Game Developers Conference 2009現地レポート
Game Developers Choice Awards、Lifetime achievementに小島監督!
「LittleBigPlanet」が数々の受賞をするも、Game of the Yearは「Fallout 3」に
Game Developers Conference(GDC)2009開催の3日目にあたる現地時間の3月25日、「Game Developers Choice Awards」が開催された。このAwardsはIGDA(国際ゲーム開発者協会)メンバーのゲーム開発者達の投票によって、昨年発売されたゲームを表彰するものだ。
賞にはAudioやGame Designなど様々な部門が設定されており、ノミネート作品は事前に発表される。GDC参加者には「今年はどの作品が受賞するのか?」という議論をしている人も多い。発表会は基調講演が行なわれる会場で、数千人の開発者が参加し、見守る中で開催される。
ステージはプロのDJがサウンドを担当し、スポットライトがステージを照らし出す。タイトルがコールされると、観客の開発者達は大きな歓声を上げてそのタイトルへの気持ちをアピールする。その華やかな雰囲気と話題性で、GDCの目玉の1つといえるイベントである。本稿では各部門賞や、大賞に当たるGame of the Year受賞作品、そしてLifetime achievement(生涯の功績)に選ばれた開発チーム小島プロダクション監督、小島秀夫氏のコメントを紹介したい。
■ 「Fallout 3」がGame of the Yearを受賞、小島氏がLifetime achievementに選出されるも、賞設立以来初めて日本タイトル受賞なし
Game of the Yearを受賞した「Fallout 3」開発スタッフ |
Lifetime achievementに選出された開発チーム小島プロダクション監督、小島秀夫氏 |
MEGA64のムービーに登場する小島氏。ノリノリである |
2008年のGame Developers Choice Awardsは、Game of the Year受賞作品を巡って様々な議論が生まれた。BEST AUDIO、BEST VISUAL ARTS、BEST WRITING(ストーリー)の3部門を受賞しGame of the Yearも確実と思えた「BIOSHOCK」がGame of the Yearを逃し、「Portal」が受賞したのだ。
「BIOSHOCK」は“海の中に作られたユートピアの崩壊”という独特の世界観と、濃厚なストーリーテリング、特殊能力を駆使するゲーム性と様々な要素が、高いレベルでのバランスを保っている作品だ。一方「Portal」はFPSとパズルゲーム要素を併せ持つ革新性が突出しているものの、ゲームそのものはシンプルだ。この作品をGame of the Yearに選ぶところが、「北米を中心とした開発者」ならではの価値観を独特の価値観を感じさせられ、興味深かった。
今年のGame of the Yearのノミネートは「Fable II」、「LittleBigPlanet」、「Fallout 3」、「Left 4 Dead」、「Grand Theft Auto IV」の5タイトルだった。世界市場で大きなヒットを記録した「Grand Theft Auto IV」。ピーター・モリニュー氏の最新作として発売が待ち望まれついに登場した「Fable II」。開発に難航したものの、物理エンジンなど高度な技術を盛り込んだ「LittleBigPlanet」。
ゾンビと人間の息詰まる戦いを実現させた「Left 4 Dead」。核戦争後の世界を旅するというテーマであらん限りのアイデアを詰め込んだ「Fallout 3」。どの作品が受賞してもおかしくはなかった。筆者の周りでも「どの作品が受賞するか」という議論が活発に行なわれた。特に「LittleBigPlanet」の高い技術力で親しみやすい世界観を作り、そこに“驚き”を盛り込んだ楽しさ、SF作品のアイデアをあふれるばかりに盛り込んだ「Fallout 3」、そしてオンライン対戦の楽しさを改めて気がつかせてくれた「Left 4 Dead」が人気だった。
ちなみに「Left 4 Dead」は「Best Game Design」はもちろん、Best TechnologyやBest Audioにもノミネートされている。ゾンビがいる音、銃声、足音など、プレーヤー達の位置関係を示す演出と技術が優れているのだ。もし「Left 4 Dead」が受賞したら、開発のValve Softwareは昨年の「Portal」に続く2冠を達成することになる。
