Taipei Game Show 2010現地レポート

台湾ゲーム産業を牽引するトップ達による「2010遊技産業系列研討会」
グローバル展開の模索と、台湾開発者の可能性とは!?

2月5日~9日開催

会場:台北世界貿易中心

入場料:大人 150台湾ドル
    子供 100台湾ドル


 Taipei Game Show2010の第1日目では、台湾のゲーム業界のスタッフが集まり、様々な視点で意見を交換しあう、「2010遊技産業系列研討会」が開催された。本稿では研討会の最初のプログラムである「グローバリゼーション・台湾ゲームのチャンスと挑戦」を取り上げたい。

 このプログラムの日本のCESAに相当する組織「遊技産業振興会」の会長XPEC総経理 許金竜氏をはじめ、Softworld総経理 王俊博氏、Gamania執行長 劉柏園(Albert Liu)氏、IGS総経理 江順成氏、Wayi董事長 黄博弘氏、OMG執行長 林一泓氏と台湾オンラインゲーム業界を代表する人々が登壇した。

 台湾ではテレビCMでオンラインゲームが積極的に登場し、ゲームのCMやイメージガールに選ばれることでアイドルがブレイクするなどさらに注目度が増している。また、多くの台湾オリジナルコンテンツが開発され各国にサービスされるようになっている。台湾で最も勢いのある産業といっても過言ではない企業のトップ達が、“グローバリゼーション”というテーマでどんな意見を交わすのだろうか。

 ちなみに、昨年のTaipei Game Showでも台湾ゲーム業界のトップ達の意見交換が行なわれている。こちらを読むことで、リアルタイムで変化する台湾ゲーム業界を感じることができるだろう。



■ 各代表者が模索する世界戦略。2010年は台湾オリジナルタイトルが世界へ

遊技産業振興会の会長のXPEC総経理 許金竜氏
Softworld総経理 王俊博氏
Gamania執行長 劉柏園(Albert Liu)氏

 「グローバリゼーション・台湾ゲームのチャンスと挑戦」というテーマで最初に発言したのはSoftworld総経理 王俊博氏だ。王氏はまず「台湾では2009年の経済界で大きく話題となった年といえる。TV広告ではオンラインゲームメーカーが最も高くお金を払い、株も最も高い評価を受けた」と、台湾国内での活況を語った。

 続いて王氏は「2010年ではこれまで同様、中国への進出は大きな目標となっている。しかし中国の大きなオンラインゲームメーカーと直接競争するのは難しい」。最もネックとなっているのが中国政府で、外資によるメーカーでの直接運営はできずSoftworldも法律関係の壁にぶつかった。これまでたくさんの台湾メーカーが、同じような壁に当たり失敗を繰り返している。

 しかし、台湾メーカーは変わりつつある。これまでは日本や韓国のタイトルを台湾メーカーが中国でパブリッシングしようとしていたが、今後は台湾オリジナルのゲームを作れるようになり、「開発会社」として中国を狙えるようになった。自社開発が可能になることで、ロシアやトルコなど中国以外の大きな市場に挑戦できるようになった。王氏は変化していく状況を解説した。

 王氏の言葉を受け、Gamania執行長 劉柏園(Albert Liu)氏は「台湾ゲーム業界は昨年はにぎやかな年となり、ようやく成果が出つつある。今年は台湾の自社開発のゲームが爆発的に出現する年になるのではないか」と台湾ゲーム業界の明るい未来を強調した。

 ここで実際的な進出の難しさを指摘したのはOMG執行長林一泓氏だ。「台湾ではテレビCMを打つと多くのユーザーが注目してくれるため、取り組みやすい市場といえる。一方、私達は米国で人気を得るための方法はまだわからない」。その解答はどこにあるかと、林氏は登壇者の顔を見ながら問いかけた。

 海外で大きなシェアを持つ、という視点でみれば大きく成功しているのがアーケードゲームメーカーとしての一面も持つIGSだ。IGSの作るスロットマシンはイタリアでNo1のシェアを獲得し、他国でも人気を誇っているという。IGS総経理の江順成氏は「ハードは要求を満たすスペックを持ったものを作れば売ることはできる。しかしソフトウェアに関しては他国がまねできない独自性が求められる。他国への受けを狙って作っても、まねをしただけでは賛同を得ることが難しい。IGSはギャンブル系のゲームが得意、というように各社のオリジナリティーが必要だと思う」と語った。

