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【年末企画】「艦これアーケード」人気でゲーセンの売上が急浮上?
検証:なぜ最近のゲーセンが売上が好調なのか?
2016年12月28日 12:00
今年に入ってゲームセンターが好調なようだ。実際に決算資料などを見ても前年比で数値的にも伸びている。なぜ今、ゲームセンターが好調に転じたのだろうか? そこには今年の4月に登場し人気を集めている「艦これアーケード」の存在がある。順番待ちの行列が今もできる同作は、好調な要因の1つだろう。
しかし、「艦これアーケード」1タイトルで業界が右肩上がりに転じるのだろうか? 6月に施行された「改正風営法」の影響は? ゲームセンターで日々営業を行なっている現場のオペレーターに取材する中で、様々な現状の問題点を探ってみた。
オペレーターの決算資料でも、「艦これアーケード」を評価!
アーケードゲームの市場規模は、2006年の9,263億円をピークに急激な右肩下がりを続けている。「平成26年度 アミューズメント産業界の実態調査」によると、2014年の市場規模は5,833億円で、ピーク時に比べるとなんと約37パーセントも減少している。同じく、ゲームセンターの店舗数も2006~14年のわずか8年の間に、約6,000軒も減ってしまった。
また、2014年のオペレーション売上高(ゲームセンターの売上高)は前年比で92.5%と前年度を割り込み、各メーカーの業務用AM機(ゲーム機器類)の製品販売高も、前年比で92%とという、極めて厳しい状況下にある。
しかし、今年の4月あたりから風向きが徐々に変わりつつあるようだ。大手オペレーターが運営する店舗の売上高を見ると、その多くが前年比を上回っているのだ。主なオペレーターの売上高の数値・実績を、各社のサイトで公開された決算報告書・短信などのリリースから引用した結果は以下のとおりだ。
【各社決算報告書などから引用】
・ラウンドワン:4~9月までの既存店売上高(※アミューズメント収入のみ)が前年比105.5%、第2四半期だけでは前年比110.9%
・セガサミーホールディングス:既存店売上高が、第1四半期で前年比111.2%、第2四半期は102.2%、上半期の累計実績で110.8%
・バンダイナムコホールディングス:国内既存店売上高が、第1四半期で前年比107.4%、第2四半期は108.4%、上半期の累計実績で107.8%
・カプコン:AM施設事業の売上高(※物販店の売上含む)が第1四半期で前年比111.6%、第2四半期は109.2%
・イオンファンタジー:3~9月の既存店売上高が前年比108.1%
・アドアーズ:第2四半期時点で、既存店売上高の前年比100.2%(※既存店売上高前年比の平均は第2四半期で101.4%)
上記各社の売上が回復基調にあるのは、いったい何が原因なのであろうか? 筆者は公私共々、ゲーセンを頻繁に利用しているが、まず真っ先に思いつくのが今年4月26日に稼働を開始した「艦これアーケード」の人気である。
本作は大人気を博しているブラウザゲーム「艦隊これくしょん」をアーケード向けにアレンジしたもの。特殊なデバイスを備えた専用筐体を使用し、艦娘と呼ばれるキャラクターをプリントしたカードを集めながら楽しめるところが、ブラウザ版にはない魅力である。カードは中古品を扱うトレカショップにもかなり出回っているようで、筆者が都内の某店を先月に覗いたところ、1枚なんと8,000円ものプレミア価格がついたレアカードもあった。
ラウンドワンの第2四半期の決算報告書を見ると、アミューズメント収入の説明をした文章の冒頭で「第1四半期に引き続いた『艦これアーケード』の人気に加え……」と書かれており、かなりのインカム(売上)があったことが推察される。今は多少落ち着いた感はあるが、それでも都内近郊の店舗では、順番待ちのプレーヤーが並んでいる光景をよく目にするし、地方の店舗で働く知人に聞いても評判がサッパリだという話はまるで聞かれない。
さらに今年の9月には、「艦これアーケード」を新たに発注した店舗や、増設を実施した既存の設置店舗も少なからず現われた。けっして安くはない筐体を使用した作品でありながら、発売からしばらく経過した後でも新品が売れるアーケードゲームの出現は、近年の市場環境を考えると異例の領域と言っていいだろう。アーケードゲーム業界誌、「アミューズメント・ジャーナル」の編集部に尋ねてみたところ、「筐体の売れ行きは、近年ではおそらく最高ではないかと思います」とのことだった。
では、各社店舗の好調な売上を支えているのは本当に「艦これアーケード」なのだろうか? あるいは、ほかにも何か隠れた秘密があるのだろうか? その要因探るべく、関係各社にお話を聞いてみることにした。
ゲーセン店長の証言:「艦これアーケード」の稼働状況やいかに?
