Game Developers Conference 2009現地レポート
「ワンダと巨像」、「ノーモアヒーローズ」、「Fallout 3」開発リーダーの邂逅
クリエーターの出会いは世界にどんな衝撃と未来をもたらすのか?
「発展するゲームデザイン:今日、明日、東の、そして、西洋のゲームデザイン」というタイトルで行なわれたセッションでは、Bethesda Game Studioの「Fallout 3」Lead DesignerのEmil Pagliarulo氏、「ワンダと巨像」や「ICO」を手がけるソニー・コンピュータエンタテインメントJAPANスタジオインターナショナルプロダクション部チーフクリエイティブディレクター上田文人氏、「Killer7」、「ノーモアヒーローズ」といった作品を手がけたグラスホッパーマニファクチュア代表取締役の須田剛一氏が登壇し、ゲーム制作への想いをディスカッション形式で語った。司会を務めたのは米PlayStation Magazineなどの編集を経て東京をベースにコンサルタントとマネージメントをしている8-4Ltd Executive DirectorのMark MacDonald氏。
核戦争後の未来をアメリカの1950年代テイストで描きSFアイデアを盛り込んだ上で文明が崩壊した世界でのサバイバルを描く「Fallout 3」、テキストを使わずに、少女を救うためたった1人で巨大な石像達に立ち向かう少年の戦いを描いた「ワンダと巨像」、ビームカタナを振る殺し屋と謎の美女が強烈な個性を持った登場人物と生と死のドラマを繰り広げる「ノーモアヒーローズ」。登壇者の作品はどれも個性的な作品ばかりだ。
どの作品も作り手の個性がはっきりと出ている。この作品を作ったクリエーター達がどんな想いを語るのか、そして彼らの次回作は何なのか。本稿ではディスカッションの模様をお伝えしたい。
【Fallout 3】 | ||
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【ワンダと巨像】 | ||
【ノーモアヒーローズ】 | ||
■ 3人のクリエーターが語るゲーム制作における“本能”の重要性
Bethesda Game Studioの「Fallout 3」Lead DesignerのEmil Pagliarulo氏 |
「ワンダと巨像」や「ICO」を手がけるソニー・コンピュータエンタテインメントJAPANスタジオインターナショナルプロダクション部チーフクリエイティブディレクター上田文人氏 |
グラスホッパーマニファクチュア代表取締役の須田剛一氏 |
MacDonald氏が最初に質問したのは、「ゲームデザインについて、どのようにゲームのコンセプトを決めていくか」というものだ。Pagliarulo氏は「今までにないものを作り出す」というのが作品を作る根底にある欲求だという。今までにないストーリー、今までにないゲームプレイ。それを求めて、プリプロダクションとして様々な要素を考え、組み合わせていく。そして1つの世界を作り上げ、その世界に没入していくような作品を目指していくのだという。
具体的なゲームのアイデアについて、Pagliarulo氏はプレーヤーにユニークな“報酬”を与えるために、「Fallout 3」ではバイオリンの名器である「ストラディバリウス」に関わるクエストを入れた。ここのバイオリンをある老女に届けると彼女は新しい生き甲斐として、バイオリンを奏でるラジオ番組を始めるのだ。Pagliarulo氏は「『Fallout 3』は60時間も遊べるように作ったゲームだが、フレッシュな気持ちを持ってもらうために工夫をした」と語った。
MacDonald氏は同じように上田氏と須田氏へと質問すると2人は顔を見合わせ、須田氏は「難しい」と頭をひねる。上田氏はマイクを寄せ、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。「最初に絵コンテを作り、それを実現させていくためのプログラム的なアプローチをしていきます。そこから『ゲームの最終形はこうだ』というものを練り込んでいきますね」と語った。
上田氏に続いて須田氏が「考えて考えて、ため込んでから、トイレで力んで、“出す”時に浮かびますね。嘘だと思われるかもしれないけど、ほんとの話なんですよ」と語ると、会場からは大きな笑い声があがった。MacDonald氏が「『ノーモアヒーローズ』がどうやって生まれたか、わかったような気がする」と言うとさらに笑い声は大きくなった。
