GDC 2011レポート

なぜ人々はMMOをひとりでプレイするのか? 米国から最新報告
「The Loner: Why Some People Play MMOs Alone」


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 近年、多人数同時参加型のMMOゲームを1人でプレイする人が増えている。かつてMMOがブームだった頃、そうしたプレーヤーはメーカーにとっても、ユーザーにとっても基本的なゲームデザインを無視したおかしなプレーヤーであるとして嘲りの対象となり、結果としてLoner(一匹狼)の意見は黙殺されてきた。

Bioware AustinのDamion Schubert氏
フォーラム等で聞かれる問いかけ「ソロで遊べますか?」

 ところが現在はそれが大きく様変わりしている。Lonerはいつのまにかオンラインゲームシーンにおいて市民権を獲得し、ユーザーはソロで遊べるコンテンツの存在を常に気に掛けながら次のオンラインゲームを探し、ゲームメディアも新作に対して「このコンテンツは1人でも遊べますか?」と問いかける。もちろんメーカーもそうした期待に応えなければならなくなっている。となると重要になってくるのは「Lonerとは一体何者であり、どういう理由でソロプレイを好むのか?」という冷静な分析だ。

 GDC最終日3月4日の最後のセッションで、「The Loner: Why Some People Play MMOs Alone」、「なぜ人々はMMOをひとりでプレイするのか?」というそのものずばりのセッションが行なわれた。講演を担当したのはMMORPGの元祖である「Meridian 59」を皮切りに数々の北米産MMORPGの開発を手がけ、現在はBioware Austinで「Star Wars: The Old Republic」リードシステムデザイナーを担当しているDamion Schubert氏。

 本セッションは、開催直前で決まったため、スケジュール表には掲載されておらず、セッションバリューから考えると驚くほど聴講者が少なかったが、Schubert氏は「秘密のセッションにようこそ」と笑いを誘いながら、その貴重な研究成果を報告してくれた。




■ Lonerを10カテゴリに分類。Loner(1匹狼)はLoser(敗者)ではない

Lonerはヒロイックな活躍を指向したがる
MMOゲームの孤独はまるでニューヨークのようだとSchubert氏は言う

 Schubert氏は、自らの長い開発経験を引き合いに、特定の人々がソロプレイを好む傾向があることについて長年考えて来たという。開発者の立場としては、そういうユーザーに対しては「ひとりでプレイするのはおもしろくないので、みんなで遊んで欲しい」という風に提案してきたが、その一方でMMOなのに「みんなで遊びたくない」という奇特な人がいることを知り、北米の開発者は徐々に考えを改めていったという。

 MMOゲームの売り文句は多人数プレイとソーシャル性であり、そこに無限の可能性を秘めたゲームジャンルであるにもかかわらず、ソーシャルな関わりを積極的に避ける人がいる。それはまるで世界最大規模の人口を擁しながらシングルで暮らす人が多いニューヨークのようだとSchubert氏はいう。

 「『マーク・トゥウェインは、ドームや尖塔が屹立する何百万人もの人々が暮らす大都市の中で孤独を感じる』とニューヨークを表したが、孤独を好む人がいる一方で、実は何らかの理由で孤独になり、寂しいと感じている人もいる。そういう人たちに対して、ソーシャルな道を開くのは、ゲーム開発者にとってMMOゲームのデザイン上のチャレンジのひとつではないか」とした。また、積極的に1人を選ぶLonerは、理由があって1人を選んでいるのであり、決してLoser(敗者)ではないと擁護。Schubert氏はいずれのケースの場合でも、ゲームで孤立している人にもっと目を配るべきではないかというわけだ。

 続いてSchubert氏は、自らの経験からLonerを10のパターンに分類し、それぞれに解説を加えていった。


1:The New kid in town(新規ユーザー)

 新規でゲームを始めたユーザー。まったくの白紙状態で、繋がりやフレンドがおらず、さっぱりわけがわからない。あるいはフレンドが一緒だったかもしれないが、フレンドが先に辞めてしまい1人でプレイせざるを得なくなった人。序盤でソーシャルな結びつきができ、ゲームがわかるとおもしろくなってくるが、プレイの仕方がわからなかったり、学ぶのが面倒だと感じる人は辞めてしまう可能性がある。

