東京ゲームショウ2009レポート

台湾XPECブースレポート
2つのWEBブラウザ向けMMORPG「カオスランド」、「三国封神」と、
SFMMORPG「Bounty Hounds Onlinee」の試遊台を出展


9月24日~27日 開催(24日、25日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:1,000円(一般/前売り)、1,200円(一般/当日)、小学生以下は入場無料


 東京ゲームショウの海外パビリオンで最も積極的に出展を行なっているのが台湾である。特に今年はオリジナルタイトルを発表するメーカーも増え、台湾ゲーム業界の“勢い”を感じさせられる。そのなかでも特別なスペースで大きく出展を行なっていたのがXPECだ。

 XPECは2000年に設立され、当時の台湾では珍しいコンシューマーゲームを開発するメーカーとしてスタートした。オンラインゲームも制作し、2009年8月からはWEBブラウザーで楽しめる本格MMORPG「みんなの冒険大陸カナン」を日本で展開している(運営はNHN Japan)。XPECの総経理を務める許金竜氏は2009年に台湾遊技産業振興会会長に就任し、台湾のゲーム産業を牽引している。

 XPECはTGS2009でブースを出展するだけでなく、イベントステージでのタイトルアピール、さらにTGSフォーラムでも「台湾メーカーのCreativeなゲーム!」というタイトルで講演を行なった。本稿ではこの講演と共に、XPECブースに出展されていた3本の新タイトルを紹介したい。




■ WEBブラウザゲーム、最新タイトルのCG制作など新たなチャレンジを続けるXPEC

XPECの総経理を務める許金竜氏。2009年に台湾遊技産業振興会会長に就任した
XPEC北京スタジオプログラム開発チームマネージャー兼プロデューサーの楊振華氏

 TGSフォーラム「台湾メーカーのCreativeなゲーム!」では最初にXPEC総経理の許金竜氏がこれまでのXPECの歩みを語った。XPECは2000年よりスタート、今年で9年目になる。2005年までは赤字が続き、それまでの累計は約17億円、一時期は非常に苦しかったという。

 2005年よりそれまでの結果が実り黒字に転換したXPECは、現在では台湾だけでなく、北京、蘇州、上海にもスタジオを持ち、532名の社員がいるという。XPECはコンシューマーゲーム、オンラインゲームだけでなく、様々なアウトソーシングも行なっている。蘇州にはCG制作専門のチームがあり、「Call of Duty 4」や「Iron Man」といったゲームタイトルにも参加している。

 日本でも11月に発売予定の「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」のCGも40%近くをXPECのスタッフが手掛けているという。「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」はチベットなど中国に近い舞台では特に力を発揮したとのことだ。この作品はグラフィックスでも高い評価を受けている。「XPECが担当したことで評価点がプラスされるとは必ずしも言いませんが、評価を下げる結果にはなりません。要求されたクオリティーを決して下げない、と自信を持っています」と許氏は語った。

 北京スタジオもまた9年の研究を経て、「ブラウザゲーム」という結果を出し始めている。「ブラウザでMMORPGをプレイできる環境を作るために、9年も研究を続けたメーカーは他にはないと思う」。“ブラウザーでのMMORPGといえばXPEC”と言われるようにがんばっていくつもりだ、と許氏は語る。今後XPECは「すばらしいタイトルを作ること」そして、「ゲームメーカーにとっての最高のパートナーになる」という2つの目標を掲げて努力していくという。

 最後に許氏は「台湾と中国の関係は改善され、より活発になってきました。現在、台湾と中国は新しい貿易協定を結ぶように進んでおり、これまで台湾企業は『外資企業』と扱われていましたが、この協定が結ばれれば中国国内の企業と同じ立場での市場開拓が可能になります。これによりこれまであった市場のバリアが撤廃されることになるのです。このチャンスに、台湾企業をパートナーに日本の企業の皆様が中国国内で業績を上げることが可能になると期待しています。」と語った。

 許氏の話を受けた形で、XPEC北京スタジオプログラム開発チームマネージャー兼プロデューサーの楊振華氏は北京スタジオが行なってきたブラウザ上でMMORPGをプレイするための技術的チャレンジを語った。

 WEBブラウザでのゲームはダウンロード不要、低スペックですぐに遊べるという利点がある一方、ゲームの性能そのものもWEBブラウザーによって限定されてしまう。その限られた環境で本格的なMMORPGを実現するにはどうするか、というのが北京スタジオの課題だった。

 8年の挑戦で完成した「みんなの冒険大陸カナン」は1つの画面に最大200人のプレーヤーが行き交い、20のユニットが同時にスキルを使う負荷に耐えられる環境を実現した。さらにペットシステム、シームレスに切り替えられるマップ、ダンジョン、アバター要素、対戦など現在のMMORPGに劣らないゲーム要素を盛り込むことができた。

