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Wargaming.net LeagueのボスMohamed Fadl氏に、WGLおよびeスポーツの未来について話を聞いた

5月28日収録

 「World of Tanks」の世界大会「The Grand Finals 2017」が5月28日、ロシアモスクワで幕を閉じた。本大会に出場した各リージョンのトップチームを含め、ゴールドリーグに所属するチーム達はつかの間の休みを得て、8月から始まる2017/2018シーズンに向けて準備を進めていくことになる。

 Grand Finalsでは、試合の合間を縫ってWargamingのエグゼクティブ3名にインタビューする機会に恵まれた。1人目は、WGLを運営するGlobal Competitive Gamingのトップを務めるMohamed Fadl氏。彼には4月に台湾でもインタビューを実施しており、その続きとなる。

 ちなみに台湾ではGrand FinalsでWGLの今後について発表を行なうと言っていたが、その発表は延期になった。理由はインタビューでも語られているが、Fadl氏を筆頭にしたWGLの運営チームに加え、開発チーム、そしてプロゲーマー達も集め、WGLの未来について討議するサミットを7月に行なうためだという。

 ここで大事なのは、Grand Finalsで来年の計画の一端を披露する、という慣例を破ってまで、ユーザーとの対話を重視しているということだ。これはWGL運営における危機感の表れと言えるかもしれないし、逆に更なる成長を目指す余裕とみることもできるかもしれない。

 ただ、いずれにしても、次年度のWGLについてたっぷり聞こうと勢い込んでいた我々は、見事に肩すかしを食らい、いささか気の抜けたビールのようなインタビューになってしまった感もなくはないが、その分、WargamingがWGLで推進しているeスポーツについて掘り下げることができたので、そちらに注目して貰えればと思う。

【Grand Finals 2017】
HELLRAISER時代から数えると3年振り2度目の優勝となったTornado Energy。過去4回はNAVIとTornado Energyが2回ずつ優勝しており、CIS最強の座はまだまだ揺らぎそうにない

想定外が多かったロシア大会。バージョン9.18でバトルもガラリと変化

Wargaming.net Head of Global Competitive GamingのMohamed Fadl氏
Fadl氏が自ら語ったように、CISの首都であるモスクワでの開催で、会場も過去最大だったにも関わらず、入場者数はポーランド大会を下回った

――ロシアでの初のGrand Finalsの開催となるが、Wargamingとしてモスクワ開催の意味と、初日の印象を聞かせて欲しい。

Mohamed Fadl氏:初のロシア開催なので、初日の時点で多くの学ぶことがあった。特にモスクワは多くの「WoT」ファンがいて、たくさんのプレーヤーが来るかと思っていたら、初日は2,000~3,000人ほどで会場が一杯になるほどではなかった。初日は翌日の決勝に向けて、予選やリハーサルが行なわれる日なので、本日の決勝戦が、来場者のピークになると思う。いずれにしても、もしモスクワで第2回のGrand Finalsを行なうとすれば、今回の経験を活かしてより多くのユーザーに来て貰えるような大会にしたいと考えている。

――WGLの今シーズンはGrand Finalsで終わりとなるが、今シーズンの印象は?

Fadl氏:毎シーズン驚かされることが多い。特に新たなチームの活躍には驚かされている。今年は北米のチームが準決勝まで勝ち上がってきたことに驚いている。というのも、これまではヨーロッパやCISが勝つことが当たり前だったからだ。

――そのNAチームが勝ち上がってきている要因何だと考えているか?

Fadl氏:個人的な意見だが、APACやCISのチームはチームワークを重視していて、NAはどちらかというと個人プレイが多い印象を受けていた。ただ、今年はその様子が違っていて、APAC代表のEL Gamingが理由はアップデートのせいなのかどうかはよくわからないが、うまく連携が取れてなかった。NA代表のElevateは、素晴らしいチームワークを見せてくれていた。そのチームワークの差が勝敗を分けた要因になったのではないかと考えている。それから、優勝候補のNAVIがトーナメント初期で抜けてしまったことが衝撃のひとつになっている。

――視聴者数がのびているということだが、視聴者は短く激しいものを求めていると思う。短い時間でいかに興奮させるかという点において、ルールの面でどのように工夫しているのか?

Fadl氏:良い質問。我々もそれを考えている。視聴者は3つのセグメントにわけている。何時間でも見て貰えるような「WoT」のファンたち、短時間しか見ない方、そのどちらでもない、短時間で迫力のある映像をエンタメとして見たい方。こうした各セグメントに対して、我々だけで考えるわけではなく、コミュニティにも意見に聞きながら、たとえば、短時間しか見ない人に対しては、対戦人数を減らして、試合時間を短くして、内容の詰まった戦いをお届けするなどして、視聴者のニーズにあったコンテンツを提供していきたいと考えている。

――「World of Tanks」は、このモスクワで世界大会を実施する規模にまで成長したわけだが、ここまで成長した要因は何だと考えているか?

Fadl氏:私たちが伝統的なゲーム性を維持するだけでなく、ゲームを常に変えていったことが要因だと考えている。もともと我々のゲームは年齢層の高いユーザーに受け入れられているゲームだが、カジュアルな人でも遊べるようなアップデートを行なったり、eスポーツに向けた改良を行なったり、観戦のためのオブザーバーモードなど、柔軟に変更を加えたことが成功の要因になったのではないかと考えている。

【VTB Ice Palace】
会場となったVTB Ice Palaceは、ロシアに無数あるアイスリンクのひとつ。CISにもっとも多い人口を抱える「World of Tanks」として待望のモスクワ開催だったが、インターネットで視聴するユーザーが多いためか、意外にもあまりユーザーが集まらなかった

――WGLはGrand Finalsを含め視聴者数が伸びているという話だったが、ゴールドリーグより下の下部リーグがどうなっているのかよくわからない。このため、WGLへの新規参入者が育っていないように見えるが、そのための対策は何か考えているか?

