Taipei Game Show 2010現地レポート

「スト4」の小野氏、「鉄拳6」の原田氏、「ゴミ箱」の松田氏が講演
製作秘話や、就職活動に役立つ志望者へのアドバイスも

2月5日~9日開催

会場:台北世界貿易中心

入場料:大人 150台湾ドル
    子供 100台湾ドル


 Taipei Game Show 2010の開催に合わせて、2月5日に「新世代技術交流講座」というタイトルで、日本のゲーム開発者が講演を行なった。講演は2部構成で、1部には「ゴミ箱-GOMIBAKO-」のディレクター松田太郎氏と、メインプログラマーの松下博和氏がゲームの製作秘話を語った。また、ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)の小島英士氏が「PlayStationC.A.M.P!」について説明した。午後からの第2部では、バンダイナムコの原田勝弘氏が「鉄拳6」の、カプコンの小野義徳氏が「ストリートファイター IV」のゲームデザインについてそれぞれ語った。

 会場はゲーム開発志望者と、現役のクリエイターが半々くらいで、女性も多く参加していた。10代、20代の若い人が多かったが、「ストリートファイター II」で遊んだ経験を持っていますかという質問には6割程度が手を上げていた。参加者は配布されたレジュメにメモを取ったり、講演を録音したりして熱心に聞き入っていた。

 このレポートでは、それぞれの講演についての内容をレポートする。




■ 物理、流体の2つのシミュレーションを駆使した「ゴミ箱」開発の道程

ソニーコンピュータエンターテイメントの小島英士氏
「ゴミ箱-GOMIBAKO-」のディレクターでJet Ray Logic代表の松田太郎氏
「ゴミ箱-GOMIBAKO-」のプログラマー、松下博和氏

 最初にSCEの小島氏が、SCEが2008年に実施したゲームクリエイターの登竜門「PlayStationC.A.M.P!(以下、PS CAMP!)」の紹介を行なった。「PS CAMP!」はゲーム業界以外から、プロ、アマを問わず優秀な人材を集めてゲーム業界を活性化させようという意図で行なわれたコンペティション。合格者のプロジェクトからは「ゴミ箱-GOMIBAKO-(以下、ゴミ箱)」以外にも「勇者のくせになまいきだ」や「無限回廊」、「銃声とダイヤモンド」など、大手メーカーの大規模なチームのゲームとは一味違う、小粒だがとがったゲームが生まれている。

 合格すれば、その後の生活費と開発機材はすべてSCEが用意してくれる。合格者だけで作れない場合は、外部の開発会社や、著名なクリエイターと協力して開発に当たる。

 その後「ゴミ箱」のディレクター、松田太郎氏がゴミ箱が生まれるまでの苦労話を語った。「ゴミ箱」はテトリスなどに代表される「落ちものパズル」の一種。ブロックの代わりに、ゴミを砕いたり燃やしたり腐食させたりして消していく。2008年2月にプレゼンテーションが通り、3月から製作を開始して約4カ月で最初のプロトタイプが完成した。しかしこのプロトタイプは酷評され、その後8カ月かけてリニューアルした後製品版となった。

 「ゴミ箱」を作った松田氏は、三重県にあるJet Ray Logicという会社の代表。この会社は松田氏と松下氏、デザイン担当の長嶋郁雄氏がゲームの製作を目標に3人で立ち上げた会社だ。ここでゲーム開発をする以前にも、業務の合間に物理エンジンの研究をしていた。本来の業務を圧迫するほど難航した物理エンジン作りを通して、物理エンジンを使ったゲーム作りが目標となった。「ゴミ箱」はゴミを処理するパズルという一風変わった趣向に目が行きがちだが、その目指すところは「物理シミュレーションと流体シミュレーションを主軸にすえたゲーム」なのだ。

 製品版の物理エンジンには、アイルランドのHavokが開発した物理エンジン「Havok 5.5.1」を使用している。これは「アサシンクリード2」や「スタークラフト2」などの大作にも使われている物理エンジンで、写実的でリアルな表現を得意としている。「PS CAMP!」で製作されるゲームはPSP用が多いが、この物理エンジンを動かせるプラットフォームを使いたいと、あえてPS3を選択したのだそうだ。