 ここで江氏が例に挙げたのが、現在ヨーロッパで人気を得ている日本のアニメや漫画だ。昨今の爆発的な人気は、2000年に行なわれたフランクフルトでのアニメや漫画を題材としたイベントが起爆剤となり、ここから大きな流れになっていったという。このようにオンラインゲームもきっかけと、ある程度の時間がなくては大きな動きにならないのではないか、と江氏はコメントした。

 海外へ進出するソフトを作る可能性は、台湾人こそ持っているのではないか、と台湾開発の可能性を語ったのがSoftworldの王氏だ。「台湾には他国以上に中国、韓国、日本、そして米国の文化を受け入れ親しんでいる土壌がある。他国のコンテンツに積極的に触れ、独特のセンスを育てている台湾の開発者だからこそ、世界に受けいられるコンテンツが作れるのではないか」と王氏がコメントすると会場から拍手が上がった。

 ここから物作りから少し話題が離れて、自社タイトルの具体的な運営へと話題がシフトする。Gamaniaの劉氏は実際に自社のタイトルを他国で運営した際に生じた問題点を挙げる。最も大きいのが「価値観の違い」だ。コンテンツへの感覚、表現したいゲームの面白さと、受け取る他国のユーザーの意識のずれ、さらに「アイテム課金」、「月額課金」などビジネスモデルに対する価値観も国によって違う。国でのギャップを埋めるためには現地のパブリッシャーの意見を積極的に受け入れていくのが必要だ。ゲームをライセンスで販売するか、それとも子会社で運営していくかも考えなくてはいけない。

 OMGは台湾国内にグローバルサーバーを立ち上げ、各国向けのカジュアルゲームをサービスしている。Wayi董事長の黄博弘氏は海外でゲームを展開することの難しさ、文化的な隔たりを指摘し、「いっそのこと、海外の会社を資本で買収し、そこを足がかりにグローバル戦略を展開していくのはどうか」と新しい視点を提起した。

 Gamaniaの劉氏は「買収は、行なったときから混乱が始まると言っても過言ではない。文化の違いは大きな齟齬を生む。私達が気を付けることは、“会社を買った”のではなく、“人材を買った”という意識を持つことです。スタッフの心をきちんとつなぎ止め、現地のユーザーに喜んでもらえるゲームをサービスする。心のつきあいが大事だと思う」と語った。

 Softworldはパブリッシングのため海外の企業を買収するのではなく、台湾国内の開発会社を傘下に置き、コンテンツの充実を積極的に行なっているメーカーである。王氏は「会社を買うというのではなく、“投資”という意識で行なっている。日本にはアニメやゲームがあり、米国には映画という世界に通用するコンテンツがある。台湾はオンラインゲームこそが世界に通用するコンテンツだと思う。オンラインゲームでのクリエイティビリティーを発揮することこそ、グローバル化の近道だと思う。台湾の開発者は世界に通用するコンテンツを作り出す可能性を秘めている。外国の会社を買って外国でビジネスをするのではなく、これからも台湾のメーカーに投資していきたい」とコメントした。

 IGSの江氏は「ゲーム開発は他業種の企業と違い、出資と回収のマネージメントが難しい。決められた製品を作る会社と違い、結果が簡単にはわからないからだ。ゲームを作っていたプロデューサーが買った企業と合わずにやめてしまった場合、ゲームのクオリティーを保ち続けるのも難しくなる。ゲームを作り続ける情熱をどれだけ維持できるかが課題となる。台湾のメーカーが欧米の開発者の意識を維持できるか、欧米のメーカーが台湾のメーカーの熱意をくめるか、大事な問題だ」と自分の考えを披露した。

 海外のメーカーとのつきあい方という方向ではXPECは「開発会社」としてコンテンツを作るという今回登壇したオンラインゲームメーカーとは少し違った関わり合い方をしている。今回、XPEC総経理の許金竜氏は自社の取り組みを積極的に語らず、登壇者の意見をまとめ、次の議題を提供するという姿勢で司会役を務めていたが、グローバル化の取り組みの補足として、台湾メーカーではいち早く他国のコンシューマーゲームメーカーに比肩する技術を持ち、開発会社としてオリジナルのゲームを作り、世界で受け入れられているというXPECならではの他国への展開も紹介した。




■ 求められる政府の働きかけ。早さと、より実際的なサポートを

IGS総経理 江順成氏
Wayi董事長 黄博弘氏
OMG執行長 林一泓氏

 ここから議題は台湾政府によるサポートの話へと移った。これまで政府のサポートはハードウェア産業に限られ、ソフトウェア産業ははずされていたが、近年文化産業コンテンツとして政府から支援を受けられる状況へ変わりつつある。現在は200億台湾ドル(約600億円)規模の支援を受けているという。

