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「GTMF2016 TOKYO」が開催。PlayStation VRを初めとしたVRが技術が目白押し!

VR技術を中心にセッションや会場展示を実施

7月15日 開催

会場:秋葉原UDX

ゲーム開発者向けのカンファレンス「GTMF」

 7月15日、ゲーム開発者向けのカンファレンス「Game Tools & Middleware Forum 2016 OSAKA/TOKYO」(以下、GTMF2016)が開催された。東京会場となった秋葉原にある秋葉原UDXでは30社あまりの企業ブース展示のほか、4会場に分かれてのセッションも開催され、プランナー、エンジニア、デザイナー、サウンドクリエイターといったゲーム開発者が多く集まっていた。

 GTMFは2003年にスタートして、今年で13年目。企業ブース展示ではGTMFの名前の通り、EPIC GAMESやUmbra、オートデスク、CRI・ミドルウェア、Havok、Unityといったゲーム開発のミドルウェアを開発している企業がブースを構え、来場者に最新技術を紹介。やはり話題の中心はVRのようで、PlayStation VRやHTC Viveなどを使ったデモが多かったのが印象的だった。

会場となった秋葉原UDX4階のほぼ全フロアを使用してカンファレンスは行なわれた。企業ブースはUDX Gallaryのスペースを使用
CRI・ミドルウェアのブースではPlayStation VRによる実写のムービーにCGを重ねて表示するデモを実施
デジカのブースではHTC Viveによるデモを展示
EPIC GAMESもUNREAL ENGINE4を使ったPlayStation VRのデモを実施。とにかくどこでもVRだ
今回のGTMFでは新企画として、ゲーム開発への活用が期待できる技術・ソフトウェアなどを開発する学生・学校・研究室とゲーム開発を支える出展スポンサーや来場者を結びつける企画「School Meets Industry at the Leading Edge of Software(SMILES)~学校・研究室見本市~in GTMF2016 TOKYO」も企画されていた

「『PlayStation VR』の最新状況について」をSIEが講演

ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア ソフトウェアビジネス部 次長兼SIEJA制作医術責任者 秋山賢成氏
講演の様子

 東京会場では、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによる「PlayStation VRの最新状況について」と題したセッションが開催された。先日予約受付と共に一瞬のうちに予約受付が終了したという記憶も新しいPlayStation VRだが、やはり人気のセッションで事前受付も満員に。会場は立ち見が出るほどの盛況だった。

 セッションに登壇したソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアの秋山賢成氏は、10月13日にPlayStation VRが発売されることを紹介しながら、発売と同時に「THE PLAYROOM VR」というPlayStation VR専用タイトルがPlayStation Storeにて無料配信されることに言及。「VRの象徴的な体験がたくさん入っているタイトル。遊んでいただくのももちろんだが、ゲーム開発者の皆様にとっても、VRはこう作ればいいんだとか、こんな体験があるんだと思ってみてもらえるタイトルだ」と語る。

 秋山氏はここでキーワードとして「Sense of Presence」を挙げる。プレゼンスとは、没入感を超えた、別の世界に自分が存在することを信じてしまうような感覚のことで、没入感の先にあるもの。これはVRのみで実現可能だと秋山氏。「ヘッドセットをかぶっているときは、頭ではかぶっていると考えるものの、実際の体験の時には忘れてしまって、サメが迫ってきたらのけぞってしまったり、崖の近くに来たら足がすくんでしまう体験がすぐにできる」(秋山氏)。

 しかしこの“Presence”をコンテンツの中で実現するのはかなり難しい。実際に作った物も、ちょっとしたきっかけで現実に戻ってしまう。プレイ中にいかに違和感を覚えないように工夫をすることが大切だ。そのときに大事になってくるのが、「視覚」、「聴覚」、「トラッキング精度」、「操作性」、「快適さ」、「コンテンツ」の6つだ。

 「PlayStation VRはプラグアンドプレイで差せば使える。装着性も重要だと考えており、ヘッドバンドが動くようになっているほか、眼鏡の人でも大丈夫なようにスコープも前後に動くようになっている」(秋山氏)。

