東京ゲームショウ2010レポート
TGSフォーラム ソーシャルゲームセッションレポート
mixi、GREE、芸者東京が考えるソーシャルアプリのポイント
株式会社日経BP 日経ビジネスオンライン副編集長の戸田顕司氏 |
「TGSフォーラム2010」の専門セッション「ソーシャルゲームセッション」では、mixiとGREEという2つのSNSにおけるソーシャルゲームの現状と今後の展望、またコンテンツ制作側から見た両プラットフォームの違いなどが語られた。
登壇者は、株式会社ミクシィ パートナービジネス本部アライアンス推進部パートナー推進グループ マネージャーの安部聡氏、グリー株式会社 取締役執行役員 事業開発部長 CFOの青柳直樹氏、芸者東京エンターテインメント株式会社CEOの田中泰生氏。モデレーターは株式会社日経BP 日経ビジネスオンライン副編集長の戸田顕司氏が務めた。
■ 友人間の活性化を目的としたmixiアプリ。今後は「全国大会」の強化も
ミクシィ パートナービジネス本部アライアンス推進部パートナー推進グループ マネージャーの安部聡氏 |
まず安部氏が、mixiのソーシャルアプリプラットフォーム「mixiアプリ」のスタンスを説明した。「mixiを使っていただける方は、アプリを使ってさらにコミュニケーションを行なう。友人関係を前提としたものになる」という仮説を立ててスタートしたという「mixiアプリ」は、その想定どおりの形になっており、安部氏は「mixiアプリはソーシャルネットワークの1つなのだと再認識した」と述べた。
その上で、よく聞かれるという「mixiが考えるいいソーシャルアプリとは何か」という問いに対し、「アプリをネタにして外で話をされているか、を1つの基準にしている。『今日、虫入れておいたよ』といったコミュニケーションがあるかどうか」とした。実名制ではないmixiでこれを実現するには、SNS上だけでなく現実でも友人関係にあることが前提となり、そういったコミュニティの活発化を促すアプリがmixiの理想だということだ。
マネタイズに関しては、友人や家族で使うソーシャルアプリは、これまでゲームを遊んでいなかった層に訴求でき、そこの巨大なマーケットがあると主張。例として米NPDの調査結果を挙げ、米国でソーシャルゲームをプレイする5,700万人のうち2,000万人は、それまでゲームの経験がなかった新規開拓層で、さらにその中の1,200万人はソーシャルゲームに料金を支払ったことがあるか、あるいは支払う意向があることを示した。
そういった現実での繋がりを重視してきたmixiだが、友人だけでなく、より多くのユーザーとプレイすべきソーシャル性の高いアプリについても、ユーザーとアプリケーションプロバイダーの理解が浸透したとして、友人関係の外に出て行ける「全国大会」の導線を緩和すると発表した。10月にはmixiアプリトップページに、そういったアプリを集めたコーナーが新設される。
さらに、「mixiアプリ」のスマートフォン対応も進められている。9月10日にはスマートフォン向けmixiアプリのサービスが開始されており、今後はiPhoneやAndroidなどのアプリケーションベースのmixiアプリを実現できるよう整備を進めているという。
mixiアプリはSNSのサービスの1つであり、友人関係のコミュニケーションを補助する存在である、というスタンス | |
今後は友人の枠を飛び越えた、よりソーシャル性の高いアプリを提供しやすい形を作っていく。mixiアプリそのもののプロモーションも強化される |
■ GREEは3,000万ユーザーを目指してソーシャルアプリとオープン化に注力
グリー 取締役執行役員 事業開発部長 CFOの青柳直樹氏 |
続いて青柳氏が、GREEでの取り組みについて発表した。GREEは7月に国内SNSの会員数ナンバーワンを達成し、次の目標はとして3,000万人超が利用するプラットフォームを作ることを掲げている。この3,000万という数字は、日本国内でのニンテンドーDSの出荷台数とほぼ同じ数字であり、GREEが過去2年間で会員数を500万人から2,000万人に伸ばしたのは、DSが最も伸びたときの伸びとほぼ同じ勢いだという。「我々もやり方を考えれば3,000万という数字を実現できるのでは」と考え、その1手としてプラットフォームのオープン化を選んだことを明らかにした。
