ニュース

田畑端Dが語る「ファイナルファンタジーXV」リリースまでの反省と教訓

新エンジンLuminous Studio Proで「ファイナルファンタジー」は新たな領域へ

2月27日~3月3日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 発売1カ月で全世界で600万本のセールスを達成した「ファイナルファンタジーXV」。今年も引き続きアップデートが継続され、その世界が広がっていくことが明らかになっている同作だが、10年以上に渡る長い開発に終止符を打ち、シリーズ最新作を成功に導いたのがディレクターの田畑端氏だ。その田畑氏が、発売から半年、「FFXV」プロジェクトについてGDCで“成功への軌跡”ならぬ、“反省と教訓”を語った。セッションの最後には、「GDCらしいことしたい」と切り出し、「ファイナルファンタジーXV」のゲームエンジンLuminous Studioが、NVIDIAとのコラボレーションにより、Luminous Studio Proに進化し、“新たな挑戦”を始めていることを明らかにした。

「ファイナルファンタジーXV」ディレクター田畑端氏
「FFXV」成功の物語ではなく、挑戦の物語
初代「FF」は最後の挑戦だった。「FFXV」も同じ意気込みで挑んだという

 田畑氏は、「ファイナルファンタジーXV」ディレクターとして、第2ビジネスディビジョン(BD2)のトップに就任してから、メディアやイベントを通じて語ってきたことの集大成だった。「ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII」から「ファイナルファンタジーXV」へのリネームまでの過去の経緯は一切触れず、田畑氏が「FF」最新作の看板を任されてからこれまで、ディレクターとして何をしてきたのかがたっぷり語られた。

 田畑氏が繰り返し語ったのは、チーム構築の重要性だ。田畑氏自身をはじめ、開発者個々の能力には限界があるが、チームとして取り組むことで、全体としてより高いパフォーマンスを発揮することができる。その田畑氏がチーム力を重視する理由は、意外にも子供時代の小さな挫折が影響しているという。

 子供時代、田畑氏は競技スキー スラロームの選手で、所属していたチームでの成績が良かったことから、地区大会に出場する機会を得たという。しかも、優勝したら当時ブームだった任天堂の「GAME&WATCH」を買って貰う約束まで取り付ける。田畑家では、ゲームは買って貰えなかったため、田畑少年は試合前から手に入れた時のことを考えてテンションがあがり、「ドンキーコング」にするか、「ミッキー&ドナルド」にするか考え続けていたという。

 しかし、大会では予選であっさり敗退。対戦相手が異常に強かっただけと自分を納得させようと思ったら、予選で勝った選手は決勝で負け、地区大会で優勝した選手は、その上位の大会で負けたという。世の中には上には上がいることを知り、挫折を味わったという。

 「FFXV」に話を戻すと、「FFXV」のプロジェクトスローガンは「ファイナルファンタジーを挑戦者の立場に戻す」。これは、文字通り、今回結果が出なかったら、シリーズにとっても自分自身にとっても次がないことを意味するだけでなく、「FF」シリーズの生みの親である坂口博信氏が、初代「FF」を開発する時に掲げた「最後だと思ってプロジェクトに取り組む」という姿勢にも大きく影響を受けたという。

 田畑氏はディレクター就任後、各リージョンのマーケティングチームに、販売予想を聞いたところ500万本に満たない数字がはじき出された。理由は従来のターンベースからアクションゲームへ方向転換を図っていることと、「FF」シリーズのブランド力の低下などからかなり控えめの数字となってしまったようだが、過去に「FFVII」では1,000万本近くのセールスを達成したこともあり、最盛期から比べると半分程度の数字ということになる。