秋山氏が手にしているのがPlayStation VR。ヘッドバンドが動いてフィットするようになっている
スコープ部分も可動して没入感を与えてくれる
PlayStation VRでは、カメラによりトラッキングが行なわれ、ヘッドマウントディスプレイの状態だけでなく、DUALSHOCK 4の色やPlayStation Moveの色までも検知して、ユーザーが何をしているのかわかるようになっている
ヘッドマウントディスプレイにはマイクが付いており、VRの空間に入ってVRの世界で会話ができるようになっている
サウンドも3D空間でわかるように、オブジェクト描画的に配置されている
ヘッドマウントディスプレイをかぶりながらでも操作できるよう、電源ボタンやミュートボタンがコードの途中に配置されている
「ソーシャルスクリーン」機能。プロセッサーユニットがVRのヘッドセットに映し出されている魚眼レンズのような映像をテレビ用に変換して映し出してくれる
ソーシャルスクリーンのもう1つのモードとして、PlayStation VRを付けている人とそれ以外の人で同時に遊ぶ「セパレートモード」も用意されている
シネマティックモードでは、2.5メートル先に最大225インチくらいのスクリーンを出して楽しめる
正距円筒図法で撮影された動画や写真を読み込んで再生するメディアプレーヤー機能もある
先日の予約がすぐに完売してしまったことについて秋山氏は「ほんとすいません!」と語りつつ、近々改めて予約が始まることを紹介した

 秋山氏は、VRに対応するデバイスがパソコンやスマートフォン向けに登場してきたが、「プレイステーション 4でVRを体験できる意義は何かと考えたら、安価で、同じ規格で統一して体験できるエンタテインメントだということ」と強調。「等しく同じスペックで、同じ価格で遊ぶことができる」(秋山氏)。それに加えて120fpsと有機ELディスプレイにより実現したなめらかな画像も大きいと語る。

 同じハードウェア仕様で整合性を統一できることは制作側のメリットとしても大きい、と秋山氏。「スマートフォンのゲームなどでもたくさんの機種の対応、QA、デバッグなど、苦労されている方もいると思うが、PlayStation VRはPS4で統一されているので、1つ作れば体験を世に出すことができる」(秋山氏)。このほかにも対応するエンジンで作成されたゲームを簡単に移行できること、遊び方のインプットの幅広さ、ソーシャルスクリーン機能による新しいプレイスタイルを、PlayStation VRの優位性として秋山氏は挙げた。

セッションではバンダイナムコエンターテインメントの「サマーレッスン」も紹介。このタイトルはUnreal Engineで作られているとのことだが、VRは新しい世界なので、キャラクターの実際感を出すために絵的なところの試行錯誤が必要だろうと、シェーダーを描いては壊してというサイクルを回すためにはUnreal Engineの方がよいと考え、採用したそうだ。それに加えて残像感のない速い動きに対応するときには、ソースを改変して自分たちでカスタマイズできることもポイントだったとのこと

 なお今後のスケジュールだが、ソニーストア大阪で6月16日以降連日体験会が開催されているほか、一部の販売店でも実施されている。また7月16日から東京・お台場で開催される「お台場みんなの夢大陸2016」では特別な「THE PLAYROOM VR『めざましテレビ』特別バージョン」が体験できるほか、月9ドラマ「好きな人がいること」のオリジナルミニドラマも体験できるという。特別バージョンは体験者の反応によりストーリーが分岐していくとのことだ。

「お台場みんなの夢大陸2016」でのコンテンツ内容

 次に秋山氏は、VRアプリケーションのゲーム以外の可能性について言及。「シミュレーターはVR初期から研究されてきた古い分野。リスクを伴うようなものもVRであればローリスク・ローコストで実現できる。可能性はいろいろなところに波及していく」(秋山氏)。実際にゲーム以外でもPlayStation VRを活用したいという声も聞いているとのことで、VRの可能性を実感したと秋山氏。

 普及に際しての課題は「やはりクオリティの高いコンテンツが最重要」と秋山氏。「クオリティが高いコンテンツとは、酔わないとかプレゼンスなど妥協しないことが重要。なぜVRを作っているのか折れないことが重要で、試行錯誤が必要になってくる。しかし時間も限られているので、ノウハウを貯めてシェアすることが大事なのではないか」(秋山氏)。秋山氏によると、海外だと情報交換は密に行なわれているという。「しかし日本の人はまじめで、自分たちがやってきたことを出していいのか、上の人に怒られないかなど考えてしまう。ただし新しい世界を作り上げるには横の連携が必要。プラットフォーマーとしてそれを繋げていきたい」(秋山氏)。

