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「ポケモンGO」現状は「やりたいことの1割」! ゲームディレクター野村達雄氏が話す

ポケモンとナイアンティックが語る「ポケモンGO」開発秘話

 日本では7月22日より配信されているAndroid/iOS「ポケモンGO(Pokemon GO)」。今回開発元ナイアンティックで「Pokemon GO」のゲームディレクターを務める野村達雄氏が来日したことにあわせ、ナイアンティックとポケモンより開発メンバーが集まり、「Pokemon GO」開発経緯とこれからを語り合うメディア向けのラウンドテーブルが設けられた。

 ラウンドテーブルは野村氏とポケモン「Pokemon GO」推進室室長の江上周作氏の話を中心として、ナイアンティックとポケモン双方からの視点で「Pokemon GO」の開発秘話が明かされていった。

「Ingress」が「ポケモン」と出会うことで間口を広く!

ナイアンティック「Pokemon GO」ゲームディレクターの野村達雄氏
「Pokemon GO」推進室室長の江上周作氏
2014年に実施された「ポケモンチャレンジ」

 「Pokemon GO」の開発は、ナイアンティックの川島優志氏が明かしているとおり、Googleマップ2014年のエイプリルフール企画「ポケモンチャレンジ」がきっかけとなっている。

 野村氏は当時GoogleマップのエンジニアとしてGoogleに務めており、2012年のエイプリルフール企画「Googleマップ 8ビット」、その翌年の「宝探しモード」の開発にも携わっている。

 「ポケモンチャレンジ」はGoogleマップのあらゆる場所にポケモンが出現して実際に捕まえられるというもので、これが「Ingress」を開発していたナイアンティック(当時はGoogleの社内スタートアップNiantic Labs)の目に留まり、現ナイアンティックCEOのジョン・ハンケ氏が「これをリアルワールドで実現したい」とアイディアを思いついたという。

 野村氏はナイアンティックとポケモンの架け橋となり、加えてナイアンティック アジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人の個人的な友人がポケモンにいたことも幸いし、ジョン・ハンケ氏とポケモン代表取締役社長の石原恒和氏の面会が実現。その面会を経て石原氏は「Ingress」をすっかり気に入り、「Pokemon GO」の開発がスタートすることとなる。

 「Pokemon GO」開発に対する意義として双方で理解していたのは、「『Ingress』と『ポケモン』を融合させることでリアルワールドゲームの敷居を下げ、より多くの人に遊んでもらいたい」ということ。ただし「外側を変えただけのもにもしたくない」ともお互いに話しており、ゲームのアイディアを持ち合うビデオカンファレンスが毎週行なわれていくこととなる。

 実際の開発では、「『Ingress』のプラットフォームを使ってポケモンを捕まえる」ことだけが決まっていて、まずは簡素なプロトタイプを作り、細かい部分は作りながら改変していった。

 顕著な例としては、最初はポケストップとジムは区別されておらず、作りながらバトルとアイテムの獲得場所を分けたほうが良いとなったのだという。

 また課金周りについては、「ヘルシーにする」ということで一致。特にナイアンティックのメンバーの多くが「Pay to Winにアレルギーがある」そうで、ポケモン側の提案に「Pay to Win」や略して「PtW」というコメントを付けて返答されることがしょっちゅうあったそうだ。

 ちなみに、その中で生まれた「誰がどう考えてもPay to Winじゃない」アイテムが「ルアーモジュール」。「ルアーモジュール」は、使用者自身にはあまりメリットがなく、むしろ周囲にいる人が良い影響を受けるアイテムで、ルアーモジュールが使用されてポケストップに花びらが舞っていると「みんながやっている感じ」が出るし、使うと「みんなに一杯奢っている」気分にもなって、トレーナー同士のコミュニケーションを助ける役割を持たせているとした。

日本配信は順番通りも、サーバー改良が24時間体制に

ラウンドテーブルはポケモンの会議室にて実施。部屋の奥にはポケモンのぬいぐるみが並ぶ
フィールドテストの最初と最後では「ぜんぜん違うもの」になった。レベリングも配信前日まで調整していたという

 なお野村氏がこうしたアイディア会議で印象的だとしたのは、「ナイアンティックからは『ポケモン』らしいアイディアが、ポケモンからは『Ingress』らしいアイディアが出た」こと。お互いのコンテンツを深く理解しているからこその現象であり、それゆえに「話が上手く噛み合った」ことが開発過程に良い影響を与えたとした。