 これに対して田畑氏は、“最低限の目標”を600万本に設定し、この目標を達成するために何をしなければならないかを逆算で考えていったという。テクモ出身の田畑氏は、「FF」シリーズの開発経験はあるものの、それはPSP向けのスピンアウト作品に過ぎない。それらが日本の3,000メートル級の山だとすると、「FFXV」は6,000メートル級のマッキンリーであり、これまでそんな高い山に登ったことがないため、どのようなルート、機材、プランで登ればいいか見当が付かず途方に暮れていたという。

 しかし、“最低600万本”というゴールを明確に設定したことで、第三者にその考えを伝えられるようになり、同じ想いを共有する仲間、そしてチームができていく。

 そのチーム設計のために、田畑氏は様々な取り組みを行なっている。1つは、スタッフひとりひとりにヒアリングし、やってみたいことを聞き、苦手な部分ではなく、得意な部分で勝負できる、それが可能になるようにチーム編成を行なったことだ。イメージとしては強くて柔軟なプロスポーツチーム、11人ではなく、300人のアメフトチームを作るイメージでチーム設計を行なったという。この結果、「FFXV」開発チームは、強力な組織となり、エネルギーと勢いを獲得したという。

最低の売り上げ目標を600万本に
かつてない高みを目指す
そのためにはまずは明確なゴール設定
スタッフと話し合い適材適所を目指す

 そのチームに暗雲が立ちこめたのが、2015年「FFXV」の初代体験版「ファイナルファンタジーXV エピソード・ダスカ」の公開だ。セッションでは、当時のトレーラーが披露されたが、発売から1年半前の時点で、製品版とほぼ同等の内容が完成していることに改めて驚かされる。

 田畑氏によれば、キャラクターに対する好き嫌いは様々な反応があったものの、ゲームデザインに対する評価は概ね良好で、一定の手応えを得られたという。しかし、開発チーム内部では、非常に厳しい現実に直面していたという。体験版を公開したことで、様々な検討材料がクリアになり、あとどれぐらいのものを作ればゲームが完成するかがハッキリ分かった。それは目標がクリアになると同時に、“我々はまだ3合目までしか登っていない”という現実を突きつける結果になってしまったという。

 開発チームとしてはそれまで開発は中盤にさしかかっていると考えていたものの、そこから完成までに必要な物量が絶望的に多く、今後開発チームに降りかかってくる困難に立ち向かえるか不安を感じるスタッフも多かったという。この結果、チームに疲労と不安と焦りが蔓延し、2015年の夏から秋にかけてパフォーマンスが低下し、思うように開発を進められなかったと告白した。

 この低調な開発チームに変化を与えたのはやはり田畑氏だった。ある日、仕事に出かける際に当時6才だった娘が抱きついてきたという。「パパはいつまで忙しいのか」とさみしそうな声で聞かれ、田畑氏は困った顔で「まだしばらく忙しい」と答えたところ、娘は我慢して笑顔を作り、自分で描いた田畑氏の笑顔の絵をプレゼントしてくれたという。このとき、田畑氏は、家族に大きな苦労を掛けていることに気づきショックを受けたという。

 このエピソードに着想を得た田畑氏は、改めてメンバーと話し合って、BD2独自のファミリーデイを開催することに決めたという。目的は仕事と家庭のバランスを正常に戻すこと、家族に仕事への理解に対して感謝を伝えること、そして家族に仕事内容を理解して貰い、安心して仕事ができる環境を作ることだ。当時、BD2は250人ほどのスタッフがいたため、その家族となるともの凄い人数になったというが、全員で一旦立ち止まり、彼らが目指しているものを家族に伝えるために手作りでイベントを行なったという。

 大人だけでなく、子供も多かったため、子供向けにカスタマイズした「FFXV」の試遊台を置き、スタッフはパートナーに、自分の席に座って貰い、自分の仕事内容を説明した。このイベントにより、スタッフは、家族に仕事の内容を伝えることでその素晴らしさを再認識でき、そこからチームは活力を取り戻し、完成に向けて進むことができたという。ここで得られた田畑氏の教訓は、より強いチームを作るためには、職場のデザインだけでなく、家族も含めたデザインが必要だということだという。

