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「BitSummit 4th」ではゾンビにバーガー投げが大流行!
VR「Dead Hungry」などインディーならではのゲームを紹介
2016年7月11日 01:35
インディゲームの祭典「BitSummit 4th」が7月9日、10日の2日間、京都みやこめっせで開催された。もともとは日本のインディゲームを世界に発信するという目的で始まったイベントで、参加しているデベロッパーもメディアも、非常にグローバル色豊かなイベントだ。
今年は「VR元年」と言われているだけあって、VRゲームが多く出展されていた。中にはPSVRと同時発売になるとこのイベントで発表されたリズム&バイオレンスゲーム「Thumper」がプレイアブルで出展されていたり、VR空間内でマルチプレイができる「A Tiny Escape」など、試さずにはいられないゲームが多数出展されていた。
中でも、Q-Gamesの社内ゲームジャムから生まれたというVR実験タイトル「Dead Hungry」は、 SIEの吉田氏が注目作としてツイートし、BitSummit Awardsで「IGN Japan」賞とユーザーの投票による「ポピュラーセレクションアワード」を受賞。文句なしで、今イベントの一番人気だった。
また、ステージセッションのゲストとしてSIEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏が登場したり、任天堂がインディーズタイトルを紹介するブースを出展したり、マイクロソフトがインディーズ支援プログラム「ID@Xbox」の受付窓口を置いたりと、各プラットフォーマーも力を入れていたのも特徴的だった。
出展されていたタイトルも、PC用、Android/iOS用はもちろん、PSVRやPS4といった次世代機用のゲームにも非常にクオリティの高いものがあり、趣味の同好会的な集まりではなく、メジャーとは方向性の違う1つの市場が日本でも確実に実力をつけ、勢力を拡大しつつあることを実感できた。
初日のステージイベントはすでにこちらのレポートにまとめてあるが、このレポートでは2日目のステージイベントや、会場の様子、筆者の個人的なおすすめタイトルなどをまとめて紹介したい。
プラットフォーマーがインディー支援に動く
BitSummitは、もともと京都のゲーム開発者たちが手弁当で始めたイベント。規模の拡大に合わせて、主催を法人化し、昨年の第3回から7月の祇園祭に合わせて開催されるようになった。両日とも会場は大混雑で、人気のゲームには長い行列ができていた。
とはいえ、東京ゲームショウのように数時間待たないと遊べないというわけではない。また開発者と直接気軽に話ができるのも、インディゲームイベントならではの気軽さだ。坂口博信氏や須田剛一氏のような有名人も、ブースで気軽に会話に応じていた。
あちらこちらで名刺交換が行なわれ、主催者が期待している出会いが生み出す化学反応があちこちで起こっているのが分かった。実験的な作品や、まだ販売予定のたっていないゲームなど、ここでしか絶対に遊べなさそうなものもあり、予想外の出会いも楽しめた。
複数の開発者が今の規模感がちょうどいいくらいだと話していた。しかし、今回も人が多く集まるブースの側ではボランティアスタッフが一日中ずっと人の整理に追われていたりと、今の会場では手狭感を感じることも少なからずあった。
今後インディゲームが盛り上がるほどに参加したいスタジオや来場者は増えてくるだろう。その時に、今の和気あいあいとした雰囲気をいかに維持するかは、来年以降の課題と言えるだろう。
今回は任天堂がインディーを支援する「Nindies」のブースを出展、Wii U向けの「Runbow」や「トルクル(TorqueL)」、3DS向けの「フェアルーン2」、「ショベルナイト」など計14タイトルを出展していた。パロディ色の強い「ぐんまのやぼう for ニンテンドー3DS」や、魚やエビを自機にした異色のシューティングとして話題になった「ACE OF SEAFOOD」など、これまでの任天堂ゲームにはなかったテイストでマルチプラットフォームのゲームも含まれており、インディータイトルに賭ける意気込みを感じた。