GREEは2007年からソーシャルゲーム(と当時はまだ呼ばれていなかった)のサービスを始めており、その豊富な経験を自負している。そのGREEが今特に注目し、実際に伸びている層は、40代以上だという。「10代は1,300万人ほどしかいないが、40代は1,800万人いる。昔からゲームに親しんできたであろう方々で、そういった方々に使っていただけるサービスをと心がけている」という。
次に、「昨今のソーシャルゲーム市場の伸びにより、コンシューマーゲーム市場が食われるのではないか」という考えがあることに対し、青柳氏はこれを否定。「ソーシャルゲームが獲得している時間やお金は、メディアやコミュニケーションに使っていた時間やお金と競合する。コンシューマーゲーム市場がどうこうというのではなく、もっと広いエンターテイメント市場がソーシャルゲームに置き換えられ、新たな利用シーンが作られていると考えている」と述べた。
6月にオープン化したGREE Platformの現状については、「オープン化でユーザーが増えた手ごたえがある。また自社開発ゲームにはネガティブな影響はなかった。ユーザーが複数のソーシャルアプリを使うという動きが確認できた」としている。合わせてサイト導線の大幅なリニューアルを行なうことで収益面でも改善され、全体での売り上げ規模は3カ月で10倍、1アプリ当たりの利用額も5倍に達したという。またオープン化に合わせて、ソーシャルアプリのコンサルティングを専門に行なう部門も新設。さらにプロモーション支援として、パートナー企業が手がける計30タイトルのテレビCMを年末までに作るという。
今後の取り組みとしては、「今年中にiPhone、Android含めたスマートフォンに対応したい。フィーチャーフォンでできることが全てスマートフォンでできるようにしたい」としている。
国内最大のSNSとなったGREE、次の目標はDSの国内3,000万台に並ぶこと。過去2年間はDSに並ぶペースでユーザー数を増やしているという |
サイトの導線をリニューアルし、収益面の大幅改善に成功している | これまでもテレビCMを強く展開してきたGREEだが、今後はさらに強化していく |
■ 双方でミリオンヒットの芸者東京が語る、mixiとGREEの違い
芸者東京エンターテインメント CEOの田中泰生氏 |
mixiとGREEの双方にソーシャルアプリを提供する芸者東京エンターテインメントの田中氏は、提供中の「おみせやさん」を題材にスピーチ。「おみせやさん」はmixiで2009年12月から提供し、会員数は145万人。GREEでは2010年6月からで、会員数116万人となっている。
「おみせやさん」はTwitterをアイデアにした、田中氏自身が「ゲームじゃない」というアプリ。子供の「ごっこ遊び」をベースに、提示される目標アイテムを手に入れるとご褒美がもらえるという内容。お店を開いて稼ぐことが目的にはなっておらず、「ごっこ遊びなので、やればやるほど儲からないようにできている」という。プレーヤーのモチベーションは、前述の目標となるアイテムを手に入れることと、「自分の店にしかないものを置いて人気者になりたい」という欲求にあり、そこが高いソーシャル性を実現している。
ソーシャルゲームの開発においては、紙の企画書を作らず、ホワイトボードに書いて打ち合わせし、そのままFlashなどでプロトタイプを作成した後、すぐに本実装するという。「日々のアップデートが大事。その瞬間にどれくらい遊ばれていて、何が起こっているかを把握して、お客様が離れているようなら今日明日、遅くとも来週には何とかしたい。企画会議即実装、会議メンバーでやってしまうのが大事」という。そのため同社には企画やデザイナーの専門スタッフは少なく、最低でもFlashなどでゲームを作れる技術を求めているという。
そして気になるmixiとGREEの違いについて。双方に提供している「おみせやさん」のデータを見ると、mixiは友人とのコミュニケーションが中心で、必ず1日数回見る傾向があるため、DAU(1日のアクティブユーザー数)が安定しているという。GREEはユーザーが活発で、1人当たりのページビューがmixiの3倍くらいあり、DAUの差も激しいという。「GREEは新要素を入れると非常に伸びるが、イベントやアップデートが一段落すると去っていく。毎日きちんと見て対応する必要がある。ただし、やればやった分結果が出る」と述べた。