 これを実現できたのが「データ圧縮技術」だ。世界マップ10枚に、ダンジョン12枚、戦場マップ3枚、装備は1,000種類、アイテム1,500種類、さらにペット、NPCなど多彩なデータを盛り込みながら、クライアントの総容量を100MBに収めたのである。

 データの流通もできるだけ工夫し、プレーヤーの行動により発生するデータ量も押さえた。マップが切り替わるごとにデータ全てをロードするのではなく、最初のログイン時に共有データをあらかじめダウンロードしておくことで、リアルタイムでの切り替えには少ないデータのやりとりで実現できるようにしたのだ。

 楊氏は今後のWEBブラウザでのゲームも、よりリッチなゲーム要素、グラフィック表現が求められ、これまでのゲームと同じ方向性を求められると予想している。一方で稼働プラットフォームに関してはネットブック、携帯端末などより性能が限定されたハードウエアへも広がる点を指摘する。「ブラウザゲームは現在注目を集めており、これからもっと発展する時期を迎えていると思います。技術を高めていくことがユーザーに応えていくことだと思っています」と楊氏は言葉を結んだ。


左はフォーラムの様子。中央と右はXPEC北京スタジオが挑戦したデータ圧縮である。WEBブラウザで本格的なMMORPGを実現するためには様々な技術的ハードルがあったことを感じさせられる



■ 3つのタイトルを出展したXPECブース。WEBブラウザゲームはよりテーマ性を強めた方向へ

 海外パビリオンの台湾コーナーでは様々な会社が出展していたが、それとは別に1つのコーナーを作っていたのがXPECブースだ。他の台湾メーカーがモニターのみを設置し、自社のムービーを流しているだけだったのに対して、XPECは試遊台を設置し積極的にタイトルをアピールしていた。

 今回XPECブースが出展したタイトルは、SFMMORPG「Bounty Hounds Online」、そして2本のWEBブラウザでプレイできるMMORPG「カオスランド」、「三国封神」だ。以下、各タイトルの特徴を紹介しよう。


XPECブースでは開発中のタイトルを触ることができた。クライアントは中国語版だが、スタッフがプレイをフォローしてくれる

● 「Bounty Hounds Online」

サソリ型ロボットをつれて戦う。硬派なSF的世界観を持った作品だ
蜂型メカが、鳥足を持つロボットに変形。変形すると戦い方が変化する

 「Bounty Hounds Online」はバンダイナムコゲームスとXPECが共同開発したWindows用のMMORPGで、バンダイナムコゲームスからPSP用に発売された3Dアクションゲーム「Bounty Hounds」と世界観を共有している。サービス時期は未定で、台湾と日本どちらを先行するかも未定だという。

 「Bounty Hounds」は人類が地球から飛び出し、他の惑星を開発していく時代が舞台となる。宇宙進出では巨大企業が主導権を握り、進出する各惑星で企業同士が争うようになっていった。惑星の調査や、未知の生物たちとの戦い、そして他企業のエージェントとの戦いなど様々な問題に対して、企業に雇われ戦う傭兵達が生まれた。彼らは“企業に飼われる猟犬”としてBounty Houndsと呼ばれるようになった。

 「Bounty Hounds Online」ではプレーヤーはこの傭兵として、惑星を舞台に様々な企業の依頼をこなしていく。機械とも生物とも思える不気味な敵、不毛の惑星に設置された無骨な人類の建物といった本作独特のSFテイストあふれる雰囲気はインパクトがある。一方、クリックで移動し、敵をクリックすれば攻撃、ショートカットでスキル攻撃とインターフェイスはオーソドックスだ。

 本作の大きな特徴は、プレーヤーと共に戦うペットにある。動物の姿を模したロボットで、試遊バージョンではオオカミ型、蜂型、サソリ型が確認できた。ユニークなのはこれらのペットにはゲージがあり、敵を一定数倒してゲージを貯めると変形が可能になることだ。オオカミ型は2足歩行の砲台メカに変形し、蜂型は鳥足のハリネズミのような形に変わった。変形することで戦うスタイルも接近型から遠距離型になるなど戦い方が変わるという。

 プレーヤーキャラクターも2つの装備を常に持ち歩いていて、遠距離ではキャノン砲、近距離では刀というように距離で自動的に持ち変える。またこちらもゲージが用意されていて、ゲージを使うことで範囲攻撃など特殊攻撃ができる。変形するペットや、ごつい銃と忍者のような短い刀を使う女戦士、特殊攻撃前にはバリアのようなフィールドが浮かび上がったり、メカファンの心をくすぐる描写が魅力的だ。

 ペットは様々なタイプへと育てることができ、プレーヤーの職業、使用する武器とスキル、さらには武器の改造など、プレーヤーの思い入れで様々なバトルスタイルを追求できるという。特に武器は研究開発を行うことで、偶然凄い性能を獲得できたりと様々なシステムが盛り込まれるようだ。

