「ラグナロクオンライン」、「エボリューションプロジェクト」インタビュー
第1期テストが終了。ユーザーの意見を受け、「RO」はどのように変わるのか?
ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は、MMORPG「ラグナロクオンライン(以下、「RO」)」において、新しいアップデート内容をテストサーバーに先行導入してユーザーの意見を集める「エボリューションプロジェクト」を実施している。今回、同社では第1期のテスト終了を受けて、中間報告を行なった。
「エボリューションプロジェクト」は、韓国で6月17日に実装された「リニューアルプラン」及び、「3次職」を“日本でどう実装していくか”を考えるために開始されたプロジェクトだ。すでにリニューアルが実施されている韓国サービスでは、ステータスよりも装備に強さがフォーカスされていたり、経験値テーブルが変わっていたりとこれまでの「RO」とは大きく変化している。このリニューアルは韓国内でも賛否両論となったが、日本でも「このまま実装するのか」というユーザーの声が大きい。「エボリューションプロジェクト」はそうした声を受けて実施されたものだ。
リニューアルの懸念はガンホーのスタッフ内でも大きく、日本のユーザーのニーズを満たすための「RO」像を作り、開発元のGravityに提示することになった。「エボリューションプロジェクト」はガンホー側が提出する「改善案」を補強・確認するために、抽選で3,000名のユーザーを募り、テストサーバーでリニューアル後の「RO」を体験してもらい、アンケートやSNSでユーザーの考えを聞くこととなった。
今回のインタビューではガンホー ゲーム事業部オンライン本部ゲームサービス部一課課長の廣瀬高志氏とゲーム事業部オンライン本部長の飯野平氏に、「エボリューションプロジェクト」第1期テスト終了をふまえ、「RO」が今後のどうなっていくかを質問してみた。また、初の日本開催となる「Ragnarok Online World Championship(RWC) 2009」に関しての意気込みも聞くことができた。
■ 日本のユーザーのための変更。明確な発表は11月以降、アップデートは来年から
ガンホー ゲーム事業部オンライン本部ゲームサービス部一課課長の廣瀬高志氏 |
ゲーム事業部オンライン本部長の飯野平氏 |
テストサーバーであるSakray_Jには、抽選で選ばれた3,000人のプレーヤーがログインし、韓国の仕様をテストした |
各モンスターの対象レベル。レベル差によって得られる経験値が大きく異なるようになった |
今回の「エボリューションプロジェクト」について廣瀬氏は「今回のテストは韓国のプランに対して、さらに改訂をしなくてはならないだろうポイントを我々も考え、実際に日本のユーザーさんの考えは私達とどれだけ一致しているだろう、と考えて実施することになりました」と語る。
結果として、運営チームが「この点に関してはユーザーが懸念を持つのではないか」という予想にかなり近い意見が多く寄せられた。ユーザーの意見を受けた上で、ガンホー側は意見をまとめ、Gravityに「日本側がどんな『RO』を求めているか」という具体像を提示することができた、というのが現状だ。
テストは本来9月の第1期ではまずユーザーにリニューアルの「RO」をプレイしてもらい、10月から意見を取り入れ、ガンホー側が考えるプランに対する「裏付け」にしていこうと考えていたが、はじまった瞬間に大量の意見が寄せられ、ユーザーの意見はかなり固まっているということを廣瀬氏は実感した。このユーザーの熱意に押される形で、Gravity側に改善案を提出することに決まった。
飯野氏もユーザーの意見のまとまり方、はっきりした意志の表示が提示された速さに驚かされた。ユーザーの意見の方向性が明確だったため、当初の予定を繰り上げて「攻撃速度のルールに関して」、「経験値テーブルに関して」といったより細かいところでの方針も決定し、改善要求を出すことができたという。