 それに加えて重要なのは、ユーザーのVRに対するイメージ。VRを実際に体験した人は皆、こんな体験をしたことがないと喜ぶという。秋山氏は「そのため体験の機会を増やしていき、考え方を変えていきたい。素晴らしいコンテンツを体験した上で、VRに対する偏見がない、かつ明るくてソーシャルなイメージを作っていきたい。VRは『百見は一体験にしかずだ」と語り、セッションを終えた。

国産のリアルタイム通信エンジン「モノビット」の最新事例を紹介

モノビット代表取締役社長 本城嘉太郎氏

 午後のセッションでは、モノビットによる、同社が提供している「モノビットエンジン」についての事例紹介を行なうセッションが開催された。セッションでは同社の代表取締役である本城嘉太郎氏が、同社が展開するモノビットエンジンについての解説を行なった。

 「モノビットエンジン」とは、同社が提供するネットワークミドルウェア製品群のこと。ラインアップとしては、クライアントプログラムのみで簡単にマルチプレイが実装できる通信ミドルウェアである「Monobit Unity Networking」(以下、MUN)と、本格的なオンラインゲームを作成できる通信ミドルウェア「リアルタイム通信エンジン」がある。MUNはUnity専用およびクライアント間通信専用だが、リアルタイム通信エンジンはUnityのほか、Cocos2dx Unreal Engineにも対応しているほか、サーバーにコードを書くこともできる。同社のエンジンは、スクウェア・エニックスの「ALICE ORDER」や「LORD of VVERMILION ARENA」やFIELDSの「THE TOWER OF PINCESS」、アソビズムの「城とドラゴン」などにも採用されている。

MUNにはRPCが実装されているので、ネットワークを意識しなくても簡単にコーディングができる

 MUNの特徴として本城氏は、純国産の通信エンジンであること、主にクライアント同士の通信をリレーする商品であること、Linuxサーバで動作すること、無料のテスト環境が付いてくること、サーバーにコードを記述できないが、基盤が実績ある「モノビットリアルタイム通信エンジン」であることを挙げる。

 「ルームをつくってそこに人を呼び込んできて通信をすることに特化している」と本城氏。「このためルームに人を呼び込んできてマッチングしてバトルをして終わり、という処理はすべて入っている。あとはゲームロジックに集中できる」(本城氏)。ルームでマッチングしたあとは、マルチキャストやユニキャストといった機能が実装されているので、簡単にオブジェクトの同期を取ることができるとのこと。ネットワークのコードをまったく書かなくても、リアルタイムの通信を実現できる製品だ。

 MUNについては7月1日にV1.2がリリースされており、ルームカスタムパラメータ機能やクエリーロビー機能、プレーヤー検索機能といった新機能が追加されているとのことだ。

ネットワークについて簡単に実現してくれるMUN
Unityで使える変数はほとんどが使用可能
Unityで作られた「Mecanium GDC2013 Sample Project」を同社がMUNを使ってマルチプレイゲーム化してみた例。何と1日で制作が終わったという。公式サイトで手順を完全に解説しているとのことなので、興味のある方は訪れてみてはいかがだろうか

 本城氏は、リアルタイム通信サーバはオープンソフトウェアで作れるのではないか、という質問をよく受けるのだという。そこでC++とnode.jsで作る方法について紹介した。

 C++でリアルタイム通信処理を作成する場合は、TCP/IPやUDPについての知識が必要な上、イベントハンドリングの実装が大変だ、と本城氏。そこで何とかプラットフォームが出来上がったとしても、次はマルチプラットフォーム対応というハードルがある。「それ以外にもIPv6への対応などを今回行なったが、そういったものを全部自分でやらなければならない。サーバサイドについても深い知識が必要。これを我々は自分でやった上で安価で提供しているが、これをすべて自分でやらなければならない。これは大変です」(本城氏)。

自社でリアルタイム通信処理を作成する場合の問題点

 ではnode.jsで作る場合はどうだろうか。node.jsではリアルタイムなWebアプリを作ることができるので、Javascriptに慣れていれば本格的なリアルタイム通信を実現できる。「UnityからもSocket,ioのアセットがあるので、クライアントの実装もできてぱっと動くところまでは割と簡単にできるのでよくできている」(本城氏)。

