コーエー、筑波大学の講義「コンテンツ応用論」に協力
「ゲーム業界ではたらくということ」について学ぶ


2月1日 開催

会場:筑波大学、コーエー本社


筑波大学とコーエーを結ぶ形でテレビ電話が設置され、学生の質問に対して鈴木亮浩氏と北見健氏が答えた。弊誌はコーエー側で取材したため、大学の室内を映し出したテレビ電話の様子はこんな感じ

 株式会社コーエーは、筑波大学情報学群情報メディア創世学類の学生向け講義「コンテンツ応用論」の「第6講『ゲーム業界で働くとは』」において協力。同社のゲームクリエイターが参加し学生の質問などに答えた。

 同講義はメディア、ゲーム、広告などの世界で働きたいと考えている学生を対象に、プロデュース能力、ファシリテーションスキルを磨くことを目的に様々な分野のトップの講師を招き講義を行なっている。担当教授は西岡貞一教授。これまでにも光畑由佳氏を招いての「社会起業について」やTBSプロデューサー・和田のり子氏の放送会社の話題などが取り上げられてきた。今後の予定では八谷和彦氏、白河洋次郎氏などの講義が予定されている。

 今回の講義は、石島照代氏による「ゲーム業界で働くとは」。石島氏は「ゲーム業界の歩き方」(ダイヤモンド社刊)の著者としても知られる方で、今回はゲーム業界で働くことをテーマに同氏の講義が行なわれた。講義には100人弱の生徒が参加し、質問などにも積極的に参加。コーエーはこの講義にテレビ電話を通じて同社ゲームクリエイターの鈴木亮浩氏と北見健氏が参加し、生徒の質問に答えた。

 石島氏は「ゲーム業界の歩き方」について「就職指南本ではない。学生のみなさんはこれまで勉強してきたが、働くというイメージが湧かないと思う。ゲームを通じて働くことをイメージして欲しいと考え執筆した」と切り出した。講義は同書に収録されている岩田聡任天堂株式会社代表取締役社長の働くことについてどう考えているかのコメントを引き合いに出し学生達にどのように考えているのかを逆に質問。ディスカッションを通じ講義を進めていった。

 学生が「働くこと」について積極的に考え始めたところで、クリエイター両氏との質疑応答に入った。今回参加した鈴木氏は1992年にコーエーに入社しオメガフォースの立ち上げに参画し「真・三國無双」シリーズの開発に携わり、「無双OROCHI」、「BLADESTORM 百年戦争」のプロデュースを手がけ、現在は「トリニティ ジルオール ゼロ」のプロデュースを担当している。一方、北見氏は1992年に同社に入社し「三國志」、「Winning Post」シリーズの開発を手がけ、「太閤立志伝IV」、「三国志11」などのプロデューサーを担当。現在は「信長の野望・天道」のプロデューサーを務めている。

 学生から「目指そうと思ったきっかけは」と問われた鈴木氏は、「高校3年生の時、兄のパソコンで『三國志』を徹夜でやったのをきっかけに漠然となりたいと思った。大学卒業後好きな道に就職したいと思い入社。仕事は思った通り楽しいし、ヒット作にも携われ満足している。ゲームは面白ければ売れるというものではないが、作品を作る仕事として達成感がある」と答えた。北見氏も偶然にもきっかけはほぼ同じで「三國志」をプレイしてからだという。北見氏は「こういうゲームを作りたいなと軽い気持ちで目指した」と語った。面白かったのは北見氏の「仕事は本当に辛いけど、楽しいことを見つけてやっている。すごい達成感がある」というコメント。常に面白いことを追求し、前向きに仕事に取り組んでいる姿勢は学生にも伝わったことと思う。

