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「Unreal Engine 3」に統合されるUIミドルウェア「Scaleform」とは何か?
最新ゲームのリッチなUIを支える、コアテクノロジー&高性能ツール

4月13日 取材


「Scaleform GFx」採用タイトル例

 ゲーム開発の高度化により、ますます需要の高まるゲーム開発ミドルウェア。その中で、ユーザーインターフェイス(UI)の構築という分野に特化して、業界のトップシェアを獲得した気鋭のソリューションがある。米国に拠点を置くScaleformが開発する、「Scaleform GFx」だ。

 「Scaleform GFx(GFx)」は、Adobe Flashの技術をゲーム向けに特化し、効率的なUI開発を可能とするソリューションだ。現在の最新バージョンは3.2。ここ最近の急激な技術、ツール、サポートの発展により、単にFlashで作成したコンポーネントをゲーム上で動作させるだけではなく、ゲームならではの開発要求に万全に答える、非常に強力な統合型UI開発プラットフォームに進化している。

 そうした評価もあり、「GFx」は4月15日、「Unreal Engine 3」への完全統合を発表した。つまり、今後の「Unreal Engine 3」では、「GFx」が予めビルトインされた状態で提供されるようになる。個別のゲームデベロッパーが敢えて「GFx」を取り外すことを選択しない限り、ほとんどの「Unreal Engine 3」採用タイトルが「GFx」によるUIを持つことになるだろう。

  それに先立つ4月13日、Scaleformの創業者CEOであるBrendan Iribe氏が来日しており、弊誌ではインタビューを行なうことができた。それをもとに本稿では、海外のトップクラスのタイトルが数多く採用し、国内デベロッパーからも注目されつつあるミドルウェア「GFx」の全容をご紹介しよう。



■ 「Scaleform GFx」は、ただのゲーム用Flashプレーヤーではない

ScaleformのCEO、Brendan Iribe氏

 Scaleformはアメリカ、メリーランド州に本拠をおく、2004年設立の若い起業だ。エンジニアでもある現CEOのBrendan Iribe氏が中心となり、ゲーム用のUIミドルウェアの開発・販売を専門としている。今回、日本で開かれたプライベートカンファレンスのために来日していたIribe氏は、弊誌に「GFx」の持つメリットを幅広く紹介してくれた。

 また、今回の来日に至った理由として、「Unreal Engine 3」への完全統合を発表するためだけでなく、Iribe氏はアジアのゲーム産業に強い期待を抱いていることを明かした。特に先行して「Scaleform」のユーザーが伸びつつある韓国では、2008年にScaleformの売上比で7%に過ぎなかったものが、2010年春の時点で35%にまで急成長したという。現在韓国では100を超えるタイトルで「GFx」が使われており、この流れを日本のゲーム業界にも期待しているというのがIribe氏の考えだ。



・そもそも、なぜUIにミドルウェアが必要なのか

 ゲームUIは、これまでほとんどのタイトルで自社開発が行なわれていた分野だ。UIには、多数の項目を持つメニュータイプのもの、FPSなどでヘルスバーやレーダーを表示するHUD(Head-Up-Display)、MMORPGなどで使われる込み入ったウィンドウシステムなどが考えられる。独自のノウハウが必要になることも多いため、中堅以上のゲーム企業では、UI開発のためだけに専門のエンジニアを割り当てることも珍しくない。

 特に、ゲーム要素が複雑なアドベンチャーや、RPGタイプのゲームでは、UIに様々な要素が必要であり、そのためのシステムも大規模なものになる。筆者はかつてRPGタイプのゲームでUI開発に携わったことがあるが、基本的なウィンドウシステムの開発から、ゲーム的に意味のあるUI要素の構築まで、大変な労力が必要であった。しかも、UIに手抜きは許されない。その出来不出来がゲームそのものの体験に直結するからだ。