マイクロソフトはインディースタジオに開発キットを無償提供し、販売にかかわる部分を強力に支援するID@Xboxのブースを出展していた。また2日目には、ID@Xboxのディレクター、Chris Charla氏によるプレゼンテーションも行なわれた。
ID@Xboxは、マイクロソフトが2013年に始めたもので、日本でも2014年にスタートした、Windows 10やXbox One向けに作品をローンチするために、開発以外の部分を強力にバックアップするためのプログラム。1回の審査で全世界のマーケットへ販売する道が開ける。また選ばれたゲームは、WindowsやXbox Oneのストアでも大手のゲームと同じように扱われ、E3やGamescom、プライベートショウへの出展支援も受けられる。ブースでは、名刺を交換し熱心に話を聞いているデベロッパーの姿も見受けられた。
水口氏、須田氏らベテラン開発者が後輩にアドバイス
2日目のステージイベントには、ゲームデザイナーの水口哲也氏と、「MOON」などのゲームデザイナー西健一氏とのトークセッションや、グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏による飯田和敏氏のトークセッションが開催された。どちらも、開発中の作品の話から後輩へのアドバイスなどを織り交ぜた、雑談形式。西氏が本日発表された「ルナたん 〜巨人ルナと地底探検〜」のポップを宣伝したりと、いろいろな話題が飛び出した。
水口氏は、PSVRと同時発売される「Rez Infinite」の開発に関する話題で、開発中の90%くらいの期間はつまらないゲームを面白くするための作業をしなければならないのに、VRだとさらに遊んでいて気持ち悪くならないかの検証を自分でやらなければならないので大変、と開発の苦労話を披露。しかしVR自体については、現在VRを前提とした新しいステージ「エリアX」を開発しており、「ああ、俺はこういうのをやりたかったんだな」と盛り上がっているそうだ。
また、水口氏が西氏に「『MOON』はもう出さないの?」と振って、西氏が「いろいろ権利関係が大変」と話したことから話題はIPに移った。過去に自分が関わったゲームを別のプラットフォームから出したり、続編を出したりすることの難しさについて語った。セガは「Rezみたいなゲームはお前にしか作れない」と、ライセンスの使用を許諾してくれたために、水口氏は自社IPとして「Rez Infinite」を開発することができた。
インディゲームの制作者もただゲームを作るだけではなく、権利の話や資金の調達方法、分配方法を今後学んでいかなければならないのではないかと水口氏がいうと、西氏は、水口氏のようにそれを経験してきた人間が教えてあげたほうがいいと提案していた。
水口氏は、VRについて、今は先輩もいなければしがらみもない。技術がジャンプする時には大きなチャンスが来ると言う。自分でも構想はたくさんあり今はどうやったらそれを作れるか考えているところだそうだ。
須田氏と飯田氏のトークでは、インディー開発者の先輩として1990年代中ごろからやってきた思い出話や、アドバイスが中心となった。須田氏は、インディゲームは1本目には自分を投影したパーソナルなゲームを作るが、2本目あたりで燃え尽きてしまうという。飯田氏も、「残酷だが、何十年か後にはあいつあの時にはよかったのに、という奴もいる」と生き残りの難しさを語った。
飯田氏や須田氏が独立した当時には、クラウドファンディングのようなシステムもなく、資金調達が大変だった。その後も、資金調達で苦労した経験から「がんばって!」とエールを送った。
飯田氏は、生き残っていくためには仲間が必要だから、BitSummitのような場所には毎年来たほうがいい、と言い、自分でもこの場所に来て「火が付いた感じ」だと語っていた。そして「人生は覚悟の連続だけど、へこたれそうなときには声をかけて欲しい」と若い開発者に向けてメッセージを送っていた。
注目のVRタイトルをピックアップして紹介
「Thumper」
「Thumper」は、THUMPERGAMEがPSVRのローンチタイトルとして開発しているリズム・バイオレンスゲーム。会場では2台のPSVRでプレイアブル出展されていた。リズムゲームといっても、既存の曲に合わせてボタンを押すようなタイプではなく、シルバーボディの甲虫のような時機のアクションが、リズムになっていく。