MacDonald氏は上田氏の言葉を受けて、「最初のアイデアが、ゲームを作っていく上で進化していくことはあるのか」と言う質問をぶつけると、Pagliarulo氏は「作っていく上で1番気をつけるのは、どう遊んでもらえるか、どうすれば楽しいかです。実際に作っていく上ではそこを重視しています」と語った。「Fallout 3」はクライマックスで巨大なロボットが登場するが、最初のアイデアは人間の5倍以上の大きさだったが、実際作ってみて、それほど巨大なものは現実感がなく、演出と作りたいシーンに合わせてサイズが変更されたという。
上田氏は「『ICO』は城の中だけのお話ですが、企画時は城の外の世界での冒険も考えていました。敵ももっと現実的なものを考えていました。また、『ワンダと巨像』は複数のプレーヤーがオンラインで協力して倒す、という企画でした。それがチームリソースや、チームの得意、不得意で変更されていったのです。変えていくのも好きで、変わっていくのは楽しいですね」と語った。
須田氏は「もちろん、完璧な企画書を出して、そこからぶれません!……と言うことは絶対なくて、企画は現場のアドリブでどんどん変わっていきますね。気をつけることは、プレーヤーを退屈させないこと。それはそのまま、現場が退屈しないことにつながります。時には僕が変えるための決断をすることもある」という。
MacDonald氏はこの須田氏の言葉に反応する。次の質問は、「チームと意見が合わなくても変更を指示することはあるか?」というものだ。Pagliarulo氏はこの質問に対し、「できるだけバランスをとる。しかし、時には自分の“本能”を信じて決断を下すこともある」と語った。また、「Fallout 3」はダウンロードコンテンツ(DLC)を提供しているが、このコンテンツでは、ユーザーの意見に反応しながらゲームを作れるのが新鮮だという。
本能という言葉に大きく反応したのが須田氏だ。「いかに正解を出せるか、と言うことには本能は必要だと僕も思いますね。変えよう、と強く思う一瞬があります。時にはマスターアップの1週間前に……これはこの場所ではいわないことにしましょう」と言葉を止めてしまった。上田氏も本能が重要だとしながら、「ゲームは作っていく上で、自分が想像したものよりいいものができあがります。それができるから、ゲーム制作を続けているんだと思っています」と語った。
ここから一歩踏み込み、チームとリーダーが対立することもあるか、それでも通すのか、と言うところへ議論が進んだ。須田氏は「『Killer7』では新しいチャレンジを積極的にしたため、チームの理解が得られないこと、自分自身もわからなくなることがあった。その時は客観的な視点を持っているプロデューサーの存在がありがたかった」とコメント。
上田氏は須田氏の言葉に頷きつつ、「僕のチームは立場が近いためか、対立はあまりなかったですね。それはすごく幸運なことだと思います。だけど、僕もゲーム後半は何がよかったのかわからなくなり、すべて粗に見えてくる。そういうときに大事なのがフォーカステストのユーザーの反応です。彼らの視点でインスピレーションと共にゲームを再認識する。彼らの意見を受け入れるわけではないですが参考にしますね」と続けた。
Pagliarulo氏もまたゲームを作っていくと見えてこなくなるという。「自分は新しいものを作っているつもりなのに、ユーザーからは他の作品の続編としてとらえられることもある。それでも他の人のデザインドキュメントを読むことで、改めて自分の作りたいものを再認識する。
ゲームを作る上での反省点として、須田氏は発売前、「もっと自分のゲームをプレイする時間がほしい」という点を上げる。時間という点で上田氏は、締め切りを考えれば“こうしたい”という考えが手遅れになることもあり、ストレスをためないようにするテクニックも必要だと語った。
■ 待ち望まれる次回作。上田氏は“どちらかと言えば『ICO』に近い作品”を制作中!?
司会を務めたのは米PlayStation Magazineなどの元編集者で、8-4Ltd Executive DirectorのMark MacDonald氏へ |
須田氏は積極的にジョークを混ぜ、3人はそれぞれの想いを語り合った。須田氏と上田氏は前日も話し合ったとのこと |
次の議題は「ストーリーの表現方法」だ。MacDonald氏は須田氏の作品世界をポップ、Pagliarulo氏の作品をPCゲーム時代からのテキスト中心の深い世界、そして上田氏の作品を会話のない世界と評する。それぞれのストーリーテリングの方法論はどのようなものだろうか?