 「ゴミ箱」に使われている「物理シミュレーション」と「流体シミュレーション」については、メインプログラマーの松下博和氏が説明を行なった。「物理シミュレーター」はゲーム内のオブジェクトを動かして、リアルさを演出するために使われる便利な機能だが、マシンに高い負荷をかけるわりには望んだ動きをしなかったりと扱いづらい面も持つ。

 もう1つの柱「流体シミュレーション」は、ゴミが燃えたときの炎や、煙の動きに利用されている。「ゴミ箱」では、火種から延焼させてゴミ箱の中に入っている全てのゴミを燃やすこともできるが、それだけの範囲を覆う炎を作ると非常に処理が重くなるので、ストレスを感じないよう高速化するために様々なテクニックを使っている。

 最初に完成したプロトタイプにはまだ流体シミュレーションは組み込まれておらず、ゴミを落として砕いていくだけという単調で地味なゲームだった。「プロデューサーさんから、もっと派手にして欲しい、『God of War』みたいにして欲しいといわれたんです。どうしてそこと比べられたのかわかりませんが、とにかく派手にするためにシステムの見直しを行ないました」と松下氏。

 システムを徹底的にスリム化して、PS3のグラフィックスチップであるRSXで処理する作業の一部を、CellのSPUで行なうことで処理を高速化させた。簡単に言うと、ビデオカードで行なう処理の一部をCPUに肩代わりしてもらうということだ。処理をする全体量は増えるのだが、余裕ができたビデオカードはより高速で処理を行なうことができるようになるため、スピードは速くなる。

 全部で6基搭載されているSPUは並列処理に優れているので、ゴミ箱が燃えて熱が伝わっていく処理などに使われている。また物理シミュレーションで多くのオブジェクトを1度に表示するためにも力を発揮している。

 物理シミュレーションの話では、オブジェクトを狭いところに詰め込むゲームならではの苦労話も出た。物理シミュレーションは通常は、ある程度の範囲にものが散らばっているという状況を想定している。だが本作ではゴミ箱にゴミをぎゅうぎゅう詰めにしていく。詰めたゴミ全てをシミュレートしていると、ゴミの振動が止まらなくなり、最後には花火のようにゴミ箱型飛び出してシステムダウンしてしまうというバグが頻発した。そこでゴミの区画をグリッドに分けて、一定時間止まっているゴミは、回転速度のシミュレーションを無視するようにした。

 また、ゴミのリアリティを増すために、全てのゴミに当たり判定を持たせたり、ゴミがバケツの壁をすり抜けて外にはみ出さないように、バケツの当たり判定を見た目よりも厚くしたりと、リアリティを追求するためにシミュレーション頼みにするのではなく、様々な方法でアプローチした事例も紹介した。

 最後に松下氏は「ゲームはプログラムの上で動いているので、プログラマーは作品の質を結果的に決めてしまいます。どんな素晴らしいアイデアも、実現できなければ意味がありません。これで十分と満足するのではなくて、常に新しいことを勉強していくことが重要です」とプログラマーの心構えを述べた。また、どうしても間に合わない場合は、けんかになっても早い段階で採用するものとしないものを決めるのも、プログラマーの仕事だという。

 物理シミュレーションは完成した技術ではなく、予想もできないような動きをすることも多々ある。だからそれだけで動きを実現させようとすると、まったくめどが立たない状態になってしまう。あまりかたくなにならずに、自分たちの作りたい動きを実現させることを優先して柔軟な姿勢で仕事を進めていって欲しいと締めくくった。

 質疑応答では、松田氏、松下氏への質問が出た。処理を高速化するためのコツについて松田氏は「プログラマーにお願いすることがほとんどですが、プログラマーでは解決できない場合は、デザイナーが作ったオブジェのポリゴン数を減らしたり、テクスチャーの解像度を落としたりと、デザイナー側にお願いして削ってもらいます。このお願いをするのがディレクターの仕事といっていいです」と答えていた。