 また、入社前に関連の勉強をしていたかの問いには、鈴木氏は「趣味でプログラミングをしていたが、ゲームを作ったことはない。大学は普通だしゲーム作りに関しては素人同然。こんなゲームを作りたいなと考えていたくらい」とコメントし、「プログラムの知識なんてなくて良いんです」と語った。北見氏も「あんまり詳しくてもちょっとどうかと思う」と同調。コーエーと言えば歴史物のゲームが多いが、北見氏は「歴史は苦手な方」と語るほどだ。学生にしてみれば、即戦力になる方が採用されやすいのではないかと考えるのは当然のこと。こういった質問にもそのことが現われているが、実際はそうでもないようだ。

 この他にも、「現在のプログラミングツールは?」や、「開発以外にどんな部署がありますか?」といった質問が飛んだ。さらには「歴史物を作る時に他国への配慮は?」といった難しい質問も。鈴木氏は「例えば黄巾の乱について中国では乱ではないとされている。そういった細かい表現について文化の違いなど気をつけている」と丁寧に解説していった。

 「好きな仕事で成功することは難しいが、成功した理由はなにか?」という最後の質問に鈴木氏は「成功した作品もあるが赤字プロジェクトも経験している。そんな中、成功の要因と言えば情熱かな。面白い作品を作るんだという情熱。面白くするということを、仕事だからではなく、常に考えている」と分析し、その想いがヒット作に繋がっていると語った。北見氏は「成功を目指してやってきたわけではない。自分の好きな仕事に真摯に向き合ってきた。仕事をしているときもしていないときも、どうすれば作品が良くなるかを考えている」と、こちらも内からの想いでゲーム作りを楽しんでいるといった印象だった。

 講義後に両氏にいくつか質問をぶつけてみた。昔はこういった講義もなく、今と比べると情報もずっと少なかった。鈴木氏は「ゲーム業界は今ほど確立されておらず、情報も乏しかった。当時、自分は単純に入ろうと思っただけだった。今の子は『働くこととは?』などいろいろ考えている。情報があるからこそいろいろと考えるのかもしれない」と感想を述べた。一方、北見氏は現在の就職難についても言及し、「臆病になっているのかも」との考えを述べた。北見氏は就職当時を振り返り「やりたいことから探していけた。重要なのはなにをやりたいかだと思う」と語った。

 逆にゲーム業界から見た人材難について伺ったところ鈴木氏は「ここ数年、情熱のある人が少ない気がする」と語り、優秀な人材が減ってきたことを実感しており作り手として危機感を感じているという。鈴木氏は「学生との繋がりはこれまでは薄かったので、太くしていきたい」とし、今後もこういった講義などには協力していき人材を育てていきたい考えだ。

 最後に学生に向けての一言として、鈴木氏は「ゲーム業界は特殊で、クリエイターでありながら一方で会社に所属している。サラリーマンクリエイターという数少ないところ。自己表現したい人は、働くには良い環境だと思う。ぜひ目指して欲しい」とアピール。北見氏は「就職活動をして失敗すればへこむと思う。でも最近はそのへこみ具合が尋常ではない。へこみすぎず落ちても良いので、やりたいことに向かってやるのが良いのでは」と学生に向け励ましの言葉を残した。

 筆者もゲーム業界を目指したのはメガドライブが出る以前の話だが、当時は情報も乏しく想いだけが突っ走っていた記憶がある。現在は情報はあるが、経済危機や情報過多の中、逆に想いだけでは突っ走れない状況があっても仕方ない部分もあるだろう。メーカー側や、大学などが発信する情報をうまく取り込み、自分たちの思いをうまく実現していただきたい。


今回の筑波大学の講義に参加したコーエーのクリエイター陣。右がソフトウェア事業部副事業部長ソフトウェア1部長常務執行役員の鈴木亮浩氏、左がソフトウェア事業部ソフトウェア2部マネジャーの北見健氏テレビ電話はコーエーの会議室に設置され、講義時間中のなかで両氏への質疑応答は40分ほど割かれた

(2010年 2月 1日)

[Reported by 船津稔]