 その後2016年3月にはテスト版「フィールドテスト」の配信がスタートすることとなるが、ここも開発の大きなポイントとなったという。最初の機能はポケモンを捕まえるだけのシンプルなものだったが、ここからプレーヤーの反応を見ながら随時改変していく作業が始まる。

 この時のプレーヤーの反応は様々で、良いとする意見もあれば「面白くない」という辛辣な意見もあって、一喜一憂しながらの開発となった。結局この作業は7月の最初の配信まで3カ月ほど続くこととなり、その間に様々な機能が追加されていくこととなるが、一方ポケモン側では「こんな未完成な状況で出すのか」と大論争になっていたという。

 ポケモンのゲーム作りはコンシューマー機での開発が中心であり、バグ取りや製品チェックを含めて作り込んでから発売するのが主流だったため、「未完成でもとにかく早く出して、フィードバックを受けながらどんどん直して新しくする」ネットワークサービスの常識に驚いたそうだ。

 江上氏はフィールドテストと聞いて「やって1週間だろう」と思っていたところ、「正式版を配信するまでやる」と聞いてびっくりしたそうだが、そうした開発スタイルの違いも、「Pokemon GO」を面白くするために良い作用だったとした。

 本作は最初7月6日にオーストラリアとニュージーランドで配信され、アメリカなど各国で順次配信されていき、7月22日に日本で配信されることとなる。このリリーススケジュールは「順番通り」で、まず規模の小さい所からはじめて、何か起きたときのために対応しやすい地域を優先的に配信することで規模を拡大していって、日本で配信されるころには安定したサービスが提供されている目算があった。

 しかし蓋を開けてみると、想定を遥かに超える人数がプレイすることになり、それで日本の配信まで時間がかかってしまったという。このときはローンチ直後から日本配信までサーバーチームが24時間体制で改良を続けており、7月22日についに日本での配信になった。

 「Pokemon GO」は世界的な社会現象となっているが、野村氏も江上氏もここまでになるとは想定していなかったという。江上氏は「風景が一変することが今の時代に起きることがあるのか」と特に驚いたそうだ。

リアルイベントは未定だが、トレーラーに秘密あり

「相棒ポケモン」など、アップデートは随時継続中。今後の展開が楽しみだ

 ラウンドテーブルでは、「Pokemon GO」の現状と今後についても話があった。

 まず一部のプレーヤーが利用している不正ツールについては、想定外の利用パターンが生まれるなどゲームプレイに影響を与えるだけでなく、サーバー負荷にも繋がるため「利用はやめてほしい」とした。不正ツールは利用できないように技術的にブロックしていき、また利用者のアカウントを停止するなど、対策を続けていくという。

 安全面については、ゲーム画面でも注意が促されるが、本作をはじめとする「リアルワールドゲーム」の真意は「ゲームをきっかけとしてその場所を訪れて楽しむことで、本当に楽しいのは現実世界だと伝えていくこと」であり、現実世界で遊んでいることを意識して楽しんでほしいという。

 「Ingress」では積極的に開催されているリアルイベントについては、将来的には「やる」とはしながら、具体的なことは検討段階とした。ただ野村氏からのメッセージとして、「初公開トレーラーをもう1度見ていただくと何かわかるかも」という。

【【公式】『Pokemon GO』 初公開映像】
クオリティが高すぎて野村氏が「頭を抱えた」というトレーラー。開発途中ではこのトレーラーに立ち返ってコンセプトを見つめ直すことがあったという。なお制作しているのは、SIXの本山敬一氏。「Googleマップ 8ビット」から毎年エイプリルフール企画映像を作っている

 また直近のアップデートの目玉として、具体的な名言は避けたが、「151匹にとらわれない何かがある」とした。アップデートは「2週間に1度」のペースで実施されていくが、野村氏は現状の実感としては「やりたいことの1割程度」であり、「まだまだやりたいことがある」という。野村氏は話の中で「これはやりたい、というのがあるんですよ。いや具体的には言いませんけどね」とニヤニヤしていた。相当な秘策があるようなので、今後のアップデートについて、ぜひ期待していきたい。

【「Pokemon GO Plus」こぼれ話】
「Pokemon GO Plus」は、石原氏の提案によって「Pokemon GO」の構想段階から制作が決まっていて、押せるボタンと光るLED、バイブレーションの3つで連動するというコンセプト、さらに製品の形状まで、「Pokemon GO」の内容が決まってないうちから完成していたという。デバイスそのものは任天堂が開発し、中の細かい仕様はナイアンティック、ポケモン、任天堂の3社で決めていったそう