Fadl氏:ようやくTMS(トーナメントマネジメントシステム)の開発を終え、2016年11月からテストして現在正式稼働している、多くの大会を作成し、マネジメントできるようになった。これによりWGLのようなトップリーグのみならず、より多くの方が、競い合うようなトーナメントに気軽に参加できるようになった。これからもTMSを活用して、多くのトーナメントを開催していければと考えている。

――Grand Finalsの直前に導入されたアップデート9.18の影響は?

Fadl氏:まったくゲーム性を変え、プロゲーマーに大きな影響を与えた。これまで存在しなかったTierXの軽戦車の登場によって、いろんな戦略や作戦を破壊するレベルで新しい戦術が生まれ、Grand Finalsにおいても今まで見たことのないような戦術が披露されている。このアップデートを大きなインパクトを与えたと思う。

――台湾でインタビューした際に、Grand FinalsでのTierポイントは68のままか、70にするかまだ調整中だという話をしていたが、最終的に68になった理由?

Fadl氏:Tierポイントの件に関しては、まだアップデートが導入されてゲーム性が変更されてから間がないので、そのままにした。我々としてもすべてを破壊して混乱させたいわけではない。ただ、将来的には70になる可能性は非常に高いと思う。今回は68にすることで、TierX軽戦車を入れる代わりに、どのTierを下げるかという選択肢を用意したかった。

【アップデート9.18の影響】
本大会はここ4年のGrand Finalsでもっともヘビー級の編成となった。優勝したTornado Energyは、Tier VIIIの枠まで重戦車AMX 50 100を投入し、7輌中6輌が重戦車だ

――それにしても毎回Grand Finalsの直前に、プロゲーマーを混乱させるような大きなアップデートを入れるのは何故なのか?

Fadl氏:私もそう思う(笑)。開発のスケジュールとWGLのスケジュールがうまく噛み合っていないのが理由だが、大きなアップデートによるメリットもたくさんあるので、あえて調節することもある。チームにも数カ月前から告知しているが、不満の声が出ることもある。なので、7月に行なうサミットではプレーヤーも呼んで意見を聞きたいと考えている。

――Grand Finals2018シーズンはどうなるか?

Fadl氏:来年に向けて具体的な変更は伝えられないが、7月に各担当をキプロスに呼んで数日間掛けてサミットを行ない、来シーズンをどうするかを決めるつもりだ。Grand Finalsは毎年進化しているが、我々の目標は、次はどのようなステップに持っていくか、次のランクに上げていくためにはどうしたらいいかということをシーズンごとにやっていきたい。以前から検討課題に挙がっているWGLの15対15の話など、サミットではそういった変更がプレーヤーにとって良い影響なのかどうかを見極めながら次のシーズンに向けて考えていきたいと思っている。我々はGrand FinalsやWGLなど様々なeスポーツコンテンツを視聴者に提供しているが、何よりも大事なのは、 視聴者が求めるイメージは年々変わっていくので、それに見合ったものを提供していきたいということだ。

 7月は各地域の担当者のみならずプロチームのメンバーも招待し、我々ではなく、プレーヤーと共に、彼らが何を求めているのか、どうしたらより良くなるのか、多くの方に受け入れられ楽しんでいただけるのかを決めていくつもりだ。今回のプレスカンファレンスで、来シーズンの話ができなかったのはそれもある。私が今思っていることと、プロ選手が思っていることが違う可能性があるからだ。現時点で言えるのは、CEOのビクター・キスリーから、資金面や規模においてeスポーツをより大きくするという約束をしてもらえたので、次のシーズンはより大きく、盛大になることは間違いない。

――ユーザーが普段遊んでいる15対15とWGLの7対7は、完全に別のゲームだと思う。WGLの7対7では何が重要なのか、何を見なければならないポイントなのかを理解するためのコンテンツを用意するつもりはあるか?

Fadl氏:実は7月のサミットでは開発メンバーも参加して貰って、ゲーム内のコンテンツとeスポーツコンテンツは、違うものなので、どうしたらWGLの要素をよく理解してもらえるかを話し合う予定だ。サミットでは、開発側が直接プロプレーヤーから意見を伺い、開発に役立てたいと考えている。

――他のゲームにおけるアナリストのような、ゲームのことを解説してくれる人がいないと興味すら持てないと思うので、その取り組みには期待している。

Fadl氏:我々としてもそういったハードコアなプレーヤーをもっと増やせるように努力していきたい。

【15対15と7対7】
ランダム戦の15対15と、WGLで採用されている7対7は、実はルールや戦術面で大きな隔たりがある

――「WoT」のコンソール版、モバイル版でのeスポーツでの展開予定は?

Fadl氏:個人的にはコンソール版やモバイル版、すべてのタイトルでeスポーツ展開したいと思っているが、PC版で多くのことを学んだので、簡単な道のりではないことはわかっている。新しいタイトルでは、まずどのようにプレーヤーをeスポーツにどう誘導していくか、どうランクアップして貰うかをしっかり考えていく必要があるので、その土台作りをした上で進めていきたいと思う。

――具体的な計画は?

Fadl氏:現時点で共有できる具体的な計画はないが、「World of Warships」ではすでにトーナメントを始めているので、今年はより大型のトーナメントが開催できればと考えている。「WoT Blitz」でもすでにツイスターカップをやっているので、継続して進めて行ければなと考えている。

【コンソール版】
天候による視界の制限など、PC版にはないオリジナル要素を備えたコンソール版や、モバイル版「WoT Blitz」の大会開催にも期待したいところだ