 しかし、そもそもUIはゲームの表現、体験の質の問題であるため、本来はゲームデザイナーやアーティストの仕事である。特に、高度化の進んだ現在のゲームタイトルでは、「プログラマーしかいじれない」ようなUIシステムはナンセンスだ。そうすると、タイトル・バイ・タイトルでUIシステムを構築するためにエンジニアが必要とする工数は、非プログラマーのためのサポートを充実させるためにさらに大きなものとなってしまう。

 とはいえ、UIシステムにはタイトル非依存の機能も多いため、汎用性を考えた設計を行なえば、大幅に抽象化・共通化できる。しかし、そのためには複数のジャンルにまたがる膨大なノウハウの蓄積が必要だ。こういった事情のため、UIは潜在的にミドルウェアソリューションが求められてきた分野と言える。そこで「GFx」のようなミドルウェアが脚光を浴びつつあるわけだ。

「Scaleform GFx」の活用例



・超高速、高品質のFlash再生。「GFx」のコアテクノロジー

「GFx」によるUI製作のワークフロー
様々なゲームエンジンに結合して利用できる

 Iribe氏は「GFx」の価値を説明するため、その機能を「コアテクノロジー」、「ツール」、「開発サポートの基盤」という3パートにわけて紹介してくれた。

 そのうち「コアテクノロジー」となるのが、「GFx」の根幹を構成している機能、インゲームのFlashプレーヤーとしての部分だ。「GFx」では、Adobe Flash CSで作成したFlashアプリケーションをゲーム内に取り込み、ゲーム内の機能とリンクさせることができる。これにより、ゲームのUI開発からコーディングの作業を大幅に取り除き、生産性を上げることが第1のメリットだ。

 しかし、Flashアプリケーションは通常ベクターグラフィックスで表現されるため、そのままソフトウェアレンダリングしたのではゲームに負荷がかかりすぎる。このため「GFx」では、ベクターグラフィックスを3Dポリゴンにテッセレートし、高速にGPUレンダリングを行なうという独自技術を実装している。

 その際、ただポリゴンベースで描いたのではエッジのギザギザが出てしまうため、「Edge AA」と呼ばれる特許技術でアンチエイリアシングを行なっている。これはプラットフォーム非依存の実装となっており、PC、Xbox 360、プレイステーション 3といった高性能機はもちろん、Wii、PSPといったアンチエイリアシング機能をハードウェアで持たない機種でも高品質のFlashレンダリングが可能だ。

 また、ゲーム機ではクリティカルな問題となるメモリー使用量についても最適な実装が行なわれているという。その上で、Iribe氏が強調するのは「どのようなゲームエンジンにも統合できる」という柔軟性だ。現時点で既に「GFx」は、「Unreal Engine 3」、「CryEngine」、「Gamebryo」、「BigWorld」、「HeroEngine」といった主要ゲームエンジンでの統合実績がある。また、動画再生エンジンとして「CRI Sofdec」、サウンドエンジンとして「fmod」を結合することもできる。

「GFx」を用いることによりエンジニアの負担は最小限に抑えられ、UI製作の作業はそのほとんどがゲームデザイナーとアーティストの仕事となるようだ



・3D空間に統合されたUIシステムを実現する「Scaleform 3Di」

「3Di」の例

 「GFx」がただのFlashプレーヤーではないことをさらに象徴するのが、3D対応だ。これは最新のバージョン3.2で提供される予定の機能で、3D Interface、略して「3Di」と呼ぶ。

 3DのUIというとなかなか想像が難しいかもしれないが、Electronic ArtsのSFアドベンチャーゲーム「DeadSpace」をプレイしたことがある方なら、まさにそれを見たことがあるはずだ。通常は2D、つまりスクリーン平面に描画されるUIだが、これを3D空間とシームレスに統合し、空間上に配置することによって、奥行きのあるUIシステムが構築できる。

 「GFx」では、この機能をFlashのスクリプト拡張によって実現しており、アイコン1つといった各UIエレメント単位で3Dの奥行き方向の座標などを制御することができる。またこれには、もともと「GFx」が持つすべての機能を入れ込むことができるため、機能上の犠牲を伴わずに純粋にUI演出を向上させることができるわけだ。

