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他を寄せ付けぬTornade Energy! 「WGL Grand Finals 2017」決勝レポート
新王者の圧倒的強さ。その違いは地域差か、チーム差か?
2017年5月29日 15:54
5月28日、ロシア モスクワで開催された「Wargaming.net League The Grand Finals 2017」の最終日。先日のトーナメント準々決勝を勝ち抜いた精鋭の4チームが改めて舞台に登場し、準々決勝戦、および決勝戦が行なわれた。
ここまで生き残ってきたのは、Elevate(NA)、DiNG(EU)、Tornado Energy(CIS)、Not So Serious(CIS)の4チーム。ベスト4のうち半分がロシア(CIS)勢というのはいつもの風景だが、いつもはトーナメント表にいるはずのNAVIは、先日の準々決勝でTornade Energyに破れて姿を消している。優勝候補同士が早々に激突してしまう、トーナメントの世知辛さである。
一方、ElevateはNA勢としては初のベスト4入りを果たした。APACトップのEL Gamingを退けてのベスト4入り。これまでの序列としてはCIS>EU>APAC>NAといった認識があったのだが、NAとAPACのレベル差が縮まってきたか、もしくは逆転したと感じた人も少なくなさそうだ。
とはいえ、APAC/NAのレベルから見て、EUとの差はまだかなり大きいとみられるし、そのEUから見ても、CISとのレベル差は大きなものがある。そういったリージョン間の力の差を実戦で見ることができるというのが、各リージョンの王者が集まるこの大会がもつ醍醐味のひとつだ。
地域差かチーム差か? 各試合で現われた7-2という数字の差が表すもの
準決勝ではElevate対DiNG、Tornade Energy対Not So Seriousという2つの試合が行なわれた。手足のように戦車を扱うトップレベルの選手ばかりが集まる試合でも、個人と集団の熟練度にはやはり違いがある。
まずはElevate とDiNGの一戦。第1ラウンドでは両チームとも2~3両のMausを投入したが、火力枠の編成は両者異なる。DiNGはありがちなB-C 25tを投入しないかわりに113、T110E3という重装甲の重戦車および駆逐戦車を主軸に、ロングレンジに強い中/軽戦車E50 MとWZ-132という編成だ。
マップは「ルインベルク」。早々にマップの東西にわかれて南北に長く布陣した両チームだが、攻め側のDiNGは当初よりMaus3両をかためてマップ南端から攻め込む構え。これに対してElevateは重戦車を分散気味に配置し、どこから攻められても対応しようという形だった。
相手の出方に合わせて後の先を狙う作戦は、足の遅い重戦車が広い範囲に散らばることで戦力の再配置に不安が残る。そこをうまく突いたのがDiNGだ。マップ南側に戦力を集中させたうえで、布陣の後方となる北東側はロングレンジの軽戦車を配置して広い視界を確保。Elevateの北側に配置された戦力が押してくるとみれば引き、それに合わせて南側の重戦車対が前進していく。
冒頭のラウンドでは、その連動性で差がついたことがわかる。DiNG側の布陣が極めて薄いマップ北東側にElevateがプッシュをはじめた直後には南西側でDiNGのMaus3両が固まって猛威を奮っており、西側では押し、東側では引くというスムーズな連動でElevateの戦力にさらなる分散を強いた。
個々の撃ち合いで大きな差があったとはいえないし、むしろ不利な形でもElevateは善戦したほうだが、結局のところは大局的に有利な状況を作り続けたDiNG。最後は数の減ったElevate勢を包囲する形に持ち込んで危なげなく勝利。戦力の集中と全体の連動が光る。
続く第2ラウンドでDiNGは防衛側となり、1ラウンド目の攻防をちょうど入れ替えたような初期配置から戦闘を展開していったが、1ラウンド目におけるElevateとは異なり、交戦が始まると即座に全車両を北側に動かして戦力を集中。それに続く撃ち合いはDiNGの優勢で進んだ。
ただ、両チームのダメージ差が3,000以上となりDiNG勝つかと思われたところから、Elevateが健闘。戦力を集めたDiNGに対して3方向から押す形をつくり、ダメージレースをひっくり返した。DiNGにとっては戦力を集めたところがたまたま不利な配置になってしまったような形で、想定外という感じではある。
こうして1本取り返したElevateだったが、その後は完全にDiNG側のペースになった。第2マップの「ステップ」では6両健在で勝つなど圧倒的な差をみせはじめ、連続で5ラウンドを勝利。試合の勝利確定まであと1ラウンドとしたところで早速リーチとしたDiNGはB-C 25tを6両という破天荒な編成を試し、さすがにElevateにラウンドを譲ったものの、続く「鉱山」での最終ラウンドでは手堅い編成に戻し、これまた手堅い戦いでElevateを撃破した。
終わってみれば7-2という大差でのDiNG勝利となった。NAでは圧倒的な強さを持つElevateも、EU代表のDiNGに対しては常に不利な状況を作られるという経験となった。このあたりは、常日頃どういう相手と対戦しているかという経験の差、つまるところ各リージョンのレベル差というのを感じるところだ。
距離が1万キロもあるとPingの問題でトップレベルの試合をオンラインで行なうのは難しい。そのため本作では各リージョンが分かれているわけだが、それが日頃の対戦相手を限定し、リージョンのレベル差を固定する方向に作用しているのは間違いない。地球の大きさが恨めしい、といったところか。これを覆すにはやはり、各リージョンでのトップチームだけでなく、全体のレベルを上げていくことが必要だ。それは日本の属するAPACも同じだろう。