 また「『ゴミ箱2』は作らないのですか?」という質問には「作りません」とはっきり断言。現在は、また物理エンジンを主軸に置いた新作を作っているのだそうだ。新作については「『アンチャーテッド2』のような画面も演出もすごいゲームが出ています。そういうものに遅れをとってしまうと、まったく世界に目を向けてもらえない日が来てしまうかもしれないので、こだわった厚みのあるものにしようと、いま研究しています」と抱負を語った。

【スライド】
わずか5人で製作した「ゴミ箱」は、2009年の「PlayStation Award」で「PlayStation Store 特別賞」を受賞した。
初めて物理シミュレーターで作った竜巻のゲーム「たいと」左上が評判の悪かったプロトタイプ。そこから8ヶ月で現在の形に進化した開発中に東京ゲームショーに出展。好印象を得たことでモチベーションが上がったのだそうだ
初めて物理シミュレーターで作った竜巻のゲーム「たいと」左上が評判の悪かったプロトタイプ。そこから8ヶ月で現在の形に進化した開発中に東京ゲームショーに出展。好印象を得たことでモチベーションが上がったのだそうだ




■ 原田氏が考える「鉄拳」の開発に求められるスタッフ像とは?

バンダイナムコの「鉄拳」プロジェクトディレクターの原田勝弘氏

 午後からの第2部ではまずバンダイナムコの「鉄拳」チームのプロジェクトディレクターの原田勝弘が「鉄拳6」を例にゲームデザインに関する講演を行なった。「鉄拳6」は15年続く「鉄拳」シリーズの最新作。全世界で累計3,700万本を販売しており、家庭用では90%が欧米のユーザーなのだそうだ。

 「鉄拳」のように、小さな変更を加えながら少しずつ進化していくようなゲームは「研鑽開発型」のゲームなのだと原田氏。同様のデザインには「Call of Duty」のシリーズなどがある。

 これからゲームデザインを学ぶ人達が、良いキャラクターデザインやアイデアを生み出すための切り口として、原田氏は「模倣」と「多くのスタッフで話し合うこと」の2つを挙げた。「模倣」は単にまねをするというだけではなく、その作品がどうして売れているのかを理解して学ぶいい機会になるのだと言う。また、たくさんのスタッフでアイデアを出し合うことも重要だそうだ。それはとてもできない、冗談としか思えないようなアイデアでも、1度は本気で考えてみるべきだと言う。またユーザーが何を欲しがっているかを考えることも重要だ。

 反対に、どんなものが面白いのかユーザーに聞くのは間違っていると言う。「作り手がわからないことをそのままユーザーに聞いても、理解できる答えは返ってこないと思ったほうがいいです」と原田氏。過去に「鉄拳4」で間違った形のユーザー調査や、調査結果の分析を誤ったという経験を基に、ユーザー調査に頼った結果不振を招いた自社の例を挙げた。そのうえで、ユーザーが求めるものを知ることも重要だが、作り手は自分が作りたいものを第1に持ってこなくてはならないという精神を持つ事はもっと重要であると主張した。

 もちろんそのためには、そのゲームを誰よりも愛して、ゲームのことを知り抜いていなくてはならない。そのための情報収集の事例として、キャラクターデザインを例に説明した。

 「鉄拳」ではキャラクターを作る時、コンセプトの中にそのキャラクターの人気の順位を入れる。こうすることで、どのキャラクターが当たって、どれが外れたかがわかり、順位の予想が外れた場合には、どこが悪かったのかを次のゲームにフィードバックできる。

 ほかにも、プロジェクトリーダーがデザイナーを雇う時に、どこをポイントにするかという話に触れ、優秀な人材はデッサン力がある人で、オペーレーションの能力は必ずしも必要ではないという。3Dソフトやゲームエンジンが発達してきて、個人の力量の差が見えにくくなっているからこそ、人間が持つ能力を重要視して育てていく方針を忘れるべきではない、というのが原田氏の主張だ。

 また、モーションキャプチャーは万能の道具ではないとも語った。例えば「鉄拳」のような格闘ゲームでは、人間の自然な動きよりも、横からみて美しい動きが優先される。「モーションキャプチャーを使えばリアルなものができるという幻想は捨てたほうがいいと思います」という原田氏。モーションキャプチャーは絵コンテのような動きの指針にすぎず、そこからどれだけそのジャンルにあった動きを作っていけるかが重要なのだそうだ。開発ツールでもそうだが、便利なツールが出ているからとその情報ばかりを追いかけるのではなく、そのツールを使う人間の基本的な能力を鍛える方向に重点を置くべきだと、人材育成の重要さを語った。