映画でいうと、敵の本拠地に乗り込んでいくようなオドロオドロしいが荘厳な曲に合わせて、細いコースを爆走していくようすはシューティングのようにも感じられる。PSVRでプレイすると、スピード感やアクションがさらに臨場感を増し、異世界に迷い込んだような没入感が味わえた。
「A Tiny Escape」
京都のゲームスタジオVITEI BACKROOMが開発しているVRゲーム。今回はHTC ViveとOculus Rift用として出展していたが、まだ販売するかどうかは未定とのことだ。
本作の特徴は、視点の違う2人のプレーヤーがお互いを標的にしたマルチプレイだ。片方のプレーヤーは研究所のロボット研究員として、もう1一方は小型のエイリアンとしてプレイする。エイリアンは研究所から逃げ出すことが目的で、ロボットはエイリアンを探し出して電灯の光で溶かしてしまうことが目的。VR空間に他のプレーヤーがいるのは、1人とは全く違う楽しさがある。
「Dead Hungry」
「Dead Hungry」は、Q-Gamesの社内ゲームジャムから生まれた実験的な作品。商品化を想定していないからこそ可能なカオスな自由さが、多くの人の心をつかんだ。
ハンバーガーを作って迫りくるゾンビを撃退するという、これまでのジャンルに入りきらないコンセプトも新鮮だ。プレーヤーは、遠くに鳥居が見える陰気な場所にある小さなハンバーガースタンドの中で、ハンバーガーなどの商品を作り、迫りくるゾンビに投げつける。ゾンビが料理を食べるとゲージが減っていき、ゲージが0になると人間に戻って喜びながら去っていく。規定時間いっぱい店を守り抜けば勝ちだ。
ハンバーガーは上下のバンズ、パテ、サラダ、トマト、チーズのパーツに分かれており、パテは一定時間焼かないと使えない。ほかにピザ、フライドポテトがあるが、いずれも焼きすぎると焦げて食べられなくなってしまう。ドリンク、ポテト、ハンバーガー、ピザを休む暇なく作り続けて、ゾンビに投げつける。
手際が悪いと製造が追いつかなくなり、パテが入ってないハンバーガーや、パテの代わりにケチャップボトルが入ったハンバーガーなどを作って無理やり投げつけることもできる。ゾンビも一応食べてくれる。会場には、このゲームとコラボしている本物のハンバーガーも販売されていたが、確かにゾンビも納得の美味しさだった。
本作のすごいところは、VRゲームなのに周りで見ている人も楽しめるということだ。せわしくなく動きまくるプレーヤーの動きは、誰もがハンバーガーチェーン店の店頭で目にしたことがあるものに酷似しており、プレイしていなくてもいまプレーヤーが立たされている窮状に思いが及ぶ。「ああ〜、ポテトが焦げてる!」と画面を見ながらやきもきしつつ、同じ時間を共有することができた。
会場のゲームから注目作をピックアップ
「シルバー事件」HDリマスター
グラスホッパー・マニファクチュアの原点ともいえるプレイステーション用アドベンチャー「シルバー事件」が、日本語と英語語の2カ国語対応でPC用にリマスターされることが、今年のPAXで発表されたが、今回初めてプレイアブルに出展された。配信は今秋、PLAYISMからの予定。
一度プレイしただけでは理解できないという謎の多いストーリーや個性的な演出で、カルト的な人気を博したPS版は日本語版のみのゲームだった。今回初めて英訳され、海外のプレーヤーでも遊ぶことができるようになる。
リマスターにあたり、なるべくPS時代の雰囲気を残すため、解像度などクオリティを上げつつもなるべく当時の素材を使って作品の雰囲気を変えないように気が使われている。
グラスホッパー・マニファクチュアのページ
http://www.grasshopper.co.jp/
「ボコスカウォーズII」
ピグミースタジオから、2016年8月にPS4とXbox Oneでダウンロード専用ソフトとして発売予定のシミュレーションRPG「ボコスカウォーズII」がプレイアブル出展されていた。
本作は、プレーヤーキャラと、軍勢を操作して攻め込んでいくというシミュレーションRPG。ゲーム創世記のタイトルながら、国内外にファンが多く、復活を願う声に応える形で「II」が登場した。
