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【特別企画】中国上海のeスポーツ専門店「B5電競館」レポート
中国全土からアマチュアチームが集うeスポーツに特化したゲーミングカフェ
2017年8月1日 12:19
日本でも年々じわじわと盛り上がりを見せつつあるeスポーツ。2020年のオリンピック競技化に向けて、様々なeスポーツイベントが予定されている。今回は、日本より先行する中国のeスポーツ事情を探るために、一軒のeスポーツカフェを訪れてみた。そこは中国でもeスポーツイベントの拠点のひとつとして有名な存在だという。日本のeスポーツシーンと何が違うのか探ってみた。
eスポーツカフェの名前は「B5電競館(B5 Gaming Cafe)」。日本語に直せば「B5 eスポーツ館」となり、“B5”とはチーム戦に挑む5人の勇士を表した言葉で、店名がそのままeスポーツそのものをイメージしている。今回訪れた上海店は、中国全土で10店舗程度展開しているチェーン店の1つで、この上海店は旗艦店として位置づけられている。
運営会社は生城貿易という中国の会社だが、機材やeスポーツに関する運営ノウハウは、台湾のペリフェラルメーカーBenQの全面バックアップを受けており、モニターは100%BenQ製、ペリフェラルの多くも、BenQのゲーミングデバイス部門であるZowie製を採用している。
店内は、シート数138と、中国のネットカフェとしてはそこまで大きい方ではない。入り口すぐのところに、まさにカフェのようなお洒落な受付カウンターがあり、その奥にプレイエリアが広がっている。入ってすぐ気づいたのは、タバコの臭いがしないこと、そして清潔なことだ。中国のネットカフェは、PCゲームに関心のない一般人も映画やWEBブラウジングを目的に利用するケースが多く、昭和時代のゲームセンターやパチンコ店を彷彿とさせるぐらいモクモクとたばこ臭いのが普通だ。床もゴミだらけだったり、ヒドい場合、人が寝ていたりするのだが、そういう過去の悪い印象を完全に覆すぐらい綺麗な空間だ。
プレイエリアで特徴的なのは、eスポーツイベントが開催できるように、店内中央にステージと大型モニター、それを挟むように両側に6人掛けのガラス張りシートが用意されているところだ。その向かい側には2人掛けの実況席もあり、eスポーツイベントを開催する際は、何も動かさずにそのまま大会が始められるようになっている。おもしろいのは、実況席の両側にも6人掛けのガラス張りのステージシートがあることで、それほど大きな店舗ではないにも関わらず、同時に2試合が進行できるようになっている。
よく見ると、通常シートの配列もeスポーツ観戦がしやすいようになっており、シートでゲームを楽しみながら、目当ての対戦が行なわれるときだけ、シートに座ったまま応援するといった遊び方ができる。店内のすべての要素が、効率的なeスポーツイベント運営のために設計されているという印象だ。
ところで日本のネットカフェでは、シャワーやベッドタイプのシート、映像コンテンツや漫画など、ゲームプレイ以外の要素も充実しているのが通例だが、B5 Gaming Cafeにはそういったゲーム以外の要素は一切ない。20分5元(約80円)で利用できるマッサージチェアが2台あるぐらいだ。その代わり、ゲームプレイに関する環境はすこぶる充実しており、全シートがゲーミングチェアで、ゲーミングマウス/キーボード/ヘッドセットを標準装備し、快適にゲームが楽しめるようになっている。
ちなみにステージシートは、大会と同じ環境でゲームが楽しめるだけでなく、PCやモニターのスペックも高い。たとえばモニターは、ステージシートは、BenQが誇る144Hz駆動のハイエンドゲーミングモニターXL2735で、もっとも安価なシートは、コンソールゲーム向けの機能が充実したRL2755、その次のグレードのシートは眼精疲労に強いGW2870といった具合だ。BenQ全面協力だけあって、BenQモニターのショウルームとしても機能している印象だ。
気になる利用料金は、最初にチャージする金額によってノーマル(50元)、ゴールド(200元)、VIP(1,000元)の3段階があり、ノーマルのもっとも安いシートで1時間6元(約100円)。さきほど紹介したガラス張りのeスポーツシートも1人から利用することができるが、こちらは1時間20元(約330円)だ。日本の一般的なネットカフェ料金と比較するとかなり安めだが、中国のネットカフェの水準から考えれば倍から数倍の強気の価格設定だ。
訪れた日は、週末の土曜日で、中国全土から300チームが参加した「Counter-Strike Grobal Offensive」の上位4チームによる決勝大会が午後から開かれるということで、筆者も観戦してみた。視察に訪れた午前中は、大会に参加する選手達が練習し、関係者がちらほらいる程度で店内は閑散としていたが、午後になるとすべての席が埋まり、立ち見も出るほどの盛況ぶりとなった。
大会については、ストリーミング機材の故障などもあり、数時間遅れでの進行となった。結局ストリーミング配信は中止されたのか、実況解説も行なわれず、ときおりギャラリーから散発的に歓声があがる程度で、しっかり見ないと試合の流れがよくわからないぐらいで、想像よりかなり地味だった。また、シートに座っている来場者全員が観戦目的というわけではなく、まったく試合を見ずに、自分の席で好みのゲームをひたすら遊び続けるユーザーも多く、全体として淡々とした進行だった。
スタッフに聞くと、このお店では毎週のようにアマチュア大会を実施しており、利用者にとって大会は珍しい存在ではなく、毎回こんな感じなのだという。大会があるからといって一般の利用者を閉め出すわけでもなく、出場する選手達が使用するeスポーツシート以外はいつも通りに利用でき、大会に参加する人、大会を観戦する人、ゲームを遊ぶ人、お喋りに来ている人が狭い空間に混在している感じで、逆にeスポーツがありふれた世界だからこその風景ということが理解できた。
大会は、「CSGO」をはじめ、「オーバーウォッチ」、「PUBG」、「Dota2」、「ハースストーン」など人気のPCゲームタイトルから種目が選ばれ、オンライン予選、オフライン決勝という流れで定期的に実施しているという。アマチュア大会ということもあって賞金は安く、ゲームのうまいプレーヤーが小金を稼ぐイベントというよりは、純粋にプロを目指すeスポーツチームに大会の参加機会を数多く提供することに主眼を置いている。そもそもネットカフェ主催のアマチュアeスポーツイベントに、300チームが登録するということが驚きだし、賞金云々ではなく“娯楽スポーツ”としてのeスポーツの存在を濃密に感じることができたのは大きな収穫だった。
eスポーツというと、Intelが主催するIntel Extreme Gamemaster(IEM)や、BenQが主催するeXTREMESLANDのようなプロ大会をイメージしがちだが、中国のようなeスポーツが盛んな国では、精強なプロチームを生み出すためのベースとなる肥沃なアマチュア層の存在がある。eスポーツがまだ本格的に立ち上がっていない日本では、どうしても話題作りのために、賞金額やトッププロの動向ばかりにフォーカスが当たりがちだが、“娯楽スポーツ”としてのeスポーツをどのように育てていくか、あるいはゲーマーがプロにステップアップする上での登竜門となるアマチュア層をどのように育成していくべきなのかが重要だと感じた。
国内でもサードウェーブデジノス主催のGALLERIA GAMEMASTER CUPや、EVOの日本版EVO Japanなど、大型のeスポーツ大会が次々に立ち上がりつつある。日本のeスポーツがどのような発展を見せていくのか、今後も引き続き注目していきたい。