ユーザーの意見が明確で、ガンホー側も強く改善を求めるポイントとしては「『RO』ならではの特徴」だと廣瀬氏は語る。まず1つめは、「職業が同じであっても育て方で、ゲームの遊び方が全く異なるところ」。スキル、ステータス、ユーザーのアプローチ次第でキャラクター像が異なる自由度が、リニューアル後はスポイルされてしまっている。
2つめが、「キャラクターの成長感」だ。Strの10の位が上がったときに、ダメージが大きく増加するなど、能力におけるボーナスが明確で、プレーヤーがキャラクターを育てる大きな目標になっていた。リニューアルではステータスよりも持っている武器や装備の効果が明確になっていて、育てていく「感触」が薄くなってしまっていた。
3つめが「爽快感」だ。キャラクターのきびきびした動き、素早い攻撃速度、スピード感が「RO」というゲームの面白さだった。ところがリニューアルでは3次職のステータスの上限がこれまでの100から150にアップしたことを受けて、キャラクターのスピード表現が引き延ばされ、結果としてかなり能力を上げなくては以前のキャラクターの動きにならなくなってしまった。リニューアル後は自分のキャラクターが弱くなったような印象を与えかねない。この表現に関しても改善して欲しいという意見が多かった。
ガンホー側が求める大きなポイントは「ステータスの役割」である。攻撃速度や、ダメージのボーナス、魔法の詠唱速度などでこれまでのプレイの爽快感が少なくなっている。ステータス拡張など今後の「RO」に向けての改善点は同意できるのだが、とくにその「表現」において、ユーザーからの不満が大きかったという。
この他にも10を超える項目をまとめてGravity側に提出している。低レベルキャラクターの成長速度が遅くなった代わりに、高レベルのキャラクターのレベル上げのハードルが低くなった「経験値テーブル」。キャラクターとモンスターのレベル差によって取得経験値が変化し、低レベルのモンスターを倒すと全く経験値が得られないというところも改善を求めて欲しい点だ。こういった仕様は他のMMORPGでは見られるが、「ROらしさ」を大事にしたいと廣瀬氏は語る。
ガンホー側が提出した要望で現在公開できるものは以下の項目だ。
- ●既存アイテムの価値
これまではカードや強化で初期アイテムも強力なアイテムにカスタマイズできたのだが、リニューアル後は武器の強さが変わってしまう。ユーザーがこれまで積み上げてきた資産を考慮した方向性の模索。
●ステータスの役割
・攻撃力、防御力
・ASPD
・キャスティングタイム
・状態異常耐性
・命中率、回避率
キャラクタの育て方においての自由度の確保。プレーヤーが思い描くキャラクター像を実現させるため、どの能力をどう上げていけばいいかという、「手応え」をもたらすバランスへ。
●経験値偏差
●アイテムドロップ偏差
リニューアル後はキャラクターとモンスターのレベル差がついた場合、得られる経験値やドロップアイテムが極端に減少するバランスになっている。低レベルモンスターのアイテムが必要なときなどに問題となるバランスという指摘
●経験値テーブル
リニューアル後の、低レベルキャラクターの必要経験値が多い変わりに、高レベルのレベル上げが楽になるという時ランスの見直し
●ユーザーインターフェイス
「RO」ならではのプレイ感の追求
リニューアルしたゲームを根本部分から変えて欲しいという要望は非常に大きな変化で、開発側に大きな負荷がかかる事が予想される。開発体制などに大きな変化があるかを質問したところ、廣瀬氏は「現在まさに体制も含めた形で調整中です。これまでも日本向けコンテンツを作るという形で企画を行なっていましたが、今回は日本のニーズに合わせた形での「土台作り」まで行なうことになるため、ガンホーとしてもより一層の努力をしなくてもいけないと覚悟してます」と語った。
根底から変わる「RO」を生み出すというのは非常に大きなプロジェクトになるのではないか、これまでのようにガンホーのスタッフが韓国に行って話し合うだけでなく、たとえばガンホーがGravity内に部署を作る、といった開発体制が必要なのではないだろうか?