結果として選ばれたのは「Fallout 3」だった。「Fallout 3」はこの他に、Best Writingを受賞し、Best Game Design、Best Visual Artsにもノミネートされていた。「開発者はヒットした作品よりももっと玄人好みの作品を選ぶのではないか」とも予想していたのだが、世界観やシステム、そして何よりもシナリオが評価を受けたのではないだろうか。
Game of the Yearの受賞ではExecutive producerのTodd Howard氏が「15年間ゲームを作り続けてきたが、GDCで賞を取ったのは初めてです」とコメントした。
「LittleBigPlanet」はBest Game Design、Best Technology、Innovation Award、Best Debut Gameと4つの部門賞を獲得している。多くのポイントで高く評価されながらも大賞を逃す点は昨年の「BIOSHOCK」を思わせる。
この他、Best Audioでは「Dead Space」が、Best Visual Artsでは「Prince of Persia」が受賞している。「メタルギアソリッド4」はこの2部門と、Best Writingにノミネートされたが受賞はできなかった。また、Best Handheld Gameでは「ファミコンウォーズDS 2」、「無限回廊」、「パタポン」、「すばらしきこのせかい」がノミネートされたにもかかわらず、ノミネート中唯一の海外デベロッパー作品の「God Of War: Chains Of Olympus」が受賞している。
Game Developers Choice Awardsは日本のゲームタイトルが多く登場し、賞を受賞している。しかし今回は受賞作品は0だった。日本の作品が賞を1つもとれないというのは9回を数えるGame Developers Choice Awardsで初めてのこととのことだ。日本のゲームが海外開発者の興味を失っているようにも感じた日本のメーカーの奮起と復活を期待したい。
このような状況の中、「メタルギアソリッド」シリーズをはじめとした様々な作品を生み出す小島氏がLifetime achievementに選ばれたのは少し複雑な思いを抱かざるを得ない。しかし会場では小島氏の名前が呼ばれると歓声が爆発し、小島氏が壇上に上る時は大きな拍手に包まれた。小島氏は「このような賞をいただけたことを、家族と支えてくれた皆さんに感謝したいと思います。生涯ゲームを作り続けたいと思います」と語った。
Game Developers Choice Awardsは幕間にMega64というゲームをテーマにする英国のテレビ番組が、様々なショートムービーを流すのが毎年恒例になっている。今年も「ワンダと巨像」をテーマに、ほぼ同じ大きさの巨像とワンダが町中で“ゆっくり”と戦い、町の人から奇異の目を向けられたりとユニークなムービーが上映された。ワンダと巨像はチープな作りながら、動きがゲームの雰囲気を再現していて、制作者のゲームへの愛を強く感じる。
「メタルギアソリッド」をテーマにしたムービーではスネークと雷電の格好をした2人が街をそれぞれのアクションで歩いているが、その前に1人の人物が立ちはだかる。その人物は誰あろう、小島監督その人だ。小島氏はおもむろに携帯電話を取り出し、「用事ができた、すべての予定をキャンセルしてくれ」というと、緊張した顔を2人に向ける。次の瞬間、小島氏は2人と共にスニークアクションで走り出すのだ。
街を歩いている2人が1人の人物を前に凍り付く、という展開は一昨年のGame Developers Choice AwardsでLifetime achievementに選ばれた宮本茂氏が出演したムービーのパロディーである。イベントに毎年参加している人だからこそ爆笑必至のムービーなのだ。突然身をかがめて走り出す小島氏の予想外の動きがおかしさを倍増させる。
Game Developers Choice AwardsはGDCならでは、北米ならではの明るく、楽しく、そして熱いゲーム開発者のお祭りである。2009年は、ゲーム開発者が賞賛し、目標とする“日本の”ゲームがもっともっと生まれてほしい。
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
(2009年 3月 26日)