「II」では、ファミコンっぽい8ビット風のドット絵と、ヨーロッパの絵本のような緻密な線画の好きな方のグラフィックスでプレイすることができる。プレイ中のどのタイミングでも「Y」ボタンで切り替えることができ、グラフィックスだけではなく、プレイ中に流れる8ビット音源に歌詞を付けた「すすめボコスカ」がボイス付きのリッチな音源で流れるようになる。
位置取りを工夫しつつ、兵種を切り替えながら、いかに効率よく敵を倒していくかを考えるのが楽しい、時代を超えた名作だ。
「しっぽねこと消えたエビフライ」
「しっぽねこと消えたエビフライ」は、インディゲームやFLUSHゲームのポータルサイト「モゲラ」のブースに出展されていた、NEKOGAMESが開発しているかわいいアクションゲーム。デモ版がモゲラで公開されている。
プレーヤーが操作する猫のキャラクターは、すべて木版画で作られており、猫が1回のステージで打てる999発のショットも、一発一発が違う手彫りの弾になっている。すべてのポーズがいちいちかわいいので、猫好きならマスト買いしそうな作品。
公式サイト
http://nekogames.jp/
デモ版
http://mogera.jp/gameplay?gid=gm0000002252
「Black Bird」
「Moon」を作ったスタッフが集まったOnion Gmaesの新作。近世ヨーロッパ風の街を舞台にしたシューティングゲーム。ゲームの冒頭、1人の少女が路上で力尽きる。その少女が卵になり、カラスのような悪霊のような不気味な存在が生まれる。プレーヤーはそのカラスを操作して、少女を見殺しにした街の住民や攻撃してくる兵士を倒していく。
ヨーロッパのフォークロアを思わせる少し不気味な曲と、可愛いドット絵、陰惨なストーリーが入り混じった雰囲気が非常に印象的で、筆者のイチオシだ。来年のSteam配信を目指して現在開発が進められている。
「東京ダーク」
鎌倉のインディースタジオCherrymochiが開発しているダークなテイストのアドベンチャー。企画が立ち上がったのは2014年だが、2015年にKickStarterでの資金調達に成功した後開発が本格化。今冬のSteam配信を目指している。
本作の主人公の刑事伊藤は、行方不明になったパートナーを探すが、やがて事件は複雑で怪奇な様相を呈していく。主人公の行動によって「S.P.I.N」、正気値、プロフェッショナル値、探索値、ノイローゼ値が変化し、NPCとの関係性に影響を与える。最終的には11のエンディングへと分岐していく。
鎌倉のデベロッパーだが、イラストはイタリア、ミュージシャンはイギリス在住というグローバルチームで開発している。
「1000m ゾンビエスケープ!」
Oink Gamesが開発しているアクションゲーム。3月にiOS用を配信、アンドロイド用も近々配信予定で、BitSummitでは、任天堂ブースで3DS版も披露された。
片足を起点に開店するキャラクターを、タップで軸足をタイミングよく切り返すことで歩かせる。すでに30万ダウンロードを記録しているが、まだ1000m踏破に成功しているのは30人程度しかいないという、カジュアルに見えるがなかなか難易度の高いゲーム。
「Bloodstained: Ritual of the Night」
「悪魔城ドラキュラ」などで知られる五十嵐孝司氏の新作アクションゲーム。BitSummitでは巨大ボスと戦うゲームの一部分が体験版としてプレイアブル出展されていた。
KickStarterでは開始後わずか1日で資金調達に成功した話題作。現在の開発度は10%程度で、来年のローンチを目指して鋭意開発中だ。最初はPC向け、その後PS4、PS Vita、Wii U、Xbox One向けにローンチの予定。要望が多いため、パッケージでの販売も検討しているそうだ。
日本語公式サイト
http://igavania.com/jp/#navtop
「AGARTHA(アガルタ)」
同人ゲームから始まり、すでに20本あまりのゲームをローンチしている、2人のインディーチーム神奈川電子技術研究所。「AGARTHA」はピクセルで表現した水や溶岩などを物理演算で動かして凍らせたり、流したりすることで道を作ってゴールを目指すという、自然のリアルな挙動を使ったパズル要素の強いアクションゲーム。年内に完成させてSteamからの配信を目指している。