初めに発売元のセガ・インタラクティブに取材を試みたが、残念ながら回答を得ることはできなかった。そこで、「艦これアーケード」の設置店舗の店長に直接お話を伺うことにした。都心の店舗での盛況ぶりについて、筆者自身もある程度把握しいるつもりなので、今回は普段は足を運ぶ機会のない、地方のゲーセンの状況を聞いてみることにした。
まずは岡山県倉敷市にあるゲーセン、「ファンタジスタ」の店長に本作の稼働状況尋ねてみた。店長いわく、「稼働開始から8月いっぱいまで、ほぼ100%の稼働率を維持していました」とのこと。筆者もかつてはゲーセンで店長をしていたからわかるのだが、稼働率100%というのは、よほどの人気タイトルでない限りまず起こり得ないことだ。
稼働率が高いこともあり、「店内の全機種の中でも、1台当たりのインカム(売上)はトップです」(同店長)となるのは、至極当然の結果であろう。「全国的に増台された9月下旬からは空席も目立つようになりましたが、その分1人あたりのプレイ単価が増えているため、インカム自体はそれほど低下していません。むしろ加熱し過ぎていた状態を脱して、適正な稼働になったと考えてよいと思います」というのだから、その尋常ならぬ人気ぶりが伺えるだろう。店舗全体の売上についても、「4月からの売り上げは前年比で150%以上を継続しており、200%を超える月もありました」というのだから驚きだ。
もう1軒、取材をお願いしたのは福島県福島市にある「スーパーノバ福島店」。同店の宮下店長に「艦これアーケード」の稼働状況を尋ねると、「稼働当初は開店前から行列ができ、順番待ちが絶えない状態で、新規顧客の獲得にもつながりました。9月に増台する前のタイミングからインカムが低下し、現在は7台設置していますが満席になることはあまりないです。それでもインカムは1番です」と、こちらでもかなり好調のご様子だった。
「ファンタジスタ」と同様に、今春からの店全体の売上についても伺ってみたところ、「昨年に比べアップしました。『艦これアーケード』によるところが大きいです。」と、やはり同じ答えが返ってきた。都心だけでなく、地方都市のゲーセンでも確かに”「艦これアーケード」効果”が起きているのだ。
「艦これアーケード」がゲーセンのインカムを押し上げた真の理由とは?
では、なぜこれほどまでに「艦これアーケード」が人気を集め、設置したゲーセン全体の売上げをも押し上げたのだろうか?