 もう1つ、重要なポイントとしてあげたのが、チームワークの保ち方だ。現在は50人、多ければ200人という大所帯で1つのゲームを製作する。欧米などのデベロッパーには、プロセスマネージャーという工数の管理を担当する部署があるが、日本ではまだこの職種が仕事として確立していない。

 ただ、今後は日本でもプロセスマネージャーがゲームデザイナーと同じくらい重要な職種になっていく可能性もあるので、いまからこの職種について研究してみるのは、将来業界を志望している人には重要なことではないかと提案した。

 何しろ数百人単位となるとコミュニケーションを取るだけでも大変だ。人が多いとそれだけたくさんのアイデアが出てくるというメリットはあるが、逆にいいアイデアが多くの人の手を経る間に変質したり、違ったものになってしまうこともある。

 人間は最後は論理ではなく感情で決断をする。全員が納得して作れるゲームはほとんどなくて、たいていは最後はリーダーを信じてやってみるか、という感情の部分で動く事になります。だからちゃんとしていないリーダーが作るものは破綻したゲームになってしまうと思います、とまとめ役の苦労をもらす。「ちなみに『鉄拳』の場合は、最終的にはみんなで殴り合って決めることにします(笑)。実際にフロアのあちこちで、胸倉のつかみ合いがしょっちゅう起きています」と冗談めかして語り、会場の笑いを誘った。

 そうなってくると、最後の最後に必要になってくるのはリーダーのカリスマ性や決断力だ。どれだけ民主的に話を進めていても、最終的には、強力なリーダーシップを持った人間の、ゲームに対する直観力が必要になってくるのだそうだ。さらに、「『鉄拳』の場合は、100人を相手にする格闘能力が必要になることがあるので、体力的にもタフなほうがいいと思います」と最後は笑いで締めくくった。


【スライド】
原田氏は「鉄拳」シリーズをずっと育ててきた「鉄拳」シリーズは世界でトップシェアを誇る格闘ゲームに成長した1つのシーンに関わっているスタッフのリスト




■ 「スト4」は20年ぶりの同窓会。キーワードは「原点回帰」

カプコン、「ストリートファイターIV」プロデューサーの小野義徳氏

 カプコンからは「ストリートファイターIV(以下、スト4)」のプロデューサー、小野義徳氏が登壇した。小野氏は、主に学生に向けた話をします、と断った上で、20周年に「スト4」を作ることになったきっかけや、「スト4」が生まれるまでの制作秘話を語った。内容は、2009年のGDCで発表された内容と大筋では同じだったが、こちらはプロではなくゲーム開発志望者へ向けた内容だけに、よりわかりやすく噛み砕いた内容になっている。GDCの記事はこちら

 「ストリートファイター」シリーズの20周年を記念して作られた「スト4」のキーワードは「原点回帰」。20年前に「ストリートファイター」や「ストリートファイター II」で遊んだ人間が、その頃の記憶だけでプレイして面白いと思えるゲームを目指したのだそうだ。

 例えば、技をなるべくドットで描かれたモーションに近づけたり、背景を「スト2」のテイストにしたりと、見た目から原点を目指している。見えない部分でも、例えば攻撃の当たり判定を、当初は3Dで取っていたが、2Dの判定に差し替えた。

 もう1つのキーワードが「同窓会」。20年前に会ったあのキャラクターが、次世代機でいったいどれくらい綺麗になっているんだろうという期待を裏切らないように、ユーザーの期待を実現するために努力したのだという。ただし、あまり革新的すぎるものは入れていない。「『スト4』の場合は10年もプレーヤーの皆さんをお待たせしてしまったので、あまり革新的なことはできないなと思っていました」と小野氏。例えば「スト4」はオンライン対戦ができるが、このシステムもあまり複雑にしすぎず、あたかも隣に座っている友達と対戦を楽しむような感覚を再現できるわかりやすさを重視したのだという。

