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日本AMD、Radeon RX 480に続きRX 470/460を今夏投入
低価格・高性能のPolarisアーキテクチャでボリュームゾーンを直撃
2016年7月11日 22:17
日本AMDは7月11日、都内で記者説明会を開催し、同社の最新GPUアーキテクチャ「Polaris」を搭載するRadeon RX 400シリーズ(RX 480、RX 470、RX 460)の解説を行なった。その中でAMDは、Polarisアーキテクチャではハイエンドマーケットに参入せず、VRやHDゲーミングに必要十分な性能をクリティカルマスに届けることに注力する姿勢を明らかにした。
Radeon RX 400シリーズは、6月29日に販売が開始されたRX 480をフラッグシップとするGPUシリーズで、AMDとして初めての14nm FinFetプロセスを使用したPolarisアーキテクチャを採用。前世代比で最大2.8倍というワットパフォーマンス比と、それによるコストパフォーマンスの高さが大きな特徴となる。
最上位のRX 480は4GB版が200ドル、8GB版が240ドルというミドルクラスの価格ながら、これまでハイエンドGPUが必要とされてきたVRゲーミング用途に必要十分な性能を発揮することがウリだ。現時点では最上位のRX 480の8GB版がベンダー各社から3万円強の価格で発売されており、また今後さらに取り扱いベンダーが増加していく見込み。また、7月から8月に掛けてプレミアムHDゲーミングに対応するRX 470、静音・低消費電力のRX 460が順次発売される見込みだ。
低価格路線でボリュームゾーンへの普及を狙うGPUシリーズ
RX 480およびPolarisアーキテクチャについては弊誌連載「佐藤カフジのVR Gaming Today!」でも詳しくご紹介しているが、28nmプロセスを採用してきた前世代からの違いは大きい。14nm FinFetプロセスを採用したことによるワットパフォーマンスの改善、フレームバッファ内のメモリ圧縮技術の改善、L2キャッシュの倍増や挙動改善によるメモリ帯域効率の上昇といったアーキテクチャ上の改善や、最新APIであるDirectX 12やVulkanへの最適化が進んだことで、前世代で同価格帯に位置したRadeon R9 380に比べて2倍近い性能向上を果たし、VR用途に充分な性能を実現している。
記者説明会に登壇したAMD Radeon Technology GroupのKorhan Erenben氏は、世界のPCゲーマーのうち84%は100~300ドルのレンジに収まるGPUを購入しているというデータを紹介。この最も大きなボリュームゾーンに優れたパフォーマンスを持つGPUを提供することがPolarisアーキテクチャの狙いであることを紹介した。ちなみにRadeon Technology Groupは、旧ATIのGPU技術者を中心に昨年結成されたAMDの新部門で、グラフィックスエンジニアを300名以上増員するなどの取り組みで「ライバルに勝つ」(有り体に言えばNVIDIAからシェアを奪う)ことを目的とするGPU専門チームだ。
GPU戦略で大きく舵を切るAMDが特に力を入れるのがVRマーケットの拡大だ。Erenben氏が紹介したデータによれば、現在、世界には14億3,000万台のPCが存在するが、Oculus Rift/HTC ViveといったPC用VRシステムの要求スペックを満たすPCはその1%以下となる1,300万台しか存在しない。その理由は明らかで、VR性能を持つGPUがこれまでハイエンドに属するセグメントの製品しかなかったためだ。
そこでAMDでは、ボリュームゾーンに位置する価格でありながら充分なVR性能を持つRX 480を投入することで、VR性能をミドルクラスのセグメントまで広げ、VR対応PCを2倍以上に増加させていく狙いだ。その意気込みは会場中にデカデカと貼られていたスローガン「VR is not just for the 1%」にも現われている。
また、ゲーマーの95%は1080p以下のディスプレイを使用しているというデータもある。このセグメントにはRX 480の低価格版となるRX 470と、その小型版であるPolaris 11チップを搭載したRX 460を投入する。
RX 470は、RX 480と同じPolaris 10チップを採用。フルHD解像度のゲームを最大の画質設定で動作させるのに最適なGPUということで「Brilliant HD Gaming」モデルと位置づけられている。またエントリークラスのモデルとなるRX 460はCU(Compute Unit)数がRX 480(36個)の半分以下となる14個、メモリバスも半分となる128bitに抑えられたPolaris 11チップを搭載。消費電力は75Wとなり、PCIEの内部給電だけで動作可能。静音・小型ながら「League of Legend」や「Dota2」といったeスポーツ系ゲームで充分なパフォーマンスを発揮するeスポーツ対応モデルとなる。
これら全てのモデルで、内蔵ハードウェアエンコーダーの強化が図られていることも大きなポイントだ。RX 400シリーズでは最新のコーデックであるH.265に対応し、1080pでは最大で240fps、4kでも60fpsのリアルタイムストリーミングをサポートする。TwitchやYouTube Liveといったサービスで高品質なライブストリーミングが可能だ。
また同様に、全てのモデルでDisplayPort 1.4 HDR、HDMI 2.0bといった最新のディスプレイ出力規格に対応し、HDR出力にも対応する。もちろん、AMD主導でVESA規格となった適応型リフレッシュレート技術のFreeSyncにも対応するため、HDRやFreeSync対応モニタを購入した時点で、これらの最新機能を余す事なく利用できることにも繋がる。
Polarisで変わるRadeonシリーズのブランディング
このようなラインナップを揃えるPolarisアーキテクチャのRX 400シリーズだが、記者会見で特に興味深かったのは、Erenben氏が「Polarisはハイエンドマーケットに参入しない」と明言したことだ。つまり、NVIDIAのGTX 1070/1080に匹敵するような高性能・高価格のモデルはPoralisアーキテクチャでは投入しないということであり、現行のハイエンドモデルであるRadeon R9 Furyのような製品は2017年にデビュー予定のVegaアーキテクチャまでお預けになるということだ。その間、AMDはPCゲーム最大のボリュームゾーンであるミドルクラスの市場に集中した戦略を取るということになる。
その意気込みは型番の命名規則の変更にも現れている。前世代ではRadeon R7 360/360E/370、R9 380/380X/390/390Xと、たくさんありすぎてわかりにくくなっていたラインナップを、Polaris世代ではRX 480/470/460の3モデルに集約。また、R5/R7/R9とあった型番の冠も廃止し、シンプルに“RX”をゲーミングGPUのブランド名とする。ブランドをシンプル化し、価格帯も100~300ドルのレンジに絞ることで、ブランド価値を多くのゲーマーに効果的に訴求していくことが狙いだ。
Radeon RX 480は現時点で最もコストパフォーマンスに優れたVR対応GPUである。引き続き登場予定のRX 470、RX 460についてはまだ詳しい性能や価格が明らかにされていないが、AMDの狙い通りの性能とプライシングが実現されるのであれば、やはりそれぞれの用途でコストパフォーマンスに優れた製品になるだろう。
Polarisアーキテクチャで見せるAMDの意気込みがGPU市場の勢力図にどういった変化をもたらすか。興味深く見守りたい。