「もう何年も前からブラウザゲームでヒットしていたし、ゲーセンに置けば売上が上がるのは当たり前だろう」などと考えるのは早計だ。なぜなら、『パズドラ』こと『パズル&ドラゴンズ』のアーケード版、『パズドラ バトルトーナメント』は稼働開始からわずか2年あまり、今年の9月末でオンラインサービスを終了しているからだ。同じく、『ディズニーツムツム』や『モンスターストライク MULTI BURST』など、元はスマホ用アプリゲームの人気タイトルについても、各店舗でドル箱になっているとは正直言い難い。
「スーパーノバ福島店」の宮下店長によると、「移植タイトルに関しては、本家と連動して特別なアイテムやキャラクターが手に入るとか、トレーディングカードが払い出されるなど、そもそも基本無料で遊べるゲームのアーケード版を、お金を払ってまでやるメリットがあるかに尽きると思います」と指摘する。また、同店長は「 『モンスト』のように、連動が単発で終わってしまってはしようがないので、継続的に連動するビッグタイトルがあれば、アーケードの活性化につながっていくと思います」との見解も示した。
実際、「艦これアーケード」は稼働からまだ1年も経っていないが、これまでに新カードの追加や期間限定イベントなどを何度も実施している。来店機会を継続的に創出していることも、確かに店舗の売上に大きく貢献したひとつの要因であろう。では、「艦これアーケード」単体で、はたして店舗全体の売上を押し上げるだけの突き抜けた効果は本当にあったのだろうか? この疑問に対する答えは、以下の「ファンタジスタ」店長のコメントにある。
「『艦これアーケード』のほかにも、『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス マキシブーストON』のオンライン対戦が予想以上に好調ですね。音楽ゲームでは、『チュウニズム』(※)が非常に高い人気を見せています。格闘ゲームを中心としたビデオゲームも安定した稼働を続けていますが、上記の機種でプレーヤーの来店動機が増えたことも良い影響を与えていると思います」。
「昨今は目的意識を持って来店するプレ-ヤーが多いため、『艦これアーケード』のようなタイトルの存在は非常に大きいです。今までゲームセンターに足を運んでいなかった客層を掘り起こすことに成功し、アニメ曲などが入っている音楽ゲームの稼働も向上するなど、相乗効果が出ています」。
※筆者注:「マキシブーストON」は今年3月より稼働開始した、定番シリーズ「機動戦士ガンダム VS.」の新作。「チュウニズム」はシリーズ最新作の「チュウニズム エアー」が8月から稼働している。
つまり、「艦これアーケード」が目当ての新規顧客の増加に加え、他のゲームにもお金を落とす機会を創出したこと、すなわちパイを広げたことこそが、現時点における「艦これアーケード」がもたらした波及効果の本質ではないだろうか。
さらに、プライズ(景品)ゲームについても尋ねたところ、「『艦これアーケード』稼働前の在庫だったのですが、『艦これ』の缶バッジはアーケード版の稼働と同時に投入したところ、かなりの人気が出ました。5月入荷分のプレミアムカードホルダーは、人気が加熱した真っ只中の時期だったこともあり、あっという間に完売しました。9月分は多めに入荷したのですが、いいペースで出ています」と、こちらも好調のご様子だ。「実は、『艦これ』景品を扱うためにプライズマシンを1台購入しました。それが上手くハマッた格好ですね」とのこと。プレーヤーだけでなく、店舗側の新たな投資をも促したのだから恐れ入る。
また、全国各地のゲーセンを顧客に持つ、ディストリビューター(※アーケードゲーム機の売買やリースをする業者)にも話を聞いてみたところ、「『艦これアーケード』の設置店では、夏休みの時期に自動販売機の売上がものすごくよくなったお店があった」との面白い情報を教えてくれた。長時間プレイ時のお供に、あるいは順番待ちの間の一服にと、ドリンクやタバコなどの売上にも間接的に貢献したわけだ。たとえゲーム機ではなくても、店舗の売上に貢献している以上は、これも立派な“「艦これアーケード」効果”と言えるだろう。
本当の“「艦これアーケード」効果”が出るのはこれから
「アミューズメント・ジャーナル」編集部によると、「これから年末年始を迎えますし、おそらく今年度に関しては前年の市場規模を上回る額になるのではないかとみています」とのこと。その根拠は「艦これアーケード」だけでなく、プライズ(景品)ゲームが好調だからと指摘する。実は、冒頭に数字を引用したアドアーズおよびイオンファンタジーの店舗は、「艦これアーケード」を設置していない。つまり、これらのオペレーターの売上を支えたのはプライズゲームだったことになる。(※)
※筆者補足:アドアーズの第2四半期決算説明会の資料を見ると、クレーン(プライズ)ゲームの売上は前年同期比でメダルゲーム104.3%なのに対し、メダルゲームは97.4%と前年割れを起こしている。イオンファンタジーの資料には、「第2四半期連結累計期間のプライズ部門の売上高既存店伸び率は19.0%増となりました」とある。