 テクノロジーは進化していかなければならないが、いきなり進化するのではなくて、プレーヤーが期待するほんの少し先を実現できればいいのだ、というのが小野氏の主張だ。無限の可能性ではスタッフは誰もついてこられない。ほんの少し先の見える未来を提示してあげることが重要なのだという。

 小野氏が考えるゲームの原点は将棋と碁とチェスだ。この3つは「テレビで中継されるトッププレーヤーから、おじいちゃんと孫でも楽しめるという、非常に簡単でありながら奥深い」ゲームで、ゲームを作るクリエイターが参考にしなければならない奥深い種が隠れていると思いますという。

 ヒットしているタイトルが、なぜヒットしたのかを考えると、そこに必ず「種」があるという。その種には、そのゲームがプレーヤーに何をさせたがっているのか、どんな気持ちよさをプレーヤーに与えているのかが隠れているので、ぜひそういうことを考えながら、ゲーム製作に携わって欲しいと、ジョークを交えて笑いを誘いつつ、最後は真面目に締めくくった。



■ 開発者たるものゲームを褒めよ、と本音が飛び出したパネルディスカッション
講演者が勢ぞろいしたパネルディスカッション
司会進行役のMAX JEN氏

 講演の終了後には約1時間のパネルディスカッションが行なわれた。参加者は講演を行なった小島氏、松田氏、原田氏、小野氏の4名で、台湾でゲーム雑誌を発行している青文出版社のMAX JEN氏が司会を担当した。

――ゲーム業界に入ったきっかけは?

原田氏: 厳しい家庭に育ったので、小さい頃にはゲームをさせてもらえなかったんです。それでもゲームセンターで遊んでは、みんなの前で怒られるということを繰り返していました。大学もゲームとはまったく関係のない学部に進んで、勉強とスポーツをがんばるように言われてきました。その反動ではいってしまったのかもしれません。

小野氏: 僕の家はゲームをやってもいい家庭だったんですね。僕のもう1つの野望は女の子にモテることで、そのためにギターをずっとやっていたんです。でも大学になって、これでは将来食っていけないと気づいた時、ちょうどカプコンが作曲家を募集していて、もうここにいくしかないと受けたら受かったのです。

松田氏: 子どもの頃に「ゲームセンターあらし」という漫画がありまして、憧れていたんですが、お金がなくて荒らすことができませんでした。バイトでお金を手にするようになると、実際に荒らすようになって、三重県の田舎限定ですが、「リッジレーサー」や「デイトナUSA」で僕の名前がランキングトップに載っていないゲームセンターはなかったです。そのうちに、ゲームはどうやって動いているんだろうという疑問が浮かび、それを追求した結果ゲーム業界に入ることになりました。

小島氏: 高校生まではビックリするくらい小野さんと同じです。モテたくてバンドをやっていたんですが、これでは飯が食べられない。私は大学で絵を描いていたので、その作品を持ってゲーム会社やアニメ会社を受けたのですが、SCEの面接官と話をした時に、もっていった作品を1度も見ずに会話だけで合格と言われたので、この業界に決めました。

――コミュニケーションの取り方をどこで学びましたか?

原田氏: 学生時代に10年くらいヨットレースの部活にいたのです。命がかかっているうえにチームスポーツだったので、そこでリーダーシップを学びました。何度も命の危機に瀕したり、実際先輩が亡くなっていたりするのですが、その中で最終的に人間は理屈ではなく感情で納得するんだということを学びました。つまり、お互いを信頼しているかどうかが重要ですね。

小野氏: 僕も学生時代には命をかけていました。女の子にどうやったらモテるのかに。友人は何人も死にましたね。まあ原田さんみたいなセンセーショナルな事件はないのですが、もてたい一身で女の子が求めているものはなんだろうと一生懸命シミュレーションしました。どうやったら女の子の心をつかんでいけるのか、人の心をつかんでいけるのかを考えていくわけです。それと、失敗した場合の心の修復の方法も、学生時代のうちに学びました(笑)。

松田氏: 笑いのセンスとイケメンであることが非常に重要だと思います。空気がギスギスしたときに、笑いのセンスがある人はその空気を一気に吹き飛ばしてくれますからね。

小島氏: 松田さんが言ったとおり、楽しんで作るのが基本だと思っています。今日のゲームショーで出展しているゲームは、まだ開発中のものがあります。製作チームのモチベーションを保つために、みんなが遊んでいる映像を写真にとって送って、みんな楽しんでいるよと伝えてあげるんです。そしたらゾンビみたいになっているチームの人に元気を与えることができます。

――格闘ゲームをつくるために重要なことは?