宿命のCISリージョン対決:Tornade Energy対Not So Serious
さて、準決勝のもう1試合は、Tornade EnergyとNot So Seriousというカード、CIS代表同士の対決だ。ロシアを中心に、旧ソ連圏の諸国からの選手が集まる両チームは、当然ながらWGLのシーズン戦でも頻繁に対決している。前述のようなリージョンの差は存在しない。だが、結果からいうとこの試合はTornadoが圧倒し、終わってみれば同じく7-2という大差での決着だった。
両チームとも車両編成に大きな違いはなく、戦術も噛み合っている感じだ。各ラウンドの勝敗時に車両数や残りHPで大きな差がつくこともなく、一見して互角に戦っている印象しかない。互いに詰め寄って混戦となれば全くの互角ともいえた。しかし、Tornadeが上手いのは、本格的な接敵が始まる前、互いにロングレンジで様子を伺うような時点でも、ごくわずかのチャンスを逃さず地味に相手を削っているところだ。そこで生まれたちょっとの差がラウンドの終わりまで響いて、結局はTornadeが競り勝つという流れが多く見られた。
このあたりは、同じ文化を有する2チームの間でも、チーム全体の練度に差があったということだろう。マップの全ての地点からの射線を把握し、かつ状況に応じた相手の配置を見なくてもわかるレベルまで推測の精度を高め、チーム全体がひとつの意思を持っているかのように連動する。さらに、ダメージ管理の差も大きなものがあった。たとえNot So Seriousがダメージレースで優位に立っても、Tornadeはそのダメージをうまく分散させており、車両数では上回り続けた。両チームの差は、そういった全般的なそのクオリティの違いと言うほかなさそうだ。
こうしてTornadeは着実に勝利を重ね、ラウンド取得数は6-1とリーチ。ここで強引なラッシュ戦術を試すほどの余裕を見せたが、相手は関係ないとばかりの向こう見ずなラッシュはさすがにNot So Seriousが撃退。そして通常の戦い方に戻した次のラウンドで、いつもどおり数的優位を維持し続けたDiNGが勝利。上述の通り、7-2という大差で勝敗が決した。
これまた7-2で決着した決勝戦。他を寄せ付けない圧倒的実力
例年、この大会決勝戦ともなれば両チームの実力は伯仲し、一進一退の攻防が見られることが多い。互いに譲らずタイブレークラウンドまでもつれ込み、最後の1弾をどちらが先に突き刺すかで勝負が決まる……といった試合がいくつも展開されてきた。
しかし今回は違った。準々決勝でNAVI、準決勝でNSSと、ライバルたちを巧みに退けてきたCIS代表のTornadoと、EU代表として決勝のステージに上がったDiNG。その決着も7-2という大差で終わり、奇しくも準決勝以降のすべての試合で同じスコア差がつく形となった次第だ。
Tornadoの部隊編成は、直前に追加されたTierX軽戦車は採用せず、マップによってTierVIII軽戦車、自走砲、場合によって重戦車を投入するなど、アップデート9.18以前の編成で戦いに挑んでいた。戦いがマウス主体になっている時点で、TierX軽戦車は採用しにくい事情があるのかもしれない。
「ゴーストタウン」で始まった試合は常にTornadeのペースで進んだ。戦術的には噛み合っている印象で、流れとしては準決勝の対Not So Serious戦とよく似ていた。各ラウンドとも車両数や残りHPで大差がつくことはないが、たとえ残りHPで負けていても車両数で優勢を維持しているのはTornadeである。
戦い方のレベルでDiNGが通用していないわけではなく、いくつかのラウンドでは序盤をDiNGがリードする展開もあった。しかし不利な状況からでもしっかりリカバーできるのがTornadeの強さのひとつだ。特に第4ラウンド、「鉱山」にてDiNGはTornadeの前進を絶妙な配置と自走砲の精密な射撃で受け止め、早々に5,000ものHP差と、2両分の車両数差を作り出した。
ここまで差がつくと、誰もが「あ、DiNGが取り返した!」と思うところだ。しかし互いの距離が縮まると、局地戦に持ち込んだTornadeが巻き返す。あれよあれよという間にHP差が縮まり、車両数も互角に。恐ろしく展開が速くて何がおこったのかよくわからないレベルだが、車両数が4-4で並ぶとTornadeの優勢が明白になり、車両数は4-3、3-2、2-1と減り続け、結局は僅差でTornadeがこのラウンドを勝利した。
もうそこからはTornade劇場だ。「ルインベルク」では敵を5両も残したまま陣地占領で勝利。「プロホロフカ」では防衛側にもかかわらず全車両ラッシュを仕掛け、1つの生き物のように連動した動きでDiNGを翻弄。ラウンド取得数を6-1としてリーチをかけたところでまたも強引なラッシュをしかけ、ここは流石に守り側のDiNGが競り勝ったものの、最終ラウンド「クリフ」では僅差ながらもしっかりと勝利。準決勝の対Not So Serious戦と全く似たような試合展開だった。
こうして世界王者の座についたTornade。最も苦戦した相手は準々決勝で対決したNAVIであった。とはいえ、これはCISとEUの差というよりは、単純にTornadeとNAVIの2チームが飛び抜けて強い、と考えたほうがいいだろう。欧州代表のDiNGは、少なくともCIS代表のNot So Seriousと同等には戦えていたのだから。
こういった勢力図を見る限り、まだまだ発展途上のAPACおよびNAがEUとCISの壁を破るのは容易なことではなさそうだ。たとえその壁を破ったとしても、その先には新王者Tornadeと、旧王者NAVIという、リージョン関係なしの絶対的な2チームが立ちはだかる。
まずはAPAC最強のEL Gaming撃破を目指す日本のチームにとっても、「World of Tanks」の世界トップを目指す冒険は、まだまだ先が長そうだ。