飯野氏は「現在はまだそういった事を話し合う状態ではないと思っています。ただGravityとは、去年末から綿密にミーティングを重ねていまして、僕たちの考えを理解してもらってきていると思っています。ミーティングに関してはこれまでより頻繁に行なっていますし、深く伝えるというところで実現できると思っています」と応えた。
一方、「エボリューションプロジェクト」の前から、どういった考えでこういうリニューアルの仕様を決定したのか、また「RO」をどうしていきたいのか、開発とユーザーが直接意見を交換したり、発表する場が「RO」の場合は少ないように思える。説明の場や意見を聞く場があっても良かったのではないか、という質問に対して飯野氏は「今回もアンケートの結果などを開発側に届けています。ガンホーがユーザーの意見を集約し、Gravityに届けているというのが現状です」。
廣瀬氏は「韓国の開発者は“グローバル”を意識して、世界的にサービスできる作品をという方向性でコンテンツを作っています。その意識は、必ずしも日本のユーザーさんが持つ『ROらしさ』とイコールでない部分があります。日本のユーザーさんの要望と開発者のビジョンがかみ合わないところがあるかもしれないというのが、正直なところです。こういった懸念もあり、まずはユーザーさんの考えをまとめてこちらから届け、Gravityに考えてもらう時間が今は必要かと思っています」と答えた。
飯野氏は「ユーザーさんの持つ「RO」像というのは強固なもので、開発者の持つ今後のビジョンに対して『全然ROをわかってない!』と、立ち位置の違いの部分で判断されてしまうかもしれません。そういう心配もありました」と語る。廣瀬氏は「開発の立場や想いを伝えるという部分は、アンケートなどにできるだけ開発側の意図も付け加えて理解して頂けるように伝えています。こちらとしては今後もできるだけ橋渡しをしていこうと思っています」と語った。
ガンホーの提示する「日本のユーザーのニーズを満たす『RO』」は現行の韓国のものとは一致しない、新しい「RO」だ。それは世界に広がる「RO」とは全く違うものを求めるということなのだろうか?
廣瀬氏は「目標としては、私達の意見が活かされた形でグローバルな『RO』像になっていけばいいなと思っています。それが最終目標ですが、まず日本の『RO』像を明確にし、リニューアルによって遊び方が変わってしまった部分などを、まずきちんとクリアしていくのが最重要ポイントだと考えています。そうすることで、日本のユーザーさんが満足してもらえる『RO』を提示できる。日本のユーザーさんに『RO』を遊び続けて欲しい、選び続けてもらいたい、そのために私達は開発に働きかけている、というのが本音です」と語った。
ガンホーがまず目標として掲げているものは、「日本のユーザーにとってのベストの『RO』です」と飯野氏は強調する。「私達はパブリッシャーとして、日本のユーザーさんに楽しんでもらえるゲームを提供するために努力をしていきたいと思います」と飯野氏は語った。
これだけ大きな変化を求めるとなると実装時期が気になるところだ。飯野氏は「具体的にどんなものになるかを11~12月には発表し、その内容を反映するアップデートを2010年の第1四半期までには開始していきたい」と語る。できるだけ早急に実施していきたいというのが“必須”だという。リニューアルに関する調整はガンホーとGravityでは「エボリューションプロジェクト」より前に1年近くの期間をかけており、できるだけ早くしていけるように求めていくとのことだ。ガンホーとしては明確に方向性を決めた物を提示している。現在はGravityがその意見を受けた形で、開発の具体的な方向性を決めているところだ。
ちなみに、「エボリューションプロジェクト」は、第1期テストのレポートを提出したプレーヤーのみを対象とした、3次職の体験プレイが行なわれている。当初の目標であった「ユーザーの意見の方向性を定めた集約」というテスト目標は第1期で達成されてしまったため、第2期テストについては未定とのことだ。ユーザーに提示する情報に関しては、Gravityとの話し合いを経た上で11~12月にガンホーとGravityの決定事項として発表する予定だ。
「『RO』ユーザーさんは自分のキャラクターを時間をかけて育て上げ、アイテムを集めてきました。彼らの資産は、新しい方向性が入ってきても守られるべきだし、守るのが我々だと思っています。一方で3次職という更なる上の目標が実装されたことで、攻城戦やモンスターの戦闘でも新しいルールが必要となってくる。そのためにも拡張性は必要です。だからこそ、新要素は以前の物を無価値にするのではなく、楽しさを横に広げることが必要だと思うんです。変えなくてはいけない部分はあるんですが、変えることで楽しさを増やしていければと思っています」と廣瀬氏は語った。
Sakray_Jで、プレーヤー達は様々な角度から「RO」らしさというものを検討した。この結果がどのような方向性を生むかは注目したい |
■ 念願の日本での世界大会開催。韓国との親善試合など準備万端で挑む!
