ニュース

ついに世代交代か! 「WGL Grand Finals 2017」グループリーグレポート

新仕様による戦術変化は? アジア勢、優勝候補カードの行方をレポート

5月27日、28日開催

会場:VTB Ice Palace

各地域の代表チームがモスクワに集結
出場チーム一覧
先日行なわれたグループステージの結果

 「World of Tanks」の世界王者を決める頂上決戦「Wargaming.net League Grand Finals 2017」が、5月27日よりロシア・モスクワで開催されている。大会1日目となった27日は、前日のグループステージを勝ち抜いた8チームによる準々決勝4試合が行なわれた。

 この大会は2016年を通して実施された「World of Tanks」各リージョン(CIS、NA、EU、APAC、China)のシーズン戦を勝ち抜いた地域王者が集まり、年間の総決算として世界王者を決める大会となる。出場したのは各地域から集められた12チーム。日本が属するAPACリージョンからはEL Gaming、Team Efficiencyが出場し、これに中国サーバー代表のYato Gamingを加えたおなじみのラインナップが登場した。

 下馬評的に優勝候補と目されるのはやはりCIS王者のNatus Vincere(NAVI)だが、前大会ではHellraisersとして出場し、スポンサー名を冠してチーム名を一新したTornado Energyにも注目が集まった。どちらもロシア最強、すなわち世界最強クラスのチームだが、昨年の大会ではHellraisersは決勝トーナメント初戦敗退という屈辱を味わっている。というのも、1試合目がいきなりNAVIとの対決になってしまったためだ。

 そして今回も、グループリーグにてNAVIとTornadoが同組になった。「事実上の決勝戦」が初日のうちに行なわれてしまうもったいなさはあるが、そのぶん、他の地域からの出場チームが決勝トーナメントに進出できるチャンスは増えることになる。

 全出場チームは次の通り。このうち、Yato Gaming(中国)、Team Efficiency(APAC)、eClipse(北米)、Brain Storm(CIS)の4チームは先日のグループステージで脱落。決勝トーナメント初戦は第1試合El Gaming対Elevate、第2試合DiNG対Oops、第三試合Not So Serious(NSS)対Kazna Kru、第4試合Tornado Energyという形で進行した。

最新アップデートによる戦い方の変化にすばやく適応した各チーム

決勝トーナメント表
アップデートの影響として特に目立ったのはマウスの大量投入傾向だ

 「WoT」は5月2日のアップデートでバージョン9.18がリリースされ、自走砲の大幅な見直しや、Tier10軽戦車の導入などが行なわれている。大会直前のアップデートということで、その変化に各チームがどう対応するかもプレーヤーの関心時のひとつだ。

 試合の編成や戦術に影響を与えたと見られるのは、自走砲の至近弾が敵車両をスタン(一時硬直)させるようになった仕様と、Tierポイント68のままで、TierX軽戦車が導入されたこと、そして9.17.1で導入された超重戦車マウスのHP・装甲の強化だろう。各試合とも多くのチームが自走砲を活用していたほか、マウスの膨大なダメージ耐性を攻防ともに活かす作戦を見ることができた。

 特に、多くのチームが主力にしているオートローダー戦車であるBat.-Chatillon 25t(バットチャット)がワンマガジン全弾打ち込んでも、マウスを倒し切ることができないというバランスになったことは、各チームの編成に大きな変化をもたらしたようだ。各チームとも大抵のラウンドですくなくとも2両のマウスを投入しつつ、前線を維持・押し上げる壁役として活用。両チーム合わせて4~5両のマウスが出てくることも珍しくないほどだ。火力担当のバットチャットという形はいつもと変わらずだが、これまではどちらかというと奇策の風が強かった自走砲もほとんどのラウンドで攻防ともに活用されていた。

見通しの悪いマップではマウス増量。広いマップではマウス+自走砲がほぼ確定ピックで、あとはバットチャットその他という感じだ
アジア最強のEL Gaming
対するは北米代表のElevate
序盤はEL Gamingが優勢
しかし、これまでの大会でみられた戦術展開のスピード感は薄まり、一気に仕掛けたところで迎撃されがちだった

 この日の第1試合、EL Gaming(APAC)対Elevate(北米)の試合でも、新仕様に対応した戦いぶりを当たり前のように見ることができた。両者ゆずらずタイブレークまで持ち込まれる接戦となったこの試合、EL Gamingは臨機応変に連動するElevateに対し、得意のラッシュ戦術を幾度も仕掛けた。しかし、その狙いはほとんど粉砕されてしまい、苦戦を強いられる形となった。

 これまでの大会との違いといえば、どちらかのチームに、あるいは両方のチームに大抵はマウスが2両程度いることだ。守る側にとってはマウスの硬さが頼もしく、ラッシュに対しても膨大なHPを有効活用することで時間を稼ぎやすい。いっぽう、攻めるほうにとってはマウスの機動性の低さが難しさを作り出す。EL Gamingとしては当然ながらそれを踏まえてのタイミング取りや状況判断をしていたことも間違いないが、どうにも「一気にしかけて一気に攻め滅ぼす」という戦い方は、最新の仕様において少々弱体化したということかもしれない。

 といったチーム戦のトレンドがわかるのがこういった公式大会の面白いところだが、ライブ中継を見守る日本の「WoT」ファンにとっては、EL Gamingの勝敗は大きな関心の的である。同じAPACの代表チームを応援する気持ちももちろんだが、EL Gamingが決勝まで進出して次回大会のシード権を獲得すれば、実質的にAPACから出場できるチームが増え、CarenTigerのような日本のチームにもチャンスが回りやすくなるという実利的な期待もある。