 Schubert氏は過去に携わったMMORPG「Asheron's Call」を引き合いに、この新規ユーザーの取り扱いの難しさを報告。同作には高レベルユーザーが低レベルユーザーをリクルートし、師弟関係を持つことで、半強制的なコミュニティを構築するシステムを採用していたが、なかなかうまくいかなかったという。やはりゲームに馴染んでからソーシャルな関係を結びたいと考える人が大半だったようだ。


2:The Daria(人間嫌いな人)

 メーリングリスト参加者のうち9割は自らポストしない。情報に価値は認めるものの関わりを避けるために自らことを起こそうとはしない。これはメーリングリストのシステムそのものにも問題があるのではないかとSchubert氏はいう。

 Schubert氏はラスベガスのカジノをデザインを引き合いに、社会的なスペース(距離感)の取り方について語った。かつてのカジノのデザインはまるで宮殿のようで天井は高く、何よりも豪華さを重視するためにスペースをたっぷりと取り、そこにスロットマシンを敷き詰めた。一匹狼のギャンブラーはそうした環境でも十分適合できたが、多くの客は見には来ても肝心のカジノは他でプレイした。それは天井が低く、複数人が座れるテーブル台を多く設置し、常にいくつかのグループがいて、コンパニオンが飲み物を配りに行き交うという、今では主流となっているソーシャル性の高いカジノスタイルだ。人々はそのような空間を居心地が良いと感じるというわけだ。


3:The Sociopath(反社会的主義者)

 新規ユーザーは、新たな場所での標準的な決まりやルールがわからない。そこでソーシャルな関係を結ぶためにはそれらの決まり事やルールを学習すべきだが、そんなものは学びたくないと考える人もいる。「Lamebook」のようなウィットに富んだサイトを頭から理解せず、共感能力にも乏しい。このパターンは開発者ではもはや手助けできることは少なく、退場を願わないといけないことがあるかもしれない。ただし、多くの人の共感が得られるようなゲーム作りは重要。


4:Mr Lunch at The Desk(机でランチを食べる人)

 ユニークな状況でプレイを行なう人。多くの人は、仕事の休憩時間や妻や子が寝ている間など、現実世界の制約の中でゲームをプレイしている。時間がなく45分の時間が確保できないためにそうしたコンテンツが利用できなかったり、オフィスでプレイするためヘッドセットが使えず、ボイスチャットが利用できなかったりする。そうしたユーザーに適したコンテンツを提供することは必要だろう。


5:The Introvert(内向的性格の人)

 CCDの調査によれば、北米の人口の実に25%~30%は内向的な性格であり、ゲーマーは一般の人と比較してさらに内向的な傾向が高いという。内向的な人は鬱になりやすく、オンラインゲームを社交の代替手段にしているという。しかし、これらの人たちは、他のユーザーを恐ろしい存在として捉えており、こうした人たちばかりを30人集め、大規模コンテンツを遊ばせようと考えるのは難しいことかも知れない。ただ、中には手を差し出されるのを待っている人もあり、任せることも大事だということだ。


6:The Adrift(彷徨い人)

 ギルドが解散するなど何らかの理由でソーシャルサークルを失ってしまった人。彼らは孤独を感じており、この場合のソロプレイは救済を必要としている。開発者は、彼らのWeak Tie(弱化した結びつき)を強化すべきだというのがSchubert氏の基本的な考え方となる。Schubert氏は、Facebookについて、過去に失った絆を取り戻す取り組みと規定し、オンラインゲームにおいても同じようなアプローチは有効ではないかとしている。


7:The Unworthy(ふさわしくない人)