次にソーシャルゲームの今後について述べた田中氏。「ソーシャルゲームブームは一過性のものではないかとよく言われるが、ファミコンも当時は2年くらいで廃れるのではと言われていた。ファミコンは本質的に新しかった。ゲームセンターでは50円で5分くらいしか遊べないのに、ファミコンはずっと遊べた。ソーシャルゲームで気軽に誘われて無料で遊べるというのは、思った以上に革命的なことが起きている。力強いと思う」と、長く根付いたものになるという考えを示した。
なお同社では、「AVATAR2(仮)」と「TRAVELER(仮)」という2本のソーシャルアプリを開発中。「2年くらいソーシャルアプリでやってきたものを全てつぎ込んだ。GREEの内製タイトルに勝てるのでは」と自身を覗かせた。
自ら「ゲームじゃない」という「おみせやさん」。mixi、GREEの双方で大ヒットしているソーシャルアプリだ | 紙の企画書なしで、ホワイトボードで企画会議を行ない、すぐさまプロトタイプを制作。スピードを重視した開発体制 | mixiとGREEで100万ユーザー越えという数字は出したが、その特性は大きく異なるようだ |
■ ソーシャルアプリのヒットの鍵は「プラットフォームチューニング」
続いて戸田氏が質問を投げる形でトークが進められた。刺激の大きかった「おみせやさん」のmixiとGREEでの差についてコメントを求められた安部氏は、「PVが3倍違うらしいが、それはGREEさんに合わせたチューニングによるものだと思う。全てのプラットフォームに同じものを出したほうが効率がいいと思われているかもしれないが、プラットフォームチューニングは極めて重要だと思う。それをやれば、PVでは差が出ていても、ARPU(ユーザー1人当たりの売り上げ)は逆に3倍になるかもしれない。mixiの特性に合わせていただければいいのでは」と答えた。
同じ質問に青柳氏も回答。「チューニングによって同じゲームでここまで違うというのは、我々としても発見。mixiさんは招待制でやられてきたことも影響しているのでは。両方のいいところを満たすようなプラットフォームが理想なのだろうと感じた」と述べた。
提供側の田中氏は、「チューニングは、仕様そのものが違う。難易度の上げ下げではなく、ゲームのルール、目標設定を変えている。事実上、2プロジェクトと考えてやっている」という。またプラットフォームの違いについての補足として、「ライフタイムはmixiが長い。mixiは儲からないとよく言われるが、そんなことはないと感じている。統計で見える以上にmixiのお客様はお金を払い始めている。またmixiとGREEは、現実の店舗で言うところの、立地がぜんぜん違う。立地に応じて店の外見は変えなければいけないし、それを真面目にやらないと、真面目にやる方についていけない」と語った。
もう1つの質問は、ずばり「うまくいく、うまくいかないアプリとは何か」。戸田氏は「ローンチを遅らせてもいいので100%のものを持ってきて欲しいと言っている。ローンチ時が最も推しやすいが、そこで失敗すると上がってこられない。また○○クローンはやってはいけない。mixiでは口コミから広がっていくので、同種のゲームは寡占的になりがち」とコメント。
これに対し青柳氏は、「コピーはダメだが、恋愛ゲームが流行っているからといって作ってはいけないかというと、そんなことはない。『怪盗ロワイヤル』のクローンがうまくいかないのは、一定規模のユーザーがいないと面白くないから。知らないユーザーが常に宝を奪いに来る緊張感が面白い。同じものを作っても面白くないのが、コミュニケーションをベースにしたものの特徴」と述べた。この辺りにはプラットフォームの特性の違いも現われている。
ソーシャルゲームのプラットフォームとしては、mixiとGREEのほかにも、国内3大SNSの1つであるモバゲータウンがあり、さらにFacebookを始めとした海外のSNSもある。また最近では、AppleがGame Centerを立ち上げ、ソーシャルゲームに打って出ている。それぞれのプラットフォームの特性を見極め、ユーザーの利用状況などから分析したチューニングが、今後ますます重要になってきそうだ。
(2010年 9月 19日)