11月1日は世界各国から集まった選手達との戦いが繰り広げられる。日本選手の活躍はもちろん、ガンホーがどのようにイベントを展開するかも気になるところだ |
11月1日に日本で初開催となる「Ragnarok Online World Championship 2009(RWC2009)」が行なわれる。RWCは今回で4回目になるが、廣瀬氏はいつも「日本でやらないんですか」と聞かれていたという。日本の運営にとっても念願であり、「世界大会を日本で開催できるオンラインゲームがある」という所をアピールできる点においても、喜ばしいことだという。廣瀬氏は「世界の人にも、日本の『RO』ユーザー、ギルドのレベルの高さを見てもらいたいと思います」と語った。
1つ懸念しているのが今回のイベントはRWCだけではなく、様々なタイトルのイベントを行なうガンホーフェスティバル2009との同時開催だ。ガンホーのイベントでは恒例の大量の行列ができるであろう限定グッズの販売も行なわれる。こちらを目的としたユーザー達の盛り上がりで、初の世界大会に影響が出てしまうのではないだろうか。
「今回のイベントではメインステージとイベントステージを明確に分けました。イベントステージでは様々なタイトルが紹介されたりイベントが行なわれますが、メインステージはほぼRWC2009一色です。ずっと試合をやる形になりますが、ライブやコスプレステージなどが合間に入っています」と飯野氏は語った。
今回のRWCへ向けた日本側の「準備」に関してはこれまでの大会では本戦用のステージが練習では使用できなかったり、様々な問題点があったという。今回ガンホーは、トーナメントで日本一を決めてから、上位ギルドの総当たりで代表ギルドを決めたり、英語クライアントで試合を行なったりと、これまで以上にやれることをしていく、という形でバックアップしてきた。「もちろん細かいところでまだまだというところもありますが、いくつかの課題はクリアできたかなと思っています」と廣瀬氏は語った。
日本チームへのバックアップというところに関しては、英語クライアントや練習のための場の提供などの他に、韓国チームとの親善試合を行なった。この試合の結果は日本側の勝利に終わったが、韓国側ではラグがあったようで、韓国側の実力は未知数のところもあるという。ただ、選手にとって「他国との戦い」を経験できたのは大きかったのではないだろうか。
最後に、ユーザーへのメッセージとして廣瀬氏は「リニューアルプランに関しては、お待たせする形になって本当に申し訳なく思っています。我々運営チームとしては妥協なく日本のニーズにあったものを作っていきたいと思っています。信じていただければな、と思っています」と語った。
飯野氏は「RWC2009はガンホーとしてこれまで最大のイベントになります。7年間サービスをしてきてついにこういったイベントができるようになりました。10月24日には1日限定ではありますが無料開放デーを設け、この日は『RO』のアカウントを持っている人ならば誰でも無料で楽しめます。現在の『RO』を改めて体験していただければなと思っています」と語った。
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(2009年 10月 23日)