 また、インスタントダンジョンなどを活用したクエストシステム、所属する企業でのミッションといったストーリー性、企業の先兵となって他企業に所属するプレーヤーとのPvP、RvRといった要素も盛り込まれる。硬派なSFMMORPGとなりそうで、今後の展開に注目したい。



スクリーンショット。巨大なモンスターとの戦いも楽しめそうだ。ストーリー展開にも期待したい
こちらは試遊台からの撮影。異星ならではの不気味な敵キャラクターも本作の魅力といえるだろう。中央は強力な範囲攻撃。右はオオカミ型ロボットが、砲台型に変形する両形態を表示したステータス画面だ

● 「カオスランド」

カオスランドのマップは、いくつもの島世界ともいえる形でわかれている。下の三つの世界でプレーヤーは戦い界王を目指していく

 「カオスランド」はWEBブラウザでプレイできるMMORPGだ。頭の大きなかわいらしいキャラクターが登場する、ほのぼのとした雰囲気の作品だが、本作は他のプレーヤーと争い、1つの世界の王「界王」の座を目指す対戦が中心になるという、なかなかハードなものとなっている。しかも究極の目標は3つの世界の界王が天界の支配を争うというより壮大な目標が待っているのだ。

 プレーヤーは最初は世界を冒険し、他のプレーヤーと協力して強くなる。レベルが30を超えると、3つの世界から1つを選びそこで強くなっていく。この世界ではギルドを組むことで世界の中の他のギルドと競うことになる。その戦いを勝ち抜くことでギルドマスターはその世界の王になることができる。界王とギルドの仲間達は特別な恩恵を得ることができる。

 ギルド戦は専用のフィールドを使い、相手の陣地に進入し支配権を奪うという戦いになる。界王の一団はさらに、ほかの2つの世界を支配する界王と戦いを繰り広げていく。その戦いを制したものが、レベル70から行くことのできる天界を支配することができるという。

 基本的な戦闘システムはコンシューマーRPGのようなターンベースで、敵キャラクタのデザインもかわいらしい。「カオスランド」では罠アイテムを使うことで、ボスをのぞくほとんどのモンスターをペットにすることができ、さらにペットを育てていくことも可能だ。また装備の属性に五行思想を盛り込み、属性を合わせた装備をするとキャラクタの装備画面で竜の絵が浮かび上がる、といったシステムも実装している。

 WEBブラウザでプレイできる本格MMORPGを作ったXPECがさらに国家戦、ギルド戦にフォーカスした作品を持ってくるという展開は興味深い。特に中国を視野に入れれば、ギルド戦、PKの覇者となった一部のプレーヤーが世界を支配する競争要素は人気が出そうである。


キャラクターイラスト。「かわいらしいデザイン」とひとくくりにされがちだが、「カナン」や下の「三国封神」ともタッチが異なる
左が装備の属性で光る竜の模様。中央が戦闘シーンである。モンスターを捕獲しペットにでき、さらに成長させられるという

● 「三国封神」

「三国封神」では軍隊を率いて戦える。三国志の英雄達との関わり合いも楽しみだ

 「三国封神」は三国志演義と封神演義という中国の歴史的な小説の世界観をミックスしたユニークなアプローチの作品である。こちらもWEBブラウザでプレイできるMMORPGでサービス時期は未定だ。

 ちなみに原作の封神演義は殷から周へ移る古代中国の時代の物語で、三国時代よりずっと前の時代だ。本作には趙雲など三国志のキャラクターが登場するところから、時代設定は三国時代のようだが、ここに封神演義の物語がどうミックスされていくかは興味深い。

 「三国封神」は基本システムは「みんなの冒険大陸カナン」を利用し、そこから発展されたものを使っているという。基本システムを踏襲しつつ、世界観やストーリー、盛り込む要素で差別化を図っていく方針だ。登場するキャラクタは目が大きく輪郭の丸い、人形やぬいぐるみのようなかわいらしいデザインだ。「みんなの冒険大陸カナン」や「カオスランド」以上にかわいらしさにフォーカスされている作品だと感じた。

 キャラクターのアクションでは特に座る姿にこだわったという。街でみんなで座りながらのんびり会話する、というプレイも楽しそうだ。一方、フィールドは水墨画を思わせるタッチを使っている。戦闘はシンボルエンカウント方式で、戦闘画面に移行するのだが背景は太い線で描かれ、通常フィールドより幻想的なより絵画的雰囲気が強まっている。

 「三国封神」はペットの他に「軍団」を率いることができるという。三国志の武将として志を同じとするもの達と国に所属し、軍勢を率いて戦うというのがプレーヤーの大きな目標となりそうだ。軍団もまたプレーヤーが力を傾けることで強力な存在となるという。どのような世界が展開するか、興味を惹かれるところだ。


キャラクターイラストとと、モンスターを動かすためのアイデアスケッチ
水墨画タッチの戦闘シーンやフィールド、装備画面。キャラクターのデザインなど、女性にも人気が出そうだ



(2009年 9月 27日)

[Reported by 勝田哲也]