」という外山氏。「設定ありきで何かを作るというのは、これまでにない。ただ、強烈なビジュアルイメージみたいなのが、最初にある。『ICO』でいうと、自分より背の高い女の子と手をつないでいる男の子が、ビジュアルインパクトとして強いだろうな、とか思いました。『ワンダと巨像』でいうと、馬に乗って草原でたたずんでいるのって格好いいよな、とか。それと同時くらいなんですけど、メカニックも考える。『ICO』なら手を引っ張る、『ワンダと巨像』なら馬に乗って巨大なものと戦って、それによじ登るみたいな。本当にまずはそこからなんです。世界観はその次で、ゲームデザインの整合性、機能性から考えていって、そのなかから選択できるベストなものを、そのつど選んでいく」とコメント。上田氏は、外山氏ともに「ビデオゲーム=テクノロジーの進化という最後の世代。いい意味でも悪い意味でも、そのロマンからは逃げられない(上田氏)」と自らを評した。

 「今後の活動。これから」についてきかれた上田氏は「『人喰い大鷲のトリコ』を満足いく形で完成させなければいけないと思っています。僕の信念として、娯楽商品である限りは、実際に優れているかどうかは別として、お客さん、プレーヤーにとって優れたものであると感じてもらえないといけない。仕事としてやっていくなかで、それがまっとうできることもあれば、そうじゃないこともある。ディレクター、デザイナーの立場からすると、できるだけそれをまっとうできるように、今後もあらがっていきたいなぁと思います」とコメント。外山氏は「年末に向けて、PS Vitaという新しいハードの売り上げに貢献できるタイトルにすべく、鋭意製作中です」と「GRAVITY DAZE」の最新PVを上映。「元々ホラーをやる前から、こういうゲームを作りたいと思っていた。すごく気合が入っています。TGS 2011にプレイアブル出展しますので、ぜひ遊びにきてください」と意気込みをあらわにした。

 トークセッションの最後に、上田氏は「今回、9月22日に『ICO』、『ワンダと巨像』HDバージョンが発売されます。このような形で、かれこれ10年前、6年前の作品がリリースできるようになったのは、日本だけに限らず、ファンの方々が応援してくださった結果じゃないかなと思っています。それは凄く光栄なことに思います。ただ、自分がやっている新しいタイトルもある。気持ちとしては、自分の最新作が代表作になると思っているので、これからも応援してください。よろしくお願いします」とコメントした。


【ICO】
プラットフォーム:PS3、ジャンル:アクション・アドベンチャー、発売日:9月22日、価格:3,980円、CERO:B(12歳以上対象)

【ワンダと巨像】
プラットフォーム:PS3、ジャンル:アクション・アドベンチャー、発売日:9月22日、価格:3,980円、CERO:B(12歳以上対象)

【ICO/ワンダと巨像 Limited Box】
プラットフォーム:PS3、ジャンル:アクション・アドベンチャー、発売日:9月22日、価格:6,980円、CERO:B(12歳以上対象)。内容物:ゲームソフト「ICO」と「ワンダと巨像」、BRUTUS特別編集ブックレット(約100ページ)、ダイナミックカスタムテーマ(プロダクトコード)、・gXMB・h用アバターデータ(プロダクトコード)

【先行体験】【未公開原画集の展示】【3D立体視体験】
わずかな時間だが、プレスにも先行体験が許された。HDリマスターの効果は素晴らしいものがあり、新規はもちろんPS2版をやりこんだ人も(というか、そういう人にこそ!)ぜひプレイしていただきたい絵コンテはEDなどネタバレを含んでしまうため、特典などに入れられずなかなか日の目を見る機会がない。上画像はブロガー諸氏が帰宅した直後だが、開催中はみなさん真剣な表情で貴重な原画に見入っていた「ICO」、「ワンダと巨像」3Dオートデモを設置。鮮明で奥行きのある3D表現は“リッチ”の一言。筆者は3D対応TVを所有していないため、購入を真剣に検討中


(C)Sony Computer Entertainment Inc.

(2011年 9月 3日)

[Reported by 豊臣和孝]