 しかし実際に製品で使おうとした場合には、サーバの設計を自分でする必要があったり、負荷テストも設計する必要がある。またスキルの高いエンジニアが、自分で学習して工数をかけてメンテナンスする必要がある、と本城氏。「優秀なエンジニアを、エンジン開発に貼り付けなければいけない。本来はゲーム開発ができたエンジニアをリアルタイムの所に貼り付けなければいけないので、エンジニアの余裕がある会社でないと難しい」(本城氏)。

 その結論として本城氏は、「自社でエンジンをやるなら気合いを入れてやろう。しかしそれを大変だと思ったら商用エンジンの利用をお勧めする」と語る。

 ここから同社のリアルタイム通信サーバーのクラウド構築サービスについて本城氏は紹介。同社は「モノビットエンジン クラウドパッケージ」というものがあり、これはモノビットエンジンが動作する本番サーバー郡を無料で構築してくれるサービスだ。「今までエンジンを申し込んでいただいた場合に、構築はどうすればいいのか、リアルタイム通信のパケットを面倒見てくれるのか、クラウドの選定はどうしたらいいのかといった相談を受け、そのたびにクラウドの業者やASPを紹介していたのだが、僕らで一括して受けて、チームをくんだほうがいいんじゃないかと、クラウドのサーバーそのものの監視をパッケージングした商品を開発した」(本城氏)。IDCFとの共同開発とのことだが、マルチクラウドに対応しており、AWSなど自分の気に入っている環境にも対応してくれる。

 同社のサポート体制について本城氏は、元々ゲーム開発会社だったため、80名以上の開発者がおり、10年以上にわたってさまざまなネットワークゲームを開発してきた実績がある、と自負を見せる。「ソフトウェアを渡して、後はドキュメントを見てやってくださいというのではなく、ここサポートしてくれませんかという所に人を出して対応するというサポートをやっている」(本城氏)。単にミドルウェアを提供するだけでなく、ネットワークゲームに関わるあらゆることに対してサポートをしているのが同社だ。

 「手間をかけられない場合はモノビットエンジン+クラウドパッケージで高品質のリアルタイム通信環境を安価で手に入れられる。まずはモノビットエンジンのサイトから、MUNをダウンロードして、あなたのUnityに組み込んでほしい」と本城氏は語る。

同社の厚いポート体制
ゲーム仕様に基づく設計サポートや負荷テスト用のダミークライアント作成のほか、オンデマンドにおける開発サポートまで、ゲームサーバーの開発サポートを実施している
同社のCTO(最高技術責任者)は「ドラゴンクエストX」にも関わった中島謙互氏。初期のMMORPGのほとんどのエンジンを作ったエンジニアだ。「この人間があなたのゲームをサポートするというサービスも行なっている。一部の方には胸熱だと思う」(本城氏)
同社のサービスなら安価で構築できるうえ、サポートも万全、と本城氏

 次に本城氏は「Monobit Chat Engine」について紹介。「最近はチャットを入れたいという声が多くなってきたが、毎回作るとなると大変。プログラム的にはバトル中チャットは通信エンジンを使って、RPCベースで実装しても結構パケットが増える。そもそもユーザーのチャットが増えると通信が重くなってしまう。Webでやろうとしてもポーリングするとコストが上がる。独自チャットを作ってみても仕様の変更で設計し直しになったり、運営の要望で工数がふくれあがるなど、自作するとドツボにはまりやすい。そこでモノビットがチャットエンジンを作りました、というもの」(本城氏)。「Monobit Chat Engine」では、ダイレクトチャットやグループチャットだけでなく、NGワード処理も簡単。GMからメッセージを送るためのGMツールも用意されている。

「Monobit Chat Engine」のGMツールの画面例
「Monobit Chat Engine」の機能一覧
「Monobit Chat Engine」は「LORD of VERMILION ARENA」にも実装されているとのこと
同社が手がけるエンジン導入事例

 最後に本城氏は、同社が手がけている「Monobit VR Cloud」について紹介した。現在、VR空間の共有が簡単に実現できるクラウドサービスを手がけているという。「今は1人用が主流だが、今後はマルチプレイのコンテンツが増えていくだろう」と本城氏。しかしVRだと360度見えてしまうので、物や音の同期は負荷が高い。それに加えてボイスチャットも複数の声がミキシングして聞こえてくるように作らないと、没入感が得られない。「正式に出るのはCEDECまで保留したいが、VR空間の共有が簡単にできるサービスを作っています」と本城氏は語った。

CEDEC 2016ではスポンサーセッションとして、「第1回VRクラウド開発者会議」を開催するとのこと