上田氏は話しかけると同じことを言い続けるNPCがいることで、作品世界のリアリティが損なわれる問題を指摘する。自然な反応ができるAIができてほしい、という上田氏の言葉にPagliarulo氏も同意し、人間的な会話の難しさを挙げる。須田氏はストーリーテリングに関して、「僕は誰も見たことがないストーリーを目指しています、表面のストーリーと根底のストーリーの両方で楽しめるような、繰り返しプレイすることで見えてくる“雄弁なゲーム”を作りたい」と語った。
MacDonald氏が「須田さんの作る作品は世界は独特で、作品を作るときには何か薬でも使っているのですか、と言う冗談を以前インタビューでしましたよね」と話を振ると、須田氏は「ゲームを作るときはいつも風邪薬をね……嘘です」と冗談で返し、会場からは笑い声があがった。
そこにかぶせるように上田氏が「『Fallout 3』はキャラクターが1人1人クレイジーですよね、あれはPagliaruloさんお1人で作っているのですか?」と、質問をする。Pagliarulo氏は「Fallout 3」は複数のデザイナーがみんなで作っていることを明らかにした。多くのデザイナーが集まって、“狂って、イカれてる”世界を実現したという。
その上でPagliarulo氏はDLCのおもしろさを挙げ、他の都市を題材にするのも面白いと思っている、と語った。「次はどんな観光名所を“爆発”させようかと考えています、日本の都市とかね……冗談です」。「Fallout 3」は日本語ローカライズの時に都市を爆破させる要素が削られ、日本ユーザーの間で議論になった部分だ。Pagliarulo氏は次は日本で怒られないようにしたい、とも語った。
ここからは会場の質問を受けよう、と言う流れになったのだが、いきなり壇上で手を挙げたのが須田氏。「Pagliarulo氏はDLCを作っているということですが、上田さんの次回作は?」と質問をぶつけた。
ちなみに須田氏自身は「EAのスナイパーに狙われているからいえない」とのこと。それでも上田氏に「三上(真司)さんと一緒にEAから発売されるホラーゲームを作っているんですよね?」と聞き返されると、「がんばって作ってます」と答えた。上田氏の次回作はまだまだ難航していて、何も言えないとしながらも、「どちらかと言えば『ICO』に近い作品」という情報を明らかにした。どのような作品になるのだろうか。
会場からは「ゲームはアート(芸術)である、と言う考えに対してどう思うか」という質問が寄せられた。上田氏はこの問いに対して「僕はゲームはエンターテイメントだと思っています。やはり、商品として評価してほしい。作品をアートだ、と言われるのは本意ではないと思っています」と返した。須田氏は「ビデオゲームは結果としてアートの側面を持つ。ビデオゲームの力はアートのスタイルとしての魅力も持っていると思う」と答え、アートという言葉の反応への違いを感じさせられた。
「これからどういうゲームを作りたいか」という質問に上田氏は「人の心を活かしたゲームを作りたい」と最初に答えると、Pagliarulo氏は「私もそうだ」と答えた。Pagliarulo氏は人間の状況に対する心理に着目していて、「プレーヤーの感情をコントロールするようなゲームを作りたい」と語った。
感情のコントロール、というところで、上田氏は「ゲームオーバーという、アーケードゲームならではの、プレイ時間を制限させる手法は、プレーヤーにストレスを与えない方向でゲームデザインに組み込めるのではないかと思っている」とさらにコメントを寄せた。
今回のディスカッションではまとめの言葉、というのはなかったが、ゲームを作る上での姿勢やチームとしてのアプローチをかいま見ることができたと思う。アートという言葉のとらえ方や、人間の感情への興味など、作り手のこだわりや、チャレンジしているテーマを感じることもできた。
3人が答えるという形だったため、正直なところやはり短い。もっともっと3人の作品に込める“情念”と“夢”を聞きたかったところだ。「Fallout 3」のPagliarulo氏、「ワンダと巨像」の上田氏、「ノーモアヒーローズ」の須田氏が挑戦する「次の一手」はいつ見えてくるのか、何よりもどんなものになるのか、期待したい。
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□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
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(2009年 3月 28日)