【ファミリーデイ】
転機のきっかけとなった「ファイナルファンタジーXV エピソード・ダスカ」
手作りのファミリーデイ
田畑氏の娘さんをはじめ、スタッフの子供達が「FFXV」を楽しんでいる
ファミリーデイの結果、チームは活力を取り戻す

発売直前に沸き起こったフラゲとネタバレ
ピンチをチャンスに変える大胆な施策が必要
「FFXV」は600万本セールスという一定の成功を収める

 その後も、「FFXV」開発チームには困難が降りかかる。田畑氏は「それは2カ月の発売延期をしたことではない」と先手を打ち、「フラゲと悪意のあるネタバレ行為」だったという。スクウェア・エニックスには、世界同時発売の経験があまりなかったため、フラゲ防止のノウハウが不足していたという。フラゲそのものは大きな問題ではないものの、フラゲした上で、悪意のある形でネタバレを拡散する行為は問題で、ネット上のネタバレ行為に対する苦情が、田畑氏ら開発チームに届けられたという。田畑氏は、ネット上のネタバレについて注意喚起すると共に、ネタバレを行なうユーザーに対して警告を行なったが、その代償としてゲームや田畑氏個人に対する批判が増え、ゲームのプロモーションに悪影響が出てしまったという。

 田畑氏はこの教訓として、次回はネタバレを封じ込めるのではなく、ネタバレをするような拡散力のある人を抱き込み、一緒に発売を盛り上げるようなプロモーションを行なうことで問題を解決するだけでなく、プラスに転換する方法を検討しているという。田畑氏によれば、ゲーム開発は、その途中で色んな問題が発生するのが当たり前で、大規模になればなるほど、問題は複雑化する。このため、問題解決のためにはファミリーデイの実施のようなピンチをチャンスに変える大胆な発想が必要だと考えているようだ。

 そしてついに発売を迎えた「FFXV」は、1カ月で600万本のセールスという最低限の目標を達成する。田畑氏は、「これがヒットしなかったら終わり、次はないということだが、次はあるのかなと期待している」と笑顔で語ると共に、顔を引き締め「『FFXV』は決してサクセスストーリーではないが、勇気と覚悟を持って本気で挑戦しないとたどり着かないゴールがあるということがよくわかった」と語り、「『FFXV』の挑戦はまだまだ続けていきます。新しいゴール、領域に向けてやっていく」と改めて決意を語った。

 そして田畑氏は「最後にGDCらしいことをする」と語り、1本の短いトレーラーを見せた。それは「FFXV」で使われているゲームエンジンLuminous Studioの新バージョンとなるLuminous Studio Proと共に、さらなる高みを目指す「FFXV」の姿だった。

 田畑氏は、「現在、プロシージャルとAI、破壊の3つに関して重点的な取り組みをしており、NVIDIAのゲームワークスチームと技術を融合させて、色んな挑戦をしている」と語り、具体例として、画面分割してモンスターと戦っているシーンについて、「あれはモンスターの戦闘アルゴリズムをディープラーニングする実験」とし、「プレーヤーの戦闘パターンを分析して、それを上回る戦いを敵がしてくるという実験です。我々は新たに目指すゴールを持っています。それはとても新しい挑戦で、皆さんも一緒に挑戦しませんか? 未来に向かって挑戦したいという方の連絡をお待ちしています」とGDCでは定番になっているリクルートの案内をしてセッションを終えた。

 Luminous Studio Proの仕様については謎に包まれたままだが、「FFXV」が新エンジンと共にまだまだ進化を続けると共に、「FFXV」に続く次世代の「ファイナルファンタジー」の研究開発はすでに始まっていることを伺わせる内容だった。「FFXV」と「ファイナルファンタジー」シリーズの今後の進化に引き続き注目していきたいところだ。

【Luminous Studio Pro】