 パーティーによるバトルで活躍したいと考えているが、相手の評価や失敗を恐れて行動に踏み切れない人。Schubert氏は、会場でタンク(盾役)をしたことがある人を挙手させたところ、半分弱の人が手を挙げた。「結構多くの人が手を挙げてくれたが、ご存じのようにタンクの役回りは難しい。役割を果たすことに失敗してメンバーは貴方に対して怒るかも知れないし、みんなが何度も死ぬかも知れない」と脅し、このように意思はあるが失敗を恐れるが故に行動に移せず、結果として1匹狼になっている彼らを、開発者はどのようにして拾い上げるかが大事だとした。


8:Vacationer(観光客)

 バカンスに来ている観光客のようにゲームの中ぐらいは日常の義務や責任から解放されたいと考えている人。Schubert氏は、かつて「StarWars Galaxies」を開発していた際、ログインするたびに「パンツを作らないのか?」、「なぜパンツを作ってくれないのか」とスパムのように言ってくる人がいて、フラストレーションが溜まったという。人はゲームは続けたいが、様々な責務から逃れたいと思う瞬間がある。Schubert氏は、そういう瞬間は容認されていいと考えているようだ。


9:The Commitment Phobic(約束恐怖症)

 多くのユーザーは大人数で楽しめるレイドを好むが、中には彼らとの約束を極端に恐れる人もいる。ギルドに加入することを恐れ、ギルドに入ることはギルドメンバーすべてと結婚するようなものだと感じ、ギルドへの貢献の少なさに罪悪感を覚え続ける。開発者は彼らに対し、その苦痛を和らげる方法を考えるべきだとSchubert氏は考える。たとえば、ボイスチャットなどを進めてみるのもいいという。しかし逆にボイスチャットを必須とすると彼らは辞めてしまうかも知れない。


10:The Garbo(孤独を好む人)

 Greta Garboは、ハリウッド初期の伝説的女優。わすか36歳で引退し、それ以来、一切マスコミとの接触を避け、生涯独身を通したという人物。そもそも論として、「孤独自体を好む人がいる」ことをどう捉えるか。ここは本セッションの中核的な議題でもある。

 Schubert氏は一般論として、1人でいることを好む人は、なんらかの問題を抱えていると考えるが、実際問題として「Habbo Hotel」の調査でも、純粋なソーシャルゲームであるにもかかわらず実に19%のユーザーがソロでのプレイを望んでいる。しかしSchubert氏は、だからといって“Massively Singleplayer Game”を作ることがこの解決策になるとは考えていないようだ。原始的なソーシャルスペースの“バー”でも、ソーシャルな空間の中で孤独を楽しむことができるが、繰り返し行くことによりコミュニティの輪ができてくる。


Schubert氏は各階層への“投資”に応じたコンテンツとリワードをしっかり用意すべきだという

 Schubert氏はまとめとして「MMORPGはクレイジーかつハードコアなゲームプレイを要求されるのは確かだが、だからといって1人プレイが否定されるわけではない。MMORPGを含め、すべてのゲームはカジュアルな要素から始まり、順を追って少しずつコアゲーマーに近づいていく。その階層のレベルが上がるたびにいろいろな人とかかわらざるを得ない。開発者はハードコアなゲームプレイと、ソロプレイを切り分けて、各階層に対してコンテンツを提供すべきではないかという。

 その一方で、実際に「World of Warcraft」をソロでどこまでもレベルを上げてしまう人もいる。「それでも1人でいたいというならそれはそれで構わないが、ひょっとしたら寂しいと感じている、逃げているだけだとしたらどうだろうか。そうした人たちに我々は何ができるだろうか?」と訴えた。

 Schubert氏の話は、たとえ話が多く、理解するのがやや難解だったが、実に良く調べ抜いており、自分自身オンラインゲーマーとして頷かされる事が多かった。安易に結論を出すのではなく、参加者に考えさせるスタイルだったのも好印象を持った。MMOゲームにおける「Lonerの救済」。オンラインゲームの未来を考える上で、非常に重要な課題だ。開発サイドのみならず、ユーザーサイドもひっくるめてみんなで考えるべき問題だと思った。


(2011年 3月 6日)

[Reported by 中村聖司]