 Iribe氏は「『DeadSpace』よりも良い3DのUIが構築できます」と自信たっぷり。特に、UIエレメントを3D空間上に統合することによって、「第三者の視点から、UIを操作している様子をみることができる」といった新たな演出が可能になること、そして「NVIDIA 3D Vision」のような立体視デバイスを使えば、実際にUIが中空に浮いている感じを演出できることに、ゲーム表現の新たな可能性があると考えているようだ。



■ ゲームのUI開発を支える強力な開発ツール群、開発支援基盤

・Flashの知識がなくてもFlashベースのUIが作れる開発ツール「CLIK」

「CLIK」のワークフロー
パフォーマンスアナライザー「AMP」

 Iribe氏は、上記のようなコアテクノロジーを実現した上で、「いかに生産性を向上させるか」という問題に特に力をいれて取り組んでいる。そのことを象徴するのが、「GFx」とともに提供される数々のツール類だ。

 そのうちのひとつは、「GFx」を使うために、社内にFlashに精通したクリエイターが必要であるという問題に対処したツールだ。「CLIK (Common Lightweight Interface Kit)」と呼ばれるアプリケーションで、「GFx」のUIエレメントをドラッグ&ドロップベースの簡易なインターフェイスで構成し、簡単にゲーム内へ取り込むことが可能となっている。

 Scaleformでは、この「CLIK」を最良のUI製作ツールとするため、開発をGrant-Skinner氏の会社に依頼したという。Grant-Skinner氏は世界的なWEBリッチアプリケーションの大家で、特にFlashの技術ノウハウで業界をリードする存在だ。Grant-Skinner氏はAdobeのためにFlash 9 CSの開発に携わっているが、「CLIK」はそのゲーム版ということができる。このことは、Scaleformが生産性の問題を真剣に捉えている証左となるだろう。

 もうひとつのツールは、「Scaleform AMP」と呼ばれるパフォーマンスアナライザー。このツールでは、「GFx」の機能を搭載したゲームを実行するターゲットマシンに接続し、「GFx」が利用するメモリ容量、パート毎の処理時間、オーバードローの状況といったパフォーマンス情報をリアルタイムに得ることができ、開発上の問題を簡単に特定できる。

 そして驚きなのが、複雑なUIを持つこの「AMP」自体が「GFx」で作られているということだ。Irbe氏曰く、「AMPを使って、AMPをアナライズできます」。この事だけでも、「GFx」が如何に柔軟性のあるUIミドルウェアであるかが伝わってくる。

「CLIK」では、「GFx」で用意された各種のUIコンポーネントを組み合わせて高速にUIを製作することが可能だという。なおScaleformでは、ボタン等の各種コントロールについて、標準のFlash 9コンポーネントの利用を推奨していない。ゲームのためにデザインされていないためだ



・各ゲームジャンルでのUI開発を支援する基盤コンポーネント

「HUD Kit」を実演するIribe氏
「HUD Kit」

 Iribe氏はさらに、最近の取り組みとして「開発支援基板の充実」を上げている。優れたコアテクノロジー、ツール類があったとしても、UI開発はゲームジャンル毎に大きく異なる側面を持っており、システムの学習、設計といった準備作業が依然として必要だ。Scaleformでは、この部分を支援するために、バージョン3.1より各ジャンルに適したUIの基盤を提供している。

 まず、バージョン3.1で実装されたのが「HUD Kit」。FPSやTPSに限らず、多くの3Dゲームでは画面上に体力やミニマップ、時間といった表示を持っている。「HUD Kit」は、そのようなUIを想定してあらかじめ基礎的な部分が実装された雛形だ。そこでは特に表示上のパフォーマンスに注力しており、通常のAction Scriptによる制御よりも遥かに迅速に表示結果を制御できる「Direct Access API」を搭載している。この結果、「HUD Kit」では1ミリ秒以下の遅延で表示内容を更新できることが保証されている。また、「Unreal Engine 3」用のキットも用意されており、そちらではUnreal Scriptからの直接制御が可能だという。