「艦これアーケード」設置の有無にかかわらず、各オペレーターがそろって好調ということは、業界全体がついに好況へと転じたのだろうか? しかし、前出のディストリビューターは「まだまだ楽観はできる状況ではない」と断じる。「ここ2~3年の数字があまりにも悪過ぎただけ。だから、もし今年度の売上が前年比を上回っても別に驚くことではない。ウチは中古品の売買で儲けているが、2~3年前はそれすらも全然売れなくて本当にひどかった」と手厳しい。
プライズと並んで、近年のゲーセンの売上を支えているジャンルにメダルゲームがあるのだが、こちらも「メダルは今はちっとも儲からない。全然ダメ」(同ディストリビューター)だという。実際、筆者が時々利用する都内某ゲーセンでも、今年に入ってメダルコーナーが撤去されたところがある。筆者の知人で、関東近郊のファミリー客向けのゲーセンで働くスタッフに話を聞くと、「前年よりも売上が下がったのでメダルコーナーを撤去し、代わりに音楽ゲームを中心としたビデオゲームコーナーを設置した」と、実に悲しいコメントが返ってきた。
10年ほど前から、一般マスコミでも「メダルゲームを目当てにやって来る、シルバー世代のおかげでゲーセンが盛況」などと散発的に報道されるようになったが、実際のところは現在の右肩下がりの市場環境を食い止めるほどの効果はないのだ。
また、今年の6月23日に施行された改正風営法により、一部の地方を除き保護者同伴であれば年少者も夜間の入場ができるように規制が緩和されたが、こちらも市場回復の効果はあったのだろうか? 「アミューズメント・ジャーナル」編集部によると、「業界全体ではプラスに働いていると思います」とのことだったが、筆者はそのような印象は持っていないというのが正直なところだ。
毎日24時まで営業している「スーパーノバ福島店」の宮下店長に聞くと、「特段の変化はないように思えます。ただ、巡回や声掛け、トラブルなど、店側の負担が少し軽減された印象は受けます」との見解だった。同じく、「ファンタジスタ」の店長も「該当するお客様は1週間に1組いらっしゃるかどうかという程度です。ビデオゲーム中心の当店では、売上への影響はほとんどありませんね」と、景気のいい話は聞かれなかった。やはりと言うべきか、某ディストリビューター氏も「あの程度の改正で回復は無理。24時間営業の解禁や、今よりもっと高額な景品が使用できるとか、思い切った改正でもしない限りは変わらないと思う」とバッサリ切り捨てた。
ファンタジスタ店長からは「ファミリー向け店舗には若干影響があると思いますが、そういった店舗は元々夜遅くまで営業していないところが多く、今回の法改正が売上に与えた影響はわずかだと思います。条件つきでもいいので、24時以降の営業が可能になるような改正が望まれます」との意見もいただいた。そこで、前出の某ファミリー客向けゲーセンのスタッフにも風営法改正後に売上は変わったのかどうかを尋ねてみたところ、「特に感じません。当店の閉店時間が7時であることは、以前からお客様にもよく知られておりますので、18時以降は一部の方をのぞいてだいたい帰ってしまう流れがありました」と、まさにファンタジスタ店長の指摘どおりのコメントが返ってきた。
ここ数年があまりにひど過ぎる状況だったとはいえ、「艦これアーケード」が状況を好転させる一因となったのは確かだ。ファンタジスタ店長の見立てでは、「ゲームの性質上、常にプレイしている必要はなく、自分のペースで自分の欲しいカードが出た時だけプレイするというスタイルが今後も定着するのではと思っています。そのあたりはブラウザ版の『艦これ』に近いと思います。内容が充実していく途上ですので、現在空席があるからといって悲観する必要のないゲームだと考えてます」とのこと。よって来年以降も、引き続き安定したインカムが計算できるのではないかと思われる。
現時点では、特に9月以降に本作を設置した店舗では、初期投資(※筐体の購入費用分)の回収がまだ終わっていないところもあるだろう。やがて元手が取れ、利益(日々ランニングコストがかかる問題はあるが……)がさらに向上すれば、新たな投資などに資金を回せる好循環を生み出すことが期待できる。つまり、前述した「ファンタジスタ」がプライズゲーム機を増設したような、真の“「艦これアーケード」効果”がやって来るのはこれからなのだ。
そして、「艦これアーケード」が人気となったチャンスを生かし、これをきっかけにゲーセンに来るようになったお客が、他のアーケードゲームにも興味を広げる仕組み作りができるのか? 本作以外にも、各社が同様の効果を生み出す新製品やサービスを開発し、さらなる市場の回復・拡大へとつなげられるのか? 今後の各店舗およびメーカーの努力に期待してやまない。
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