 その期待に応えられるか、EL Gamingは慎重に戦うラウンドでは堅実に勝ちをもぎ取りつつも、いくつかのラウンドで試したラッシュ戦術をことごとく粉砕され、Elevateに大きなリードを許したことがたことが後々まで響くことになってしまった。

 EL Gamingの勝利ラウンド数4に対してElevateが勝利ラウンド数6とし、リーチをかける。EL Gamingは得意ののマップ「クリフ」を迎え、粘りに粘って6-6のタイブレークまで持ち込んだ。最終ラウンド、マップ「ヒメルズドルフ」にてマウス3両投入で削り合いに持ち込んだEL Gamingだったが、Elevateの柔軟な守りを崩しきれず、敗北。ここでAPAC勢が大会から姿を消すことになった。

 ちなみに北米代表のElevateが相手というのは、トーナメントに残ったCIS、EUという2強地域からトーナメントに進出した6チームを避けての、ある意味おいしいマッチングであったため、勝てる試合を落としたという印象が強い。EL Gamingにとっては後悔の残る試合になったといえる。

EL Gamingは「クリフ」で粘ってタイブレークまで持ち込んだが、惜しくも敗れた

準々決勝でNAVI敗北。Tornado Energyへの世代交代の予感

多くの熱戦が展開したグランドファイナルのステージ
やはり最大の注目を受けたのはNAVIとTornadoの試合。地元ロシア勢の熱い応援が会場を賑わせていた

 その他の試合も緊張感あふれる展開で観戦する者を魅了した。特に注目が集まったのは若手のチームの活躍だ。EUから出場のOops - The Tough Giraffesは平均年齢18歳程度という非常に若手中心のチームで、他のチームではまず見られないような奇抜な作戦を多く見せてくれた。

 しかしながらトリッキーな動きを弄するあまりに些細なミスも多く、例えば車両がひっくり返る→起こすために味方2両が時間を取られる、といった形で自ら勝機を逃してしまうシーンも目立つ。だが、それも含めて面白いトリックスター的なチームと言え、楽しく観戦することができた。なお、この試合自体は手堅く戦ったDiNGが勝ち抜けている。

 若手の活躍という意味では、今大会最大の注目カードとなったNAVI対Tornado Energyである。かつてHellraisersとしてNAVIに勝ったり負けたりを繰り返してきたTornado Energyだが、ベテラン中心のNAVIに対し、好対照な若手中心チームである。幾度となくグランドファイナルの舞台で対決した両チームだったが、これまではNAVIの優勢で、とくに前大会でのTornado Energyは初戦でNAVIに敗北して下位敗退の憂き目に合わされた苦い記憶もある。

 そしてこの日の最終試合、NAVI対Tornado Energyという「事実上の決勝戦」とも云われるカードで、Tornado Energyが見せてくれた。

序盤こそリードしたNAVIだったが
陣地占領を見せ、相手を動かすTornade
Tornadeのダメージ管理は人間離れした正確さだ
勝者となったTornadeと握手を交わすNAVI

 序盤こそNAVIペースで進んだ試合だった。NAVIの技術、チーム力は凄まじく、他のチームを寄せ付けない、もしくは人間性を疑うレベルの超人的なプレイが連続した。マップ「ムロヴァンカ」では敵を未発見のまま、見当をつけたブッシュに砲弾を打ち込むと、土煙が上がらないのを見るや瞬時にチーム全員でフォーカスショットを浴びせ、完全なブラインドショットで車両を撃破してしまう。神業としか思えない。

 そんな技術を見せるNAVIは、開幕から連続3ラウンドを勝利。誰もが「やっぱりNAVIか……」と思い始めた第4ラウンドでTornadoが流れを掴み始めた。マップはルインベルク。Tornadoは一気に陣地占領にいくと見せ、NAVIがマウスを先頭に仕掛けてきたところから急旋回し、有利位置から全車両が絡む撃ち合いに持ち込む。見事なのはそのダメージ管理だ。ダメージ総量では負けていても、各車両がギリギリのHPで持ちこたえることで数的有意を維持。縦列に並んだNAVIの車両を効果的に減らし、終わってみれば4輌健在で勝利するという戦いを見せた。

 そこから先は完全にTornado劇場だ。マップ「ゴーストタウン」では、守り側では完璧なダメージ管理を見せ、全車両で被ダメを分散させつつ近距離の混戦を支配。攻め側では早々に占領を仕掛けて相手を動かし、そこから撃ち勝つ。

 こういった撃ち合いとダメージレースの中でNAVIが苦しんだのは、Tornadoのほうがマウスの強化された装甲をより上手に活用していた点だ。あるラウンドではTornado側のマウスがバットチャットからの砲撃を何発もはじくシーンが見られ、それがほぼ勝因となった流れもあった。素人目ではよくわからない部分もあるが、敵の射撃に合わせて車体を傾け、着弾点をずらそうとする動きは何度も見ることができた。

 相手はNAVI、であれば正確な砲撃が来るはず。とすれば、着弾点は正確に予測でき、タイミングを完璧に合わせることができれば、紙一重でかわせる、ということだろうか。凡人にとっては「理論上は可能(実際的には不可能)」というやつだ。

 こうしてTornadoは、続く全てのラウンドでNAVIとのダメージレースに勝利。流れを掴んだ4ラウンド目から負け無し、なんと、6ラウンド連続勝利を決めてNAVIを下した。

 翌日に行われる準決勝戦のカードが決定。準決勝第1試合ではElevate対DiNG、第2試合ではTornade Energy対Not So Seriousの対決が行なわれる。ギャラリーからは「これはもうTornadeで決まり」という声も聞かれるが、果たしてどうなることか。「World of Tanks」の世界で最もレベルの高い戦いはまだまだ続く。

翌日行なわれる準決勝戦2試合のカード
マウスの3並び、という風景も見られた試合。完全にトレンドが変わっている