 Softworldの王氏は「今後、台湾のメーカーは様々なオリジナル作品を作り出していく。台湾政府は投資が無駄でないということをすぐに実感すると思う。また、大学や専門学校の支援も評価したい。人材が増えることで、我々としても彼らを育成しゲームを充実させていけるだろう」。

 一方Gamaniaの劉氏は政府の“対応の遅さ”を指摘する。支援を受けられるようになり、メーカーとしては具体的な提案を出しているのだが、それが実現するまでに時間がかかっている。遊技産業振興会会長の許氏が意見をまとめ動いても、役所的にたらい回しにされてしまう現状があるという。政府から直接サポートをもらうよりも、まずはいいコンテンツを作るための具体的な環境を提供してもらいたい。

 「海外進出のために、海外の展示会に参加するのは大事だ。しかし現状では各メーカーがお金を出してイベントに参加する形になっている。ここを政府でサポートしてほしい。コンテンツを作るためのサイエンスパークと人材の育成、海外進出のためのサポートこそ政府が行ない、環境作りにこそ投資すべきだと思う。現在の官僚主導の体制では、こういった具体的なプランを進行するのに時間がかかりすぎる」と劉氏は語った。

 Wayiの黄氏は劉氏の言葉に頷きながら「政府はポリシーを語るが、具体的な回答が遅い」と指摘する。また、これまで台湾ではプログラマーを育成してもIT産業の方が政府のサポートがあり、全体的に高給なためゲーム産業に人材が来なかった。今後はゲーム産業へ人材が来るようなサポートも望みたい。またこれまではゲーム産業の提案が届きにくい現状がある。政権の交代によるソフト産業への政府の熱意も後退したという点もあるという。

 黄氏はさらに「ゲーム産業は確かに全体的な売り上げ、という観点から見ればハード産業には劣るかもしれない。しかし、製作コストや工場の投資など実際の“利益率”を考えた場合、ゲーム産業はぐっと魅力的な産業になる。政府はもっとこの点を評価してほしい」と言葉を結んだ。

 登壇者の意見を受けてから、XPECの許氏は政府に要求していきたい3つのポイントを提示した。1つめは最大の市場である中国との政府間での交渉だ。現在、台湾のオンラインゲーム業界では中国産のコンテンツが40%近くも運営されるようになっている。しかし、台湾産のコンテンツは法律などに阻まれ、中国での市場の1%程度しか台湾産コンテンツが浸透していない。これは台湾のコンテンツが他の外国産コンテンツと同じ制限を受けているためで、明らかに不公平だ。これは政府対政府の話し合いで進めてほしい。

 2つめはハードウェア産業と違い、文化コンテンツとして扱われるゲームの場合、新興メーカーが政府から支援を受けにくい状況にある。現在もまだ、ゲームはどの産業のカテゴリに属するかが法的に曖昧な部分があり、ここを是正していきたい。専門の巣カテゴリー、専門の部署が必要ではないか。サイエンスパークなどもゲーム専用のものが必要になってくるのではないか。

 3つめが台湾の競争力を強めるための、税金関係の優遇だ。カナダはゲーム産業への税金の優遇を行なっているため、他国からカナダにスタジオを作ったり、進行メーカーが生まれたりしている。政府間の話し合いや、環境作りよりもより具体的にさらに早く実施できるという点も魅力的で、検討してもらうように提案していきたい。



 「グローバリゼーション・台湾ゲームのチャンスと挑戦」という議題での研究討論はここで終わり、質疑応答となった。積極的に質問の手を挙げたのは、小さいゲームメーカーで「支援が受けられないがどうすればいいのか」というものだった。またメディアや関係者ではなく一般のユーザーから「ゲーム開発者の給料が安い」など質問と言うよりも、意見の声が上がった。

 登壇者は「サポートは大企業よりも、中小の開発者をサポートすべき」という意見が出た。また給料問題としては「他業種とそれほど変わらない、2.5万台湾ドル(約7.5万円)からスタートしている。ゲーム業界全体が底上げされるのではなく、成功したら大きな報酬が得られるようにしていきたい。よいコンテンツを作れる熱意を持てるような環境を作っていきたい」という回答をしていた。

 今回、各メーカーのトップが問題に対して意見を交換しあう「2010遊技産業系列研討会」に参加してみて、改めて台湾のオンラインゲーム業界の“熱さ”を感じた。各企業の姿勢も姿勢・戦略が改めて感じられたのも興味深かった。他国以上にグローバリゼーションを重要視する台湾ゲーム業界がどんな成長を遂げていくか、今後も注目していきたい。


(2010年 2月 6日)

[Reported by 勝田哲也 ]