原田氏: これは格闘ゲームに限りませんが、なにかのアクションを起こした時の快感が原点だと思っています。作っている人間に、それをわからせるために僕が必要だと思うのは、作っている人間にそのジャンルのゲームを徹底的にやりこんでもらうことだと思います。その中で何が大事かをわかってもらうことが大切だと思うのです。これは確かカプコンさんでもやっていると思います。1つ言えることは、スタッフにゲームをやらせると、負けてむかついたりイライラしたりする人が非常に多いんでしょね。でもそのむかつきがとても重要だということにスタッフがだんだんと気づき始めます。逆にあまりにもゲームシステムやルールが良すぎて、負けた側が納得してやめてしまうような格闘ゲームは非常によろしくないと理解できるわけです。そういうステップを経ることで、100人のスタッフが同じ感覚を共有することが必要だと思います。

小野氏: 概念は原田さんが言った通りです。ゲーム作りで最終的に目指すゴール、ゲームのキモはやりながら気づいていくものなのですが、ショートカットしてその答えだけを聞きたがる人がいるのです。でもそれを聞く奴は絶対に売れるゲームは作れません。ローマは1日してならずです。

――最後に一言アドバイスをお願いします

小野氏: 若い人はたくさんデートしてください。既に業界に入っている方は、成功体験をロジックに解き明かしてください。ゲームを1つあげて、なぜこれがワールドワイドに受けているのかという事を、いろいろな職種の人で話し合うんです。ゲーム業界がもう1つ次の段階にいくきっかけになると思います。

 日本人も中国人も韓国人も台湾人にもいえるのですが、アジア人の悪いところが1つあります。ゲームの話をする時に、このゲームのここが凄いよねというのではなく、ここが悪いよねというんです。でもそれは誰でも言えるんですよ。皆さんはプロであり、これからプロになろうとしているのですから、そんな話をしてはだめです。どんどんほめていく中で、そのゲームのポイントが見つかるようなプロセスを踏んでいくのが大切です。これができているのが欧米です。アジアのゲームが振るわなくなった原因は、ユーザーに引きずられて文句しか言わないクリエイターが増えてしまったことが原因だと思うのです。

原田氏: 台湾はPCのパーツやOEMで世界的なブランド力をつけて着ました。それは長い間信頼を積み重ねてきたからだと思います。「鉄拳」が始まった当初は、ユーザーの中でも認めてもらえないし他の格闘ゲームにも負けていました。ちょうど今から12、3年前にチームで、10年くらいかけてこのジャンルで世界一になろうと誓いあいました。ゲーム業界は1発のアイデアで当てるというイメージがありますが、現実には今世界を席捲している北米のデベロッパーが作っているタイトルは、短くても8年、長いと10年以上の歴史を積み重ねてきているタイトルがほとんどです。ユーザーも我々も奇想天外なアイデアに眼が行きがちで、事実夢のある業界だと思いますが、実際にはそこに到達するための手段は非常に地味な業界だと思います。古いタイトルは非常に地味な積み重ねで、今の地位を築いています。ですから積み重ねの精神を忘れずにいることで、いつかオリジナリティのある、長く続くフランチャイズができるのではないかと思います。

松田氏: たぶん重要なことはもう言われています。現場で働く者として言えば、手を動かして、人に見せて、直してまた手を動かして作ってくださいと。血を吐くまで(笑)。

小島氏: 前のお三方に大事なことはだいたい言われたのですが、言っていないことを言えば、ゲームは1人では作れませんので、協調性を大切にしてください。ゲーム作りはちょっとオタク的なというか、一般から見ればちょっとかっこ悪いイメージがあるかもしれませんが、自分が仕事として選んだからには、サッカー選手やアーティストくらいかっこいい仕事なんだと心してやって欲しいと思います。


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(2010年 2月 6日)

[Reported by 石井聡 ]