 最新のバージョン3.2では、より複雑な構造を持つ「Menu Kit」が提供されている。このキットは、RPGやアドベンチャー系のゲームで使われるステータス画面、インベントリーといったメニューシステムの雛形となっており、UIエレメントの複雑な相互作用を考慮した制御を行なうことができる。Iribe氏はこれらのキット類を総称して「Getting Start Quick Kit」と呼んでいる。

 さらに、今年内のリリースを予定している「GFx 4.0」では、新たに「MMO UI Kit」というキットが提供される予定だ。Iribe氏によれば、これは「World of Warcraft」のようなUIを簡単に構成できる開発基盤になるそうだ。これはScaleformがアジア圏のゲーム市場に進出する上で、キーとなるコンポーネントになりそうだ。

各キットは、その特性に応じて最適な構成がとられている。高速性が必要な部分には「Direct Access API」を通してC++からアクセスでき、Action Scriptによるパラメーターをオーバライドして迅速な表示が可能



■ 日本語も完全サポート。次期バージョン「4.0」ではFlash 10への対応が目玉

アジア圏のIMEに完全対応する
日本におけるライセンシーの状況

 Scaleformでは現在までに「GFx」の各国ローカライズを進めてきており、既に日本語、中国語、韓国語といったアジア圏の主要言語に対応している。もちろん、各言語のIMEにも対応しているため、文字入力の多くなるMMORPGなどでの活用にも問題がない。

 また、Iribe氏は、これから力を入れていくポイントとして、「GFx」をより簡単に使えるようになるためのサポートの充実を挙げている。全ての機能に関するドキュメンテーションを各国語に翻訳することはもちろん、ハウツーを紹介するチュートリアルビデオも用意しているとのことだ。また、技術サポートも各国語で対応できるようになることを目指している。

 その上で、今年中のリリースを予定している次期バージョン「GFx 4.0」では、Adobe Flash 10、Action Script 3.0といった最新のFlashテクノロジーに対応することが予定されているという。Adobe Flash 10ではさらにインタラクティビティを増したFlashアプリケーションを構築できるようになるため、やろうと思えば「GFx」だけでゲームを作るということもできてしまいそうだ。

 気になるライセンス形態としては、タイトル毎の契約が基本となっている。ライセンス価格は非公開で、各デベロッパーの規模や、パッケージタイトルか、オンラインタイトルかといった形態によって柔軟性をもたせているという。

 ちなみに、Scaleformと同じ米国に本拠を置くミドルウェア企業、Rad Game Toolsでも、Flashをゲームにインポートする「IGGY」というミドルウェアをリリースしようとしている。これはライバルになるのではないかとIribe氏に質問したところ、全くそんな心配はしていないようだった。

 「『IGGY』は、いわば極めてローコストの初期バージョンです。『GFx』でいうコアテクノロジーの部分のみが提供されるものであり、ツール類や開発基盤の提要を含むトータルなソリューションではありません。おそらく、我々は5年ほど先行していると思いますし、今後も急ピッチにアップデートを重ねていきたいと考えています」。

 将来予定する「GFx 5.0」の世代では、映画品質のUI体験を提供したいというScaleform。現時点で「Unreal Engine 3」に完全統合されるなど、最も勢いのあるミドルウェアのひとつであり、今後は日本でも多くの採用例が見られるようになるだろう。日本におけるゲームデザインノウハウと、Scaleformの技術が融合した先に、どのような先進的なUIが完成するのか、今から非常に楽しみだ。

「GFx」は、HUDや一般的なメニューだけでなく、様々な目的に利用できる。この柔軟性と応用性が最大の強みのひとつと言えそうだ


(2010年 4月 20日)

[Reported by 佐藤カフジ ]